安倍政権は、他国との戦争を可能にする集団的自衛権の行使を目指して、「自衛権発動の3要件」を見直す方向で調整に入りました。
これは「他国」が攻撃された場合でも「日本の存立が脅かされる」と政府が判断すれば、武力を使えるように「3要件」を変えようとするものですが、この新たな要件の定義はあいまいで、政府の判断一つでいくらでも遠隔地での戦争に参加することが可能になります。
たとえ善意で作られた法律でも、内容に曖昧さがあれば悪意の適用が可能になるために、これまでいろいろ問題とされて来ましたが、今回は当初からそれを意図している発案なので、もはや何をか言わんやです。
これまでに確立されている個別自衛権発動の3要件は
・急迫不正の侵害があること(急迫性、違法性)
・他にこれを排除して、国を防衛する手段がないこと(必要性)
・必要な限度にとどめること(相当性、均衡性)
です。
これは1837年の米・英間の紛争時に、米国務長官ダニエル・ウェブスターが国家の自衛権を行使するに必要な要件を挙げたことが基本になっているとされ、そこには何人も異議をはさみ得ない自明性があります。このことは、安倍首相の私的懇談会である「安保法制懇」の北岡座長代理も認めていたもので、理性的な人間であれば必ず行き着く結論です※。
※ 2月24日「自衛権発動の3要件は変更できない 集団的自衛権行使の矛盾」
しかしながらこの3要件を変更しなくては集団的自衛権行使の合理性の説明がつかないことから、安倍政権はなりふり構わずに変更を企てたものと思われます。
とはいえ2世紀近い歴史の試練を経てきた3要件をここで変えようとすることは、精緻・精巧な芸術品に藁くずを貼り付けるようなものです。
とても議論に耐えるものとは思われません。
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集団的自衛権、発動要件見直しへ 日本以外に攻撃でも
朝日新聞 2014年5月6日
安倍政権は他国を守るために武力を使う集団的自衛権を使えるように「自衛権発動の3要件」を見直す方向で調整に入った。他国が攻撃された場合でも「我が国(日本)の存立が脅かされる」と政府が判断すれば、武力を使えるように3要件を変える。しかし、新たな要件の定義はあいまいで、安倍政権は遠隔地での戦争も想定するなど自衛隊の活動範囲が大きく広がり、歯止めがきかなくなる恐れがある。
見直しの対象になるのは、これまでの3要件で最初に挙げられていた「我が国への急迫不正の侵害があること」。この要件は、日本の領土・領海・領空に対し、組織的・計画的な武力攻撃をされた場合以外は、日本は武力を行使できないと、はっきり規定しており、政府は国会答弁でも繰り返してきた。そのため、この要件を変えなければ、集団的自衛権の行使はできない。
安倍政権は「我が国への急迫不正の侵害」の要件に、「他国に対する武力攻撃が発生し、これにより国民の生命や権利を守るために不可欠な我が国の存立が脅かされること」を付け加える方向で検討を進めている。
「国の存立脅かされる」事態とは
中東での行使も想定 政府の考える集団的自衛権行使の例
政府が集団的自衛権を使う際の新たな要件として検討する「我が国の存立が脅かされる」事態とは、どんなケースなのか。具体性に欠け、自衛隊が活動できる範囲に「歯止め」がかからない恐れがある。政府が検討にあたって最も重視する最高裁判決にも、公明党や憲法学者から解釈の仕方に疑問の声があがる。
新たな要件では、自衛隊の活動範囲をできるだけ縛らないようにする――。これまで政府が示してきた事例や発言からは、そうした姿勢が透けて見える。