2014年5月15日木曜日

安保法制懇 報告書の要旨

 15日に出されるとされている安倍首相の私的諮問機関「安保法制懇報告書の全文を朝日新聞が入手したとして、14日、その要旨を報じました
 
 内容はこれまで予想されていた通りであり、他国を守るために武力を使う集団的自衛権の行使は憲法9条の定める「必要最小限度」の自衛権の範囲内だとして、憲法解釈の変更を求めるもので、憲法の根幹を揺るがす内容となっています。
 
 問題は、戦後70年近く定説とされてきた「必要最小限度の自衛権」をここで大きく逸脱させて、なぜ集団的自衛権の行使が憲法9条下で認められるのかという根拠の説明が明確でないことです。これでは単に情勢が緊迫しているから集団的自衛権を行使できるようにした方が良い、という希望の表示に過ぎません。
 
 憲法13条の国民の幸福追求権の保証も、集団的自衛権の行使の根拠に援用したいようですが、なぜ国民の幸福を追求する権利が、「外国でいくらでも戦争が出来る」ようにすることの根拠になるのかも、一向に明確ではありません。
 
 報告書が憲法解釈変更の正当性の主張に失敗している以上、報告書はせいぜい憲法9条の改定提案書としての意味しかありません。民間の一組織がそうした主張をすることは確かに禁じられてはいません。
 しかし、私的懇談会とはいえ公費を使っている組織が、政府に対して憲法改正を要求する報告書を作成するというのもまたおかしな話です。
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安保法制懇の報告書要旨
朝日新聞 2014年5月14日
 「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書の要旨は以下の通り。
 
集団的自衛権「9条の範囲」 法制懇、憲法より安保優先
 我が国を取り巻く安全保障環境は、2008年6月の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告書提出以降一層大きく変化した。このような情勢変化を踏まえて、安倍首相は、13年2月、本懇談会を再開し、我が国の平和と安全を維持するために、日米安全保障体制の最も効果的な運用を含めて、我が国は何をなすべきなのか、過去4年半の変化を念頭に置き、また将来にわたって見通しうる安全保障環境の変化にも留意して、その法的基盤について再度検討するよう指示した。
 
【憲法解釈の変遷と根本原則】
 憲法第9条を巡る憲法解釈は、戦後一貫していたわけではない。政府の憲法解釈は、終戦直後には「自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も抛棄(ほうき)した」としていたのを、1950年代には、「自衛のための抗争は放棄していない」とした。最高裁判所が、59年のいわゆる砂川事件大法廷判決において、「わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない」という法律判断を示したことは特筆すべきである。70年代以降、政府は、憲法は自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることを禁じていないが、その措置は必要最小限度の範囲にとどまるべきであり、集団的自衛権の行使はその範囲を超えるものであって、憲法上許されない、との立場を示すに至り、政府の憲法解釈は、今日に至るまで変更されていない。
 
 国家の使命の最大のものは、国民の安全を守ることである。ある時点の特定の状況下で示された憲法論が固定化され、安全保障環境の大きな変化にかかわらず、その憲法論の下で安全保障政策が硬直化するようでは、憲法論のゆえに国民の安全が害されることになりかねない。我が国を取り巻く国際環境が厳しさを増している中で、将来にわたる軍事技術の変化を見通した上で、我が国が本当に必要最小限度の範囲として個別的自衛権だけで国民の生存を守り国家の存立を全うすることができるのか、という点についての論証はなされてこなかった。また、個別的自衛権と集団的自衛権を明確に切り分け、前者のみが憲法上許容されるという文理解釈上の根拠は何も示されていない
 
 憲法前文は、平和的生存権を確認し、第13条は、国民の生命、自由及び幸福追求の権利について定めているが、これらを守るためには、我が国が侵略されず独立を維持していることが前提条件であり、外からの攻撃や脅迫を排除する適切な自衛力の保持と行使が不可欠である。基本的人権と同様の根本原則として理解されている国民主権原理の実現には主権者たる国民の生存の確保が前提であり、我が国の平和と安全が維持されその存立が確保されていなければならない。国権の行使を行う政府の憲法解釈が国民と国家の安全を危機に陥れるようなことがあってはならない。憲法前文及び第98条の国際協調主義の精神から、国際的な活動への参加は、我が国が最も積極的に取り組むべき分野と言わねばならない。我が国の平和主義は、同じく日本国憲法の根本原則である国際協調主義を前提として解されるべきである。
 
【我が国を取り巻く安全保障環境の変化・我が国として採るべき具体的行動の事例】
 我が国の外交・安全保障・防衛を巡る状況は大きく変化しており、予測が困難な事態も増えている。これまでは、事態の発生に応じて、憲法解釈の整理や新たな個別政策の展開を逐次図ってきたことは事実であるが、変化の規模と速度に鑑みれば、我が国の平和と安全を維持し、地域及び国際社会の平和と安定を実現していく上では、従来の憲法解釈では十分に対応できない状況に立ち至っている。
 
 我が国を取り巻く安全保障環境の変化に鑑みれば、2008年の報告書で示した4類型(公海における米艦の防護、米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃、国際的な平和活動における武器使用、同じ国連PKO等に参加している他国の活動に対する後方支援)に加え、従来の憲法解釈や法制度では十分に対応することができない以下のような事例に際して我が国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある。ただし、以下の事例のみを合憲・可能とすべきとの趣旨ではない。
 
 事例1:我が国の近隣で有事の船舶の検査、米艦等への攻撃排除等
 事例2:米国が武力攻撃を受けた場合の対米支援
 事例3:我が国の船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域(海峡等)における機雷の除去
 事例4:イラクのクウェート侵攻のような国際秩序の維持に重大な影響を及ぼす武力攻撃が発生した際の国連の決定に基づく活動への参加
 事例5:我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず、徘徊(はいかい)を継続する場合の対応
 事例6:海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し武装集団が不法行為を行う場合の対応