2020年10月30日金曜日

任命拒否正当化 菅首相発言はすべて虚偽(しんぶん赤旗 ほか)

 菅首相は26日夜のNHKのニュースウオッチ9に出演し、日本学術会議会員候補の任命拒否について、「現在の会員が後任を推薦することもできる可能性がある。結果的に一部の大学に偏っていることも客観的に見たら事実だ。『総合的、俯瞰的』と申し上げてきたが、幅広く客観的という意味合いもある。民間出身者や若手研究者、地方の会員も選任される多様性が大事だ」と理由らしきものを口にしました。
 さすがに「総合的、俯瞰的」では何の説明にもなっていないことを自覚したようですが、ここで新たに述べ立てことも勿論拒否の理由になりません。
 もともと会員推薦の基準は日本学術会議法17条で「優れた研究又は業績がある科学者」と定められていて、それ以外のものではありません。そこに個人の趣味のようなものを付け加えてみてもどうなるものでもありません。
 それでも「総合的、俯瞰的」よりはマシに思ったようで、その後の衆院とさらに参院でも繰り返しこのことに言及しているのは、現在の学術会議の実態がそうでないということを国民に暗示しようという意図に違いありません。しかし実は16日に梶田新会長が菅首相に面会した際に、現在の会員選考方式について説明し、この方式であるからこそ女性会員比率を約35%まで上昇させ、関東圏以外の研究者の割合を50%程度にまで高めたほか、ジェンダーや地域のバランスを考慮し、多様な意見をくみ上げることができる会員構成となっていること伝えてあったのでした(詳細は記事参照)。

 しんぶん赤旗は、菅首相はこうした事実を知ったうえで、意図的に事実と異なる欺瞞的な批判をしたもので、憲法23条に反し学問の自由、精神活動の自由を脅かす任命拒否について、論点をすりかえたうえ“うそ”の攻撃をしたという重大な問題であるとしています
 「学術会議会員が後任を指名することもできる」との批判も同じで、実際には後任を指名することが出来ない仕組みになっています。
 菅首相が任命拒否の理由を一向に説明しないままで、学術会議に勝手に無根拠な誹謗をするのは許されません。
 しんぶん赤旗と毎日新聞の記事それに梶田新会長のメールの全文を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
任命拒否正当化 菅首相発言すべて虚偽 大西元学術会議会長の資料で判明
                       しんぶん赤旗 2020年10月29日
「地方の大学が少ない」「一部の大学に偏っている」などとして日本学術会議会員の多様性に問題があるかのように言い立てた菅義偉首相のNHK番組(26日夜)での発言が、事実に反することが、大西隆元日本学術会議会長が野党に提供した資料で28日、明らかになりました。首相は同日の衆院本会議でも同じ趣旨の答弁を繰り返しました。
 大西氏が提供した資料は、男女比、会員の地域分布、特定大学への集中是正の「成果」を年次ごとに示したもので、女性比率や関東以外の大学の構成比が大きく前進していることを示しています。
 菅首相は日本学術会議法が定める「優れた研究又は業績がある科学者」との推薦基準を無視し、「一部の大学に偏っている」など法律にない基準を勝手に持ち出して自らの任命拒否を正当化するという法治主義破壊の姿勢を示していましたが、持ち出した“基準”をめぐる主張そのものが事実に反することが明らかになりました。
 しかも菅首相と梶田隆章会長が16日に面談した際に、梶田氏から、会員構成の多様性を確保する取り組みの成果を報告したとする会員宛てメール(28日既報)が明らかになっています。菅首相はこうした事実を知ったうえで、意図的に事実と異なる虚偽の攻撃を行った疑いが強まりました。憲法23条に反し学問の自由、精神活動の自由を脅かす任命拒否について、論点をすりかえたうえ“うそ”の攻撃をしたという重大な問題です。
 大西氏が提出した資料によると、男女比で1997年7月が男性99%、女性1%だったものが、2020年10月はそれぞれ62・2%、37・7%と女性の比率が上昇しています。
 会員の地域分布では、97年7月に関東地方の会員の比率が68・1%、その他の地域が31・9%でしたが、20年10月では、それぞれ49・5%、50・5%になっています。
 特定の大学への集中の是正では、東京大学在職者の比率が11年10月28・1%が、20年10月に16・7%に減少しています。

 

「後任指名はできない仕組み」と反論 学術会議の梶田会長ら初の記者会見
                           毎日新聞2020年10月29日
 日本学術会議の梶田隆章会長が29日、新会員候補6人が菅義偉首相に任命拒否された問題について記者会見を開いた。6人の任命を改めて求めた上で、学術会議に関する誤った情報が広まっているとして「私どもの活動が国民の皆様に伝わっていない。正確なデータに基づいた議論をしてもらいたい」と訴えた。
 学術会議を巡っては会員の選考方法や年間約10億円の予算の使い道などについて自民党が問題視し、SNSなどでも批判の声が上がっている。任命拒否の発覚以降、菅首相や自民党の指摘に対し、学術会議が公の場で反論するのは初めて。
 会見では、同席した副会長らが会員選考の流れや活動状況を説明。新会員候補者は、会員らが推薦した約1300人の中から選考委員会など多くの過程を経て、半年かけて首相に推薦する105人を決定しているが、「後任の指名」はできない仕組だと強調した。同様の選考方式は海外の多くのアカデミー(学術機関)でも採用されているという。
 会員が一部の大学や地域に偏っているとの指摘についても、2000年に69・5%だった関東地方の会員が20年に51%に、東京大の会員も05年の50人から34人(名誉教授は含まず)に減少したと反論。女性や産業界の会員を増やすよう努力しているとした。
 会員には委員会の出席に応じた手当と旅費が支払われるだけで、手当は1人当たり年間約34万円、旅費は約6万円。一方で、直近の3年間で開いた委員会は2234回に上ったという。菱田公一副会長は「予算がなくなる時もあり、ボランティアワークが存在しているのも事実」と訴えた。
 学術会議を巡っては自民党のプロジェクトチームが組織の設置形態などを議論し、年末までに取りまとめる予定。井上信治・科学技術担当相も学術会議に対し年末までに課題を検証、報告するよう要請しているが、梶田会長は「それが最終報告になるとは思えない」とし、年明け以降も提言機能の強化などに向けて検証を続ける意向を示した。15年に有識者会議が学術会議のあり方についてまとめた報告書を基に、改善できる点などを洗い出すという。【池田知広、柳楽未来、岩崎歩】


日本学術会議の梶田隆章会長の菅義偉首相との面談についての報告メール(全文)
                       しんぶん赤旗 2020年10月28日
 日本学術会議の梶田隆章会長が20日、菅義偉首相との会談(16日)について同会議会員に報告したメールの全文は以下の通り。

 

 内閣総理大臣との面談に関するご報告

                            (2020年10月20日)

                                    日本学術会議

                            25期会長 梶田 隆章

 、10月16日(金)午後に、菅義偉内閣総理大臣に会長就任のご挨拶にうかがい、面談をいたしました。

 本来、期の初めの任命式の機会などに、総理に会長就任のご挨拶をするのが通例ですが、今期はコロナ禍のため、それがかないませんでした。

 、まず会長就任のご挨拶をし、その後、10月2日に総会が決定した、105名の会員候補者のうち6名が任命されないことの理由を説明することと、任命されていない会員候補者を速やかに任命することを要望する内閣総理大臣宛の要望書をその場で総理に手渡しし、要望を直接伝えました。その場では要望について特段の回答はいただけませんでした。

 、また加えて、今期の抱負として、科学技術が発展した現代においては、科学技術が社会に与える影響も極めて大きくなり、日本の科学者の代表機関として、各国のアカデミーや国際学術団体等と連携して、諸科学の一層の向上発達を図り、こうした社会が直面する諸課題の解決に応えていく日本学術会議の役割が一層重要になっており、その役割をよりよく果していくようにしたいと伝えました。日本学術会議において作成した提言を社会や国に広く伝えるなど、今後さらに発信力を高めていくことも伝えました。そして、現在の会員選考方式についてもご説明し、この方式であるからこそ女性会員比率を約35%まで上昇させ、関東圏以外の研究者の割合を50%程度にまで高め、ジェンダーや地域のバランスを考慮し、多様な意見をくみ上げることができる会員構成となっていることも伝えました。総理からはしっかりその役割を務めてほしいとご発言がありました。また、政府側の窓口となる井上信治科学技術政策担当大臣とも連携してほしいとのことでした。

 、日本学術会議としては、要望書に掲げた2点が実現されるよう引き続き求めてまいります。