第二次世界大戦後、「人為的に」イスラエルが建国され、それに対応してパレスチナ自治政府が生み出されました。そうした複雑な事情から、米国を含めて国際社会は約70年の間、「エルサレムの最終的な帰属はイスラエルとパレスチナ双方の交渉で決められるべきだ」との立場を取ってきました。
それを突然トランプ大統領が、「エルサレムをイスラエルの首都と認定する」と宣言したのですから、国際社会もパレスチナも容認する筈がありません。
トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題で、国連総会は21日、緊急特別会合を開き、認定の撤回求める決議案を、賛成多数で採択しました。
賛成128カ国、反対9か国、棄権35か国、欠席21か国でした。
常日ごろ米国とは連携している日本も、今回は珍しく賛成に回りました。
米側からは「反対してほしい。少なくとも棄権してほしい」という打診があったそうですが、安保理メンバーの動向を探ると米国を除く理事国すべてが賛成に回ることが分かり、「日本だけが異なる行動を取れば、中東の信頼を失いかねない」と判断したということです。首都認定を巡っては米国内にも意見対立があったという背景も、その決断を後押ししたようです。
いずれにしてもこの採決では日本は大恥をかかないで済みました。
一方米国連代表部は結果を受けた声明で「計65か国が米国への非難を拒み、決議案を支持しなかった」と強調しました。
BBCニュースを紹介します。
追記)
反対したのは米国、イスラエル、グアテマラ、ホンジュラス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、トーゴ
棄権したのはオーストラリア、カナダ、メキシコ、アルゼンチン、コロンビア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、フィリピン、ルワンダ、ウガンダ、南スーダンなど。
欠席したのはウクライナ、ニュージーランドなどでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
国連総会、米のエルサレム首都認定に反対する決議採択
BBCニュース 2017年12月22日
ドナルド・トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題で、国連総会の緊急特別会合は21日、事実上、認定の撤回を米国に求める決議案を圧倒的多数で採択した。
決議案は、エルサレムの地位をめぐるいかなる決定も「無効」で、撤回すべきだと述べている。
決議案には賛成が128、反対が9、棄権が35だった。決議に法的拘束力はない。
採決に先立ち、トランプ大統領は決議案に賛成する国への支援を停止すると警告していた。
加盟国はどう投票したか?
反対した9カ国は、米国、イスラエル、グアテマラ、ホンジュラス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、トーゴ
棄権した35カ国の中には、カナダやメキシコも含まれる
賛成したのは、米国以外の常任理事国(中国、フランス、ロシア、英国)のほか、米国と緊密な同盟関係にあるイスラム諸国も含まれる
21カ国が採決に不参加
エルサレムの地位は、なぜそこまで問題なのか
エルサレムの帰属問題は、イスラエルのパレスチナとの紛争の焦点となっている。
イスラエルは1967年、ヨルダンの支配下にあった東エルサレムを占領し、エルサレム全体を不可分の首都とみなしている。
パレスチナ人は東エルサレムが将来の国家の首都にする考えで、最終的な地位は和平協議の中で決められることになっていると主張している。
イスラエルのエルサレムに対する主権は国際的に認められておらず、全ての国の大使館はテルアビブに置かれている。しかし、トランプ大統領は米国務省に大使館を移転するよう指令を出している。
国連総会(193カ国)は、今月始め数十年来の米国の政策を覆したトランプ氏の決定を非難するアラブ諸国やイスラム諸国の要請を受け、21日に異例の緊急特別総会を開いた。
米国が、安保理の決議案に拒否権を行使し否決した後に、パレスチナが総会開催を呼びかけた。安保理決議案は、21日に採択された決議と同様の内容。
トルコとイエメンが提出した決議案は、米国に言及していないものの「エルサレムの地位に関する先ごろの決定に深い遺憾の意」を表明している。
決議案はさらに、「聖なる都市エルサレムの性質、地位、人口構成の変更を主張するいかなる決定および行動も、法的効力を持たず無効であり、安全保障理事会の関連決議に従い、撤回されなければならない」としている。
イスラエルとパレスチナの言い分
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、国連を「うそ議会」と呼び、投票結果を拒否すると約束した。
ネタニヤフ首相はその後声明の中で、「イスラエルは、はっきりとエルサレム支持の立場を取っているトランプ大統領に感謝の意を表すると共に、真実およびイスラエルに即して票を投じた各国に感謝の意を表する」と述べた。
パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長の報道官は、投票結果を「パレスチナの勝利」と表現した。
米国の見方
投票に先立ち演説した米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、米国の決定は最終的な地位の問題に対して早まった決断を下したものではなく、当事者同士が合意するなら2国家共存構想も除外しないと述べた。
「主権国家としての我々の権利を行使するまさにその行為に対し、国連総会で攻撃の対象として標的にされたこの日を、米国は記憶にとどめるだろう」
「米国は大使館をエルサレムに置く。それが米国の国民が我々に求めていることであり、それは正しい行為なのだ。国連の投票結果で変わることはない」
トランプ氏は20日、決議に賛成票を投じた国の財政援助を停止する可能性があると警告した。
「こうした国は何億ドル、何十億ドルももらっておきながら、我が国に反対票を投じている」と述べ、「反対させておけばいい。かなりお金を節約できる。我々は気にしない」と付け加えた。
<解説>トランプ氏は報復するか
セバスチャン・アッシャー
BBCアラブ問題アナリスト
国連総会の決議は、避けられなかった。米国は、大多数の国が賛成票を投じると分かっていた。しかし予想よりも棄権や反対票は若干多かったかもしれず、トランプ政権にはいくらかの慰めになるだろう。
反対票を投じた中には、意外な国もあった。例えば、ミクロネシア連邦、ナウル、トーゴなどは、これらの国を支援している米国の利益に反する票に投じたところで、何も得るものはない。
カナダやメキシコ、ポーランドなどの国々は米国との関係悪化を避けようと、棄権票を投じた。
フランスやドイツ、英国などの強力な同盟国による賛成票は、トランプ氏への侮辱だとみられるかもしれない。しかしこれらの国は全て、国連の現在の方針を踏襲して、投票したにすぎないと主張するだろう。これらの国にとってはさしあたって、方針転換する理由はなかった。
だが採決の真価が試されるのは、トランプ政権が警告通り、決議を支持した一部の国々に対する支援を再検討するかどうかだ。もう一つ注目すべきは、決議採択を機に、米国がエルサレムの首都認定を発表して以来続いている抗議行動が、さらに勢いづくかどうかだ。