安倍首相の私的諮問機関「安保法制懇(略称)」が報告書を出したのを受けて、首相は15日の18時から全TVメディアが実況放送をする中で、「集団的自衛権の行使容認」に向けた今後の政府の「方向性」について説明しました。
それは事前に用意した二つの漫画を演壇の両脇に掲示しながら、この程度のことは認められなければならないと、国民の情感に訴えようとするものでしたが、一旦集団的自衛権の行使を容認したが最後、後は止めどなくアメリカに追随して(=参戦への強制を拒否する口実がなくなって)戦争国家に進むという将来像については何も示されませんでした。
国民注視の中の巨大な詐術というべきものでした。
時事通信は、安保法制懇の「集団的自衛権の行使容認」の報告書は、安倍首相の7年越しの念願であったと報じました。そして賛成派だけをずらりとメンバーに並べたものであったということも。
日本ペンクラブ(浅田次郎会長)は15日、安倍首相が集団的自衛権の行使容認に向けた「基本的方向性」を示したことに、「国会の議論も閣議決定もしないまま、憲法解釈と国のあり方の根本を一方的に変更しようとするのは、法治国家ではあるまじきこと」と厳しく批判する声明を発表しました。
また安倍首相によって異例の抜擢をうけた小松内閣法制局長官は、体調が思わしくないため辞任することになり、後任には横畠裕介内閣法制次長が起用される方向です。
NHKは「集団的自衛権を巡る論点」を整理した記事を載せました。
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賛成派ずらり、7年越し念願=安保法制懇
時事通信 2014年5月15日
安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が集団的自衛権の行使を認める報告書を打ち出した。座長の柳井俊二国際海洋法裁判所長(元駐米大使)らメンバーは、第1次安倍内閣の2007年に設置された当時とほぼ同じ顔触れで、首相は7年越しの念願をかなえた形だ。
第1次政権では、公海上での米艦防護など4類型を議論。08年6月、集団的自衛権の行使を可能にするため憲法解釈変更を求める報告書を取りまとめたが、首相は既に退陣しており、大幅な外交・安全保障政策の見直しに慎重だった福田政権により提言はたなざらしとなった。
第2次安倍内閣の安保法制懇は13年2月に再始動した。メンバーは柳井氏のほか、岡崎久彦元駐タイ大使ら首相の政策ブレーン、防衛省・自衛隊OB、保守系の学者ら、憲法解釈見直しに積極的な論者で占められ、計7回の会合で、行使容認に反対を唱える声は皆無だった。
有識者の一人は昨夏の段階で、「報告書は用意しろと言われれば一週間でできる」と指摘しており、「結論ありき」だったことを事実上認めている。国の根幹に関わるテーマを行使容認賛成派のみの懇談会の議論に委ねた首相の手法には、「公平性を欠く」(福島瑞穂社民党副党首)などと批判もある。
安倍首相の政治手法に抗議=ペンクラブ声明・集団的自衛権
時事通信 2014年5月15日
日本ペンクラブ(浅田次郎会長)は15日、安倍晋三首相が安保法制懇の報告を受け、集団的自衛権の行使容認に向けた「基本的方向性」を示したことに抗議する声明を発表した。
声明は「国会の議論も閣議決定もしないまま、憲法解釈と国のあり方の根本を一方的に変更しようとしている。首相の政治手法は非常識」と厳しく批判している。
東京都内で記者会見した浅田会長は「法治国家ではあるまじきことだ」と憤りをあらわにした。
小松内閣法制局長官 辞任の意向
NHK NEWS WEB 2014年5月16日
小松内閣法制局長官は、体調が思わしくなく、職務に支障を来すおそれがあるなどとして、政府高官に辞任する意向を伝え、政府は後任に横畠裕介内閣法制次長を起用する方向で調整に入りました。
小松内閣法制局長官は、外務省の国際法局長などを経て、去年8月に就任しましたが、ことし1月、腫瘍が見つかり、治療のためおよそ1か月入院した後あとも、通院しながら職務に当たっていました。こうしたなか小松長官は、ここ最近体調が思わしくなく、職務に支障を来すおそれがあるなどとして、政府高官に辞任する意向を伝えました。
政府関係者によりますと、安倍総理大臣も小松長官の辞任を了承しており、内閣官房参与に就任するということです。
小松長官は集団的自衛権の行使容認に前向きな立場を取ってきており、安倍総理大臣が、外務省出身者として初めて内閣法制局長官に起用しました。
安倍総理大臣は15日、憲法解釈の変更によって限定的に集団的自衛権の行使を容認することを視野に、内閣法制局の意見も踏まえて検討を進める考えを表明しており、政府は、影響が出ないよう、小松長官の後任に横畠裕介内閣法制次長を起用する方向で調整に入りました。
集団的自衛権巡る論点は
NHK NEWS WEB 2014年5月15日
集団的自衛権の行使を巡って、安倍総理大臣が設置した有識者懇談会は15日、憲法解釈を変更し、行使を容認するよう求める報告書を提出しました。
戦後日本の安全保障政策の大転換となりえる議論が本格化することになりそうです。
安保法制懇とは
政府の有識者懇談会は、正式名称を「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」と言い、安倍総理大臣の私的諮問機関として議論を続けてきました。
メンバーは14人で、座長は柳井俊二元外務事務次官、座長代理が北岡伸一国際大学学長で、経歴を見ますと学識経験者が9人、元官僚、元自衛官が4人、財界人が1人となっています。
全員がこれまでに発表した論文などの中で、集団的自衛権の行使を容認することにいずれも肯定的な意見を明らかにしています。
報告書とは
報告書は、日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しているとして、日本の平和と安全を維持するためには従来の憲法解釈では十分に対応できないとしています。
そのうえで、憲法上認められる必要最小限度の自衛権の中に集団的自衛権の行使も含まれると解釈すべきだとして、憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認するよう求めました。
集団的自衛権を巡る論点
憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認については、さまざまな論点があります。
主なものとして、1.憲法解釈の変更という手続きを取ることの是非、2.行使を容認した場合に歯止めが効くかどうか、3.今の解釈で認められている個別的自衛権や警察権でどこまで対応できるのか、この3点が挙げられます。
論点1.憲法解釈の変更という手続きを取ることの是非
憲法解釈の変更という手続きを取ることの是非について、慶應義塾大学の小林節名誉教授は、「集団的自衛権の行使容認という実質的な憲法改正を解釈の変更で行うことを許せば、将来、憲法を土台から壊し、権力者だったら何でもできるという独裁国家を生むおそれがある。集団的自衛権の行使を容認したいのなら、堂々と憲法改正を提起して、国民的な論争を経て、国民投票で可決してもらうのが筋だ」と批判しています。
一方、有識者懇談会のメンバーの1人で駒澤大学の西修名誉教授は、「今の憲法はそれぞれの国の固有の権利である自衛権を否定しているわけではなく、その自衛権の1つである集団的自衛権の行使のしかたを議論していくことは立憲主義に反しない。現代は、憲法で国家権力を制約するだけでなく、国家に積極的な役割を果たさせることが求められる」と話しています。
論点2.行使を容認した場合に歯止めが効くかどうか
行使を容認した場合に歯止めが効くかどうかについて、自衛隊のイラク派遣当時、内閣官房副長官補を務めた、元防衛官僚の柳澤協二さんは、「集団的自衛権を行使してほしいという他国から要請されて助けないとなったら、政治的なダメージは計り知れないため、結局、集団的自衛権は歯止めが効かない。自衛隊は発足以来、1人の戦死者も出さなかったが、集団的自衛権の行使が容認されれば、そうした犠牲を強いることになるという認識が必要だ。こうしたリスクやデメリットもすべて考慮して議論すべきだ」と指摘しています。
一方、駒澤大学名誉教授の西修さんは、「報告書では、国際法上の縛りに加え、『日本の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある』といった条件を定めている。その範囲でしか行使できないようにすれば、歯止めになる。さらに、必要最小限の行使を容認していくのであり、政府、国会、国民それぞれが歯止めの在り方を議論していくべきだ」と話しています。
論点3.今の解釈で認められている個別的自衛権や警察権でどこまで対応できるのか
今の解釈で認められている個別的自衛権や警察権でどこまで対応できるのかについて、例えば、報告書で示された事例のうち、公海上で攻撃されたアメリカの艦船を自衛隊が守るケースなどは、個別的自衛権で対応できるという指摘があります。
安全保障が専門で、流通経済大学教授の植村秀樹さんは、「報告書には、日本が対応する必要がない事例や、個別的自衛権でも対応できる事例が含まれている。国民が集団的自衛権の行使容認を受け入れやすい事例を並べている印象があり、結論ありきで、世論をミスリードするおそれがある」と指摘しています。
一方、安全保障が専門で、拓殖大学海外事情研究所教授の川上高司さんは、「日本を取り巻く安全保障環境は激変しており、領海領空を巡る争いや、北朝鮮の弾道ミサイルなどの脅威が日に日に増している。ほかの国が日本を守ってくれているのに、日本がほかの国を守れない現状は改めていかなければならない。日米同盟を強化するためにも、集団的自衛権の行使容認は早急に必要だ」と指摘しています。