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9条とわたし<3>
「風船プロジェクト」実行委員長 原紗希子さん(29) 空母、憲法 まず学ぼう
東京新聞 2014年5月5日
うららかな日曜日の午後。先月十三日、米海軍横須賀基地正門前で、黄と黒の風船二千個が放たれ、青空に舞う。「できることを、やっていかないと」。二歳の長男を連れた原紗希子さん(29)=横須賀市=が、つぶやく。
横須賀に配備されている原子力空母で事故が起きたら、放射性物質はどこまで飛散するか。基地問題に取り組む市民グループ「いらない!原子力空母」の活動で、「風船プロジェクト」と銘打って企画した。風船に連絡先を書いたカードを付け、拾った人からの連絡で範囲を調べる。千葉県勝浦市など六十キロ圏内から連絡があった。
横須賀に生まれ、育った。物心ついた時から、基地や空母は当たり前にそこにあった。「いいとも悪いとも、考えたことがなかった。日常の風景だったから」
東日本大震災による原発事故。その後で授かった息子。二つが価値観を変えた。原発事故と同じ被害が、原子力空母のある横須賀で広がったら…。腕の中のわが子を見て、不安が募った。知人を通じてグループを知ったのは、一年半ほど前。活動に加わり、他国の空母が横須賀にある異様さを知った。
憲法にも興味を持ち、勉強会に参加。そして、分かった。権力者は堂々と「戦争する国にする」とは言わない、と。「言葉を少し変えるだけで、内容が百八十度変わる。知らないうちに恐ろしいことになる」。改憲への動きが速いことも違和感がある。「『やりたい人』の考えで進んでいる気がする。『違う』と声を上げなくては」
平和な日常にいるからこそ気付きにくい。九条は素晴らしいのだ、と。「九条が変えられると、戦争ができる国になる。夫や息子が戦地に行くなんて考えられない。戦争に行かせるために、息子を育てているんじゃない」
保育士や、創作を通して子どもの能力を育てる「チャイルドアートカウンセラー」として働いてきた。けんかをする子には言葉で解決するよう促した。「解決は武器ではなく、話し合いでしかできない。暴力に正義はない」。文化や考えの違いはいさかいを生む。でも「違う」からこそ、話すことが面白い。
改憲。特定秘密保護法制定。教育改革。何だか一つの方向に向かわされている気がする。自分たちの活動が制限され、本当のことが知らされなくなるのは怖い。一つの価値観しか教えない社会で子育てはしたくない。「子どもには多くのものに触れてほしい。親ならみんなそう願うはず」
誰もが参加しやすい活動にしたい。それが風船プロジェクトの出発点。当日はベビーカーを押して参加する母親たちの姿もあった。「みんな、何ができるか模索しているんだ」と感じた。憲法も空母も、まずは知ることから。「勉強会をやりたいね」という声もある。資金を集めるバザーの開催も考えている。
戦争から遠い世代。でも戦争ができる国には戻さない。「やりたいことができる社会を、息子に残したい」 (中沢佳子)