前川喜平・元文科事務次官は菅政権のことを、安倍政権以上に危険だと予告していましたがその通りのことが起きています。どうやら菅首相にとっては今回の日本学術会議の人事介入はそれほど大した問題ではないという認識のようです。
菅氏がこれまで官僚の人事で行ったことは自分に楯突くものは許さないという恣意的なものでしたが、曲がりなりにも内閣府人事局(14年5月設置)という公式組織上での差配ということなので官僚は従うしかありませんでした。実は菅氏はそれに先立つ13年8月に、内閣法制局長官の首を外務官僚の小松氏に挿げ替えるという前代未聞の荒業を行っていました。それによって「集団的自衛権は行使できない」という法制局による抑制が解かれ、違憲の新安保法制の制定につながりました。
内閣法制局の在り方をひっくり返すというような非常識なことは確かに安倍―菅ライン以外ではなし得ないことでした。それによって彼らは「強引さ」を厭わなければ従来の「慣習」は破れるものであり、そうしたからこそ集団的自衛権行使という米国の要求に応えることが出来たという満足感乃至万能感のようなものを持った可能性があります。
しかし忘れてならないことは所詮内閣法制局も官僚の組織でありその限界は超えられないので、安倍―菅ラインの意向に従うしかなかったのでした。その点で、もしも学術会議も似たようなものという認識で任命拒否をしたのであれば大きな誤りです。勿論時流になびく学者もいますが信念を貫く学者が大半です。全体が菅氏の意向になびくということは決してありません。
日刊ゲンダイが、「もう剥き出しになった 言論弾圧首相の恐ろしい素顔 ~ 」とする記事を出しました。記事の中に戦前1935年の天皇機関説事件が登場します。「天皇機関説」は美濃部達吉・東大名誉教授が唱えたもので、学者の意見・思想が問題になった点は共通していますが、声を上げたのは国会議員や皇道派と称された軍人たちでした。
政府による学者思想弾圧事件としては、やはり戦前の京大滝川事件があります。それは中央大学法学部で行った滝川・京大教授の講演「『復活』を通して見たるトルストイの刑法観」の内容が無政府主義的であるとして、文部省と司法省が問題視したことに端を発した事件でした。1934年、文部省が滝川氏を強制的に休職にしたのに対して、京大法学部は教授31名以下全教官が辞表を提出して抗議の意思を示し、京大法学部の学生も教授会を支持し全員が退学届けを提出するなど処分に抗議しました。戦前の軍事国家においてもそうした良心による抗議・抵抗が行われたのでした。
菅氏には、任命拒否は大いなる間違いであることをこの際知らしめる必要があります。
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<もう剥き出しになった 言論弾圧首相の恐ろしい素顔>
この男は絶対に引きずり降ろさなければダメだ 何がパンケーキおじさんだ
日刊ゲンダイ 2020年10月2日
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
アベ政治の継承を売りにする菅首相の手法は、安倍前首相以上に危ういのではないか。仲の良い記者を首相補佐官に起用する異例の“抜擢”に続き、この国の科学者を代表する組織である日本学術会議の人事にまで手を突っ込んだのだ。
ひと言でいうと、安倍政権のやり方に異論を唱えてきた学者の排除。紛れもない学問の自由の侵害である。1日の「しんぶん赤旗」がスクープした。
210人の会員と約2000人の連携会員からなる学術会議は、1949年に国の特別機関として設立。政府から独立した立場で行政や産業、国民生活に科学を反映させることを目的に活動し、政府に政策を提言している。1日の新会員任命を目前にした先月28日、菅は学術会議が推薦した新会員候補105人のうち、6人の任命を拒否。任期6年で3年ごとに交代する会員について、学術会議の推薦に基づき、首相が会員を任命するとの日本学術会議法の規定を無視したのだ。候補者が任命されないのは前例がなく、前代未聞の事態である。
菅にパージされたのは、立命館大教授の松宮孝明氏(刑事法学)、東京慈恵医大教授の小沢隆一氏(憲法学)、早大教授の岡田正則氏(行政法学)、東大教授の宇野重規氏(政治学)、東大教授の加藤陽子氏(歴史学)、京大教授の芦名定道氏(キリスト教学)。
松宮氏は共謀罪をめぐり、17年の参院法務委員会で「条約批准に共謀罪は不要だ。戦後最悪の治安立法となる」と批判。小沢氏は安保法制をめぐる15年の衆院特別委公聴会で、「憲法上多くの問題をはらむ法案は速やかに廃案にされるべきだ」と主張した過去がある。特定秘密保護法、安保法制、共謀罪。安倍政権が米国と一緒に戦争ができる国を目指して整備した戦争3法に反対する学者の徹底排除に向け、菅は動いたということだ。
「学者の人事にも土足で」
松宮氏、小沢氏、岡田氏の3人は、1日選出されたノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章会長(東大教授)に〈日本学術会議会員への任命拒否の撤回に向け総力であたることを求めます〉と題した要請書を提出。このように書かれていた。
〈私たちの日本学術会議会員への任命を拒むにあたり、内閣総理大臣からは理由など一切の説明がありません。これは日本学術会議の推薦と同会議の活動への私たちの尽力をまったく顧慮しないものとして、到底承服できないものです。もしも私たちの研究活動についての評価に基づく任命拒否であれば、日本国憲法23条が保障する学問の自由の重大な侵害として断固抗議の意を表します〉
松宮氏に改めて聞くと、憤りを隠さずにこう話した。
「1カ月ほど前に学術会議事務局から推薦された旨の連絡があり、このまま任命されるものだと思っていました。菅政権は官僚人事にとどまらず、学者の人事にも土足で踏み込んでくるのか。学術会議は〈軍事研究には手を染めない〉との趣旨の声明を(17年に)出しています。政府の方針に反する声を上げる抵抗勢力を潰すつもりなのでしょう。独立機関である学術会議への不当な政治介入だと思います。学術会議法は首相が推薦者を『任命する』と定めているのであって、拒否はできない。裁量の余地はないのです」
遡ること半世紀。科学者が先の戦争に加担したとの反省から、学術会議は50年と67年に「軍事目的の科学研究を行わない」とする声明を発表した。17年には安倍政権が進めていた大学などの研究機関による防衛省の軍事研究への参加を問題視。「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」との声明を出し、軍事目的の研究に参加しない姿勢を鮮明にしているのだ。
就任から3週間足らず、言論弾圧首相の恐ろしい素顔はもう剥き出しになった。
また浮上する過去の政府答弁との「矛盾」
芥川賞作家の中村文則氏は1日の毎日新聞で〈機能しないマスコミ〉と題して、こんな文章を寄せていた。
〈報道に触れると、やれ菅義偉首相が苦労人であるとか(別にお金持ちの生まれだが)、パンケーキが好きだとか(いや、というか、大体の人は好きだろう)、とにかく好感を抱かせるように持ち上げるものが多く、正直気持ち悪かった。
安倍政権が終わっても、マスコミの一部は忖度や、「よいしょ」することを一時も我慢できないらしい。そして政権の支持率が高めだった結果を受け、そのマスコミが「菅政権の支持率の高い理由」を分析していたのには飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。「私たちがよいしょしたからでやんす」とでも書けばいいんじゃないか〉
その通り。何がパンケーキおじさんだ。7年8カ月続けた官房長官会見は嘘とゴマカシの連続、敵をトコトン冷遇する醜悪さを全開にしていたではないか。“天敵”の東京新聞記者の質問に侮蔑の表情を浮かべながら、「あなたに答える必要はありません」と一蹴。キャスター、ジャーナリスト、元官僚。テレビで政権批判を展開する論者を次々に降板に追い込んだ。
会見での気に入らない記者排除、テレビ局への圧力に続き、もう誰の目にも明らかになった独裁者そのものの危険な正体。こうした実態を少しも伝えず、あっさり懐柔される大メディアの腐敗堕落も目を覆うばかりだ。新自由主義に入れあげ、弱者を切り捨てる冷酷な素顔は、パンケーキのイメージにすっかりかき消されてしまっている。
よみがえる天皇機関説事件
任命拒否問題について、加藤官房長官は1日の会見で理由をはぐらかしながら、「推薦を義務的に任命しなければならないというわけではない」「首相の下の行政機関である学術会議において、政府側が責任を持って(人事を)行うのは当然だ」と強弁。学問の自由の侵害には当たらないとしたが、過去の政府答弁に照らしても疑義が生じている。
83年の参院文教委で官房総務審議官は「私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません」とし、「形式的に任命行為を行う。この点は、従来の場合には選挙によっていたために任命というのが必要がなかったのですが、こういう形の場合には形式的にはやむを得ません」と答弁。当時は、互選による会員選出から現行の推薦制度に移行した直後だった。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)は言う。
「学術会議への政治介入の出発点は戦争3法への批判、それに軍事研究に対する拒否姿勢です。政府にとって平和主義を貫く学術会議は目の上のタンコブで、独立した活動を認め続ければ学問をコントロールできないと考えたのでしょう。
菅首相は〈反対する官僚は異動してもらう〉と言い切っていましたが、この論理で自立した組織にまで手を突っ込み始めた。安倍政権下でNHK会長人事や内閣法制局の長官ポストを意のままにしてきた延長線上とも言えますが、学問の自由までも侵し始めたのはとんでもないこと。戦前の美濃部達吉の天皇機関説事件と同じことが進行しつつあると見た方がいい。権力に屈し、政府寄りに転向していく学者が出てくる懸念があります。
学問の自由の侵害は言論弾圧に拡大し、国民一人一人の精神的自由の統制につながりかねない。菅首相は国会で首班指名されたとはいえ、国政選挙の洗礼を受けていないどころか、所信表明演説すらしていない。国民に何ひとつ公約しないまま、権力固めに向けて早くもやりたい放題で、民主主義を蹂躙している。独裁ですよ。安倍前首相もメチャクチャでしたが、民主主義の破壊度は菅首相の方がはるかにひどい」
この男は絶対に引きずり降ろさなければダメだ。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。