米海軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地周辺の住民約7000人が、米軍機と自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めと、騒音被害に対する損害賠償などを国に求めた「第4次厚木基地騒音訴訟」で横浜地裁は21日、自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めと、約70億円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
一方、米軍機の飛行差し止め請求については日本政府とアメリカとの関係上、差し止めの対象にならないなどとして退けました。
自衛隊機の飛行差し止めを認める判決は全国で初めてで、画期的なことです。
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厚木基地騒音訴訟 夜間飛行差し止め命令
NHK NEWS WEB 2014年5月21日
神奈川県の厚木基地の周辺住民が航空機の騒音被害を訴えて、国に飛行の差し止めや損害賠償を求めていた第4次厚木基地騒音訴訟で、横浜地方裁判所は騒音被害の違法性を認め、国に自衛隊機の夜間と早朝の飛行の差し止めとおよそ70億円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
基地の航空機の飛行の差し止めが命じられたのは全国で初めてです。
第4次厚木基地騒音訴訟では、基地の周辺住民およそ7000人が在日アメリカ海軍と海上自衛隊の航空機の騒音被害を訴えて、基地を管理する国に対し、損害賠償と夜間などの飛行の差し止めを求めていました。
21日の判決で、横浜地方裁判所の佐村浩之裁判長は「基地周辺の住民が受けている被害は健康または生活環境に関わる重要な利益の侵害であり、当然に受け入れなければならないような軽度の被害であるとは言えない」として騒音被害の違法性を認めました。
そのうえで「特に騒音による睡眠妨害は健康被害に直接結びつく相当深刻な被害と言えるもので、住民による飛行の差し止め請求には理由が認められる」などとして、国に対し、午後10時から午前6時までの間、防衛大臣がやむをえないと認める場合を除き、自衛隊機の飛行の差し止めを命じる判決を言い渡しました。
基地の航空機の飛行の差し止めが命じられたのは全国で初めてです。
また、損害賠償についても、佐村裁判長は「被害の重大性、違法な状態の継続に加え、基地周辺の環境の保全に関する一般的な責務を国が果たしているとは言い難い」と述べ、これまでで最も多い、およそ70億円の支払いを命じました。
一方、米軍機の飛行差し止め請求については日本政府とアメリカとの関係上、差し止めの対象にならないなどとして退けました。
裁判所の前には原告の人たちが集まり、判決の内容が伝えられると、大きな拍手と歓声があがりました。
神奈川県大和市に住む原告の76歳の男性は「これで一歩前進ですが、米軍機については一切触れていないので、うれしさ半分、悲しさ半分です。これからもう一回、立ち上がっていきたい」と話していました。
また、相模原市に住む原告の46歳の女性は「賠償が認められたことに加えて、行政訴訟で、自衛隊機の夜間と早朝の飛行の差し止めが命じられたのはすごくよかったと思います」と話していました。
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原告弁護団「防衛行政に影響」
今回の判決について、原告の弁護団は「航空機訴訟で差し止めを一部認めたのは、わが国始まって以来のことであり、今後の防衛行政に大きな影響を与えると思います」と話していました。
在日アメリカ海軍司令部は
判決について、神奈川県横須賀市にある在日アメリカ海軍司令部は「判決の内容を詳しく承知していないので、現時点ではコメントを差し控えたい」と話しています。
官房長官「大変に厳しい判決」
菅官房長官は午後の記者会見で、「国の主張について裁判所の理解が得られなかったということで、大変に厳しい判決だと受け止めている。判決文を精査したうえで、関係省庁が調整し、適切に対応していきたい」と述べました。
防衛大臣「受け入れがたい部分も」
小野寺防衛大臣は「国の主張に裁判所の理解が得られず残念だ。自衛隊機の運航の一部差止めなど、防衛省にとって受け入れがたい部分があり、判決内容を慎重に精査し、関係機関との調整のうえ適切に対処したい。防衛省としては、引き続き厚木基地周辺の生活環境の整備などに、いっそう努力していきたい」というコメントを出しました。
訴訟これまでの経緯
厚木基地の航空機の騒音被害を巡っては、昭和51年の最初の提訴以来、これまで3次にわたって裁判が行われてきました。
裁判所は、いずれも騒音被害の違法性を認め、国に周辺住民への損害賠償を命じた判決が確定しています。
しかし、住民たちは第1次の訴訟の判決が確定してから、およそ10年たっても「事態は全く改善されていない」として、平成19年、今回の第4次の訴訟に踏み切りました。
原告の数は、平成18年に、国が住宅の防音工事の費用を助成する区域を20年ぶりに拡大したことなどから、基地がある神奈川県大和市と綾瀬市、それに周辺の東京・町田市など、8つの市で合わせておよそ7000人に上り過去最大の規模となりました。
住民たちは、損害賠償と共に夜間などの飛行の差し止めを強く求めてきました。
第1次と第2次の訴訟で、住民側は、民事訴訟で飛行の差し止めを求めましたが、裁判所は自衛隊機の運航は「公権力の行使」にあたるため民事訴訟には適さず、また、米軍機には「国の支配は及ばない」として訴えを退けてきました。
このため住民側は、自衛隊機の運航や米軍機への滑走路の使用許可は防衛大臣の権限だとして今回初めて行政訴訟でも飛行の差し止めを求め、裁判所がどのような判断を示すのか、注目されていました。
各地の裁判にも影響か
基地周辺の騒音を巡る裁判は全国各地で起こされ、国の責任を認めて賠償を命じる判断が定着していますが、飛行の差し止めが認められたのは初めてです。
基地周辺の騒音を巡っては、今回の厚木基地のほかにも東京都の横田基地、沖縄県の嘉手納基地など各地で裁判が起こされてきました。
これまでの裁判では騒音被害に対して「国が対策をとっていない」として国の責任を認めて賠償を命じる一方で、飛行の差し止めについては「米軍が管理する基地の活動を日本政府が制限することはできない」などとして、認めない判断が定着してきました。
21日の判決で、裁判長は、米軍機の飛行は差し止めの対象にならないと判断しました。
しかし、自衛隊機については、防衛大臣の権限の行使は差し止めの対象になると判断したうえで、基地の騒音は、住民にとって相当深刻な被害だとして、夜間と早朝の飛行を禁じるというこれまでにない踏み込んだ判断を示しました。
差し止めの対象を広げた21日の判決は、基地の騒音を巡って現在も続いている各地の裁判にも影響を与えそうです。
「画期的な判決だ」
判決について、地方行政に詳しい千葉大学名誉教授の新藤宗幸さんは「画期的な判決だ。裁判所はこれまで安全保障や外交、軍事など国家の中枢に関わる問題について判断を避けてきた。今回の判決が司法行政の姿勢が変わるきっかけになってほしい」と話しています。
「司法が国の対応を待てないと判断」
今回の判決について、安全保障が専門で流通経済大学教授の植村秀樹さんは、「各地の裁判で騒音被害の違法性が認められてきたにもかかわらず、国は踏み込んだ対応を取らず問題を放置してきたと言え、飛行差し止めが初めて命じられたことは、国の対応をこれ以上、待つことはできないと司法が判断したといえる」と指摘しています。
そのうえで「日本の安全保障政策は、ともすると住民の生活よりアメリカ軍機の運用を重視する姿勢が強かったが、今回の判決をきっかけに住民への影響を踏まえて基地問題を議論し、安全保障政策を見直していくべきだ」と指摘しています。
「うるささ指数」とは?
今回の裁判では、航空機による騒音被害を評価する国際基準、「うるささ指数」で一定の基準に達した地域の住民が訴えを起こしました。
「うるささ指数」は騒音の大きさや頻度、それに発生する時間帯などから算出し、国は75以上の指数に達した区域を住宅の防音工事の助成対象としています。
厚木基地の周辺では神奈川県の大和市と綾瀬市、相模原市、座間市、藤沢市、海老名市、茅ヶ崎市、それに東京・町田市の8つの市のそれぞれ一部の地域が75以上の指数に達しています。
南関東防衛局によりますと、この区域にはおよそ24万4000世帯が暮らしているということです。