2021年1月6日水曜日

否めぬ甘い見通し、遅い対応 菅首相緊急事態宣言に方針転換

 東京新聞が5日、「 ~ 否めぬ甘い見通し、遅い対応 緊急事態宣言に方針転換の菅首相」と、手厳しく菅氏を批判する記事を出しました。

 同紙は、緊急事態宣言に慎重姿勢を続けていた菅首相が4日、宣言発令にかじを切った背景には、東京など首都圏1都3県の知事や医師会からの強い圧力があり、首相の見通しの甘さと対応の遅さは否めないとし、1225日の年末会見で宣言なしでも「国民の行動変容は可能で、必ず理解いただける」と明言した僅か10日後に、自身の認識の誤りを事実上認める形となったとしています
 実際これまでの菅首相の態度は酷いものでした。国会で「4000万泊でコロナが感染したのは200人余り」に過ぎないなどと「意味不明の発言」を繰り返し、医師会などが早くから感染拡大を防止しないと医療が崩壊すると警告を発していたのを全く無視して、「Go To」に勤しんできました。
 それがコロナの感染拡大が誰の目にも明らかになった途端に、慌てて転換するのではとても国のリーダーとは言えません。そもそも首相は情報を適正に判断する能力(リテラシー)を持っているのでしょうか。ようやく安倍首相が退場したのに後継の政権がこれでは救われません。
 特措法改正を巡る政権の迷走ぶりも同様で、休業補償を明記するなどして休業要請に実効性を持たせるための改正は、以前から全国知事会や野党が求めていましたが「改正は感染状況が落ち着いてから」というのがこれまでの政府の方針でした
 それがコロナ対応が後手に回っているとの批判が高まり内閣支持率が急落すると、こんどは一転して軌道修正し、野党側に早期改正への協力を呼び掛け始めました。こんな体たらくでは「次の局面でも後手に回る可能性は否定できない」としています。
 併せて毎日新聞の社説「首相が緊急事態宣言へ もっと明確なメッセージを」を紹介します。

追記)ところでGoogleの最新予測(1/3~1/30)によると、日当たりの感染者数の移動平均のピークは1/23で6910人/日、それ以降ようやく下降に向かうということです。
 また京都大学の西浦博教授が「実効再生産数」11としてシミュレーションした結果、東京都の感染者数を十分に減少100人/日)させるには、昨年の緊急事態宣言と同等のレベルの効果を想定しても2月末までかかるとみられ、飲食業の時短だけの対策では約1300人/日がそのまま持続することが分かりました。
 政府は緊急事態宣言の期間を1ヵ月としていますが、これについても専門家の意見を聞くべきでしょう。
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<新型コロナ>
感染拡大止まらず…否めぬ甘い見通し、遅い対応 緊急事態宣言に方針転換の菅首相
                           東京新聞 2021年1月5日
 新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言に慎重姿勢を続けていた菅義偉首相が4日、発令にかじを切った。年明け早々に方針転換を余儀なくされた背景には、東京など首都圏1都3県の知事や医師会からの強い圧力がある。感染拡大に歯止めがかからず、世論に押されて観光支援事業「Go Toトラベル」の一時停止に踏み切らざるを得なかった時と同様に、見通しの甘さと対応の遅さは否めない。(井上峻輔、清水俊介)

◆「宣言なしで可能」一転「強いメッセージ必要」
 首相は4日の年頭会見で、緊急事態宣言について「1都3県では3が日も感染者数は減少せず、全国の感染者の半分。状況を深刻に捉え、より強いメッセージが必要だと考えた」と説明した。昨年12月25日の年末会見で、宣言なしでも「(感染防止へ国民の行動変容は)可能だと思っている。必ず理解いただける」と明言したばかり。わずか10日後に、自身の認識の誤りを事実上認めた
 もともと政権内では、経済活動が大きく落ち込みかねない緊急事態宣言には慎重論が根強かった。既に感染拡大の「急所」と位置付ける都市部の飲食店に対する営業時間の短縮は要請済み。現行の特措法には、要請に罰則や補償の規定はなく「やれることは今とあまり変わらない」(政府関係者)との考えからだ。

◆医師会、4都県知事ら「早急に有効な対策を」
 しかし、感染拡大は収まらず、年末の首相会見の前後から、政権への圧力は急速に強まった。野党から「一刻も早く緊急事態宣言を出すべきだ」(立憲民主党の枝野幸男代表)との声が上がり、日本医師会(日医)や日本看護協会など9団体は12月21日に「医療緊急事態宣言」を発表。日医の中川俊男会長は会見で政府に有効な対策を早急に打ち出すよう求めた。
 同31日には、東京都の新規感染者数が初めて1000人を突破し、一気に1337人を記録。隣接する神奈川、埼玉、千葉各県でも過去最多を更新した。4都県の知事が1月2日、そろって西村康稔経済再生担当相に宣言の発令を要請したことが方針転換の決め手となった。
 枝野氏は4日、記者団に「野党や知事の判断が先行し、首相はその後追いをする状況だ」と政権の対応を問題視した。

◆特措法改正巡り迷走も国会会期は延長せず
 特措法改正を巡る動きも政権の迷走ぶりを印象づけている。
 休業要請に実効性を持たせるための改正は、以前から全国知事会や野党が求めていたが「改正は感染状況が落ち着いてから」(政府高官)というのが従来の政権の方針。従わない事業者らに罰則を設ける案には賛否が割れていることもあり、昨年の臨時国会の会期を延長せず、12月5日に閉じた後も姿勢を変えなかった。
 ところが、政権のコロナ対応が後手に回っているとの批判が高まり、内閣支持率が急落すると軌道修正。野党側に早期改正への協力を呼び掛け始め、今月18日召集予定の通常国会で最優先に取り組む方向だ。

◆早くても改正案成立は2月、宣言発令に間に合わず
 改正案の成立時期は「2月初め」(自民党の森山裕国対委員長)の見通し。どんなに急いでも、今回の宣言発令には間に合わない
 首相は年頭会見で、宣言に伴う対応は「限定的、集中的に行う」と強調。なお経済を重視したい思いをにじませており、次の局面でも後手に回る可能性は否定できない


社説 首相が緊急事態宣言へ もっと明確なメッセージを
                           毎日新聞2021年1月5日
 新型コロナウイルスの感染急拡大を受け、菅義偉首相が東京都など首都圏の1都3県を対象に緊急事態宣言を再発令する考えを表明した。
 首相は「より強いメッセージが必要だ」と述べた。だが、記者会見では発令に伴う具体的な施策について言及を避けた。これで国民にメッセージが届くだろうか
 大みそかの31日に東京都の1日当たりの新規感染者数が1300人を超え、4都県で全国の感染者数の半数以上を占めた。重症者も増加傾向が続き、医療崩壊の懸念が強まっている。
 対策が急がれたが、一時は知事による営業時間短縮要請の強化が先か、政府の宣言発令が先かという、責任の押し付け合いのような状況が生じた。
 年明けに知事側が要請強化を受け入れる姿勢を示したことで、政府は発令に追い込まれたように見える。

目立つ責任転嫁の姿勢
 「第3波」は昨年11月に始まった。この間、対策を講じる十分な時間があったのにもかかわらず、政府の対応は鈍かった
 旅行需要喚起策「Go Toトラベル」の見直しに後ろ向きで、11月末からの「勝負の3週間」は失敗に終わった。その後の追加対策も中途半端で、首都圏の感染拡大は続いている。
 判断の遅れの背景には、首相が主導した「Go Toキャンペーン」へのこだわりや、今夏の東京オリンピック・パラリンピックの開催問題があったのではないか。感染対策で先手を打つことなく、再発令せざるを得ない感染状況を招いた責任は重い
 宣言発令にあたっては、実効性を高めることが重要だ。
 今回、政府は自粛要請の対象を飲食店を中心に絞り込む考えのようだ。だが、ここまで感染が広がった以上、人の動きの抑制も検討せざるを得ないだろう。
 安倍晋三前政権も菅政権も、専門家の意見を軽視する場面が目に付いた。今回は、専門家の意見を十分に聞いて判断すべきだ。
 新規感染者がどの程度減少するまで宣言を続けるのか、あらかじめ基準を示しておくことも欠かせない。夏の「第2波」ではピークを越えても感染者数が十分には減少せず、「第3波」が拡大する要因の一つとなった
 4月に宣言が発令された際は、国民の危機感が強く協力を得やすかった。今回は要請の効果が上がりにくくなっているとも指摘されている。
 もう一段の協力を得るには、どのようにして感染拡大を収束させようとしているのか、明確な戦略を示さなければならない
 何より大切なのは政治への信頼だ。昨年、自粛要請の最中に首相や自民党の二階俊博幹事長が会食に参加して批判を浴びた。こうした姿勢では反発を招くだけだ。

国会はただちに召集を
 宣言と合わせてコロナ対策の特別措置法の改正議論も進めなければならない。
 全国知事会はこれまで、休業や営業時間短縮の要請に応じた店への協力金制度と、応じなかった店への罰則規定を盛り込むよう求めてきた。
 首相は昨年末にようやく、特措法改正に取り組む考えを示した。与野党は18日召集予定の通常国会で改正案を優先的に審議することで合意している。
 しかし、感染状況が深刻化する中、2週間も待つ余裕はない。政府・与党はただちに召集して、議論を始めるべきだ。
 気がかりなのは、首相が記者会見で「給付金と罰則をセット」にする考えを示したことだ。
 給付金は、既に一部の都道府県で導入されており、政府が財政支援している。これを法律に位置づけることについて、与野党の隔たりは小さい。
 だが、罰則は私権の制限に関わる。専門家による政府の分科会でも賛否両論が出ている。首相はこれを踏まえ慎重に検討する姿勢を示していたにもかかわらず、突然方針を変えたように見えるのは不可解だ。
 まずは与野党で早期に合意できるところから改正を始めるべきだ。罰則導入の是非で与野党が対立し、法改正の議論を停滞させてはならない。
 正念場を乗り切るためには、首相の強いリーダーシップが必要だ。その前提となるのは、国民からの信頼の回復だ。