3月4日決定の民主党の「集団的自衛権をめぐる憲法解釈の変更に関する見解」をまとめた民主党枝野氏のインタビュー記事が時事通信に載りました。
内容的には、集団的自衛権の行使を憲法の解釈変更で行うのは認められないという点で一貫していました。
しかしその反面で、「個別的自衛権でどうしてもできないものを具体的に示し、必要だから憲法を改正させてくださいと言えば、国会も国民も納得するのではないか」とか、「今どうしても集団的自衛権の行使が安全保障上必要だが、従来の解釈と整合性が取れる説明が思いつかないと相談されれば、われわれ(民主党)も知恵を出せるかもしれない」などと、言葉の端々で9条の明文改憲には前向きであることを窺わせています。
枝野氏は、代表の直属機関である憲法総合調査会の会長に就任したばかりの昨年8月に、「憲法九条 私ならこう変える 改憲私案発表」と題する論文を、『文芸春秋』10月号に載せましたが、その内容は9条に3項と4項を追加して、軍事力の保有、集団的自衛権の行使、国連のもとでの多国籍軍への参加を容認するという、反動的な内容でした。
そのために憲法擁護派からは大いに顰蹙を買いましたが、その考え方は全く変わっていないようです。
時事通信の記事と、昨年9月のしんぶん赤旗の記事を紹介します。
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解釈変更は「よこしま」=枝野幸男 民主党憲法総合調査会長
- 集団的自衛権を問う
時事通信 2014年5月1日
Q 民主党が3月4日に決定した「集団的自衛権をめぐる憲法解釈の変更に関する見解」の位置付けは。
A 集団的自衛権をめぐる問題は、安全保障論として何が必要か、憲法論として解釈変更がどこまで許されるのか、の二つの問題が絡み合っている。見解は、憲法解釈の変更はどういった場合にどこまで許されるのかを党としてまとめたものだ。
Q 見解は「憲法9条に違反し許されないという内閣の解釈を、正面から否定し、集団的自衛権の行使一般を容認する解釈に変更することは許されない」としているが、この表現は集団的自衛権が許されるケースもあるという意味か。
A 解釈変更がどこまで許されるのかは、具体的にどういう論理立てで提起されるのか分からなければ判断のしようがない。分からない中で、「従来の解釈と整合性が取れないといけない」という基本原則をしっかり決めた。
Q 整合性が取れれば、集団的自衛権を認めることはできるのか。
A 集団的自衛権を持ち出さなくても、十分に従来の解釈の延長線上でできることもある。どうしてもそれではできないものを具体的に示し、必要だから憲法を改正させてくださいと言えば、国会も国民も納得するのではないか。
Q 個別的自衛権の範囲で十分に対応できる部分が多いとする公明党の考え方に近い。
A そうだ。「これは今どうしても安全保障上必要だが、従来の解釈と整合性が取れる説明が思いつかない」と相談されれば、われわれ(民主党)も知恵を出せるかもしれない。
Q 自民党の高村正彦副総裁が唱える「限定容認論」では折り合えないのか。
A 「限定」の意味がよく分からない。どうしても必要なことに限定して議論、検討するなら一定の理解ができるが、「集団的自衛権は行使できない」と言い切ってきた上での限定的容認というのは、限定だろうが全部だろうが、従来の解釈と整合性の取れた説明ができなければ意味がない。
Q 限定容認論は、1959年の最高裁判決(砂川判決)を、集団的自衛権が認められる根拠にしている。
A 論外だ。憲法や法律を少しでも分かる人は笑っている。砂川判決を受けて政府は集団的自衛権を行使できないという解釈を固めたのだから、全く理由にならない。
Q 政府の有識者懇談会は、必要最小限の自衛権行使に集団的自衛権も含むとの報告書をまとめる方針だ。
A 従来の解釈と明らかに違う説明だ。従来の解釈では、必要最小限だから集団的自衛権は駄目だと政府が言ってきた。それを恣意(しい)的に変えることは許されない。
Q 安倍晋三首相は「安全保障環境が大きく変わった」として、解釈変更の必要性を説明している。
A まず政府が新たにやりたいこととその必要性が議論され、現行憲法の解釈でどう説明できるか模索と努力をするべきだ。それをしないで「安全保障上必要」と言うのは大義名分にすぎず、単に憲法解釈を変えて歴史的な評価を受けたいというよこしまな意図しかないということだ。
枝野 幸男氏(えだの・ゆきお)
東北大法卒。弁護士を経て、1993年衆院選で日本新党から出馬し初当選。衆院埼玉5区選出、当選7回。民主党幹事長、内閣官房長官、経済産業相などを歴任。栃木県出身。49歳。
民主・枝野氏が「改憲私案」集団的自衛権行使・多国籍軍参加容認
しんぶん赤旗 2013年9月10日(火)
民主党の枝野幸男衆院議員は、『文芸春秋』10月号に「憲法九条 私ならこう変える 改憲私案発表」と題する論文を発表しました。軍事力の保有、集団的自衛権の行使、国連のもとでの多国籍軍への参加を容認する重大な内容です。枝野氏は、民主党内に新設された代表の直属機関である憲法総合調査会の会長に就任したばかりです。
枝野「私案」では、日本国憲法9条1、2項に二つの条文(9条の2、9条の3)を追加。追加する「9条の2」3項で、「自衛権に基づく実力行使のための組織」の存在を規定。軍事力の保有を基礎づけました。
また同2項では、「我が国の安全を守るために行動している他国の部隊に対し、急迫不正の武力攻撃」があった場合に、その「他国」と「共同して自衛権を行使することができる」と規定。集団的自衛権の行使を容認しています。
もう一つの追加条文となる「9条の3」1項で国連軍への参加を明記。さらに同2項では、国連決議に基づく多国籍軍やPKO(国連平和維持)活動への参加を明記したうえ、活動に対する急迫不正の武力攻撃がなされた場合には「自衛措置」を取れるとして、海外での武力行使を公然と容認する内容になっています。
現行9条1、2項は名目的に残るだけで、これまでとりわけ2項(戦力不保持、交戦権の否定)の制約として禁じられてきた、国連軍への参加、集団的自衛権の行使、海外での武力行使を容認する中身です。
けん制装い“9条破壊”援護
枝野「私案」は、2005年に民主党がまとめた改憲志向の『憲法提言』を具体化した内容で、改憲政党としての民主党の性格をあらわにするものです。同時に、この時期に改憲案を発表することは、内容とともに安倍晋三首相の狙う9条改定を後押しする意味しか持ちません。
枝野氏は、『文芸春秋』掲載の論文で「安倍政権の発足などによって、改憲派と護憲派の両極端な主張がますます激しくぶつかり合うことが予想される状況」を、「極論のぶつかり合いという不幸な事態」と主張。「今求められているのは、より冷静な分析と建設的な議論によって極論のぶつかり合いを収斂(しゅうれん)させること」と述べて憲法擁護の立場を「極論」と攻撃しつつ、“第三の道”があるかのように装っています。
その主張する改憲私案は、安倍首相と同様に、集団的自衛権行使と国連軍・多国籍軍への参加など、海外での武力行使を容認するものです。安倍首相が狙う集団的自衛権行使に向けた解釈改憲論へのけん制を装いながら、明文改憲を進めることは、議論の軸を右に持っていくだけです。
枝野氏は、「憲法解釈」によって「歯止め」をかけている現在の状態では「ずるずると自衛隊の活動範囲が拡大し、今後もさらに無原則に拡大する可能性がある」などとし、「『歯止め』を明文化する」ために改憲を進めるとしています。
しかし、これまで「歯止め」とされたのは9条2項の戦力不保持の規定です。この規定があるために、歴代政府は自衛隊は「軍隊」ではなく、集団的自衛権の行使も、海外での武力行使も禁止されてきたのです。それをすべて容認するというのですから、枝野私案はなんら「歯止め」になっていません。
日本への攻撃に対する自衛措置としていますが、地理的な限定も示されていません。各国が横並びで戦争する多国籍軍への参加も憲法上可能とするというのですから、安倍首相が目指す、アメリカと肩を並べて「戦争する国」そのものです。 (中祖寅一)