これまで国会の解散は内閣総理大臣の専権事項といわれてきましたが、それは単に憲法7条を歪曲解釈したもので根拠のあるものではありません。
先の安倍首相による衆院解散があまりにも独善的であったことから、首相による勝手気ままな解散に歯止めをつける必要性が叫ばれ出しました。
新進の憲法学者である木村草太教授は、現代ビジネスに寄稿した論文「衆院解散、やっぱり無視できない『憲法上の疑義』」の中で、「解散権濫用を防ぐ『3つの対応策』」を提起しています。(⇒ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52964)
日刊ゲンダイに「永田町の裏を読む」シリーズを連載している高野孟氏が、10日付毎日新聞が「自民内『解散権制約を』/改憲論議で浮上」という記事を掲載したことに驚き、
「『解散権制約』議論は自民党内に広がる“安倍包囲網”か」とする記事を発表しました。
自民党のベテラン秘書によると、解散権制約の動きは「来年9月の『安倍3選』阻止の包囲網の一環」であり、「自民党にとって、もはや安倍は迷惑な存在となりつつある」からだということです。安倍包囲網は緩慢ながら動き始めたということです。
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永田町の裏を読む
「解散権制約」議論は自民党内に広がる“安倍包囲網”か
日刊ゲンダイ 2017年12月14日
10日付毎日新聞第2面の「自民内『解散権制約を』/改憲論議で浮上」という記事にはいささか驚いた。周知のように、憲法には総理大臣に「解散権」があるとは一言も書いていない。第69条で内閣が不信任とされた場合に10日以内に衆院を解散するか総辞職するかしなければならないと規定されていて、この場合の解散は内閣の義務であって権利ではない。
ところが他方、第7条で天皇が「内閣の助言と承認により」行う「国事行為」を列記した中に「衆議院を解散すること」と書かれているために、これを歪曲解釈して、内閣の長たる総理大臣が解散したいと思えばいつでも、そのように「助言と承認」を天皇に与えて解散することができるという前例を、第3次吉田内閣が1952年8月の「抜き打ち解散」の時に編み出した。
以来、首相は好きな時に解散ができるということで「伝家の宝刀」だとか「総理の専権事項」だとかいわれてきた。解散権の制約とは、この7条の歪曲による勝手な解散をできないようにするということである。
自民党内にいったい何が起きているのか、さっそくベテラン秘書氏に聞いてみた。
「いま自民党内にジワジワと広がりつつある安倍晋三首相への不満というか、もっと言えば、来年9月の『安倍3選』阻止の包囲網の一環ですよ」と彼は言う。先の解散・総選挙は、「モリ・カケ疑惑」の追及から逃れたいという安倍夫妻の自己都合によるもので、結果的には民進・希望のドタバタのおかげで与党3分の2議席を再確保できたとはいうものの、それがなければ、過半数は切らなくとも、多数の同志が次々に討ち死にするのは必然だった。
自民党にとって、もはや安倍は迷惑な存在となりつつあり、解散権問題も「もう彼奴に勝手な真似はさせない」という意味なのだという。しかも、総選挙をやったのに人事もいじらないというのだから、不満が鬱積するのは当然といえるだろう。
しかし、それが本当に「安倍包囲網」になっていくのか。秘書氏はこんなヒントをくれた。
「まだはっきり形になって見えていないが、こういう『空気』というのは一度動きだすと止まらないから怖いんだ。石破や岸田はもちろんのこと、河野太郎、小泉進次郎、参院幹事長の吉田博美、竹下亘、福田達夫らキーパーソンたちの選挙後の言動を注意して見ると、主流だった人が半主流・非主流へ、非主流だった人が反主流へ、ジリッ、ジリッとお尻をずらし始めたことが分かると思いますよ」と。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。