2017年12月12日火曜日

生活保護カットは全ての社会保障を低下させる

 安倍政権は2013年に生活保護費を1割カットしたのに続き、5年目の見直しということでまたまた1割をカットしようとしています。最も生活が苦しいと言われる母子家庭への「母子加算」は何と2割カットしようとしています。
 その理由一般の低所得世帯の消費支出より生活保護費の支給額が多いからだということですが、これこそは「貧乏競争をしてください」というに等しい論理です。

 日本では小泉政権時代に始まった、生活保護の申請を役所の窓口で撥ね付けるという「水際作戦」が行われていて、日弁連による 全国一斉生活保護ホットラインには「役所の窓口に行くと『親戚に面倒を見てもらえ』『(借地権付きなのに)家を売れ』と言われ生活保護申請をさせてもらえなかった」などとする相談が寄せられています。
 このようにして政府は、本来受けるべき生活保護を受けられない低所得世帯を大量に発生させておいて、今度は「一般の低所得世帯の消費支出より支給額が多いから減らす」というわけです。

 日本では本来生活保護を受けるべき人たちの2割(=捕捉率)しか受給していません。
 海外での生活保護受給世帯の比率は、ドイツが97%、イギリスは93%、フランスは57%であるのに対して、日本は僅かに16%(205万人)に過ぎません。これは「水際作戦」などの行政の不作為・嫌がらせに拠るもので、日本が豊かであるからではないのは言うまでもありません。

 生活保護は憲法25条「国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」を具体化したものですが、日本には片山さつき氏のように生活保護受給者を目のかたきにする議員たちがいて「不正受給許すまじ」を声高に叫び、それにメディアも同調し「生活保護は不正の温床」・「生活保護は恥」とする空気を作り出しました。不正受給はゼロではないものの、保護費全体に占める割合は053%と諸外国と比べても圧倒的に低く「不正はない」に等しいものであったにもかかわらずにです。
 日本人は権利意識が弱く、幸が不幸か「恥の文化」があるため「生活保護は恥」の方は浸透しました。生活保護の申請者に「親族などから援助を受けられないことを証明するものを持ってこい」と役所が言うというのも、そうした文化を悪用しようとするものです。

 生活保護基準の引き下げは生活保護受給世帯だけの問題ではなく、小・中学校の学用品費や給食費、通学費、修学旅行費などの援助をおこなう就学援助や、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免高校奨学金や大学による奨学金住民税の非課税基準 等々、実に38項目の制度に連動して、それらの基準を低所得者に不利な方向に変えます。その結果低所得者の生活は更に貧しくさせられるので、5年後には更に同じ論理で生活保護費が切り下げられる、という負のスパイラルにはまり込むことになります。

 LITERAと田中龍作ジャーナルの怒りの記事を紹介します。
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生活保護カットで最低賃金が上がらなくなるのに
安倍政権に騙され弱者が弱者バッシングに走る日本社会
LITERA 2017年12月11日
 安倍首相の言う「全世代型の社会保障」とは一体なんだったのか──。8日、厚労省は生活保護費を引き下げる検討に入った。食費や光熱費といった暮らしの根幹にかかわる「生活扶助」を最大1割程度引き下げる方向で、しかも、見直しの必要があると判断した理由は一般の低所得世帯の消費支出より支給額が多い”からなのだという。
 毎日新聞によると、〈「40代夫婦と中学生、小学生」(大都市部)の4人家族〉の場合はカット幅が最大13.7%におよぶ見込みで、〈65歳以上の夫婦の世帯も10%超のカット〉〈母子家庭に対する加算(母子加算)平均2割カットになる可能性〉と伝えている。

 こんな馬鹿な話があるだろうか。一般低所得者世帯の消費支出よりも支給額が多いというのなら、見直すべきは低所得者世帯の消費支出が低い原因のほうであり、それは最低賃金が低すぎることに起因している。そもそも、2007年の法改正よって最低賃金は生活保護基準を上回るようにしなくてはならなくなったが、生活保護基準が引き下げられれば最低賃金も引きあげる必要はなくなってしまう。景気によっては、生活保護基準にあわせて、最低賃金が引き下げられる状況すら起こりかねない。これでは一般低所得者世帯の消費支出はますます下がっていくだけだ。

 このように、生活保護基準の引き下げは生活保護受給世帯だけの問題ではない。
 まず、生活保護基準は、そのほかの制度でも目安に用いられている。たとえば、低所得世帯に対して小・中学校の学用品費や給食費、通学費、修学旅行費などの援助をおこなう就学援助や、国民健康保険の保険料一部負担金の減免などが自治体によっては生活保護基準額に一定の係数をかけて認定基準を決定している。さらに、都道府県による高校奨学金や大学による奨学金の基準も同様だ。
 しかも、生活保護基準が下がれば住民税の非課税基準も下がり、課税対象者は増える。そうなると、非課税か否かで負担額を決めている高額療養費や介護保険の自己負担額、保育料などのさまざまな制度にも影響が出る。
 そして、安倍首相が選挙で掲げた「高等教育の無償化」も、選挙後に無償化の対象を住民税非課税世帯(年収約250万円未満)で検討中だ。それでなくても無償化の対象が狭すぎると批判があがっているのに、生活保護基準の引き下げによってさらに対象者が少なくなる可能性があるのだ。

 このように弱者をターゲットにする一方、安倍首相は「革新的な技術により生産性向上に挑戦する企業」に対する法人税を20%まで引き下げる方針を打ち出した。企業への優遇措置によって税収はさらに落ち込むが、その分、貧困層に大打撃を与える消費税を増税し、社会保障費も削ろうというのである。

ターニングポイントは自民党が仕掛けた河本準一バッシング
 だが、生活保護基準の引き下げは「全世代」の生活に直結する問題だというのに、「生活保護受給者のほうがいい暮らしをしているのはおかしいから賛成」などと歓迎する声があがってしまうのが、いまの日本だ。現況をつくり出したのは、言うまでもなく自民党による「不正受給許すまじ」という「生活保護バッシング」にある。
 あらためて振り返れば、「聖域なき構造改革」によって所得格差を拡大させ貧困を増大させた小泉純一郎首相は、生活保護費を削減。これと同時に全国で「水際作戦」が多発し、孤立死や自殺に追い込まれたケースが頻発した。これは「行政による殺人」と言うべきもので、さらには生活保護を受けられずに餓死するという事件が立て続けに起こった。

 にもかかわらず、2007年の第一次安倍政権では生活保護基準の見直しを打ち出し、歩調を合わせるようにメディアでも生活保護の不正受給に対するバッシングが徐々に増えはじめた。今年1月に問題が発覚した神奈川県小田原市で「保護なめんな」とプリントされたおぞましいジャンパーがつくられたのは、ちょうどこのころだ。
 そして、生活保護バッシングの決定打となったのが、2012年4月にもちあがった次長課長・河本準一の親族が生活保護を受けていた問題だった。河本のケースは不正受給など違法にあたるものではなかったが(後の法改正で扶養義務が強化されることになる)、これに自民党の片山さつき議員や世耕弘成議員が噛みつき、メディアに登場しては河本の大バッシングを展開。同年1月には、札幌市で40代の姉妹が生活保護の相談に出向きながらも申請に至らず死亡するという痛ましい事件が起こっていたが、生活保護の重要性が謳われることなく片山の主張と同じようにメディアも「不正受給許すまじ」とバッシングに加担。「生活保護は恥」などという空気を社会につくり出していったのだ。

 こうした生活保護バッシングの波に乗り、同年12月の衆院選で自民党・安倍晋三総裁は「生活保護の給付水準を10%引き下げる」という公約を掲げて政権に復帰。生活保護費の削減を断行し、13年には生活保護の申請厳格化という「水際作戦」の強化ともいえる生活保護法改正と生活困窮者自立支援法を成立させてしまったのである。

ほとんどいない不正受給、一方、先進国で最も少ない生活保護受給者
 小泉首相から安倍首相が引き継ぎ、いまなお「アベノミクス」と称してつづける新自由主義政策は、貧困を広げる一方で社会保障を「自己責任」として切り捨てていくものだ。「福祉や保障に頼るな、家族で助け合って生活しろ」というその考え方は、公的責任を逃れ、個人にすべての責任を押しつける。そうしたなかで生活保護バッシングが吹き荒れたことは、偶然の一致などではない。煽動したのが自民党の政治家だったように、起こるべくして起こったものだったのだ。
 だからこそ確認しなくてはならないのは、バッシングの根拠としてもち出される不正受給の問題だ。自治体による調査強化によって不正受給の件数と金額が過去最多となった2012年度でも、保護費全体で不正分が占める割合は0.53%。これは、諸外国と比べても圧倒的に低い数字、というか、ほとんど「不正がない」に等しい

 ようするに、この国の政府や政治家たちは、生活保護基準を引き下げるために、100人に1人もいない不正をクローズアップし、あたかも生活保護受給者の多くが不正を働いているかのようなバッシングを繰り広げてきたのだ。
 日本は不正横行どころか、生活保護を受けている人が圧倒的に少ない。2010年当時の統計だが、ドイツの生活保護利用者は793万5000人で全人口の9.7%、イギリスは574万人で9.3%、フランスは372万人で5.7%。これに対して、日本は205万人で1.6%。ドイツの6分の1ちょっとにすぎない。生活保護支給額の対GDP比率となると、もっと少ない。アメリカが3.7%、イギリスが4.1%、ドイツ、フランスが2.0%なのに、日本の生活保護支給額はGDPに対してたったの0.3%なのだ。
 これは、日本が豊かで、貧困者が少ないからではない。生活保護を受けられる貧困状態にあるのに、ほとんどの人が生活保護を受けずに我慢しているからだ。実際、日本で生活保護を受ける資格がある人のうち、受給している人の割合を指す「捕捉率」は2割程度だと言われている。

 こうした背景には、日本社会を覆う「生活保護は税金泥棒」という倒錯した倫理観がある。生活保護は憲法25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に基づく当たり前の制度であり、いまの過酷な競争社会では誰もがそこに転落する可能性があるのに、弱者をさげすみ、その当たり前の制度を使うのに後ろめたさを強いているのが日本社会の現実なのだ。
 そして、政府はこうした社会の空気に拍車をかけることで、さらに生活保護基準を引き下げ、生活保護受給者のみならず、国民全体の暮らしをさらに悪化させようとしている。
 すでに貧困と格差の拡大によって社会の底は割れているというのに、相変わらず富裕層しか見ていない安倍首相。非正規が増加して不安定雇用は改善されず、最低賃金も上がらず、その上、セーフティネットを破壊しつづけていけば、国民の生活への不安は増し、消費はどんどん冷え込んでいく。──このような「負のスパイラル」を、即刻断ち切らなくてはならない。 (編集部)


低所得者をも生活困難にする 厚労省が絶望的な生活保護政策
田中龍作ジャーナル 2017年12月11日
 “画期的な” 政策を間もなく国が打ち出す。低所得者が生活困難になる構図を作り出すのだ。
 生活保護のうち食費や光熱費などに支給される「生活扶助費」が、来年度からさらに削減されそうだ。
 厚労省は今月中にも生活扶助費の削減が妥当とする報告書を出す。安倍内閣はそれを年明けに始まる通常国会に「政府予算案」として提出する。
 出せば通ることは間違いないので、生活扶助費は来年4月から最大で10%削減されることになる。
 生活保護の切り下げは、低所得者の生活をより苦しくさせる。生活扶助費は38以上もの制度と連動するからだ。「最低賃金」「住民税の非課税」「医療費」「就学支援」などだ。
 生活扶助費の支給額が削減されれば「最低賃金」の基準は下がり、「住民税の非課税」基準なども下がる。低所得者の生活は苦しくなるのだ。絶望的である。

「生活保護受給者の収入が一部の低所得者の収入を上回ったため」…厚労省が生活扶助費の引下げに用いる根拠は完全にマヤカシである。
 算定データが身勝手でいい加減だ。『生活保護基準部会』が抽出した低所得世帯には、何らかの理由で生活保護を受給できなかったり、追い返されたりした世帯が含まれているのだ。
 支出、収入ともに生活保護受給世帯より低くなる所から算出しているのである。
 こうして低所得者を貧しくしておいて、「生活扶助の金額が一般の低所得世帯の生活費を上回った」とうそぶく。トリックで生活扶助費を減らすのである。国は負のスパイラルを作り出すのに成功した。

 生活扶助は前回(2013年)も最大で10%削減されており、今回と合わせて約20%削減されることになる。皆さん、月収が2割減ったら、あなたの家庭の生活はどうなりますか?
 働いても働いても生きてゆけない奴隷のような層が、確たる割合で作られ、その層は年々厚みを増してゆくことになる。
〜終わり~