2020年10月16日金曜日

菅首相は「学問の自由」を理解していない/発足1カ月で暴露された「3つの弱点」

  日刊ゲンダイに不定期に連載している「ここがおかしい 小林節が斬る」で、2日連続で「菅首相は『学問の自由』を理解していない」に関する記事が出ました。

 同じく「永田町の裏を読む 高野 孟」を連載している高野氏は「6人の氏名見ていない 学術会議任命拒否問題の本質が分かる」とする記事を出しました。
 3つの記事を紹介します。
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ここがおかしい 小林節が斬る!
菅首相は憲法が保障する「学問の自由」を理解していない 
                           日刊ゲンダイ 2020/10/14
 9日、マスコミの中から3社だけ選んでの「グループインタビュー」で、菅首相は、日本学術会議の被推薦者6人の任命を拒否した「理由」として、官僚が用意した文書を読んで、次のように繰り返したとのことである。
 いわく、学術会議の会員は、「広い視野を持ち、バランスの取れた行動を行い、国の予算を投じる機関として国民に理解される存在であるべき」だと。
 記者会見でこのような文書を何回も読み上げて恥じない首相は、絶望的に無教養である。私も法政大学で教壇に立ったことがあるが、あの伝統ある大学を卒業した「法学士」でありながら、首相は、憲法23条が保障している「学問の自由」の意味を全く知らないようである。そのような首相に人事権で縛られて、このようなインチキ答弁書を書かされる官僚の立場は惨めであろう。仕事とはいえ、自覚して、天下に向けて「嘘」の回答を書かされたのだから。
「学問の自由」の保障とは、学者が学問的良心に従って行った言動の評価は、まずは学者同士の討論に委ね、最終的には歴史の判断に委ねるべきで、間違っても時の「権力者」が介入すべきではない……ということである
 にもかかわらず、今回、菅首相は、特定の学者の言動について、「広い視野を持っているか?」「バランスの取れた行動であるか?」について自分の権限で判断したと告白し、その結果、「国の予算を投じる機関(の構成員)として国民に理解される存在『ではない』」と評価した……と認めたのである
 問題は、無教養な菅首相にはそのような判断を下す能力が事実としてないことではない。問題は、仮に菅氏が高い実績の学者(例えば法政大学長)であったとしても、同時に、「首相」という権力者の地位にある間はそのような判断を下す「資格」が憲法により禁じられている……という自覚がないことである
 にもかかわらず、高い実績の学者たちが全国から会議に集まるために1人につき月2万円余の交通費を用意する程度のことを逆手に取って学術会議に介入しようとするとは、「選挙に勝った者には何でも従え」という、政治権力者の思い上がり以外の何ものでもない

小林節 慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著)


ここがおかしい 小林節が斬る!
6人の氏名見ていない 学術会議任命拒否問題の本質が分かる 
                          日刊ゲンダイ 2020/10/15
 菅首相が、記者会見で、日本学術会議会員として推薦された105人の名簿は見ておらず、任命した99人の名簿しか見ていないと語ったことが、新たな問題を提起した。つまり、自分の権限と責任で任命を拒否したと主張している首相が「考えがあって」拒否したはずの6人の氏名も見ていなかったとしたら、重大な手続き違反である。つまり、では誰が何の権限で審査して拒否したのか? という問題になる。
 しかし、この首相の率直な発言はむしろ問題の本質を明快に示しているように見える。
 まず、事実の問題として、日本一多忙な首相が105人を直接吟味したはずなどない。首相としては、「学術会議は反自公政権の学者の巣窟だから、次回の新会員の任命の際には特に過激な数人を象徴的に拒否したい。それは、首相に任命権がある以上できるはずだ」と、内閣府の属僚に対して『政治決定』として言い渡してあったはずである。
 それに従って、内閣府の官僚が最も反政府的な6人を外した99人の名簿を添えて首相に報告し、発令に至ったはずである。
 首相としては、憲法21条が保障する表現の自由の意味(「異論共存」)を理解しておらずに官房長官時代にマスコミを統制して成功した体験があったので、今回は、憲法23条が保障する学問の自由の意味も知らずに学界統制に踏み出したのであろう
 それに、批判が出ても、学術会議がいわゆる左翼の巣窟である実態を暴露すれば世論が理解すると高をくくっていた節がある。
 しかし、「学問の自由」を根拠に国の内外から大きな反発が起こり、それは、憲法に関する理解を欠いていた首相には想定外の反響であったはずである。
 そこで、属僚に書かせた「総合的に、俯瞰的に」という無内容の、さらに、「広い視野を持ち、バランスの取れた行動」という本来は言ってはいけない答弁を繰り返して、首相は壁にぶつかってしまっていた。
 だから、首相は、心の中にこの問題を回避したい思いが生じており、思わず、拒否した者の氏名など「見ていない」という、あってはならない発言に逃げたのではなかろうか


永田町の裏を読む 高野 
発足1カ月で早くもさらけ出された菅政権の「3つの弱点」 
                           日刊ゲンダイ 2020/10/15
 菅義偉首相が日本学術会議の人事に手を突っ込んだ一件で、早くもこの政権の弱点がさらけ出されることになった。第1に、菅自身の「答弁能力」の限界である。彼が9日の各紙インタビューで、自分が決裁する際に見たのは任命拒否の6人を除いた99人の名簿であり、つまりその6人を除去したのは自分ではないという言い逃れをした。とすると、6人の名を消して菅に差し出したのは内閣府の誰なのか。杉田和博官房副長官だという話もあるが、国会で議論になればそこをとことん突かれて菅が弁解不能に陥るのは目に見えている。
 今までも、都合の悪いことは「質問させない」、仮に質問されても「答えない」、答えても「はぐらかす」ということをさんざん繰り返してきたけれども、いざ自分が最高責任者になって追い詰められると、こんな出任せを言ってその場を繕おうとするのである。
 第2に、「人事こそ権力」という菅の嫌ったらしい“政治哲学”の卑俗性が浮き彫りになったことである。先週本欄でも、日銀総裁、内閣法制局長官、失敗に終わった検事総長などの重要人事への政権介入に触れたが、それだけではなく、内閣人事局を管制塔に役人を自由気ままに操ろうとしてきて、「ふるさと納税」制度に異議を唱えた総務省自治税務局長を乱暴に左遷して「政策に反対するのであれば異動してもらう」と言い放ったり、国土交通省キャリア官僚の指定席だった海上保安庁長官に生え抜きの佐藤雄二海上保安監を昇格させて職員の士気を高めようとしたり、細かいところまでいろいろ手を突っ込んで、そうすることに快感すら覚えているかのようである。
 山岡淳一郎によると、「『人事は政権のメッセージ』が菅の口癖」だそうだが(ビジネス・インサイダー9月14日付)、昇進と降格・左遷の脅しだけで組織を自由に操れると思う幼稚な権力観が、今回のように外にまで向けられるようになると、それが命取りになるのではないか。
 第3に、その裏返しとして、ビジョンの欠如である。政権のメッセージとは、国の指導者として国民にどういう将来を約束するかということであるはずだが、それは何もないので、いきなり携帯電話の値下げとか、人々の損得勘定に訴えるだけの個別政策に走るのである。政権1カ月にしてもう「どこでコケそうか」が見えてきた感がある。

高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。