贈賄側の虚偽証言と有罪ありきの二審判決により有罪が事実上確定した前美濃加茂市長が、18日、最高裁に異議申し立てをしました
岐阜県美濃加茂市の藤井浩人・前市長は2013年6月、全国最年少の28歳で市長に当選しましたが、翌年6月に事前収賄の容疑で逮捕され、一審の名古屋地裁は2015年3月に無罪の判決を下しましたが、検察が控訴し、名古屋高裁は2016年11月に逆転有罪の判決(執行猶予付き)を下しました。
弁護側は即日上告しましたが、最高裁はこの12月13日に上告棄却の決定を下したため、藤井氏は市長を辞職しました。
藤井前市長が逮捕されたのは、別件の3億7800万円分の融資詐欺事件で取り調べを受けていた業者(中林受刑者)が、以前に市議であった藤井氏に30万円を2回に分けて渡したと述べたためで、そうであれば「事前収賄」に当たるという理由からですが、藤井氏は一貫して金銭の受領を否定しています。
弁護人の郷原信郎氏は、業者が融資詐欺について3億7800万円ではなく、2100万円分しか起訴されなかったのは、彼が検察に迎合して藤井氏の収賄事件を仕立て上げた見返りに、起訴内容を大いに軽減されたものと見ました。
業者は当初、藤井氏とレストランで2人きりで会っている際にカネを渡したと述べましたが、後にレストランのレシートからその面会の場に実は第三者が立ち会っていたことが分かりました。その立会人は面会中に一度も席を離れず、金銭の受け渡しは絶対に見ていないことを繰り返し断言しました。
それで言い分が虚偽であることになった業者側は、新たに知人の2人を証人に立て贈賄の証言をさせましたが、法廷における彼らの証言の態度はいかにも不自然で、信用できないという心証を与えるものでした。
そうした場面を法廷で見分した一審の3人の判事たちは「無罪」の判決を下しました。
ところが控訴審の名古屋高裁では、ほとんど証人尋問をせず、被告人質問も全くなく、すべて書類審査で審理が進められました。
カネを渡した事実はなかったと断言した立会人の証言については、検察は、「自分は一度も席を離れていないし、金銭の受け渡しも見ていないので、もし金銭の受け渡しがあったというのなら、自分が席を離れていた時しかあり得ない」といった趣旨の証言調書に無理やり署名をさせたものを高裁に提出していました。
また業者の知人2人の証言についても、高裁は証人尋問の記録だけで判断した結果、「中林(業者)証言の裏付けになっている」と認定して、逆転有罪の判決を下しました。
要するに一審が証人尋問や被告人質問などをして下した無罪判決を、二審は検察の巧妙な書きぶりの主張を信じることによって、ひっくり返したわけです。
そして最高裁は、上告棄却決定の理由を次のように述べました。
「弁護人郷原信郎ほかの上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない」
要するに最高裁で審理する必要性が認められないというもので、いわゆる門前払いの「三行半の例文」でしたが、郷原信郎弁護士は、上告趣意書では「判例違反」の主張を2つと、「重大な事実誤認」の職権破棄を求める主張を行っているが、「判例違反」と「重大な事実誤認」で十分に破棄が期待できる事案なので、敢えて「憲法違反」の主張はしなかったということです。
それなのにわずか3行余りの文書の中にそんな大きな誤りを書くとは、本当に上告趣意書や関係文書に目を通したのか疑わしい、大いに異議申し立てに値すると怒りを見せています。
田中龍作ジャーナルの記事を紹介します。
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冤罪の前美濃加茂市長 最高裁に異議申し立て
田中龍作ジャーナル 2017年12月18日
贈賄側の虚偽証言と有罪ありきの二審判決により有罪が事実上確定した前美濃加茂市長が、きょう、最高裁に異議申し立てをした。
藤井浩人・前美濃加茂市長は浄水設備の導入をめぐり業者に便宜を図った見返りに現金30万円を受取ったとして収賄の罪に問われた。
一審は無罪となったが、二審の名古屋高裁は一度も被告人質問を行わない(藤井前市長に発言の機会を与えない)まま逆転有罪判決を言い渡した。問答無用の有罪判決は「本件は冤罪です」と言っているようなものだ。
11日、最高裁は藤井前市長の上告を棄却、有罪が事実上確定した。最高裁が有罪ありきの二審判決を支持するこの国は、すでに法治国家ではない。
最高裁への異議申し立ての後、藤井前市長と郷原信郎弁護士は都内で記者会見を開いた。
郷原弁護士は「最高裁は上告趣意書を読んでいないのではないか。最初から上告を棄却すると決めてかかっていたのではないか」と司法への不信感を露わにした。
検察と名古屋高裁が有罪の決め手としたのは贈賄側の浄水プラント業者の虚偽証言だった。
別の巨額詐欺事件で罪を問われていたプラント業者は、詐欺の認定金額を少なくしてもらおうとする意図があったものと見られている。このため検察と取引し「ワイロを贈った」とウソの証言をした、との見方が支配的だ。
一審は業者の証言を虚偽であるとした。二審は虚偽ではないとした。
刑訴法の改正により、日本でも2018年までに司法取引が施行されることになっている。
郷原弁護士は「司法取引が実施されればもっと酷いことになる」と警鐘を鳴らした。
詐欺の罪で服役中のプラント業者が刑期を終えて出所した際、真実を語れば、再審開始の道も開ける。
〜終わり~