2020年10月8日木曜日

08- 日本学術会議 新規会員任命拒否に関する抗議声明

  菅政権が、日本学術会議の新規会員候補のうちの6人を任命しなかった件について、立憲デモクラシーの会日本教育学会女性労働問題研究会常任委員会6~7日、抗議する声明を出しました。

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菅義偉首相による日本学術会議会員の任命に関する声明

 10月1日、菅義偉首相は、日本学術会議の新会員の候補者105名のうち、6名を除外して任命した。除外の理由は示されていない。2004年の法改正で日本学術会議が候補者を推薦する方式がとられて以来、同会議の推薦した候補者を首相が任命しないのは初めてのことである。
 日本学術会議法は、同会議は210名の会員で組織され、会員は、同会議が「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し・・・内閣総理大臣に推薦する」ものとする(同法17条)。会員の任命権者は内閣総理大臣であるが、任命は日本学術会議の「推薦に基づいて」行われることとされている(同法7条2項)。
 一般に、「何々に基づいて」という文言は、行政機関の権限行使を強く拘束するものと理解されている。しかも、日本学術会議法は、同会議が「独立して」その職務を行うものとしており(同法3条)、同会議の政府からの独立性を尊重すべき旨を明確にしている。会議による会員候補者の推薦は、内閣総理大臣の任命権の行使をとりわけ強く拘束するものと理解することができる。
 今回の首相の行動は、現政権が学問の自由を掘りくずそうとしているのではないかとの強い懸念を与える。学問の自由は、一般国民の学問研究の自由を保障するだけでなく、大学の教員を中心とする高等研究教育機関の構成員の権利をとくに保障している。
 学問の自由は、研究の内容および手続につき、研究者間での相互批判と検証を可能とするべく研究の内容および手続について厳しく規律が課される点で、表現の自由や思想・良心の自由などの他の精神的自由権とは大きく異なる。研究の内容および手続に関する厳密な規律があってはじめて,社会全体の中長期的な利益に大きく貢献する研究業績を生み出すことができる。学問の自由の意味は、こうした規律があくまで、大学をはじめとする学術機関や各分野の研究者集団の自律に委ねられるべき点に存する。
 学問研究の成果が、しばしば社会の既成の価値観やその時々の政府の政策への批判やその変革をもたらすこと、そのために社会や政治部門の側からの敵対的反応を招きがちであることから、外部の政治的・経済的・社会的圧力に抗して各学問分野の自律性を保護すべき必要性もそれだけ大きい。日本国憲法が学問の自由を保障する条項を特別に設けているのもそのためであるし、また、日本学術会議法が、会員の人事について同会議の独立性・自律性を強く認めているのも、科学者集団の自律性が保障されてはじめて、同会議の目的である、わが国の「科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させる」ことが可能となるからである。
 今回の6名の候補者の除外について、加藤勝信官房長官は、政府が日本学術会議に対して、「会員の人事などを通じて、一定の監督権を行使することは法律上可能になっている。直ちに学問の自由の侵害にはつながらないと考えている」と述べ、さらに「専門領域での業績にとらわれない広い視野に立って・・・しっかりと精査していくのは当然のこと」と述べたと伝えられているが、これまで説明してきたように、こうした権限行使がそもそも「法律上可能になっている」とは言いがたいし、各専門領域での研究者による評価を政府が「広い視野」という名目に基づいて覆すことは、学問の自由の侵害そのものである。
 首相は今回の権限行使を直ちに撤回し、6名の候補者を会員に任命すべきである。過ちを改めるについて憚りがあるべきではない。
                                2020年10月6日
                                 立憲デモクラシーの会

「日本学術会議」への学問の自由を侵害する政府の介入に抗議します

 私たち「女性労働問題研究会」は、会員に、男女の社会科学系の学会員、研究者、弁護士、ジャーナリスト、公務員、教員、企業の労働者、各分野のフリーランサー、退職者などを擁し、「女性労働、女性問題を科学的に解明することを目的とし、(中略)生涯をとおしたエンパワーメントをめざす」(規約第3条より)70年の歴史をもつ研究団体です。
女性労働問題研究と関係が深い「社会政策学会」の会員が多いことから、「日本学術会議社会政策関連学会協議会」に登録し、担当委員を送っています。
このたび、菅首相が日本学術会議選考委員会の議を経て推薦された次期会員のうち6人の任命を、理由も示さず拒否をしたことには、怒りを禁じ得ません。
日本学術会議の会員の任命に総理大臣が監督権を行使し、意のままにするということでは、日本学術会議はもはや政府に対して提言し、勧告する独立した機関としての性格を失ってしまいかねません。そのような事態を招く今回の措置は、日本学術会議の存続を危うくし、学問の自由を脅かすことにつながるものです。学問は本来、批判的性格を持つものであり、それでこそ独立した提言も成立することができると私たちは認識しています。
さらに当研究会は、菅政権の今回の介入が、政府が掲げてきた「女性活躍」の真の実現をも妨げるものと考えます。
現場で働く女性と研究者が連携し、女性の人権にもとづいた働きやすい社会を作ることを目指してきた当研究会は、さまざまな研究活動を通し、女性労働に対する軽視や蔑視を取り払うことなしに女性の活躍はないことを実証してきました。そうした活動は、先入観を排し、忖度なく実態に即した研究ができる自由と、これをもとに率直に政府に政策提言していける条件の保障なしではありえません。また、そのような研究と提言なしに女性が真に活躍できる政策作りは困難です。

上記の理由から、当研究会は、今回の介入を直ちに取り下げていただくよう、強く政府に要請します。
                                   2020年10月6日
               女性労働問題研究会常任委員会一同/同研究会代表・竹信三恵子
   事務局 〒東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル 毎日学術フォーラム


日本学術会議第 25 期新規会員任命に関する緊急声明

 菅義偉内閣総理大臣は、日本学術会議が第25 期新規会員候補として推薦した6名を任命しませんでした。また、その理由については、10 月5日の内閣記者会でのインタビューで、「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から、今回の任命についても判断した」と述べていますが、「個別の人事に関することについてコメントは控えたい」と述べるなど、任命見送りになった経緯および理由を十分説明していません。これは、日本学術会議法に定められた同会議の独立性を脅かすものであり、ひいては日本国憲法の保障する「学問の自由」を侵害する重大な事態です。教育学の進歩普及を図り、もって、わが国の学術の発展に寄与することを目的とする本学会は、このことを深く憂慮します。
 以上により、日本教育学会は、内閣総理大臣に対して以下のことを強く要望いたします。
 1. 日本学術会議が去る8月31 日付で推薦した会員候補者のうち、任命されていない
     6名の方について、任命見送りになった経緯および理由を十分に明らかにすること。
 2. 上記6名の方の任命見送りを撤回して、すみやかに任命すること。
                                                                       2020 年10 月7日
                                                                 一般社団法人 日本教育学会