2020年10月29日木曜日

29- 菅首相で国は持つのか 所信表明は歴史に残るスッカラカン(日刊ゲンダイ)

  日刊ゲンダイによれば26日の所信表明演説は、記者たちから「スピーチライターすらいないのか」「見出しが取れない空っぽ演説」などと酷評されたということです。

 そして演説の特徴は、コロナ対策の中身のなさ、それでも五輪向けてリキむ空疎さ、官製相場の株価高を自慢し、アベノミクスの反省もなく、福島も沖縄もただ触れただけ、「します」「やります」「進めます」オンパレードであったとしています。
 そして挙句に「『自助・共助・公助』そして『絆』私が目指す社会像」と述べました。冷酷さゆえの空虚さなのかもしれません。

 演説中、唯一台本から目を話して力を込めた部分が、
「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。脱炭素社会の実現を目指す」「世界のグリーン産業を牽引し、経済と環境の好循環をつくり出す」
だったということです。
 しかし脱炭素社会実現するためには再生エネ発電を大々的に拡大する必要があり、そのネックになっている電力網の新電力への解放や、発電量の変動をならすための風力発電の拡大に加え大々的に蓄電設備を構築するための施策が必要なのですが、それへの意欲は何も見えません(菅首相が口にした「次世代型太陽電池」には蓄電の機能はありません)。
 元経産官僚の古賀茂明氏はグリーン産業志向について、「デジタル化とグリーン社会化への動きはどちらも日本は遅れに遅れているので、世界を牽引なんて出来っこないとしたほか、脱炭素は本来原発推進のための政策でもあると述べています。原発再稼働の推進こそは環境を破壊するこの上ない欺瞞策です。
 要するに所信表明演説の中身はまさに「虚栄の市」ともいうべきものです。
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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巻頭特集
菅首相で国は持つのか 所信表明は歴史に残るスッカラカン
                       日刊ゲンダイ 2020 年10月27
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
「今後取り組むべき政策の方向性や政権運営に対する私の決意を申し上げたい」
 26日、ようやく召集された臨時国会。菅首相は所信表明演説に臨む直前、こう意気込みを語っていた。だが、あれを方向性と言うのか、決意と言うのだろうか。
 まれにみる酷い演説だった。25分間の所信の中身は、コロナ対策も経済対策も社会保障も外交・安全保障も肝いりのデジタル化すらも、短い文章で個別政策を羅列しただけ「します」「やります」「進めます」のオンパレードで、どんな社会を目指すのかは一切語られなかった。
 安倍前首相のような勇ましいスローガンや情緒的な文言が躍る過剰演出はなかったが、各府省から集めた政策が書かれた「短冊」をただつなぎ合わせたにすぎず、さすがに永田町の記者たちも「スピーチライターすらいないのか」「見出しが取れない空っぽ演説」と酷評だった。
「総花的な中で非常に違和感を感じたのは、五輪開催への変わらぬ意欲を示したことです。『来年の夏、人類がウイルスに打ち勝った証しとして、東京オリンピック・パラリンピックを開催する決意です』と、安倍前首相と同様の表現で表明しましたが、新型コロナはここ数日、欧米で新規感染者が過去最高の数字になっている。外出禁止の地域も出るなど、これまで以上に厳しい情勢です。あたかも収束しているかのような印象を与える発言はおかしいですよ」
 こう言ったのは、元外務省国際情報局長の孫崎享氏。その通りで、五輪に力む姿は空疎でしかない。ならば、感染拡大抑制に全力を傾けるのかと思いきや、菅が口にしたのは<1日平均20万件の検査能力確保>など既存政策の域を出ない。自らが推進した「Go Toキャンペーン」で<延べ2500万人以上の方々が宿泊し、感染が判明したのは数十名です>と成果を強調するばかりだった。
 経済を回すことに前のめりな割に、現状認識は甘い。<新型コロナの中にあってもマーケットは安定した動きを見せております>と言ったが、日銀マネーによる歪な官製相場で維持されているだけだ。ANAグループが3500人の大リストラに手を付けざるを得なくなるほど、コロナ倒産の危機は大手企業だって他人事ではない状況なのに、<今後もアベノミクスを継承する>と謳い上げるだけでまったく反省がない。

掛け声だけの「ヤルヤル詐欺」
 福島も沖縄もただ触れただけの表面的な扱い。<福島の復興なくして、東北の復興なし。東北の復興なくして、日本の再生なし>と安倍から引き継いだ毎度のフレーズがむなしい。沖縄については、<基地負担軽減に取り組みます><沖縄の皆さんの心に寄り添いながら、取り組みを進めてまいります>と言ったが、幾度となく示されている「辺野古NO」の県民の意思を無視し続けているのに、「寄り添いながら」などとよくぞ言えるものだ。
 そして、外交に至っては恥ずかしくなるような薄っぺらさだった。<米国をはじめ各国との信頼、協力関係をさらに発展させ、積極外交を展開していく決意>らしいが、「積極外交」とは一体、どんな外交なのか。米中の間で、右往左往するばかりじゃないのか。<拉致問題は引き続き、政権の最重要課題><平和条約締結を含む日ロ関係全体の発展をめざす>と威勢はいいが、口先なら何でも言える。安倍外交同様の「ヤルヤル詐欺」に磨きがかかってきた。
 前出の孫崎享氏はこう話す。
全てにおいて『頑張る』と言うだけで、方向性は見えませんでした。外交というのは、大きな構想を描いたうえで進めていかねばならず、簡単に実績が積み上がるものではない。具体的な実績を優先する菅首相は、できるだけ外交は先送りして、内政に特化したいのでしょう。しかし、米中関係が緊迫する中で、日本は難しい対応が迫られる。日本としてどういうポジションを取るのか、習近平国家主席の訪日をどうするのかなど、差し迫った課題です。北方領土や拉致の問題にしても、安倍前首相だって頑張ると言ってきたが、解決できなかったわけですから、これまでとは違う対応で踏み込まなければ動きません。これまで通りなら単なる掛け声で終わってしまう」
 演説のお粗末さには、野党からも驚きの声が上がり、「20年以上国会にいるが、こんなに中身のないのは初めてだ」(立憲民主党・福山哲郎幹事長)とバッサリ。与党は「具体的な課題の積み上げなくして、抽象的な国家像を言っても響かない」(公明党・山口那津男代表)と苦しい擁護。まさに歴史に残るスッカラカンだった。

理念も思い込みもない「思いつき政治」
 政策寄せ集めの空っぽ演説で、唯一、菅が原稿から目を上げて力を込め、これに与党席が拍手で応えた場面があった。「グリーン社会の実現」というエネルギー政策に関するくだりだ。
<我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします>
<世界のグリーン産業を牽引し、経済と環境の好循環をつくり出してまいります>
 日本政府が温室効果ガスを「ゼロ」にする期限を区切ったのは初めてのこと。菅は昨夜出演したNHK「ニュースウォッチ9」でも、番組キャスターからそう水を向けられると、うれしそうに「脱炭素の流れをつくるべきだ」と自画自賛していた。しかしこれは失笑モノだ。
 元経産官僚の古賀茂明氏が言う。
「ポストコロナにおいては、デジタル化とグリーン社会の実現による経済復興を目指すのが世界の常識で、どちらも日本は遅れに遅れている。世界を牽引なんて、できっこありません。太陽光パネルも風力発電も、日本企業は世界のベスト10にすら入れない。トヨタはいまだに電気自動車を販売できない。自動車用電池でパナソニックが頑張っていましたが、中国企業に抜かれてしまった。それに、『温室効果ガスをゼロにする』というのは、原発推進のための政策でもあるんです。一方で、再生可能エネルギーへの新規参入を妨害していますからね。『CO2をゼロにしたいけれど、再生可能エネが伸びないので、クリーンな原発が必要』という論理です」
 だまされてはいけない、ということだ。実際、菅は所信表明で<安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します>ともしている。従来通りの原発推進で、世界の常識からますます乖離して行く。そのくせ、「できるだけ早く処分方針を決めたい」としている福島第1原発の汚染水の海洋放出問題はスルーした。都合のいい話だけ並べたて、卑怯である。
 結局、最後まで菅が言うような「政権運営の決意」は見えず、国家観も依然分からず。いつもの「自助、共助、公助」を目指す社会像だとしたが、言いっぱなしで、その具体的な姿を説明することもなかった。
「一国のリーダーはきちんとした理念に基づいて政治を行って欲しいもの。しかし、安倍前首相は理念ではなく思い込みで政権を運営した。そして、菅首相に至っては、理念どころか思い込みさえなく、思いつきで政治を行っている。この1カ月で分かったのは、菅さんは首相で居続けることが目的なのだということ。『行政の縦割りや悪しき前例主義を打破して改革を進める』と言っていますが、改革は手段でしかなく、何のために改革するのかが、いまだ見えてこない。『効率重視の是正』『経済的正義のため』など、何か目的があっていいはずなのに。1カ月経っても出てこないのですから、何も考えていないのでしょう」(古賀茂明氏=前出)
 この間、菅政権で露呈したのは、警察出身官僚とともに人事権を振りかざし、憲法が保障する「学問の自由」に介入する強権政治だ。その学術会議の問題にも所信表明では一言も触れていない。どこまでも器の小さい人物だ。この首相では国は持たない。