2020年10月5日月曜日

05- 菅政権の学術会議任命拒否に対して 科学者や学生の団体が抗議声明

  日本学術会議が推薦した会員候補6人を菅義偉首相が任命しなかった問題に対し、全国の大学教員や学生らの団体から抗議声明が相次いで発表されています。声明を出した団体は以下の通りです。

 日本科学者会議 日本私大教連中央執行委員会 全国大学高専教職員組合中央執行委員会
 全国大学院生協議会

 毎日新聞の紹介記事に併せてそれぞれの声明文を紹介します。
 他に自由法曹団東京支部と日本マスコミ文化情報労組会議も声明を出しているので、下記から直接アクセスしてください。

⇒ 菅首相による違憲・違法の学術会議会員任命拒否に断固抗議し、撤回を求める声明(自由法曹団東京支部)⇒ http://www.jlaf-tokyo.jp/shibu_katsudo/seimei/2020/201002.html 
⇒ MIC声明  政府による日本学術会議会員の任命除外に抗議し、撤回を求める 日本マスコミ文化情報労組会議
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「日本の将来危うくしかねない」 科学者や学生の団体も抗議 学術会議任命拒否
                             毎日新聞  2020/10/04
 日本学術会議が推薦した会員候補6人を菅義偉首相が任命しなかった問題に対し、全国の大学教員や学生らの団体から抗議声明が相次いで発表されている。
 国内の研究者約4000人が所属する「日本科学者会議」は3日、「学者、研究者の危機は日本の将来を危うくしかねない。政府の介入を取り下げることを要求する」とする談話をホームページに掲載した。5日に菅首相宛てに文書を郵送するという。
 談話は「優れた研究や業績の評価は専門家集団の学術会議で行われたもので、政治家が介入し、判断する余地はない」と指摘。1983年の国会審議で政府側が「学術会議が推薦した者は拒否しない。政府が干渉したり、中傷したりはしない」などと答弁した事実に触れ、「菅政権による解釈変更は決して許されない」と強く反発した。
 事務局長の井原聡・東北大名誉教授(科学技術史)は、毎日新聞の取材に「過去に幾度か政府による学術会議改革があった後も、学術会議から政策批判や政府にとって苦い提言が止まらないのは、学問が批判的性格を持つ証しだ。それを忌避すれば、学問の発達を阻害する」と話した。

 私立大の教員らで作る「日本私大教連中央執行委員会」も声明で「日本の学術が戦争に動員された反省を踏まえて設けられたのが学術会議。決して権力者のものではない」と非難。国公立大と高専の教職員が加盟する「全国大学高専教職員組合中央執行委員会」も「学問の自由は個人的研究のレベルだけでなく、組織的表現を通じても行使される。政府の行為は学術活動全般に否定的影響を及ぼす」とする声明を出した。
 また、各大学の大学院生自治組織をまとめる「全国大学院生協議会」は「今後の学問の担い手となる大学院生にとっても決して看過できるものではない」と抗議した。【荒木涼子】
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【事務局長談話】 
学問の自由を侵害する日本学術会議への政府の介入に強く抗議する

 菅首相は日本学術会議(以下単に、学術会議と略)の選考委員会の議を経て推薦された次期会員候補(105 人)のうち 6 人の任命を理由も示さず拒否をした。6 人の欠員は学術会議法「第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。」を満たさない法律違反を承知で、かつてない暴挙に出たことに抗議します。

政治家が判断する余地はない
 学術会議法「第七条2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。」「第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。」によれば、優れた研究又は業績の評価は専門家集団である学術会議によって行われたものであり、非専門家の政治家が介入し、判断する余地はないものです。

総理大臣の監督権を行使は違法な措置
 しかし、菅首相は、「法に基づいて適切に対応した結果だ。」と記者団にこたえ(10 月 2 日 JNN,N スタ)、加藤官房長官は記者会見で「法律上、内閣総理大臣の所轄であり、会員の人事等を通じて一定の監督権を行使するっていうことは法律上可能となっておりますから…これが直ちに学問の自由の侵害ということにはつながらない」(10 月 1 日)と語ったばかりか、「専門領域の業績のみにとらわれない広い視野に立って、総合的、俯瞰的観点からの活動を進めていただくために、累次の制度改正がなされてきた。これを踏まえ…任免権者である総理大臣が法律に基づいて任命を行った。」(同2日、1 日、2日いずれも内閣府広報室「官房長官記者会見」)と強弁しています。
 しかし「第二十六条 内閣総理大臣は、会員に会員として不適当な行為があるときは、日本学術会議の申出に基づき、当該会員を退職させることができる。」とあり任命の実質的権限は学術会議に属し、不適切であるなら理由を付して学術会議に推薦の差し戻しを行えばすむことであり、「監督権」の行使は違法といえます。ただちにこの違法な措置を撤回すべきです。

かつての政府見解-政府が干渉したり中傷したりはしない
 累次の制度改正とは学術会議の改革要綱(1982.10)を取りあげず、学術会議会員を公選制から推薦制へと法改正を強行して以来、改革を迫り続けたことを指します。
 この時、学術会議は「本会議の存在理由をおびやかし、目的、職務の遂行に重大な疑義をはらむものと判断せざるをえない。」(「日本学術会議法の一部を改正する法律案について」第 89 回学術会議総会声明 1983.5.9)という声明を出し、存続が脅かされると警告を発していました。
 それに対して、当時の国会での議論では学術会議の独立性を侵害する恐れがあることに対して、政府側は形式的な任命であるとしました。「内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうにこの条文を私どもは解釈をしておるところでございます。この点につきましては、内閣法制局におきます法律案の審査のときにおきまして十分その点は詰めたところ」(内閣総理大臣官房参事官高岡完治 1983.5.12 参議院文教委)だと述べていました。また「内閣総理大臣による会員の任命行為というものはあくまでも形式的なものでございまして、会員の任命に当たりましては、学協会等における自主的な選出結果を十分尊重し、推薦された者をそのまま会員として任命するということにしております。」「学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない、そのとおりの形だけの任命をしていく、こういうことでございますから、決して決して総理の言われた方針が変わったり、政府が干渉したり中傷したり、そういうものではない。」(国務大臣丹羽兵助 1983.11.24 参議院文教委)とするかつての政府見解を、今回、菅政権が安倍政権譲りの隠蔽手法で解釈変更を行ったことは、決して許されません。

学術会議の存続を危うくする任命拒否ー 6 氏の任命拒否の撤回を
 学術会議法は「第二条 日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的」としているとあります。その第二条の主な点を列挙すると、科学の振興、技術の発達、研究成果の活用、研究者養成、科学を行政に反映させ、科学を産業、国民生活に浸透させるために政府に勧告することが出来るとあります。第四条では、科学に関する研究、試験等の助成をはじめ科学研究に関する予算配分などを政府が諮問する機関であるとされてもいます。
 こうした権限をもつ学術会議の会員の任命に監督権を行使し、内閣総理大臣の意のままになれば、学術会議の地位、職務上の独立性、権限は失われてしまいます。学術会議はもはや政府に対して提言し、勧告する独立した機関の性格を失ってしまいます。官僚の人事、国立研究機関の長のみならず、学術会議の人事にまで政府が介入し、学術会議の存続を危うくしようとしていることに抗議を申し入れます。

学問の発達を阻害する蛮行
 6氏が任命されなかった理由は開示されていません。これも安倍政権時代の説明責任を果たさない悪しき慣習です。「専門領域にとらわれない広い視野に立って、総合的、俯瞰的観点から」とは政府の政策批判、軍事研究批判等をしない学術会議への改革を期待するものでした(注)。公選制から推薦制にすれば政府批判や政策批判がなくなるはずでしたが、その後も、安保法制に反対する会員はなくならず、防衛装備庁の安全保障技術推進制度に対する声明などに、業を煮やしたともいえる極めて稚拙な介入です。推薦制にしたにもかかわらず、さらに「現会員の直接推薦・選出する制度」(co-optation)へと変更したにもかかわらず、政策批判や政府には苦い提言がとまりません。それは何よりも学問が批判的性格を持つことの証です。これを忌避すれば学問の発達を阻害するのみでしょう。

学問の自由を侵害
 6氏が任命されなかった理由が政策批判(大方の観測では、安保関連法‘戦争法’、特定秘密保護法、共謀罪、辺野古米軍基地建設などの反対)であったとすれば、研究の成果に基づいた研究者への見解に政府が断を下すことであり、憲法 23 条に保障された学問の自由を侵害することになり、学問の自主性、自律性が損なわれることは明らかです。
 政府の気に入らない研究者を排除するならば戦前のファシズムの時代に回帰することになる由々しい事態であす。また時の権力が気に入らない研究が、後に、科学の進歩に大きな役割を果たした事例も少なくありません。財界が要求するイノベーション創出に邁進する視野狭窄的政策では研究力低下を防ぐことが出来ないばかりか学術研究体制の崩壊に繋がりかねません。
 6人の任命拒否の問題は、推薦を拒否された学術会議の問題にとどまらす、学術会議に代表を送り出している、それぞれが所属する学会の問題であり、やがて大学や研究機関への人事介入の橋頭保ともなりかねません。
 そして、学者、研究者の危機は、日本の将来を危うくすることになりかねません。政府の介入を直ちに取り下げることを要求するとともに、学術会議が法にのっとり正しく対処されんことをのぞみます。
(注)学術会議法改正当時の中山太郎総務庁長官は長官就任以前から学術会議の政府批判に苦言を呈していた(「脱石油時代の科学戦略―明日の日本のために」1980)
                                                                         
                                                              2020 年 10月2日
                                                    日本科学者会議事務局長 井原 聰

菅義偉首相による日本学術会議会員推薦者の任命拒否に関する緊急声明
                              2020 年10月 3日
                           日本私大教連中央執行委員会
 10 月1日、日本学術会議の総会において、山際寿一前会長は、学術会議が推薦した 新会員のうち6名が菅義偉首相により任命を拒否されたことを明らかにした。 日本学術会議は、わが国の科学者を内外に代表する、政府から独立した機関であり、 同会議の会員は、任期 6 年で、その半数が 3 年ごとに改選されるが、改選にあたっては 同会議の推薦に基づき首相が任命することとなっている。会員に推薦された者をそのま ま任命することは、現在の任命方式に変更される際の国会審議における政府答弁でも明 言されていた。これまで半数改選に際して、被推薦者が任命されなかった例は過去にな く、このことにより同会議の独立性が一定担保されてきたのである。
 政府は、昨年、首相の任命拒否が可能であるとの解釈変更を行っていた。これは、今 回の任命時期にあわせて行ったもので、意図的であったことは明らかである。これは解 釈権の枠を超えた、立法権の簒奪ですらある。
 今回の新会員の任命にあたって、任命されなかった被推薦者には、国会の参考人として共謀罪法案や安保法制に対して批判を行った者が含まれている。政府の政策を批判し たことを理由に、任命されなかったとすれば、明らかに政治的な判断によるものと言わざるを得ない。
 政治的な判断によって会員が任命されるようになれば、学術会議は政府の御用機関と なり、日本の学術が政治に従属させられることになりかねない。戦前、日本の学術が戦 争に動員された反省を踏まえ、政府からの独立を保障しつつ、設けられたのが現在の日 本学術会議である。
 学術は、人類共通の財産として営まれるものであり、決して権力者のものではない。 今回の菅義偉首相による任命拒否は、日本学術会議の歴史に残る汚点となるばかりか、 学問の自由を定めている日本国憲法の明確な蹂躙である。
 日本私大教連中央執行委員会は、このような暴挙を行った菅義偉首相に抗議するとと もに、日本学術会議法の定めどおりに推薦された6名の会員の任命拒否を直ちに撤回す ることを強く要求する。あわせて日本学術会議には、引き続き 6 名の任命を行うよう政 府に働きかけることを求める。  以上

2020/10/03 日本学術会議会員の任命拒否に抗議し撤回を求める緊急声明
(緊急声明)政府による日本学術会議会員の任命拒否に抗議し、その撤回を求めます
                               2020年10月3日
                       全国大学高専教職員組合中央執行委員会
 政府は10月1日、日本学術会議が推薦した会員候補者中6名を新会員に任命しませんでした。
 日本学術会議は、政府から独立して職務にあたり(日本学術会議法(以下、「法」という。)第3条)、また政府に勧告をすることができる(法第5条)学術機関として規定されています。日本学術会議の会員は、学術会議の「推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」(法第7条第2項)となっています。会員の任命に関する従来の政府の見解は、「内閣総理大臣が形式的な任命行為を行う」「内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうにこの条文を解釈しておる・・・内閣法制局に起きます法律案の審査のときにおきまして十分その点は詰めたところでございます」(昭和58年5月12日、参議院文教委員会。日本学術会議法一部改正時の政府答弁)というように、総理大臣による任命は形式的なものであるというものでした。そして現に、これまで学術会議の推薦に対する任命拒否は一切行われて来ませんでした。このことは例えれば、日本国憲法第6条で「天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する」と規定されているのと同様であり、この「基づいて」という表現は、日本学術会議による推薦あるいは国会による指名が総理大臣や天皇の任命権を拘束することを意味するものです。今回の件に関し、政府は法定された任命権の行使であるとしていますが、従来の見解とは異なる措置を採ったことについての法解釈上の正当性の主張や、その理由について一切説明を行っていません。説明なしに法解釈を変更し恣意的な運用を行うことは、法的安定性を著しく損なう行為です。
 日本学術会議が政府の介入を受けることなく自由に活動できることは、憲法23条で定める学問の自由が保障しなければならないもっとも重要なことのひとつです。そして学問の自由は、個人的研究のレベルのみならず様々な組織的表現を通じて行使されるのであって、今回政府が行ったことが放置され、うやむやにされるようなことがあれば、日本における学協会や大学などといった様々な組織で行われている学術活動全般に大きな否定的影響を及ぼすものです。
 私たち国公立大学、高専、大学共同利用機関で教育研究活動を行う教員・職員で構成する全国大学高専教職員組合は、政府による日本学術会議会員の任命拒否に強く抗議します。政府に対し、速やかに今回の決定に至った理由を説明するとともに、任命拒否の撤回を行うよう求めます。

《議長緊急談話》学問の自由を侵害する日本学術会議への菅首相による人事介入に抗議し、新会員の任命拒否撤回を要求する
                                  2020.10.03
                          全国大学院生協議会議長 梅垣緑
 10月1日、日本学術会議の会員が改選されるにあたって、学術会議から推薦された新会員候補6名が菅義偉首相によって任命されないという事態が明るみになった。日本学術会議は日本学術会議法に示されている通り、政府から独立して日本の学術の進歩に寄与することを目的とされた「特別の機関」であり、その根拠は日本国憲法第23条で保障された学問の自由にあることは明白である。にもかかわらず、学術会議が推薦した候補の中から任命されない者が生じたということは、首相が学問研究の内容にまで踏み込んで判断したとことを意味する。これは明らかに憲法第23条違反であり、全院協は断固抗議の意を表明するとともに、首相に対し速やかに6名の候補を会員に任命することを強く要求する。

 今回の任命拒否は、菅義偉政権の学問の自由と独立に対する軽視にほかならず、研究という営為に日々向き合い、今後の学問の担い手ともなる大学院生にとっても決して看過できるものではない。
 第一に、学問の自由が保障されなければ、大学院生は学生支援機構による奨学金や日本学術振興会からの資金などの公的支援を安心して受け取って研究に費やすことができない。今回の任命拒否のように、法律上形式的に内閣総理大臣の任命下にあることのみをもって学術研究への介入が許されるなら、それは、政府による公的支援に生活や研究を頼らざるを得ない大学院生は政府の意に服せということも許されかねず、大学院生にとって重大な脅威と言わなければならない。
 第二に、これ以上の政府による学術研究への統制により、弱い立場に置かれている大学院生にさらなる被害が及びかねない。「選択と集中」などこの間政府がトップダウンで進めてきた大学政策・科学技術政策によって、大学など日本の学術研究の現場は疲弊させられ、大学院生はそのしわ寄せを受けてきた。今回の任命拒否について、加藤官房長官や菅首相が「学問の自由に直ちに影響が出ない」と述べるのは、多く指摘されている学問の自由や研究者集団に求められる政治からの独立性への理解が欠けていることに加え、政府がこれまで行ってきた学術研究に対する政策が及ぼしてきた様々な悪影響への理解も想像力もないと言わなければならない。
 以上述べてきたように、学問の自由を侵害する今回の任命拒否は、単に日本学術会議と政府との関係にとどまらない重大な問題があり、速やかに撤回するよう重ねて求める。もとより学問の自由は大学関係者だけの問題では決してなく、学問の自由が保障された結果生み出される学術研究の成果は、広く社会の共有財産となるべきものである。全院協は、問題意識を同じくする日本社会のあらゆる団体、個人との共同を広げ、今回生じた前代未聞の事態解決に尽力することを表明する。  以上