2021年1月16日土曜日

本庶佑教授が改めて「PCR検査の大幅な拡充」を訴える

 今月8日、ノーベル医学・生理学賞受賞者である本庶佑・京大教授山中伸弥・京大教授大隅良典・東工大栄誉教授、大村智・北里大特別栄誉教授が、新型コロナ対策について緊急声明を発表し、「医療機関と医療従事者への支援の拡充」や「科学者の勧告を政策に反映できる長期的展望に立った制度の確立」など5つの提言をおこないました。
    ⇒1月11日)政府は医療支援・PCR拡充を ノーベル賞4氏声明
 その1人の本庶佑・京大教授が、14日の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)に出演し「PCR検査の大幅な拡充を」と訴えましたそして具体的に「自動PCR検査システムを搭載したトレーラーならば、12時間で2500件の検査が可能で、これを1台用意すれば1日250万件の検査が可能となる。トレーラーは1台1億円だというから、Go To追加予算の約11分の1である1000億円を投入すれば実行できる」と提案しました政府は大いに耳を傾けるべきです。

 ところが厚労省はいまだに検査拡充には消極的で、昨年5月に「検査拡大」を否定する内容の文書を作成し、それを政府中枢に説明に回っていたということです。その内容はPCR検査で正確に判定できるのは陽性者が70%、陰性者は99%で、誤判定が出やすいということです。
 実際にはPCR検査の精度はそれよりも遥かに高いと、上昌弘・医療ガバナンス研究所理事長は述べています。百歩譲って仮に偽陽性の確率が100-99=1%であったとしても、検査をもう1回行えば0.01%に下がるわけで容易に解消されます(同様に偽陰性の確率も9%に下がります)。それでも不十分というのであればもう1回検査すれば済むことです。
 そもそも検査を増やすことで陽性者が多数出ると医療が「崩壊するから」というのは考え方が逆です。中国や韓国の対応をどう見ているのでしょうか。
 LITERAの記事を紹介します。
 しんぶん赤旗日曜版に、芥川賞作家の平野啓一郎さんのインタビュー記事「国費で検査急増させ 高齢者施設などでの感染拡大防ぐべきだ なぜやらないのか」が載りましたので併せて紹介します。
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ノーベル賞・本庶佑教授が改めて「PCR検査の大幅な拡充」訴え  一方、厚労省は検査拡大を否定する文書を作り政権中枢に
                                                            LITERA 2021.01.15
 本日15日、新型コロナの全国の重症者が934人と過去最多となった。止まらない感染拡大および医療の逼迫という現状に対して「医療壊滅」になる恐れが指摘されはじめているが、そんななか、「知の巨人」の提言が話題を呼んでいる。
 それは、14日放送『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)に出演したノーベル賞受賞者の本庶佑・京都大学特別教授がおこなった、「PCR検査の大幅な拡充を」という提言だ。
 本庶教授といえば、首都圏に緊急事態宣言が再発出された今月8日、山中伸弥・京大教授と大隅良典・東京工業大学栄誉教授、大村智・北里大学特別栄誉教授という同じノーベル医学・生理学賞受賞者とともに新型コロナ対策について緊急声明を発表。「医療機関と医療従事者への支援の拡充」や「科学者の勧告を政策に反映できる長期的展望に立った制度の確立」など5つの提言をおこなっているのだが、そのうちのひとつが「PCR 検査能力の大幅な拡充と、無症候感染者の隔離の強化」だ。
 本日で国内感染を初確認してから1年を迎えたが、他の先進国と比較しても、この国のPCR検査は進んでいるとは言えない。政府は1日あたりの可能検査数を最大約12.5万件としているが、実際は1日平均で約4.4万件(1月1〜11日)。世界で比較すると、人口1000人あたりの検査数がイギリスは8.1人、フランスが4.4人、アメリカが3.9人である一方、日本は0.5人でしかない(7日移動平均、9日時点)。
 こうした現状に対し、本庶教授は「いまだに検査数が少ない」と指摘。「中国のように地域ごとに全検査・隔離するのが理想だが、現実的に日本では難しい」とし、こう提言をおこなった。
「少なくとも『感染しているかも』と思ったら即座に検査を受けられる体制を作るべき。今、業界支援という形で何兆円もばらまいているが、検査にお金を使うほうが断然コスト的にも社会的にも有効
 感染拡大のなかでも菅政権は「Go To」で経済を回す方針を押し通し、第3次補正予算案でも追加で計1兆856億円も計上。菅義偉首相はいまだにこの予算案を組み替えようともしていないが、本庶教授は検査拡充に使うことこそが社会経済には有効だと訴えたのである。

本庶教授は自動PCR検査機搭載トレーラーを提案、韓国は匿名の無料検査実施再び感染抑え込みへ
 本庶教授は具体例も示した。すでに国内で開発されている自動PCR検査システムを搭載したトレーラーならば、12時間で2500件の検査が可能。これを1000台用意すれば1日250万件の検査が可能だ。トレーラーは1台1億円だというから、「Go To」追加予算の約11分の1である1000億円を投入すれば実行できるのである
 こうした検査拡充をおこなえば無症状感染者も広く捕捉できるようになるが、本庶教授は無症状の感染者の隔離により「宿泊先や食事を提供するホテル業界、飲食業界、生産者にもプラスになる。このほうが『Go To』よりはるかによいと思う」と提唱した。
 政府分科会の尾身茂会長も「感染させる人の約半数は無症状」と認めているように、いま必要なのは検査の徹底によって無症状を含む感染者をあぶり出し、隔離すること。これは本庶教授も「医学の教科書にも『感染者を見つけて隔離するのがもっとも良い』と書いてある」というように感染症対策の基本のキだ。だからこそ他国ではそうした対策がとられてきたのだが、この国ではなぜかそれが進まず、ネット上でもいまだに「検査を増やしても感染者は減らない」「検査しても意味がない」という意見が後をたたない。その主張の代表例が「アメリカは検査数が多いのに感染者は減っていないじゃないか」というものだ。
 しかし、約3億件近くも検査をおこなってきたアメリカでも、じつは検査数が足りていないという指摘がある。〈1人の感染者を見つけるために、どの程度のPCR検査を実施したか〉を割り出したところ、〈中国が1808.7回と突出し、韓国66.6回、カナダ24.3回、イギリス22.2回、ドイツ21.0回、日本19.5回と続く〉一方、アメリカは12.7回だというのだ(東洋経済オンライン13日付)。感染者が多いアメリカでは、それでも検査が不足しているというわけだ。
 一方、日本と同じくロックダウンはせず、「社会的距離の確保」による対策をおこない、日本とは違い検査に力を入れてきた韓国はどうか。
 ワイドショーでもしきりに取り上げられたように、韓国も11月中旬から感染者が急増し、12月下旬には1日あたりの新規感染者数が1200人台にまで達した。そうしたなかで韓国は、症状の有無にかかわらず携帯番号を提出すれば誰でも匿名でPCR検査が受けられる臨時検査所を首都圏に計144カ所設置。その結果があらわれはじめたのか、1日あたりの新規感染者数は500人台を4日連続でキープ(15日時点)。油断ならない状況であることには変わりはないが、減少傾向だと分析されている。韓国の感染者が増えたときしかワイドショーは取り上げようとしないが、実際に検査体制の拡充が数字に出つつあるのである。
 だが、こうした成果からこの国は学ぼうとはけっしてしない。初動からドライブスルー検査や「プール方式」導入などによる検査の拡充によって感染拡大を抑え込み、アメリカやドイツなどもそれを取り入れた。だが、日本ではドライブスルー検査が導入されるまでに時間がかかり、「プール方式」にいたっては世田谷区が行政検査として認めてほしいと再三要望も声をあげてきたにもかかわらず、厚労省はそれを無視。本日15日にようやく認めるという体たらく。

厚労省が1%の偽陽性をタテにPCR検査拡充を否定する「ご説明文書」をもって政権中枢へ
 しかも、全国的な感染拡大の局面にあっても、厚労省はいまだに検査拡充には消極的だ。実際、11日になって都市部で不特定多数を対象にした1日数百〜数千件のPCR検査を実施すると公表したが、なんと実施時期は3月。いますぐにでも必要なのに、この状況下で「春になってからやる」というのである。
 なぜ、政府はここまで後ろ向きなのか。それは、「PCR検査は誤判定がある。検査しすぎれば陰性なのに入院する人が増え、医療崩壊の危険がある」という理由からだ。
 現に、政府関係者への聞き取りをおこなったシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」が10月8日に公表した報告書によると、厚労省は昨年5月に「検査拡大」を否定する内容の文書を作成。それを政府中枢に説明に回っていた。その内容はこうだ。
 
〈文書では「PCR検査で正確に判定できるのは陽性者が70%、陰性者は99%で、誤判定が出やすい」と説明。仮に人口100万人の都市で1000人の感染者がいるとして、全員に検査した場合、感染者1000人のうち300人は「陰性」と誤判定され、そのまま日常生活を送ることになる。一方、実際は陰性の99万9000人のうち1%の9990人は「陽性」と誤判定され、医療機関に殺到するため「医療崩壊の危険がある」とする。
 これに対し、医師や保健所が本人の症状などで「検査が必要」と判断した1万人だけに絞ると、「陽性」と誤判定されるのは100分の1に減る。〉(東京新聞2020年10月11日)
 1%の偽陽性者による医療機関の圧迫を恐れて、70%の陽性者を見過ごす──。しかも、こうした検査体制のもとで感染拡大が起き、いまでは医療崩壊ならぬ「医療壊滅」の一歩手前まできてしまった。この5月の時点で繰り返し検査がおこなえる検査体制と医療提供体制の整備を強化していたならば、ここまでの状況にはいたっていなかっただろう。
 しかも、不特定多数を対象にした検査を春まで先延ばしにしたことからもあきらかなように、厚労省はいまだにこの姿勢を崩しておらず、分科会をはじめとする政府の専門家も同様だ。
 さらに悲惨なのは、「縦割り打破」を掲げながら、菅首相はこの検査体制の問題についてまったく関心がないこと。記者からの質問も理解できず、よりにもよって「国民皆保険の見直し」を示唆した菅首相だが、『news23』(TBS)アンカーの星浩氏が政府関係者に取材したところ、菅首相はこの期に及んでも「(医療体制など現状の)本質、深刻さをまだまだ把握していない」というのだ。
 政府はいま罰則強化でこの波を乗り切ろうとしているが、人びとを分断し、攻撃を扇動するだけで、それで効果が出ることは絶対にあり得ない。暗澹たる現実が、今後もつづいていくことになりそうだ。 (編集部)


国費で検査増させ 高齢者施設なでの感染拡大防ぐべ
なぜやらないのか   作家 平野啓一郎さん
                   しんぶん赤旗日曜版 2021年1月17日号

 新型コロナウイルスの感染が急拡大しています。菅政権のコロナ対応を厳しく批判している作家の平野啓一郎さんに緊急インタビューしました。   北村隆志記者

〈新型コロナの感染拡大が止まりません。菅政権の無為無策、逆行が招いた人災です〉
 安倍政権と菅政権がやってきたコロナ対策には大きな問題があると思います。
 一つはPCR検査を十分に拡充してこなかったことです。新型コロナは無症状感染者が感染を広げることがこの間わかってきました。だから積極的な検査を行って無症状を合めた感染者を保護する、「検査、保護、追跡」の体制を整えなければ、感染を止めることができません。ところが政府はそれをまったくやっていません
 とくに高齢者施設や医療機関などでは無症状感染者を放っておいたらクラスターが発生してしまう。こうした施設で全額国費で社会的検査をどんどん行うべきです。なぜやらないのか、全く理解できません。災害があると「想定外」という言葉がよく、使われます。今回の事態は完全に想定されていました。これが二つ目の問題です。
 約100年前のスペイン風邪の経験などから、第2波、第3波が間違いなく来ると予想されていました。各国の首脳たちは、新型コロナの終息には数年かかると明言していました。
 日本だけが東京五輪との兼ね合いで、第3波への準備もしてきませんでした。
 日本経済新聞によれ、全国のコロナ対応病床は第2波以降、昨年5月の第1波の時よりも減っています。民の医療機関の支援など政府が必要な対応をしてこなかったことが、第3波をここまでひどくした大きな理由だと思います。

 小説家としてずっと気になっていることがあります。安倍政権と菅政権が日本語を徹底的に破壊してきたことです。あらゆる疑惑をうやむやにし、質問にも答えない。およそ会話が成立しないような、日本語の使い方をしてきました
 その政権がいざ「緊急事態宣言をしました」「家で過ごしましょう」と訴えたところで国民に通じるはずがないんです。
 国民には5人以上の会食の自粛を求めながら、菅(義偉)首相自身は8人でステーーキ店で会食している。緊急事態宣言で政府が国民に会食自粛を要請してごいるときに、自民党は、国会議員は4人までの会食はいいというルールを作ろうとしました。言葉と実態がかけ離れてもいいという誤ったメッセージを与えるものです。
 今になって飲食が急所だと言いますが、それまで政府は「Go Toイート」で外食を促進していました。感染を広げたという点では「Go Toトラベル」で旅行を奨励したのと同じです。
 とにかくやることがちぐはぐです。今の第3波をどうやって収束に向かわせるかの戦略が全く見えません

菅首相は科学無視か如実 国会で説明をしないなら首相の資格はない
 しかも菅首相は緊急事態宣言について国会で説明さえしない。非常に不誠実で、これだけでも首相の資格はないと思います。
 菅首相の記者会見はたいてい短時間で終わってしまう。次の予定があるというけど、この事態を乗り切るため国民に十分に説明する以上に、どんな重要な予定があるのでしょう

 〈「Go Toトラベル」について、専門家による政府の分科会は何度も見直しや停止を提言したのに、菅首相は無視しました〉
 菅政権の分科会に対する態度には科学無視の姿勢が如実に現れています。この姿勢は菅首相の学術会議への人介入とも深く関わっています。
 政治家は万能ではありません。政策立案にあたって専門家の科学的な提言に耳を傾けることが求められます。ところが、耳を傾けるどころか、自分たちの意に沿わない学者を排除した。僕は菅首相による学術会議会員の任命拒否は違法だと思います
 そもそも菅首相の政策には科学的根拠がありません。なんでも「思い」なんです。緊急事態宣言後も11力国・地域からのビジネス関係者などの入国を継続しました。理由は「首相の強い思い」だそうです。
 ふるさと納税にしても、携帯電話の料金値下げにしても、「首相の思い」です。思いつきとしか思えない政策ばかりです。
 自治体の首長では和歌山県知事や世田谷区長など、実効性のある対策をとっている人がいます。国政政党の中では共産党がコロナ対策で一番明瞭な政策を出していると思います。志位さん(和夫、委員長)はツイッターなどで合理的な提言を発信し続けていると思っています。
 「新型インフルエンザ特措法」を改定して罰則を設けるという対応には不信感を持っています。
 休業・時短要請に応じたら食べていけな、感染リスクを冒しても店を開けざるを得ないという人がいっぱいいます。その人を罰しても仕方がない。まず必要なのは補償です
 社会を動かすのが罰則中心となれば、日本の閉塞感がますます強まります。
 日本人は国が社会的弱者を救済するというとエモーショナル(感情的)な議論に流れがちです。もっとかわいそうな人がいるとかあいつはパチンコしてるから救う必要ないとか。
 人々の生活保障は権利の問題です。休業補償や生活保護は、生存権など基本的人権の問題だということを明確にする必要があります。

 その上で、優しさとか思いやりなどの感情的なものや、公共的関心も日本社会にはもっと求められています