生活保護のうち食費や光熱費などの生活扶助について、厚労省は大都市の世帯で金額を5%引き下げるなどとした新たな基準額を公表しました。
それによるといずれも大都市の中学生と小学生の子どもが2人いる夫婦の世帯は今より9000円(-5%)、65歳の単身世帯では今より4000円(-5%)、高校生と中学生の子どもが2人いる母子家庭では今より8000円(-5%)の引き下げとなります。
この削減額は生活に余裕のある人たちには少額に見えるかもしれませんが、5年前に既に6・5%も削減され絶対的に不足している給付額から、今回更に5%もカットされるので困窮を極めるのは明らかです。日弁連はこの削減以前の時点で「既に『健康で文化的な生活』を維持し得ていない」状態にあると述べています。
そもそも厚労省が削減を言い出した根拠は、生活保護基準が第1・10分位層(所得階層を10に分けた下位10%の階層)の消費水準を上回っているということでしたが、その層には生活保護基準以下の生活を余儀なくされている人たちが8割(乃至5割)も占めているので、比較することが無意味、比較の対象にしてはいけないものでした。
これによって削減される総額は160億円ということです。
政府は、役に立たない「イージス・アショア」に2000億円を投じるなど軍備にはいくらでも予算を回すのに、生活困窮者には回せないというわけです。安倍政権の特徴が良く表れています。
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社説 [生活保護引き下げ]弱者切り捨てをやめよ
沖縄タイムス 2017年12月22日
2018年度は、5年ごとに実施される生活保護基準の見直しの年になる。その見直しで、厚生労働省は生活保護費のうち食費や光熱費などに充てる「生活扶助」の支給額を段階的に引き下げ、3年かけて国費を約160億円削減する方針を示した。
年齢や世帯の構成などによっても異なるが、都市部などでは最大5%の減額になる。計算方法によっては一部増額となる場合もあるが、総じて引き下げの方向だ。
13年度の前回改定でも、生活扶助が3年かけて6・5%減額された。今回、厚労省は約14%もの大幅引き下げを目指していた。厚労省の審議会で反対が出て、幅は抑えられたが、連続しての減額であることには変わりない。
生活保護受給世帯は今年9月で約164万世帯、212万人以上おり、世帯数は20年間で約2・7倍に増えた。
受給者の半数が1人暮らしの高齢者のほか、4分の1も傷病・障がい者の世帯である。現行支給額でも、苦しい生活を余儀なくされている人は少なくない。減額は、社会の支えを必要とする人たちにとって、冷たい措置である。社会のセーフティーネットの機能が低下することを強く懸念する。
生活保護は、本当に必要とする人の2割しか受給していないとされる。8割の人が、生活保護基準以下の収入で生活をしていることになる。社会の安全網は十分に行き渡らず、生活扶助も減額する。憲法25条がうたう「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されないのではないか。
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生活扶助引き下げ方針の根拠は、一般の低所得世帯の消費支出に比べ、保護費の支給額が多いとの調査結果が出たことだ。
生活扶助は一般家庭の消費支出とのバランスをみて改定される仕組みとなっている。低所得者の消費が低くなったら、生活扶助も減額することになる。
しかし、厚労省の審議会でも「一般低所得世帯との均衡のみで生活保護基準の水準を捉えていると、絶対的な水準を割ってしまう」などと、算定方法に懸念が示された。さらに、算定方法の見直しを念頭に「これ以上、下回ってはならないという水準の設定について考える必要がある」との意見も出た。
前回の改定時にも審議会は算定方法の見直しを迫った。人の命や暮らしに関わる大事な仕組みについて看過し、同じ指摘を受けるのは厚労省の怠慢である。
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生活保護基準の引き下げは、受給者だけの問題ではない。低い所得で生活をしている人たちの暮らしにも影響を与えかねない。
生活保護基準が下がると、住民税の非課税基準も下がる。これまで無税だった低所得者が課税されたり、医療、介護、教育、福祉などでの低所得者向けの減免が受けられなくなる可能性もある。
これでは、たとえ賃金が多少上がったとしても、可処分所得が減少する世帯が増え、結局、経済の底上げにもつながらない。生活保護基準の引き下げは見直されるべきだ。