イスラエルが実効支配している東エルサレムはユダヤ教・イスラム教・キリスト教の聖地で、パレスチナも東エルサレムを首都とする国家樹立を目標にしています。
そもそもイスラエル国は、第二次世界大戦後そこに住みついていたアラブ人を強制的に立ち退かせて設立されました。その後イスラエルは、第1次~3次中東戦争を経て西エルサレムと東エルサレムを獲得し、エルサレム全域を「永久不可分の首都」として実効支配して来ました。
そうした事情から、日本政府も含めて国際社会は、イスラエルとパレスチナ双方の交渉でエルサレムの最終的な帰属が決められるべきだとの立場を取ってきました。
米国もエルサレムには大使館を置かず(テルアビブに置き)、西エルサレムと東エルサレムに領事館とその別館を置く等の配慮をしてきました。
それを突然トランプ大統領が70年来の米国の政策を転換し、エルサレムをイスラエルの首都と認定したのですから大問題になるのは当然です。大統領上級顧問であるトランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏の意向が働いているという見方もありますが、そんな私的な事情で云々できるようなものではあり得ません。
ロイター通信は、ある評論家の「トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことは、任期中で最も不必要な決断であったことはほぼ間違いない。この影響は、トランプ氏がホワイトハウスを去った後も長期間にわたって尾を引くことになるだろう」とする見解を掲載しています。
中東諸国の指導者は一斉に批判の声を上げ、英・仏・独の首脳をはじめ世界中の指導者も批判しています。
アラブ連盟(21カ国・1機構)は9日、カイロで緊急の外相級会合を開き、トランプ大統領の決定は「国際法と国連安全保障理事会決議に違反している」などとして、決定を撤回するように求めるとともに、安保理に対し、米国の決定を非難する決議採択を要求することで一致しました。
そんな中でひたすら沈黙を決め込んでいるのが日本の安倍首相です。それ自体はトランプ氏とのいびつな従属関係を見れば容易に想像できたことですが、安保理議長国の日本の首相がそんな態度で通せる筈がありません。アラブ諸国から総スカンを食らうのは時間の問題です。
国連は1980年の安保理決議で、「エルサレムの状況を変えるすべての行政的・法的措置は無効」「国連加盟国はエルサレムに大使館等外交使節を設置してはならない」との内容を採択しています。
安倍首相には安保理議長国の首相として振る舞う以外の道はありません。
日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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エルサレム首都認定に沈黙 安倍首相はなぜ抗議しないのか
日刊ゲンダイ 2017年12月9日
トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの「首都」と認定し、世界中に衝撃が走っている問題。「深刻な懸念」(EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表)、「決定は遺憾」(仏のマクロン大統領)、「支持しない」(独のメルケル首相)、「同意できない」(英のメイ首相)など、首脳らが次々と批判の声を上げている中、ひたすらダンマリを決め込んでいるのが日本の安倍首相だ。
安倍首相は北朝鮮が11月29日に新型ICBMを発射した際、すぐに抗議声明を発表。〈国連安保理決議の完全な履行等を全ての国連加盟国に強く働きかけてまいります〉〈今月(12月)、我が国は安保理議長国に就任し、15日には北朝鮮問題に関する安保理閣僚級会合を主催します。このような行動を通じて、国際社会の取り組みを主導するとともに、我が国独自の措置の実施を徹底してまいります〉などと強気の姿勢を示していた。ところが今回はどうだ
国連は、1980年の安保理決議(478)で、〈エルサレムの状況を変えるすべての行政的・法的措置は無効〉〈全ての国連加盟国に対し、エルサレムに大使館等外交使節を設置してはならない〉との内容を採択している。
言うまでもなく、トランプの首都認定は明確な安保理決議違反だ。北のミサイル発射の時と同様、すぐに「国連安保理決議の完全な履行等を全ての国連加盟国に強く働きかけてまいります」「国際社会の取り組みを主導するとともに、米国に対して我が国独自の措置の実施を徹底してまいります」と発信するべきだ。しかも、日本は安保理議長国ではないか。
確か安倍首相の安全保障の基本理念は〈国際協調主義に基づく積極的平和主義〉だったはずだが、米国だけは例外ということなのか。デタラメ過ぎるのもホドがあるだろう。
米国と一緒に日本がアラブ諸国から総スカンを食らうのは時間の問題。安倍首相が首相である限り、戦争に引きずり込まれる可能性は高まるばかりだ。