2020年10月21日水曜日

竹中平蔵氏の「東京を国直轄地にして知事は任命に」は暴論(小林節氏)

  竹中平蔵氏が、月刊文芸春秋誌上で東京都を米国のワシントン特別区(首都DC)のように 国の直轄地にして知事は政府による任命にしたらいいと主張したということです

 一見して極めて乱暴な意見に思われます。竹中氏には何やら新しい説を唱えて世間から注目されたいというような思いがあるのでしょうか。

 自らも米国留学の経験を持ち米国の事情に詳しい小林節教授が、それは東京とワシントンとの違いを弁えない暴論であると批判しました。
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ここがおかしい 小林節が斬る!
竹中平蔵博士「東京を国直轄地にして知事は任命に」の暴論
                           日刊ゲンダイ 2020/10/20
 菅首相のトップ・ブレーンと呼ばれている竹中平蔵博士が、月刊文芸春秋誌上で、東京都を国の直轄地にして知事は政府による任命にしたらいいと主張している。
 いわく、①今年、コロナ対策に政府が消極的であったために国民の不満が高まった中で、都は、先回りして、休業要請、感染拡大防止協力金等の施策を行ったが、都は群を抜いた税収と資産があり、同博士の古里の和歌山とは大違いである。しかし、②「地方自治法」という一つの法律の中で両者を同列に扱うのは無理で、このままでは自治体格差は広まるばかりだ。だから、③米国のワシントン特別区(首都DC)のような政府直轄地にして知事は政府が任命する制度にしたらいい。

 しかし、この見解は、前提となる日米の憲法と歴史に関する認識が根本的に間違っている
 まず、①コロナ対策については、確かに、政府がさまざまな思惑から消極的であった時に、東京が行った施策が都民にとって一時的には救いであったのは事実である。しかし、農林水産業と観光業が中心で、人口は東京の10分の1以下でコロナの被害も東京の100分の1と低い和歌山を、コロナ対策について東京と同列に論じる必要はないはずである。

 また、②憲法92条は、地方自治に関する事項は「地方自治の本旨」に基づいて法律で定めると保障している。その「本旨」とは、全国統一の基準は国が定めるが、その上で、各地方の特性に応じた行政サービスは各自治体が定めて行うという意味だとされており、地方自治法1条も「地方自治の本旨に基づいて定める」と明記している。だから、東京と和歌山は実情と実力に応じて行政サービスが異なって、自然で合憲で合法である。

 さらに、③米国は、50の(「州」という名の)国家の連合体で、その連絡政府(連邦政府)は、どの州にも属さない土地に位置して中立性を担保しているのである。しかもDCは狭く中央政府に不可欠な施設が中心で、政府関係者の住宅地等の日本では東京が担っている役割はメリーランド州とバージニア州が担っている。
 だから、竹中博士の提案はそもそも根拠が全て不当である。
 小林節 慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著)