2021年1月17日日曜日

罰則は感染抑止を困難にすると医学会連合/民間病院の参入強制も無謀

 政府が、新型コロナウイルス感染症法に罰則を新設する感染症法の改定を検討していることについて、医療系の136学会でつくる日本医学会連合が14日、「感染抑止も困難になる」とする反対声明を出しました。日本公衆衛生学会と日本疫学会も同日、罰則は不適切とする声明を出しました。

 同連合は、過去に性感染症対策やエイズ(後天性免疫不全症候群対策で強制的措置を実施した多くの国で、国民が刑事罰・罰則を恐れて検査結果を隠したり、検査を受けなくなったりし、感染状況の把握が十分できなかったことを指摘し、「公衆衛生の実践上もデメリットが大きいことは確認済み」と強調しています。

 また政府は感染症法を改正し、都道府県知事らが、病院に対しコロナ患者の入院を受け入れるよう「勧告」できるようにする方針です。しかし体制の整わない病院が受け入れれば院内感染の恐れがあるとして、民間からは「受け入れの強要なら、行政が感染管理に責任を持ってほしい」という声が上がっています。
 中小規模の民間病院では新型コロナ系と一般疾病系で動線を分けること自体が困難であるだけでなく、コロナ患者を受け入れることで大赤字に転落する惧れが大きいので、強制力を高めることで解決するようなものではありません。
 政府は拙速な方針を作る前に民間病院の意見をよく聞き必要な手当てを考えるべきです。
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罰則は感染抑止を困難に 日本医学会連合が反対声明
                       しんぶん赤旗 2021年1月16日
 政府が、新型コロナウイルス感染症対策をめぐり、罰則を新設する感染症法の改定を検討していることについて、医療系の136学会でつくる日本医学会連合(門田守人会長)が14日、「感染抑止も困難になる」とする反対声明をあげました。日本公衆衛生学会と日本疫学会も同日、罰則は不適切とする声明を出しています。政府が罰則新設の理由として感染防止策の「実効性を高めるため」との主張が医学の専門家から否定される事態です。
 政府は、感染症法を改定し、患者・感染者が入院措置に反した場合や行動歴の調査などを拒否した場合、懲役を含む刑事罰を科すことを検討しています。
 同連合は、「感染症法等の改正に関する緊急声明」で、(1)「感染症の制御は国民の理解と協力によるべき」として刑事罰や罰則を伴う条項を設けないこと (2)感染者を受け入れる施設の十分な確保を前提に、入院入所の基準を統一し、施設間や地域間の格差をなくすこと (3)入院勧告や宿泊療養などの要請の措置に伴う社会的不利益への十分な補償 (4)感染者とその関係者への偏見・差別行為を防止するための法的規制―を求めています。
 同連合は、過去に性感染症対策やAIDS(後天性免疫不全症候群)対策で強制的措置を実施した多くの国で、国民が刑事罰・罰則を恐れて検査結果を隠したり、検査を受けなくなったりし、感染状況の把握が十分できなかったことを指摘。「公衆衛生の実践上もデメリットが大きいことは確認済み」と強調しています。
 同連合は、国民が入院措置を拒否する「理由」として、就労できなくなることや家庭内での役割が果たせなくなること、周囲からの偏見や差別などをあげて、「これらの状況を抑止する対策を伴わずに、個人に責任を負わせることは、倫理的に受け入れがたい」と主張しています。そのうえで、罰則は不安・差別を引き起こし、主体的で積極的な参加と協力を得られなくなる危険性を指摘します。
 感染症法改定案の罰則規定をめぐって、厚労省の専門部会(15日)でも、複数の委員から「(感染症拡大防止策の)実効性の担保につながるのか疑問に思う」などと懸念が表明されています。


「強要なら行政が院内感染に責任を」コロナ患者受け入れ「勧告」に民間病院は困惑 感染症法改正
                          東京新聞 2021年1月16日
 新型コロナウイルス患者の病床が不足している。政府は感染症法を改正し、都道府県知事らが、病院に対しコロナ患者の入院を受け入れるよう「勧告」できるようにする方針だ。しかし、体制の整わない病院では院内感染の恐れもある。民間からは受け入れの強要なら、行政が感染管理に責任を持ってほしいという声が上がる。(坂田奈央、志村彰太、井上靖史、小坂井文彦)

◆応じなければ病院名公表
 厚生労働省の感染症部会は15日、感染症法改正案を議論した。現在、知事らは病院に対し、コロナ患者の病床を増やすように「要請」しかできない。法改正で「勧告」に権限を強化することに参加者から異論は出なかった。
 会合後、厚労省の担当者は「都道府県の権限を明確にし、法律上の根拠に基づいて病床確保をできるようにする」と説明した。特に重症化リスクのある患者を優先的に入院させるためには、知事が地域の感染と病床の状況を把握し、調整する必要があるという。
 現在、民間のけがや病気の初期治療にあたる急性期病院のうち約2割しか、コロナ患者の入院を受け入れていない。法改正の狙いは、受け入れる病院を増やすことにある。応じない場合は、病院名を公表できるようにする
 既に神奈川県は動いている。14日、コロナ患者を受け入れていない県内の245の病院、医師が出入りする特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)計600カ所に、入院・通院患者や入所者が感染したら、自ら治療をするように求めた。
 病院は中等症まで、特養と老健は軽症まで。症状が悪化したら対応可能な医療機関に患者を搬送する。ノウハウに乏しい施設から、施設内感染への不安の声が出ることが予想されるが、「患者を個室で治療して動線を分けるなどすれば防げる」と県は説明する。
 阿南英明・同県医療危機対策統括官は「本当に必要な人に必要な医療を提供したい。全ての医療機関で、できることをしてほしい」と求める。

◆準備整わないうちに
 深刻な病床不足は、これまでの国の対応のせいでもある。田村憲久厚労相は15日の記者会見で「(病床の確保を)地域医療計画に盛り込み、準備、訓練も含めてしておくべきだった」と反省を語った。準備不足のまま、コロナ患者受け入れを「勧告」し、うまくいくのか
 日本医療法人協会の太田圭洋副会長は「地域の病院の役割分担を理解してコロナ患者の受け入れを考えないと、救急の制限などコロナ以上のダメージになりかねない」と指摘する。

 自身が経営する病院でコロナ患者を受け入れて院内感染を起こし、結果的に他の患者に影響が出た。「増床してもすぐに上限がくる。感染を抑えないと解決しない」
 ある医療法人の幹部は「多額の税金が投入されている公立や公的な病院がもっと積極的に受け入れた上で民間に広げるべきでは」と反発する。「民間に強制的に受け入れさせるなら、行政が責任を持って感染管理をするべきだ」と訴えた。