日刊ゲンダイに「日本経済一歩先の真相」を週1で連載している高橋乗宣氏が、安倍政権の「人づくり革命」と「生産性革命」を、思いつきだけの人気取り政策だとして、そこにひそめられている国家主義の危険性を指摘しました。
人づくり革命の柱である「教育の無償化」については、国が教育のコストを肩代わりする代償に教育現場への国家の介入が危惧されるとしています。安倍首相がこれまで一貫して取り組んできた「教育の反動化」を見れば湧くのが当然の懸念です。安倍政権はその後なんと大学の「効率化!?」に取り組みましたが、それによって日本では今後ノーベル賞級の学者は育たないだろうと言われています。
公約通りに教育の無償化は進めるにしても、安倍流「国家主義」で、戦前回帰・軍国教育復活への道を開くことは何としても避けなければなりません。
また賃上げや設備投資に積極的な企業の法人税を引き下げる「生産性革命」では、「国内の設備投資額が減価償却の9割以上」を法人減税の要件にするようですが、今やAI(人工知能)の時代で、企業は仕事をAIに置き換えるなどの「外から見えない投資」を増やしていて、いわゆる設備投資は減っているということです。
従って昔ながらの投資奨励は的外れであるし、そもそも国が企業に圧力を加えるさまは戦前・戦中の軍部による統制経済を想起させるものです。
この2つの「革命」にも、安倍流の反動性と国家主義が色濃く滲み出ているということです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日本経済一歩先の真相
安倍政権の2つの「革命」からにじみ出る色濃い国家主義
高橋乗宣 日刊ゲンダイ 2017年12月15日
安倍政権が2兆円規模の「政策パッケージ」を閣議決定した。安倍首相が唐突にブチ上げた「人づくり革命」と「生産性革命」を実現させると息巻いているが、こんな思いつきだけの人気取り政策を、よくもまあ、やれるものである。
人づくり革命の柱は「教育の無償化」だ。幼児教育・保育のほか高等教育も対象で、低所得世帯は国立大の授業料と入学金を免除し、私立大でも補助する。公明党が求めた私立高校授業料の無償化も所得制限を設けて実施する。
無償化といえば聞こえはいいが、財源は国の税金だ。子供を抱える世帯に代わって、国が教育の基本コストを肩代わりするわけだが、危惧されるのは、教育現場への国家の介入だ。
無償化によって国の負担が増えるほど口を挟んでくるに違いない。日本の教育現場は、学校ごとに特色ある教育方針を掲げている。特に私立はその傾向が顕著だが、国の介入が強まれば各校の特色は失われていく。最悪の場合、国の教育方針に従わなければ「無償化」の対象にならないということも想定される。
革命とは根本から変えることだ。「人づくり革命」を掲げる安倍首相は、戦後に花開いた自由な民主教育をひっくり返したいのではないか。いきなりは無理にしても、教育無償化は戦前回帰・軍国教育復活への道を開くことになりかねない。
この国の喫緊の課題は、教育無償化よりも待機児童対策のはず。子を持つ親は希望すれば誰でも入れるように、保育所の整備を求めているのだ。戦後教育の転換ということ以外には、安倍政権が教育無償化を急ぐ理由が分からない。
「生産性革命」も実に古びた発想だ。賃上げや設備投資に積極的な企業の法人税を引き下げるというのだが、今やAI(人工知能)の時代なのである。各企業とも仕事をAIに置き換えるなど外から見えない投資を増やし、かつての外から見える投資は減っている。
AI化という少ない投資で企業が競争力を高める中、「国内の設備投資額が減価償却の9割以上」を法人減税の要件に加え、昔ながらの投資奨励をするとはバカげている。今の産業技術の実態にそぐわない愚策である。
そもそも賃上げや設備投資など民間企業の経営判断に、時の政権がくちばしを入れるなんて、もってのほかだ。戦後の日本経済は政府が過度な介入をせず市場経済に任せたから、発展と繁栄をもたらしたのである。
国が企業に圧力を加えるさまは、戦前・戦中の軍部による統制経済を想起させる。「生産性革命」にも、安倍政権の国家主義的な色合いが色濃くにじみ出ている。こんな政権に「忖度」している役人の気が知れない。
高橋乗宣 エコノミスト
1940年広島生まれ。崇徳学園高から東京教育大(現・筑波大)に進学。1970年、同大大学院博士課程を修了。大学講師を経て、73年に三菱総合研究所に入社。主席研究員、参与、研究理事など景気予測チームの主査を長く務める。バブル崩壊後の長期デフレを的確に言い当てるなど、景気予測の実績は多数。三菱総研顧問となった2000年より明海大学大学院教授。01年から崇徳学園理事長。05年から10年まで相愛大学学長を務めた。