2021年1月15日金曜日

「首相は危機感を強く持て」(毎日新聞・新潟日報・北海道新聞 社説)

 菅政権は、首都圏を対象に緊急事態宣言を再発令してから1週間足らずで、愛知、大阪など7府県を対象地域に追加し、菅義偉首相が当初に力説していた「限定的・集中的」な対策は早くも転換を余儀なくされました。

 4日の年頭記者会見で菅氏は「飲食店に営業時間短縮要請を行った大阪では効果が出ている」と強調していましが、それは誤りで、大阪府など感染状況が悪化しているとして7日緊急事態宣言を政府に要請しました。恰好がつかなくなった首相は、4日間遅らせてから宣言対象追加しました。笑止なことです。
 また4日の会見で「1年間のコロナ対応で学んできた」と述べ、13日の記者会見でも「1年の経験に基づき徹底的な対策を行う」と強調しましたが、一体何を学んだというのでしょうか。納得できる知見など何も述べられていません。「だから感染下でも経済は回せる」と言いたいのであれば大間違いです。

 毎日新聞、新潟日報、北海道新聞の社説を紹介します。
 そこには、「頭を切り替えねば」「場当たり的」「首相の姿勢が足かせ」「判断の遅れ」「原因を夜の飲食問題に矮小化」(以上毎日新聞)、「危機感を強く持て」「安心できない」「遅過ぎた」「感染者の減少につながらない」(以上新潟日報)、「危機認識あまりに甘い」「泥縄式」「著しく説得力を欠く」「決断が遅い」「科学的論拠がない」(以上北海道新聞)等々の「絶望的な言葉」が並んでいます。

 何より情けないのは、菅首相は自分にとって都合の良い説があれば直ぐに「その真実性には目もくれずに飛びつく」ことです。「一体この1年間に何を学んだというのか」、明らかにリーダーとして失格です。

 政府は、1日の感染者が500人を切ったところで「緊急事態宣言」を解除するとしましたが、数理モデルによる疫学分析を専門とする西浦博・京大教授(理論疫学)は13日、「それでは、東京都の場合50日足らずで宣言前のレベルまで感染者数が戻る」との試算を公表し、「緩い解除基準の場合は7月下旬までに今回も含め計3回のピークを経験することになるだろう」と指摘しました。
 菅政権には、この指摘をどう受け止めるのかを明らかにする義務と責任があります。
 毎日新聞の記事「政府の解除目安では『50日で元通り』 西浦教授、東京都基準で試算」を併せて紹介します。
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社説 「緊急事態」7府県追加 首相が頭を切り替えねば
                          毎日新聞 2021年1月14日
 新型コロナウイルスの感染急拡大を受け、政府は緊急事態宣言の対象地域に、新たに大阪、愛知、福岡など7府県を加えた。
 東京など1都3県を対象に宣言を出してからわずか6日後だ。当初は他地域の追加を否定していた。知事に迫られて方針を変える政府の対応は、場当たり的に映る。
 中でも大阪について、菅義偉首相は飲食店への営業時間短縮の要請で感染を抑制したと評価し、対象に加えない考えを示していた。
 実際には、年明けから感染が急拡大し、病床は逼迫(ひっぱく)していた。宣言の発令は、知事の要請から4日後になった。首相の姿勢が足かせとなり、判断の遅れにつながったのではないか。
 宣言発令後も、1都3県の昼間の人出は、昨春の宣言時ほど大きく減っていない。
 首相は、対策の急所は飲食だと繰り返し、飲食店への午後8時までの時短営業や夜間の外出自粛に重点を置いて呼びかけてきた。
 原因を夜の飲食問題に矮小(わいしょう)化するような説明が、昼間は自粛しなくても良いというメッセージに受け止められたのではないか。
 政府は今になって、日中の会食や外出を控えるよう呼びかけているが、お粗末だ。
 人との接触を8割減らすよう求めた昨春のような強い対策をとっても、感染を抑え込むには2カ月かかるという専門家もいる。市中感染が広がっている以上、時間や場所を区切った対策で十分なのか、早急に効果を見極めるべきだ。
 大都市圏とその他の地域との移動の抑制も重要になる。
 首相は1カ月での宣言解除を目指すというが、状況が改善しなければどうするのか。テレビ番組でその点を聞かれても、「仮定のことは考えない」と答えなかった。これでは国民の信頼は遠のくばかりだ。
 政府のメッセージは一貫して国民に届いていない。経済活動への影響を抑えたいという首相のこだわりと、首相が嫌がることを進言する人物が見当たらないという菅政権の構造問題があるのだろう。
 国民に行動変容を要請する前に、まず首相が発想を転換すべきだ。感染の抑え込みが最優先であることを明確にし、あらゆる手段を講じる覚悟が必要だ。


社説 緊急宣言拡大 首相は危機感を強く持て
                            新潟日報 2021/01/14
 再発令地域がこれ以上広がることは避けなければならない。菅義偉首相は危機感を強く持ち、収束への対策を講じてもらいたい。甘い見通しの上に立って後手の対応を続けるようでは、国民は安心できない
 政府は13日、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象地域に京都、大阪、兵庫の関西3府県と愛知、岐阜の東海2県、栃木、福岡の計7府県を追加した。期間は14日から2月7日までとなる。
 宣言の対象地域は先行して再発令された東京、埼玉、千葉、神奈川の首都圏4都県を含め11都府県に広がった。
 首相は当初、関西への対象拡大には否定的だった。
 今月4日の年頭記者会見では「(飲食店に)営業時間短縮要請を行った大阪では効果が出ている」と強調していた
 ところが4都県に再発令された7日、大阪府などが感染状況が悪化しているとして宣言を政府に要請する姿勢を示し、対象が追加されることになった。
 それだけに今回も、首相の対応が後手に回ったと見られることは避けられまい。共同通信の直近の世論調査では4都県への再発令について「遅過ぎた」との答えが8割近くに上った
 首相は国民が厳しく見ていることを忘れず、宣言拡大が感染防止へ実効性を伴ったものとなるよう、指導力を発揮しなければならない。
 追加発令された7府県でも、飲食店に午後8時までの営業時間短縮を要請するなど会食対策が対応の中心となる。
 だが首都圏に再発令された時点で、この対策では劇的な感染者の減少につながらないとの試算が専門家から出されている
 感染防止には人の接触機会を減らすことが有効とされるが、首都圏再発令後初の週末となった9~11日は、昨年の宣言時と比べ3倍超の人出となった所もあった。午後8時までの飲食が盛況だとの指摘もある。
 感染防止効果が限定的なものにならないか気掛かりだ。首相は明確なメッセージを発し、国民の協力を得てほしい。
 首相は13日の会見で「あらゆる手段を尽くして取り組んでいく」と述べた。確実な収束に向けてどう国民を導くのか、首相の言動を注視したい。

 厚生労働省によると再発令された地域の他にも滋賀、広島、群馬、奈良など各県で病床使用率が高まっているというが、何とかここで沈静化させたい。
 政府は18日召集の通常国会に新型ウイルス特措法の改正案を提出する。緊急事態宣言発令前でも時短営業の要請に応じない事業者に知事が「命令」を出せることや、応じない場合の罰則などが検討されている。
 だが罰則の議論が先行するようでは安心できない。私権制限を最小限にとどめる特措法の趣旨を踏まえ、協力を促す仕組みの構築に知恵を絞るべきだ。
 私たち県民も感染拡大地域との往来を極力控えるなど、「うつらない、うつさない」ための取り組みを改めて徹底したい。


緊急事態拡大 危機認識あまりに甘い
                          北海道新聞  2021/01/14
 政府が新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言の対象に大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、福岡、栃木の7府県を追加した。
 再発令された地域は4大都市圏を中心に11都府県に広がった。
 政府の対応はかねて泥縄式との批判が強い。今月初めの共同通信の世論調査では7割近くが「評価しない」と答えていた。今回も後手に回った感が否めない。
 菅義偉首相は年頭の記者会見で、飲食店への営業時間短縮要請を先んじて実施した大阪や北海道について「(感染減の)結果が出ている」と強調し、対象拡大に否定的だった。
 大阪は当時から収束には程遠かった。その後、道内を含め全国で感染が拡大している。
 危機への認識があまりに甘い
 首相はきのうの会見では、外出自粛への協力を強く求め「何としても感染拡大を減少方向にもっていかなければならない」と述べた。
 ただその決意は著しく説得力を欠く。
 感染力が強い変異種が国内で次々確認されたのにもかかわらず、中韓など11カ国・地域とのビジネス関係者の往来は認めてきた。
 経済再生を重視する首相の意向が色濃い。首相はようやく一時停止を表明したが、決断が遅い
 首相は宣言の対象外地域であっても、感染が拡大している地域なら、飲食店などに11都府県と同等の支援をする考えも示した。
 ただ、こうした小出しの対策を続けて、来月7日までの宣言期間内に収束できるのか。科学的な論拠を示した上での説明はない
 国民に多大な制約を強いる宣言を出す以上、短期で終わらすために、広範に宣言を発令し、より大規模で集中的な対策を施すことも視野に入れるべきではないか。
 重要なのは、休業要請などへの補償を充実させ、抑止策の実効性を高めることだろう。
 なのに、政府・自民党が感染症対策での罰則導入に前のめりになっていることは見過ごせない。
 特措法の改正により、宣言の前段階から飲食店などに営業時間短縮を命令できるようにし、拒んだ場合は行政罰の過料を科すことを検討している。
 入院拒否や、入院先から逃げ出した際に罰則を科すための感染症法改正も俎上(そじょう)に載っている。
 私権制限については、慎重かつ冷静な議論が欠かせない。
 感染者の急増で入院したくてもできない人が大勢いる。医療体制の逼迫(ひっぱく)に全力で対処すべき時だ。


政府の解除目安では「50日で元通り」 西浦教授、東京都基準で試算
                         毎日新聞 2021年1月13日
 数理モデルによる疫学分析を専門とする西浦博京都大教授(理論疫学)は13日、東京都の新型コロナウイルスの感染者が1日当たり500人を下回った時点で緊急事態宣言を解除すると、50日足らずで宣言前のレベルまで感染者数が戻るとの試算を公表した。政府は宣言解除の目安の一つに東京都の場合は「感染者数が1日当たり500人未満」との基準を挙げる。西浦教授は「緩い解除基準の場合は7月下旬までに今回も含め計3回のピークを経験することになるだろう。解除基準を決めるには長期的な見通しが必要」と指摘する。

 西浦教授は感染者1人が平均何人に感染させるかを示す「実効再生産数」を使い、東京都の感染状況を基に考えた。今回の緊急事態宣言について、緩い効果があった場合と強い効果があった場合の感染者数の推移をそれぞれ予測。宣言を解除した後に、宣言直前の実効再生産数に戻り、感染者数が増加する条件で試算した。

 緩い効果があった場合には2月24日に1日当たりの新規感染者数が500人未満になる。その時点で解除すると、4月中旬には再び1日の感染者数が宣言発令直前の約1000人に増加した。一方、強い効果があった場合に500人未満になっても解除せずに取り組みを続けると、2月25日に1日当たりの新規感染者数が100人を下回り、7月中旬まで宣言前のレベルには戻らなかった。【金秀蓮】