2020年10月26日月曜日

どこよりも早い《菅義偉政権の通信簿》(後藤謙次氏)

  テレ朝の「報ステ」のコメンテータとTBSのTHE NEWS」のアンカーを、今年の3月に降板した政治ジャーナリスト後藤謙次白鷗大名誉教授が、発足1か月余りの菅首相について「どこよりも早い《菅義偉政権の通信簿》」とする記事を文春オンラインに載せました。後藤氏が降板したのも安倍政権の圧力によるのではと疑われるところですが、本人は70歳になって区切りを付けたと説明しています。

 菅政権が誕生してから1カ月あまり、高い支持率を獲得する「ロケットスタート」に成功したものの、すぐに日本学術会議の会員任命拒否という大問題を起こました。後藤氏はこれは首相に就いてまだ心の準備理論武装しないままに6人の任命を拒否する選択をしたもので、撤退する道を選ぶ方法もあったのに、官房長官時代に何か内閣に問題が浮上しても常に「問題ありません」「適切だ」と繰り返し決して非を認めなかった「攻め」一辺倒の姿勢をそのまま延長させたものであるとしました。しかし守りに入らなければいけない時にどこまでそれが有効かは未知数であると述べています。何よりも菅氏には任命拒否の意味合いすらも理解できていない点が深刻です。

 そして、26日から開かれる臨時国会は首相の最初の試金石で、国会の予算委員会では質問が丁々発止と飛んでくるので、答弁能力から知識量、政策理解度、果ては政治家・菅義偉の人間性まで、すべてが試されると述べ、テレビ番組でいえば、午前9時から17時まで生放送で出演しているMCのような存在になるので、そこでどれだけしっかりした受け答えができるかが、菅政権を測る本当の意味での物差しになるとしています。
 菅政権の命運は、この1年足らずに限定されている解散の時期をいつにするのか、解散権をどう使うか(使えるか)に掛かっているとしています。そして自民党の歴史には必ず「首相経験者の現首相に対する嫉妬」が顔を出すと述べて、早くも安倍前首相に再々登板を期待する声が党内に出始めているということに触れ、そこにも一定の字数を割いています。安倍政権亜流の菅政権の後にまた第3次安倍政権とは  絶句です。そんな冗談だけはやめて欲しいものです。
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「まだ官房長官を引きずっている」発足1カ月、どこよりも早い《菅義偉政権の通信簿》#1)
                     後藤 謙次 文春オンライン 2020/10/23
 9月に発足した菅義偉内閣は「国民のために働く内閣」というキャッチフレーズを掲げ、デジタル庁の創設、携帯電話料金の値下げや不妊治療への保険適用など矢継ぎ早に政策を打ち出し、発足当初の支持率は大手各紙とも60%以上を記録、読売新聞の調査では74%など好スタートを切った。しかし、日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した問題が表面化すると、発足からわずか1カ月で、各紙とも支持率が低下した。

スピード感が仇となった日本学術会議問題
 10月26日には臨時国会が召集され、菅首相が政権発足後、初めての所信表明演説を行う。安倍晋三前首相の突然の退陣で誕生した菅内閣。この1カ月で見えてきた「本質」とは何なのか。政治ジャーナリストで白鷗大学名誉教授の後藤謙次氏に聞いた。
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 菅義偉政権が誕生してから1カ月の間に、この政権の「明」と「暗」がはっきりしたと思います。菅首相は発足当初、矢継ぎ早に政策を打ち出し、高い支持率を獲得する「ロケットスタート」に成功しました。これは菅政権が持つ政策実現のための「スピード感」の速さという「明」の部分が好意的に受け取られた結果です。しかし、その後、日本学術会議の会員任命拒否の問題が起きた際には、そのスピード感が仇となり、もっと落ち着いて問題に取り組んだ方がよい、いかにも対応が拙速だといった国民世論の批判がおき、支持率の下落を招いてしまいました
 菅政権の特徴を一言でいえば、それは「境目がない」ということです。政権のナンバー2である官房長官として、それまで安倍政権を支えてきたのが、安倍前首相の突然の退陣表明によって、一気にナンバー1になった。しっかり準備をして、首相という地位についたわけではありません。ですから、菅首相が当初から掲げている「安倍政治の継承」というのも、何が前政権からの「継承」で、何が菅首相の「独自カラー」を表したものなのか、今のところはっきりと見えづらい部分があります。

絶えず「攻撃型」の政治を貫くのが菅首相のスタイル
 例えば、菅首相は10月17日、靖国神社の秋の例大祭で「真榊(まさかき)」を奉納しました。菅首相のこれまでの政治活動において「靖国」の問題が出てきたことはありませんから、ずいぶん意外に思えました。しかし、これは、自分は「安倍政権を継承しているんだ」という、その“証し”を示す意味があったと考えれば、十分納得のいく行動といえないでしょうか。安倍前首相は19日の午前に靖国神社に参拝しています。
 日本学術会議の問題も「政権の端境期」に起きた出来事、つまり「安倍政治の継承」のために起きた問題であるといえます。安倍首相の在任中に、今回任命拒否された6名の学者を含む、会員の選定作業は始まっていました。突然の退陣がなければ任命を拒否するかどうかの判断も、安倍前首相が下していたことでしょう。しかし、この判断は「境目がないまま」菅政権に持ち越され、菅首相は心の準備や理論武装をしないうちに最終決裁者として、6人の任命を拒否する選択をしたのです。
 もちろんその後、菅首相には「撤退の道」を選ぶ方法もありました。しかし、絶えず「攻撃型」の政治を貫き、前に出るのが菅義偉という政治家のスタイルです。官房長官時代の記者会見を見てもわかるように、内閣に何か問題が浮上しても常に「問題ありません」「適切だ」と繰り返し、決して「それは申し訳なかった」と撤退の言葉を述べることはありませんでした。この姿勢を首相になっても貫いたのです。ただし、勢いがあるときはこういう「攻め」の姿勢は非常に有効ですが、守りに入らなければいけない時にこれがどこまで効力を発揮するかは未知数です

首相がいきなり「裸単騎」で出てきてしまった
 本来であれば、菅首相自身が安倍政権時代、「政権の守護神」として矢玉を一身に引き受けるゴールキーパーだったように、かつての菅官房長官と同じような役割をこなすことができる側近が出てくる必要がありました。私は森山裕自民党国会対策委員長が今後そのゴールキーパーの役割を果たすことになっていくと思っているのですが、しかし、日本学術会議の問題では、その体制が整う前に、菅首相がいきなり10月5日にマスコミ3社によるグループインタビューの席で、この問題について「それぞれの時代の制度のなかで法律に基づいて任命をおこなっている」「学問の自由とはまったく関係ない」と発言。さらに6人を任命拒否した理由については「個別の人事に関することについてはコメントを控えたい」と述べ、世論の反発を招いてしまいました。
 これは明らかな失敗です。首相がいきなり「裸単騎」で出てきて発言するべきではなく、二重三重にも張り巡らされたセーフティネットの中にまず首相はいて、じっと状況を見極めるべきであったと思います。しかし、人間は「上手の手から水が漏れる」もので、官房長官時代に、「攻めの姿勢」でマスコミ対応をしっかりやってきたという自信が仇になった。官房長官のときと同じように振舞ってしまったことで傷口が広がったのです。

自民党ベテラン議員は「総理はいろんな人と会う頻度をスローダウンすべき」
 いわば、菅首相はまだ官房長官時代を“引きずっている”。この点は、毎日の首相動静を見てもわかります。菅首相は朝からホテルで食事をして、夜遅くまで人と会い続けています。就任から1カ月で会ったのは90人以上。私も10月11日のお昼にお会いしました。菅首相は官房長官時代から独自のネットワークを構築し、様々なジャンルの人と意見交換や交流を重ねてきたわけですが、その生活スタイルを首相になっても続けているのです。
 菅首相はこれまですべて自分でプランニングして自分で実行に移す、一人完結型の政治をずっとやってきました。しかし、政権運営はチームプレイでもあります。首相がすべてをひとりで抱え込むことはできない。実際、自民党のベテラン議員の中からは、「首相は任せるべきところは任せ、いろんな人と会う頻度をスローダウンさせるべき」と進言する声も多く聞こえてきます。(#2につづく)


「最大の脅威は安倍前首相の“嫉妬”」発足1カ月、自民党初の“無派閥首相”に早くも「菅おろし」の火 ! ?  #2) 
                     後藤 謙次 文春オンライン 2020/10/23
 菅義偉内閣発足から1カ月が経った。「国民のために働く内閣」というキャッチフレーズを掲げ、矢継ぎ早に政策を打ち出し、発足当初の支持率は大手各紙とも60%以上を記録するロケットスタートを切った菅内閣だが、日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した問題が表面化すると、発足からわずか1カ月で、各紙とも支持率が低下した。安倍晋三前首相の突然の退陣で誕生した菅内閣。この1カ月で見えてきた「本質」とは何なのか。政治ジャーナリストで白鷗大学名誉教授の後藤謙次氏に聞いた。
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「総論型」の中曽根、安倍、「各論型」の竹下、小泉、菅
 菅総理が目指す「内閣の在り方」はまだ見えづらい部分があるのですが、総理大臣というのは大きく分けて「総論型」と「各論型」に分かれます。「総論型」はまず大きな国家像を描いて、そこに各論を落とし込んでいく。典型的なのは、中曽根康弘元首相で、安倍晋三前首相もそのタイプです。それに対して「各論型」は竹下登元首相のように、「消費税」という国家の根幹にかかわる税制にひたすら取り組み、それを成就させていく、あくまで各論を成就するのに尽力するタイプです。小泉純一郎元首相も郵政民営化の時は一点突破の「各論型」の手法をとりました。菅首相は明らかに後者の「各論型」の総理だと私は思うのですが、政権運営の在り方としては、総論型だった中曽根元首相と同じスタイルを取るのではないかと思います。
 というのも菅首相は自民党史上初の「無派閥」の首相です。党内基盤として、菅グループや二階派がありますが、親分である菅首相のために死んでもいいというほどの結束力を持った支持母体があるわけではありません。中曽根元首相も、自身の派閥の力は弱く、田中(角栄)派の全面協力を得ることで、なんとか総裁選を勝ち抜き、82年に総理大臣になりました。そんな中曽根元首相が党内基盤の脆弱性をカバーするためにとったのは、「国民世論」を味方につけ、自らの指導力を反対勢力に対して発揮することでした。
 菅首相もその手法をとるしかない。携帯料金の値下げや不妊治療の保険適用や、ハンコの廃止など国民に身近な問題に対して、結果を出していくことで、世論の支持を獲得していく。そして、その支持を背景に政権の推進力をつけていく。この方法は政権発足当初うまくいきそうでしたが、日本学術会議の問題で、やや躓いてしまった。「人事の菅」というイメージが前面に出すぎてしまい、世論に対してマイナスに作用してしまったのです。

麻生政権の“二の舞”だけは避けたい
 党内で求心力を保っていくためには、首相にとっての「伝家の宝刀」ともいえる衆議院の解散権をいつ行使するかにも注目が集まります。これを菅首相がいかに有効に使えるかがカギになります。
 今年の10月21日で衆議院議員の任期は1年を切りました。しかし、解散は早くやりすぎても準備が整わず大変だし、遅くなりすぎると、2009年の麻生(太郎)政権の時、任期満了まで解散できず、民主党に政権交代を許した悪夢の“二の舞”になるのではないかという不安がよぎります。
 私は、長年見てきた菅首相の性格からいっても、内閣の支持率が高いうちに選挙をやろうという選択はしないと思います。国民に問うべきものが出てきたら、選挙にうってでる。そのためにもなるべく早く、政権の独自カラーを打ち出した政策を一定のパッケージとして国民に示したい、そう考えていると思っています。

菅おろしの火がガソリンが燃え広がるように一気に加速する⁉
 一時期、永田町では任期満了まで解散しないのでは、という観測も広がっていましたが、今はその観測も揺れてきました。もし解散をするとなると、ポイントは3つの時期となります。来年1月の通常国会の冒頭に解散に打って出るか、3月以降、予算が成立した後、7月までのどこかのタイミングで解散するか、9月の総裁任期満了のギリギリまで待つか……。いずれにせよ、解散権は首相の最大の武器ですから、これをどう使うか(使えるか)によって菅政権の命運が定まることになります。
 そんな菅政権にとって今後最大の“脅威”になるのは、「首相経験者の嫉妬」です。前総理が現総理に抱く複雑な感情の処理を誤ると、党内で「菅おろし」の火が、ガソリンが燃え広がるように一気に加速する可能性があります。それは他ならぬ自民党の歴史が証明していることでもあります。

安倍前首相の「再々登板」を期待する声
 古くは1979年の大平正芳元首相と福田赳夫元首相らによる「40日間抗争」(自民党が分裂状態になるほどの党内抗争で、大平内閣は衆議院を解散し、初の衆参同日選挙に打って出たが、選挙中に心筋梗塞による心不全のため急逝した)がありましたし、中曽根康弘内閣の時には、前任の鈴木善幸元首相らとの対立が鮮明化し、鈴木氏が中曽根首相の総裁再選を阻止するために「二階堂(進)擁立構想」を立てたこともありました。安倍晋三前首相がどう思っているかはわかりませんが、自民党の歴史には必ず「首相経験者の現首相に対する嫉妬」が顔を出すのです。
 特に安倍前首相には早くも党内で「再々登板」を期待する声が出始めています。さらに安倍前首相は、菅政権発足直後の9月18日に読売新聞のインタビューが掲載されたのをはじめに、日経新聞、産経新聞の取材にも応じました。首相を辞めた直後に大手メディアの取材に応じた政治家を私はこれまで知りません。読売新聞のインタビューで特に気になったのは「今後の政治活動は」と問われて、安倍氏が「基本的には球拾いをしていく。首相から求められれば、(外交特使など)様々なお手伝いもしたい」と答えたことです。
 キーワードは「球拾い」です。これは中曽根元首相が、竹下登内閣が発足した時に「外交の球拾いをしたい」と述べたこととリンクします。中曽根元首相は結局「球拾い」では満足せず、再登板に意欲を見せるようになり、時が経つにつれ、「拾った球」を持って、マウンドに上がりそうな勢いを取り戻していきました。結局はその後、リクルート事件が起きて、再登板はかないませんでしたが……。

政治家同士の「嫉妬」が自民党の歴史を動かしてきた
 10月17日にその中曽根康弘元首相の合同葬が執り行われました。最後の献花の際に、菅首相は葬儀委員長として、個別の献花を行いましたが、安倍氏や麻生太郎氏、小泉氏ら、首相経験者は一斉に名前を呼ばれ、いっぺんに献花を行いました。元首相同士肩がぶつかりそうになっていた一方、菅首相は何十人ものSPに囲まれて、会場を後にしました。
 こうした現職と元首相の待遇の違いは、首相経験者たちにとっては耐え難い光景だったと私は思いますし、この推測はあまり大きく外れてもいないだろうという確信もあります。
 一見些細に見えることが政治家同士の嫉妬を生み、「菅おろし」の静かな火種になりうるのです。それは自民党の歴史が証明していることでもあり、これからずっと一貫して、菅政権に「深層海流」のように、静かだけれど非常に強い流れとなって続いていくのです。

予算委員会は午前9時から17時まで生放送で出演しているMCのようなもの
 いずれにせよ、菅内閣の政治手腕についてはまだまだ未知数で、採点不能なところがたくさんあります。ただ、26日から開かれる臨時国会は、首相の最初の試金石になるでしょう。国会の予算委員会では、質問が丁々発止でとんできます。そこでは、答弁能力から知識量、政策理解度、果ては政治家・菅義偉の人間性まで、すべてが試される。テレビ番組でいえば、午前9時から17時まで生放送で出演しているMCのような存在に首相はなります。そこでどれだけしっかりした受け答えができるかが、菅政権を測る本当の意味での物差しになると思います。
                     (後藤 謙次/Webオリジナル(特集班))