2014年5月30日金曜日

世界的大国の座につくロシア-Paul Craig Roberts

 2月のウクライナの政変は、選挙で選ばれた正当な政府が一部の暴力分子によって転覆させられたクーデターでしたが、アメリカをはじめEUそして日本のマスメディアは、そうした観点からの報道は一切しません。
 それどころか、新たに成立した政権を正当なものと看做す一方で、要請を受けてクリミアの警備に当たっているロシアを犯罪国家だと大合唱しています。
 
 インターネットの記事は、2月の政変が、アメリカが10年来投じ続けてきた50億ドルの資金で組織してきた勢力によって引き起こされたものであることを明らかにしています。またマスメディアは真相を隠しているものの、政権側についている「ネオナチ(新ナチズム者)」による蛮行の詳細を、インターネットの記事が明らかにしています。
 
 ブログ「マスコミに載らない海外記事」は、この間も そうしたことがらを繰り返し報じてきました(同ブログ右欄の「最近の記事」などのバックナンバーをご覧下さい)
 
 著名な米国の評論家であるPaul Craig Robertsが、ウクライナ情勢を総括した記事を公表していますので、久しぶりに紹介します。
 
註. タイトルは「世界的大国の座につくロシア」となっていますが、その意味が 記事を読んでもいまひとつピンときません。Paulはロシアのプーチン氏をオバマ氏よりも数等優る外交センスの持ち主だと評価しているので、いまは目立たないようにしているものの、いずれはウクライナ問題をロシア流に解決して、世界的大国の座につくだろうという意味なのかも知れません。
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世界的大国の座につくロシア
 マスコミに載らない海外記事 2014年5月29日
Paul Craig Roberts 2014年5月24日
本記事は、最初、Strategic Culture Foundationに掲載された 
 
ウクライナにおける出来事に関する欧米のプロパガンダには、二つの目的がある。一つは、民主的に選ばれたウクライナ政権を打倒する上での、アメリカ政府の役割を隠蔽するか、あるいは目をそらせることだ。もう一つは、ロシアを悪魔化して描くことだ。
 
真実は分かっているのだが、欧米のTVや印刷メディアは真実と無縁だ。アメリカ国務次官補ビクトリア・ヌーランドと、駐ウクライナ・アメリカ大使ジェフリー・パイアットとの傍受された電話会話で、二人のクーデター計画者達が、アメリカ政府傀儡の誰を、アメリカ政府の手の者として、新傀儡政権中に据えるか議論している。エストニア外務大臣ウルマス・パエトと、欧州連合外務・安全保障政策上級代表キャサリン・アシュトンとの間の傍受された電話会話は疑惑が暴露され、後に、第三者による記事で、キエフ抗議行動で双方の人々を射殺した狙撃兵は、衝突時に、アメリカ政府が支援していた側からやって来ていたことが確認された。
 
要約すれば、アメリカ政府が2004年の“オレンジ革命”を画策し、革命で、ウクライナが欧米の手中に落ち損ねた際、アメリカ政府は、ビクトリア・ヌーランドによれば、50億ドルを、以後十年間、ウクライナに注ぎ込んだのだ。この金は、アメリカ政府が仕込んだ政治家達や、教育や民主主義や人権擁護推進活動団体として活動する非政府組織(NGO)を装っているが、実態はアメリカ政府の第五列米側スパイに渡ったのだ。
 
ヤヌコビッチ大統領が、費用と便益を勘案して、欧州連合へのウクライナ加盟招請を拒否すると、アメリカ政府は、たっぷり資金を提供してきたNGOを始動させた。ヤヌコビッチに、決断を変えて、EUに参加しろと要求する抗議行動がキエフで勃発した。
 
こうした抗議行動は平和的だったが、間もなく超国家主義者やネオナチが登場し、抗議行動に暴力行為を持ち込んだ。抗議行動の要求は“EU加盟”から“ヤヌコビッチと彼の政権の打倒”へと変わった。
 
政治的混乱が起きた。アメリカ政府は傀儡政権を据えつけ、アメリカ政府は、この政権を腐敗に対抗する民主的勢力として描き出している。ところが、右派セクターなどの超国家主義者やネオナチ連中は、アメリカ政府の傀儡政権メンバーを脅迫し始めた。おそらく、それに応えて、アメリカ政府の傀儡連中が、ウクライナのロシア語話者住民に対する脅迫を始めた。
 
南部と東部ウクライナの地域は、ソ連指導部がウクライナに与えた旧ロシア領土だ。レーニンは、ソ連時代初期に、ロシアの地域を、ウクライナに与え、1954年に、フルシチョフが、クリミアをウクライナに与えた。こうしたロシア地域の住民は、ヒトラーからの赤軍によるウクライナ解放を記念するソ連の戦没者記念碑破壊に動揺し、公式言語としてのロシア語の禁止に動揺し、抗議行動の中で、勃発したウクライナのロシア語話者に対する暴行に動揺した。クリミアは住民投票を行い、ロシアとの再統合を選んだし、ドネツクやルハンスク地域も同じだ。
 
アメリカ政府、EU傀儡諸国、そして欧米マスコミは、クリミア、ドネツクと、ルハンスクでの投票が、真摯で自発的なものであることを否定した。ところが投票をもたらした抗議行動と、投票そのものが、賄賂、威嚇や強制を用いて、ロシア政府が画策したものだと、アメリカ政府は主張している。クリミアはロシアによる侵略併合の一例だと言うのだ。
 
これは真っ赤なうそであり、外国の選挙監視団もそれを知っているが、実質的にアメリカ政府のプロパガンダ省である欧米マスコミでは全く報道されないのだ。かつては誇り高かったBBCさえもが、アメリカ政府の為にウソをつく。
 
アメリカ政府は、“ウクライナ危機”の状況説明を支配するのに成功している。クリミア、ドネツクとルハンスクの団結した人々には、“テロリスト”というレッテルが貼られている。対照的に、ウクライナ・ネオナチは、“民主同盟”の一員に格上げされ、更に驚くべきことに、ネオナチは、欧米マスコミによって、抗議行動が起きている地域における“テロリスト”からの“解放者”として描かれている。余りに多くのウクライナ軍部隊が、平和的な抗議行動参加者に向けて発砲するのを嫌がっているので、ロシア嫌いのネオナチ民兵は、アメリカ政府傀儡政権の軍となる可能性が極めて高い。
 
我々の前にある問題は、ロシア指導者プーチン大統領が、このゲームでどう出るかということだ。ドネツクとルハンスクを、またもやロシアの一部として受け入れることに対する彼の躊躇・ためらいは、欧米マスコミによって、彼が弱く、おじけづいたように見せるのに利用される。ロシア国内で、これは、アメリカ政府が資金提供しているNGOや、ロシアの民族主義者によって、プーチン攻撃に利用されるだろう。
 
プーチンはこれを理解しているが、プーチンは、アメリカ政府が、彼等が悪魔化して描き出した彼の姿はその通りだと、本人に証明させたがっていることを重々承知だ。もしプーチン ドネツクとルハンスクのロシア復帰要求を受け入れれば、アメリカ政府は、ロシアが侵略して、併合したという根拠のない主張を繰り返すだろ。最もありそうなのは、プーチンは弱虫でも、おじけづいてもおらず、様々な理由から、プーチンは、アメリカ政府に、ヨーロッパで推進するプロパガンダの口実を与えたがっていないということだろう。
 
アメリカ政府が対ロシア経済制裁を要求する圧力に対しては、ドイツ国内に障害がある。ドイツ首相メルケルはアメリカ政府の家臣だが、ドイツ外務大臣フランク=ヴァルター・シュタインマイヤーと、ドイツ産業は、経済制裁を快く思ってはいない。ドイツがロシアの天然ガスに依存していることに加えて、何千ものドイツ企業が、ロシア国内で事業を行っており、数十万のドイツ人雇用もロシアとの経済関係に依存している。前ドイツ首相のヘルムート・シュミットと、ゲルハルト・シュレーダーは、メルケルのアメリカ政府追随を非難した。彼女は愚かにも、ドイツの権益を、アメリカ政府の権益の為に犠牲にする立場に、自らをおいてしまったので、メルケルの立場は弱い。
 
典型的な無能な欧米政治家とは違うことを実証しているプーチンは、アメリカ政府のドイツに対する圧力と、本当のドイツ権益間の軋轢に、NATOとEUを崩壊させる好機を見ている。ヤヌコビッチがしたように、もしもドイツが、ドイツ権益は、アメリカ政府の傀儡であり続けることではなく、ロシアと経済関係にあると結論したら、アメリカ政府はドイツ政権を転覆して、より信頼できる傀儡を据えることが出来るだろうか?
 
おそらくドイツはアメリカ政府には、うんざりしているだろう。第二次世界大戦終結から69年たっても、依然アメリカ軍に占領されたままで、ドイツは、教育制度、歴史、外交政策、EUとユーロ体制のメンバー資格を、アメリカ政府に支配されている。もしドイツに多少の国家威信があれば、ごく最近再統一した国民として、彼等には依然、多少は国に対する強い誇りがあり、アメリカ政府によるこうした重荷は到底受け入れ難いだろう。
 
ドイツが一番嫌がっているのは、経済的なり、軍事的なりでの、ロシアとの対立だ。ドイツ副首相ジクマル・ガヤリエルは、“ウクライナで、ロシアとEUどちらにつくか決めねばならないという印象を与えるのは、確かに賢明なことではない”と述べた。
 
もしロシア政府が、アメリカ政府のウクライナ支配、あるいは、分離後に残された部分が、ロシアにとっては受け入れられない戦略的脅威だと判断すれば、ロシア軍は歴史的にロシアの一部だったウクライナを占拠するだろう。もしロシアがウクライナを占領すれば、アメリカ政府が出来ることといえば、核戦争に訴えること以外にない。NATO諸国は、自らの存在が危機に瀕するので、このオプションには同意するまい。
 
プーチンは、いつでも好きな時に、ウクライナを取り戻し、不況と資本家階級による略奪にはまりこんだ衰退しつつある腐敗した実体である西欧に、背を向けることができる。21世紀は東、中国とインドのものだ。ロシアの広大な領土は、あらゆる国々の中でも最も人口の多いこの両国の真上に位置している。
 
ロシアは、東と共に権力の座に就くことが可能だ。ロシアが西欧に受け入れてくれと懇願する理由は皆無だ。アメリカ外交政策の基盤は、ブレジンスキーとウォルフォウィッツ・ドクトリンで、アメリカ政府は、ロシアの勃興を防止しなければならないというものだ。アメリカ政府は、ロシアに対する善意は皆無で、あらゆる機会にロシアの邪魔をするだろう。アメリカ政府がヨーロッパを支配している限り、ロシアがドイツ、イギリスやフランスの様なアメリカ政府の傀儡国家にならない限り、ロシアが西欧の一部として受け入れられる可能性は皆無だ。