2020年10月3日土曜日

菅首相の「日本学術会議」人事介入に非難殺到 黒川氏定年延長と同じやり口

  官僚に対して「政府の方針に反対するのであれば異動して貰う」と明言して登場した菅政権は、学術の世界にまで「恐怖人事」の手を伸ばそうとしています。菅首相が「日本学術会議」が推薦した新会員候補105人のうち、先の安保法制や共謀罪法に反対した会員候補6人の任命を拒否たことに対して、〈#日本学術会議への人事介入に抗議する〉のツイートは2日19時現在で約25件に達しました

 加藤勝信官房長官は1日の記者会見で「首相の下の行政機関である学術会議において、政府側が責任を持って人事を行うのは当然」と述べ2日には「任命権者である首相が日本学術会議法に基づいて任命を行った」と説明しましたが、それは大間違いです。
 1983(昭和58)年5月12日の参院文教委員会で日本学術会議の新会員の選定を公選から推薦に変え、その推薦に基づいて首相による任命制とする改正案について、当時、内閣官房総務審議官は「私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません」と答弁し、内閣官房参事官も「総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうに解釈」しており、「内閣法制局において法案の審査のとき十分その点は詰めた」と答弁しています。当時の中曽根康弘首相も「学会や学術集団から推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎない」「実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので政府の行為は形式的行為」と明確に答弁しています。(文教委員会会議録第号 昭和58年5月12日【参議院】
 現にこの改正案が可決された際の附帯決議では〈内閣総理大臣が会員の任命をする際には、日本学術会議側の推薦に基づくという法の趣旨を踏まえて行うこと〉となっています。
 要するに公式の政府見解では、首相による任命は「形式的行為」でしかなく、日本学術会議からの推薦を任命拒否することは、明確に「法の趣旨」に反しているのです。

 しかし日の野党合同ヒアリングで、「任命拒否」をめぐって2018年に内閣府は内閣法制局に対し法解釈について問い合わせを行い、菅政権発足直前の先月9月2日ごろにも内閣府は内閣法制局に2018年の法解釈について口頭で確認を行っていたことが分かりました。そうであれば安倍政権時代から日本学術会議からの推薦者を任命せずに拒否する策を練っていたということになり、黒川氏の任期延長問題で、立法の趣旨に反する解釈変更を「閣議決定」したのと同じことを狙っていたことになります。
 野党合同ヒアリングで「解釈変更したのか」と問われても、内閣府や内閣法制局側は今回の任命拒否は「解釈の変更ではない」と強弁し、2018年に作成されたという法解釈にかんする文書も「確認中」だと繰り返して提出されませんでした。

 黒川氏の任期延長問題の時の醜態を再演することになれば、菅政権の評判は早々に地に落ちることになります。
 LITERAと東京新聞の記事「菅首相が学術会議の任命を拒否した6人はこんな人 ~ 」を紹介します。
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菅首相の「日本学術会議」人事介入に非難殺到、三浦瑠麗までが批判! 政府見解に反する人事強行は黒川検事長定年延長と同じやり口
                         LITERA 2020.10.02
 日本学術会議が推薦した新会員候補の6人を菅義偉首相が任命しなかった“強権的人事”問題に、大きな批判が巻き起こっている。〈#日本学術会議への人事介入に抗議する〉というハッシュタグはトレンド入りし、13時現在で約18万ツイートされているのだ。
 当然の反応だ。本サイトでも昨日お伝えしたとおり、これは憲法で規定される「学問の自由」を踏みにじる行為にほかならない。しかも、任命されなかった6人は安保法制や共謀罪など安倍政権の政策に批判をおこなった学者であり、あきらかに恣意的な排除であることは明々白々だ。
 しかも、ネット上がざわついたのは、“排除”された学者のなかに、加藤陽子・東京大学大学院教授や宇野重規・東京大学教授という、「左派」でもない、そしてともに現在の歴史学・政治思想史を代表する人物が含まれていたことだ。
 たとえば、ライター・編集者で『グッとラック!』(TBS)火曜コメンテーターの望月優大氏は〈『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』の加藤陽子先生、『保守主義とは何か』の宇野重規先生、特段ラディカルでもない、真っ当に研究をされ、一般向けの著書も数多く書いてこられた研究者すら許容することができない。どこまで極化し、どこまで落ちるつもりなのか〉と指摘。あの三浦瑠麗氏でさえ、〈私の隣接分野からいえば宇野重規さん、加藤陽子さんは書き手としても優れた方だが、そもそも彼らの本など読んだこともないだろう人々が、何らかの記事をもとに名簿を浚い問題アリのチェックでも入れたのだろう〉と述べているほどだ。
 たしかに加藤氏は特定秘密保護法を批判し、宇野氏も安保法制に反対していた。だが、それは党派的な問題ではなく、まともな見識を持ち合わせていれば当然の態度だ。小説家の倉数茂氏は〈仮に加藤陽子や宇野重規を「左」とすると(ありえないけど)、中道ってどれくらいだろう。百田尚樹あたり?〉とつぶやいていたが、それほどトンデモな話なのだ。
 だが、今回の問題における最大の焦点は、政府が不当な人事介入により「学問の自由」を侵害していることであり、しかも菅首相が「任命しなかった」ことが、これまでの政府見解に反している、という点だ。
 加藤勝信官房長官は昨日の定例会見で「法律上、内閣総理大臣の所轄であり、会員の人事等を通じて一定の監督権を行使するっていうことは法律上可能となっております」と述べたが、これは日本学術会議法改正案が審議された1983年の政府国会答弁と食い違う。

中曽根元首相は「政府が行うのは形式的任命にすぎません」と答弁
 実際、1983年5月12日の参院文教委員会では、日本学術会議の新会員の選定を公選から推薦にし、その推薦に基づいて総理大臣による任命制をとるとする改正案について、手塚康夫・内閣官房総務審議官(当時)は「私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません」と答弁。さらに、高岡完治・内閣官房参事官(当時)も「内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうにこの条文を私どもは解釈」「内閣法制局におきます法律案の審査のときにおきまして十分その点は詰めたところ」と答弁している。さらに、当時の中曽根康弘首相も、こうはっきりと述べていたのだ。
「学会やらあるいは学術集団から推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎません」「実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので、政府の行為は形式的行為
 現に、この改正案が可決された際の附帯決議では〈内閣総理大臣が会員の任命をする際には、日本学術会議側の推薦に基づくという法の趣旨を踏まえて行うこと〉とある。つまり、政府見解では総理による任命は「形式的行為」でしかなく、日本学術会議からの推薦を任命拒否することは、明確に「法の趣旨」に反しているのである。
 しかし、内閣府と内閣法制局が参加した本日の野党合同ヒアリングでは、新たな事実が判明した。というのも、「任命拒否」をめぐっては、2018年に内閣府は内閣法制局に対し法解釈について問い合わせをおこない、菅政権発足直前の先月9月2日ごろにも内閣府は内閣法制局に2018年の法解釈について口頭で確認をおこなったというのだ。
 これが事実ならば、安倍政権時代から日本学術会議からの推薦者を任命せずに拒否する策を練っていたということになる。実際、日本学術会議は2017年3月にも軍事研究を否定した過去の声明を継承するとした新声明を出すなど、軍学共同を進める安倍政権に釘を刺していた。同年秋におこなわれた改選で安倍首相は任命を拒否することはなかったが、実際には政策に疑義を唱える日本学術会議への報復のため、人事による萎縮を狙い任命拒否できる方法を探っていたのだろう。
 となると、重要なのは2018年におこなわれたという法解釈の中身だが、野党合同ヒアリングで「解釈変更したのか」と問われても、内閣府や内閣法制局側は「まさに義務的に任命されなければならないということではないというふうに解釈している」などと明言を避け、今回の任命拒否は「解釈の変更ではない」と強弁。2018年に作成されたという法解釈にかんする文書も「確認中」だと繰り返して提出されることはなかった

黒川検事長問題を彷彿も、国会召集を一転して先延ばしして説明から逃げる菅首相
 黒川弘務・東京高検検事長の定年延長問題でも後付けで「解釈変更した」などと言い出したが、今回も同じような辻褄合わせをおこなうつもりなのか、それとも解釈を変更するにはあまりにも無理があるため「適法だ」で強引に押し通す気なのか──。ともかく、重大な違法性が指摘されるこの問題について、早急な国会審議が求められるのは言うまでもない。
 しかし、この騒ぎの最中、なんと菅首相はさらに国会召集を先延ばしにするというのだ。
 臨時国会の開催については、9月30日の与野党国対会談では10月23日に召集する方向で調整されていたのだが、菅首相が今月中旬からベトナムとインドネシアを訪問する外遊日程を理由に、自民党側は昨日1日、一転して「26日召集」と方針転換したのだ。
 そもそも、菅首相はいまだ国民に向けた所信表明演説もおこなっておらず、所信表明が就任から約40日後になるというのは異常事態であり、それをすっ飛ばして外遊に出かけるとは国民・国会軽視も甚だしい。この決定の背景には外遊に出かけることで「やってる感」アピールをしたいという姑息な思惑もあるのだろうが、同時に、任命拒否問題が騒ぎになることを見越し、少しでも国会論戦を先延ばしにしようとしたのではないか。
 しかも、菅首相の動きにはほかにも怪しい点がある。じつは菅首相は昨日の午後、官邸からわざわざ議員会館に赴き、安倍前首相と面談をおこなっているのだ。このタイミングからして、日本学術会議への報復という「安倍政権の継承」を、あるいは今後の対応や方針を報告していても不思議ではないだろう。
 今回、菅首相が任命しなかった加藤陽子・東京大大学院教授は、NHKの取材に対し、こんなコメントを寄せている。
「内閣総理大臣が学術会議の決定を経た推薦名簿の一部を拒否するという、前例のない決定の背景を説明できる協議文書や決裁文書は存在しているのでしょうか。この決定の経緯を知りたいと思います」
「総理大臣官邸において従来通り、そのまま承認しようとの動きをもし最終盤の確認段階で止めた政治主体がいるのだとすれば、それは、『任命』に関して、裁量権の範囲を超えたものです」
 学問の自由を侵害し、“排除”によって萎縮させようという見せしめを平気でおこなう菅首相。徹底した追及が必要だ。(編集部)

菅首相が学術会議の任命を拒否した6人はこんな人 安保法制、特定秘密保護法、辺野古などで政府に異論
                          東京新聞 2020年10月1日
 政策提言を行う国の特別機関「日本学術会議」が、新会員として内閣府に推薦した法律・歴史学者ら6人の任命について、菅義偉首相が拒否していた問題。6人は安全保障関連法や特定秘密保護法などで政府の方針に異論を示してきた。政府の意に沿わない人物は排除しようとする菅政権の意図が浮かぶ。

東京大社会科学研究所教授の宇野重規教授(政治思想史)
 2013年12月に成立した特定秘密保護法に対し、「民主主義の基盤そのものを危うくしかねない」と批判。「安全保障関連法に反対する学者の会」の呼び掛け人にも名を連ねていた。07年に「トクヴィル 平等と不平等の理論家」でサントリー学芸賞受賞。
早稲田大大学院法務研究科の岡田正則教授(行政法)
 「安全保障関連法案の廃止を求める早稲田大学有志の会」の呼び掛け人の1人。沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設問題を巡っては18年、他の学者らとともに政府の対応に抗議する声明を発表。
東京慈恵会医科大の小沢隆一教授(憲法学)
 15年7月、衆院特別委員会の中央公聴会で、野党推薦の公述人として出席。安保関連法案について「歯止めのない集団的自衛権の行使につながりかねない」と違憲性を指摘し、廃案を求めた。
東京大大学院人文社会系研究科の加藤陽子教授(日本近現代史)
 憲法学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」の呼び掛け人の1人。改憲や特定秘密保護法などに反対してきた。10年に「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」で小林秀雄賞を受賞。政府の公文書管理委員会の委員も務めた。
立命館大大学院法務研究科の松宮孝明教授(刑事法)
 17年6月、「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法案について、参院法務委員会の参考人質疑で、「戦後最悪の治安立法となる」と批判。
京都大の芦名定道教授(キリスト教学)
 「安全保障関連法に反対する学者の会」や、安保法制に反対する「自由と平和のための京大有志の会」の賛同者。