菅首相による日本学術会議の会員任命拒否は、憲法が保証している学問の自由を侵すものであり、日本学術会議法に違反するものです。1948年の日本学術会議法の制定時と1983年の同法改正時における審議資料がいろいろと集まるにつれ、首相による任命拒否などあり得ないことがますます明かになりました。
それにもかかわらず菅首相は26日の所信表明演説ではその問題に全く触れませんでした。それなのに同日のNHKのニュースウオッチ9には出演し、「学術会議の会員が一部の大学に偏っている。民間出身者や若手研究者、地方の会員も選任される多様性が大事だ」などの独自の基準を持ち出したほか、「任命すると公務員になる。学術会議で選考したものを追認するのではなく、政府として関与し、責任を取る必要がある」などと述べました。
そしてMCから具体的な拒否理由を問われるとムカっとした表情で「説明できることとできないことがある」と述べました。
これについて小沢一郎議員は27日、「『説明できることとできないことがある』。説明できないのではなく、非が明らかなので説明したくないだけ。今後、自分達に都合の悪い事柄を全て『世の中には説明できないこともある』で済まされたのではたまらない。もはや前近代的な独裁者の国。絶対に阻止しないといけない」とツイートしました。
菅氏がこの問題について正直な釈明を避け、代わりに余計なことを口にしているうちに、事態はどんどん救いがたい状況に突き進んでいます。
しんぶん赤旗とNHKの記事を紹介します。
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国会では沈黙 TVでは強弁 首相、勝手な基準で任命拒否正当化
学術会議の独立性を破壊
しんぶん赤旗 2020年10月28日
国権の最高機関である国会での初の所信表明ではだんまりを決め込みながら、同じ日の夜のNHK番組では滔々(とうとう)と自説を一方的にまくしたてる―菅義偉首相は26日、自ら任命拒否した日本学術会議会員について、こんな異常な態度をとりました。
首相による任命拒否は、「(学術会議の)推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」とした日本学術会議法にも違反し、「学問の自由」を保障した憲法23条にも反する大問題です。首相の任命は「形式的なもの」とした政府答弁からも逸脱したもので、今国会の焦点課題です。それにもかかわらず、自ら問題を引き起こした菅首相は所信表明演説で一言も触れませんでした。
法治破壊
一方で、NHK番組では学術会議について「若い人が極端に少ない」「結果的に、一部の大学に偏っている」などと問題を学術会議のあり方論にすり替え、「政府として関与し、責任をとる必要がある」と任命拒否を正当化しました。しかし、日本学術会議法17条に「優れた研究又は業績がある科学者」と会員推薦の基準を定めています。今回、政府が任命拒否の根拠にしている2018年の内閣府の文書でも同条の基準を示し、「会員としてふさわしいかどうかを適切に判断しうるのは、日本学術会議である」と明記しています。
にもかかわらず、首相が「推薦はこうあるべき」と法律にない基準を勝手につくって任命拒否することは法治主義のあからさまな破壊です。そもそも菅氏は、学術会議の推薦名簿を「見ていない」と発言しており、語れば語るほど支離滅裂です。
会員の多様性に問題があるかのような首相の言い分については、首相との面談(16日)について、現会員に送られた梶田隆章会長名のメールで、「現在の会員選考方式だからこそ女性会員比率を約35%まで上昇させ、関東圏以外の研究者の割合を50%程度にまで高め、ジェンダーや地域バランスを考慮し、多様な意見をくみ上げることができる会員構成になっている」と説明したとされています。
説明必要
また、菅氏は、学術会議について「年間10億円、国の予算をつかって活動している政府の機関」「(会員に)任命すると公務員になる」と強調しつつ、「組織全体の見直しをしなければならない」などとすりかえ論を連発しました。
しかし、国際的にみて学術会議の予算が少ないことは周知の事実、公務員になるといっても年間の手当は二十数万円程度で、返上している人もいます。
国民が求めているのは、既に行われた任命拒否についての説明です。首相の発言自体、学術会議法第3条に定められた学術会議の独立性を破壊し、憲法で定める「学問の自由」をおとしめる行為です。菅首相は国会での審議から逃げずに任命拒否の理由を説明すべきです。
菅首相 日本学術会議「会員一部大学に偏り 多様性の確保必要」
NHK NEWS WEB 2020年10月27日
日本学術会議が推薦した会員候補6人が任命されなかったことをめぐり、菅総理大臣は、26日夜、NHKのニュースウオッチ9で、会員が一部の大学に偏っていると指摘し、民間や若手、地方からも選任される多様性の確保が必要だという認識を示しました。
この中で菅総理大臣は、日本学術会議の会員について、「最終的には選考委員会の仕組みがあるが、現在の会員が後任を推薦することもできる可能性がある。結果的に一部の大学に偏っていることも客観的に見たら事実だ」と指摘しました。
そのうえで、「『総合的、ふかん的』と申し上げてきたが、幅広く客観的という意味合いもある。民間出身者や若手研究者、地方の会員も選任される多様性が大事だ。組織全体の見直しをしなければならない時期ではないか」と述べました。
一方、推薦された会員候補6人を任命しなかったことについては、「任命すると公務員になる。学術会議で選考したものを追認するのではなく、政府として関与し、責任を取る必要がある。ただ説明できることとできないことがある」と述べました。
このほか菅総理大臣は、不妊治療の保険適用について、「不妊治療で悩んでいる人がたくさんいる中で、できるだけ早く保険適用にしたいと思っており男性も対象に考えている。ただ、少し時間がかかるのも事実で、それまでの間は支援策を大幅に拡充したい」と述べました。
また、脱炭素社会の実現に向けて、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明したことに関連し、原子力発電所の新設や増設について、「安全を優先して、従来通りの方針で進めていきたい」と述べました。