厚木基地の騒音被害をめぐる第4次厚木基地騒音訴訟で、横浜地裁が21日、自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めを命じる全国で初めての判決を言い渡しました。
これは画期的なことでしたが、その一方で米軍機の飛行については、20有年来のいわゆる「第三者行為論」を事実上踏襲して、飛行差し止めの請求を退けました。
夜間や早朝に傍若無人に発着を繰り返しているのは米軍機なので、これでは自衛隊機の飛行の差し止めをしても、夜間・早朝の騒音は何ら変わりません。
騒音をはじめ様々な米軍の基地公害に悩まされている沖縄の2大紙:沖縄タイムスと琉球新報は、ともに「米軍機こそ飛行を差し止めよ」とする社説を掲げました。
沖縄タイムスは、肝心の米軍機の飛行差し止めを「第三者行為論」によって退けるのは、「最高法規の憲法よりも、日米安保体制を上位に置く思考停止した論理である。人権のとりでである司法の役割を自ら放棄した判決と言わざるを得ない。日本は米国の『属国』というほかない」と述べています。
琉球新報は、元那覇地裁裁判長の瀬木比呂志氏が、嘗て飛行差し止めを可能とする法理(=重大な健康侵害が生じた場合には、差し止めも認められる)を判決文の草稿に記していた例を挙げて、「今回の横浜地裁判決を機に20年前の“幻の法理”に磨きを掛け、今度こそ風穴を開けるとの気概を見せてほしい」と、司法界の奮起を求めています。
~~~~~~~~~~~~~~~~
(社説)[厚木基地騒音訴訟] 米軍機こそ差し止めよ
沖縄タイムス 2014年5月22日
果たして、基地周辺の住民を苦しめている航空機の騒音被害が、これで解消される判決といえるのであろうか。
米軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(神奈川県)の騒音被害をめぐり、周辺住民約7千人が国に夜間・早朝の飛行差し止めなどを求めた第4次厚木基地騒音訴訟で、横浜地裁の佐村浩之裁判長は、自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めを命じる全国で初めての判決を言い渡した。
一方で米軍機への飛行差し止め請求は退けた。
損害賠償も基地騒音訴訟では過去最高となる約70億円の支払いを命じた。
判決は、住民の睡眠妨害などが「健康被害に直接結びつく相当深刻な被害」と認定するとともに、自衛隊が夜間・早朝の飛行を既に自主規制していることから自衛隊機の差し止めで「基地の公共性、公営上の必要性が大きく損なわれることはない」とした。
原告団は判決に対し「100パーセントではないが一歩踏み出した判決」と喜びの声を上げた。一定の前進ではあろう。
しかし、騒音の最大の原因である米軍機の飛行差し止めが認められなかったことで、実質的な騒音軽減策は置き去りにされた。
判決でも触れているように「午後10時から午前6時までの時間帯の騒音は大半が米軍機によると認められる」としているからだ。
つまり、自衛隊機の差し止めによっても、夜間・早朝の騒音は何ら変わらないということである。
■ ■
厚木基地は、横須賀に配備されている原子力空母ジョージ・ワシントンの艦載機部隊と海上自衛隊の哨戒機などが駐留する。
米軍機の夜間離着陸訓練(NLP)が実施されるなど、基地がある大和市、綾瀬市などのほか広範囲にわたって騒音被害を及ぼしている。
自衛隊機に比べ、はるかに住民への負担が大きい米軍機について判決は「支配の及ばない第三者の行為の差し止めを国に求めるもので、棄却を免れない」と、いわゆる「第三者行為論」によって請求を退けた。
原告団はもとより米軍基地が集中する沖縄にとっても、納得できるものではない。判決によって、あらためて司法が判断を避ける米軍の“不可侵”性が浮かび上がった。
■ ■
県内では夜間・早朝の飛行差し止めなどを求め、嘉手納で第3次、普天間で第2次の訴訟が、周辺住民らが原告となって進められている。
これまでの判決では過去の被害に対する損害賠償のみを認めている。肝心の米軍機の飛行差し止めなどは、「第三者行為論」によって退けられている。
だがこれは、最高法規の憲法よりも、日米安保体制を上位に置く思考停止した論理である。人権のとりでである司法の役割を自ら放棄した判決と言わざるを得ない。
自衛隊機によって健康被害が生じれば飛行を差し止め、米軍機に対しては差し止めないというのであれば、日本は米国の「属国」というほかない。
(社説)厚木基地訴訟判決 米軍にも「法の支配」貫徹を
琉球新報 2014年5月22日
米軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(神奈川県)の騒音被害をめぐる第4次厚木基地騒音訴訟の判決で、横浜地裁は自衛隊機の夜間飛行差し止めを命じた。全国の基地騒音訴訟で初の差し止め判断であり、一定の評価はできる。
しかし沖縄の立場からすれば、判決を手放しには喜べない。米軍機への飛行差し止め請求については、国の支配が及ばない第三者に対する原告の主張は失当であるとの、いわゆる「第三者行為論」を事実上踏襲し、請求を退けた形だ。
最高裁は1993年、基地騒音訴訟の飛行差し止め請求について初判断を示し、自衛隊機の運用は「防衛庁長官(当時)に委ねられた公権力の行使であり、民事上の請求としては不適法」と判断。米軍機については「第三者行為論」を適用した。その後同種訴訟で20年以上、請求が退けられている。
裁判所が米軍機の飛行差し止めを避けることは、人権の砦(とりで)としての使命と、主権国家の矜持(きょうじ)、権利をかなぐり捨てるようなものだ。
裁判官はそろそろ住民の命と静穏な環境を守るために、思考停止状態から踏み出していいころだ。
一つ参考事例がある。94年2月に第1次嘉手納基地爆音訴訟の判決を下した那覇地裁沖縄支部の裁判長だった瀬木比呂志氏(明治大法科大学院専任教授)が、飛行差し止めを可能とする法理を判決文の草稿に記していたことを昨年、著書で明らかにしたのだ。
瀬木氏はその中で「重大な健康侵害が生じた場合には、差し止めも認められるという一般論を立て、判例に(…略)穴を開けたいと考えていた」と記している。
残念ながら、嘉手納爆音訴訟の直前に出た厚木基地訴訟の最高裁判決が米軍機の騒音差し止め請求を「失当」と判断したため逡巡(しゅんじゅん)し、新たな法理を打ち出せなかった。
しかし今からでも遅くはない。後進の裁判官は今回の横浜地裁判決を機に20年前の“幻の法理”に磨きを掛け、今度こそ風穴を開けるとの気概を見せてほしい。
憲法よりも日米安保条約を、爆音被害に苦しむ住民の人権よりも米軍機の飛行を優先する不条理を放置してはならない。米軍が圧倒的優位に立つ日米地位協定を抜本的に改定し、米軍に日本の国内法を完全に適用して「法の支配」を貫徹できるようにすべきだ。政府、国会に徹底論議を求めたい。