28日から集団的自衛権を巡って国会での論戦が始まりましたが、一昨年の衆院選でマスメディアが囃し立てたせいもあり、維新の党やみんなの党、(そこから派生した)結いの党などが一定の議席をもっているため、野党も憲法改悪反対=集団的自衛権行使反対 で一枚岩になっているわけではありません。
安倍首相にとっては、迫力に欠けている国会などはどうでもよいのでしょう、そこそこ多弁ではあるものの意味不明の回答や発言を連発していました。
首相は年末に控える日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定に間に合わせるために、夏にも憲法解釈を変更する閣議決定をしたいという意向なのですが、そんな風に米国に対していい顔をしたいという取るに足りない理由で、国を誤らせることなど許されません。
そんな身勝手な理由から公明党に早急な合意を迫る一方で、公明党に政権を離脱されては小選挙区での当選がおぼつかなくなる議員を多数抱えている現状では、そうした事態に追い込むというわけにはいきません。
それで何とか理詰めでと考え出されたのが、国民を欺く、英フィナンシャルタイムズが5/27付社説「平和憲法の論議が対米従属への日本人の怒りを刺激※」で「狡猾な」と評したとおりの15事例です。 ※ http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40800
それを見ると、「自衛艦がたまたま軍事演習をしているときに、国籍不明艦が日本の無人島に上陸するのに遭遇した」などと、到底起こりえないいケースが羅列されています。
そのうえ、もしも公明党との協議でその1点でも合意が出来れば、直ちに閣議決定をしてしまうという、「エビで鯛を釣る」まがいのいわば『安倍政権詐欺商法』であることも明らかにされました。
28日、神奈川新聞は社説で、「政権の暴走にブレーキをかけられるのは公明党しかない。今ほど真価が問われる局面はない。・・・連立政権の維持と立党の原点とでは、どちらが大切だろうか。・・・後世に誇れる判断を下してほしい」と述べました。
おなじく福井新聞は社説で「集団的自衛権 あまりに現実味欠く論法」を、西日本新聞は社説で「与党協議 事例に現実味はあるのか」を掲げました。
以下に紹介します。
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(社説)公明党の責務 平和こそ何よりも尊い
神奈川新聞 2014年5月28日
集団的自衛権の行使容認問題を主題とする政権与党(自民、公明両党)の協議が始まった。自民党は公明党に配慮する構えをみせてはいるが、安倍晋三首相(自民党総裁)が求める結論に変わる気配はない。
協議では、漁民を装った武装集団の離島上陸など「グレーゾーン」への対処、集団安全保障と国連平和維持活動(PKO)に続き、集団的自衛権に基づく武力行使を議論する。自公が最初から憲法解釈変更で対立するのを回避するため、集団的自衛権の議論を後回しにした形だ。
前のめりな安倍首相に対し、公明党が慎重な構えを崩さないのは当然だ。安倍首相は中国を批判する際、「必要なのは武力や威嚇ではなく、対話と法の支配だ」と述べてはいるが、憲法という最高法規をないがしろにしかねない首相の最近の言動は「法の支配」無視そのものだろう。
安倍首相はことし2月、歴史認識をめぐり、「政治の、いわば行政の責任者である私が、この歴史認識はこうですと神のごとく審判を下すことはできない」と国会で答弁した。その反面、憲法によって国家権力を縛る立憲主義をないがしろにする首相の思考は、それこそ「神の領域」に入ってはいまいか。
集団的自衛権の行使容認が行き着く先に何があるか。「本当に残念だが、自衛隊を米国の傭兵にする」(孫崎享・元外務省国際情報局長)との指摘もある。米国が世界中で行う戦争に自衛隊が巻き込まれる恐れが現実化していく。
日本のためになるかも分からない危険な前線へ自衛隊を送り出すようなリスクを抱えることに対し、安倍首相のためらいはうかがえない。
その背景を垣間見るヒントはやはり、歴史認識にあるのではないか。戦争指導者の誤った判断により先の大戦で命を奪われた一般の国民と、彼らを死に追いやった戦争指導者とを峻別できずに靖国神社を参拝してしまう安倍首相の思考が、集団的自衛権の問題にも通底しているように思える。
現在の政治状況では、政権の暴走にブレーキをかけられるのは公明党しかない。今ほど真価が問われる局面はない。公明党の立党の原点は「平和の希求」である。連立政権の維持と立党の原点とでは、どちらが大切だろうか。戦後の平和国家に果たした役割をかみしめながら、後世に誇れる判断を下してほしい。
集団的自衛権 あまりに現実味欠く論法
福井新聞 2014年5月28日
経済再生や社会保障制度など安倍政権の背負った重要課題は数多い。しかし、安倍晋三首相の最大関心は憲法解釈による集団的自衛権の行使容認一点に向いている。世論調査でも過半数が反対している解釈改憲である。法理をねじ曲げてでも実行しようとする安倍政権の恣意的な実現欲は、立憲主義の観点からも許されるものでなく、本来、極めて抑制的であるべきだ。きょうから衆院と参院で集中審議が始まる。来月の党首討論でも主要テーマとなる。議論の中身を注視したい。
集団的自衛権をめぐり、自民、公明両党はきのう、「安全保障法制整備に関する与党協議会」の第2回会合を開いた。政府が提示したのは、米国に向かうミサイル迎撃など自衛隊の任務拡大に向けた15の具体事例である。説明文で「集団的自衛権」との表現を避けた。行使容認に慎重な公明党に配慮したのだろうが、議論を曖昧にし国民の目をそらすような手法は問題がある。事実、8例が行使容認をにらんだケースだ。
事例には、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」の離島警備対応や、国連平和維持活動(PKO)に派遣される自衛隊の「駆け付け警護」も含まれる。公明党側はのっけから、グレーゾーンの法整備に関し「運用の問題が多い」として反論、両党の認識の隔たりがより鮮明になった。
提示の事例は、先に首相の私的有識者懇談会が示した報告書事例より細分化され増えている。幅広い検討につなげ、何とか公明党の理解を得たいのだろうが、詳細に検討すればかえって問題点も浮き彫りになる。
たとえば、米国に向かう弾道ミサイルの迎撃については、技術的に不可能というのが安全保障の専門家の認識だ。米本土が大量破壊兵器搭載の弾道ミサイルで大規模攻撃を受けたケースを米艦防護の前提としているのも現実味に欠ける。
また、首相が強調する朝鮮有事を想定した「邦人輸送中の米輸送艦の防護」に関しては「航空機輸送」が現実的。自衛隊関係者の間からも、想定と対処法に疑問の声が出ている。
政府・自民党は、限定的なら集団的自衛権の行使は許されるという「法理」と「具体的事例」を前面に掲げ、行使容認の閣議決定に突き進もうとしている。しかし実際、首相が熱弁を振るう事例は極端なケースであり、限定的容認から、どんどん拡大解釈に向かう懸念は増すばかりだ。
しかも、日本が戦争に加わり、自衛隊員が殺りくに関与する可能性があるという、行使容認の本質には触れようとしない。
歴代内閣が平和憲法の下で「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」と抑制的に解釈してきた国是を、国際情勢の変化や日米同盟の強化を理由に一内閣で変更してよいのか。性急で強引な手法の問題点や個別的自衛権で可能な範囲の見極め、国際環境の冷静な分析、外交の問題など幅広い観点から議論すべきだ。集中審議で野党の存在感を示してもらいたい。
(社説) 与党協議 事例に現実味はあるのか
西日本新聞 2014年05月28日
■安全保障を考える■
集団的自衛権の行使容認問題を主要なテーマとする自民、公明両党の与党協議が開かれた。
集団的自衛権の行使容認問題を主要なテーマとする自民、公明両党の与党協議が開かれた。
2回目となる今回は、政府が自衛隊任務の拡大を必要と考える15の具体的事例を与党側に提示し、今後はこの事例に沿って協議を進めていくことになった。
安全保障の問題は、複雑な法律論が先行すると分かりにくい。事例を示し、議論を具体的にすることで、議員や国民にも理解を広げようという手法には意義がある。
ただ、気になるのは、政府が出してくる事例が本当に議論のために適切なのか、という点だ。
15事例には、国連平和維持活動(PKO)参加時の「駆け付け警護」など、事態発生の可能性がある程度予想できるケースもある。
しかし、中には「そんな事態が実際に起きるのか」「そもそも可能なのか」と首をかしげたくなる事例が幾つも含まれている。
例えば、「上空を横切るミサイル迎撃」という事例は、北朝鮮が弾道ミサイルで米国を攻撃する事態を想定している。
しかし、専門家によれば、日本のイージス艦の迎撃ミサイルで、米国まで届く長距離弾道ミサイルを迎撃する能力はないという。
また「米本土が日本近隣国から大規模な武力攻撃を受けた際の米艦防護」という事例も示された。圧倒的な軍事力を誇る米国に、テロならともかく、全面戦争を仕掛ける国家があるだろうか。たとえそんな国家が存在したとしても、攻撃の矛先は在日米軍基地にも向かう可能性が高く、その場合は個別的自衛権で対処できる。
政府はまず「集団的自衛権の行使ありき」で、それに合わせて事例を考えているのではないか-との疑念さえ湧く。現実味の薄い事例に「北朝鮮や中国の脅威」のイメージを重ねることで、世論を「行使やむなし」に導こうとしているのであれば、看過できない。
与党協議の当事者も国民も、事例のいわば「真贋(しんがん)」を冷静に見分ける目が必要だ。