2020年10月8日木曜日

法の支配破壊する菅ファッショ政治(植草一秀氏)ほか

  7日「日本学術会議」が推薦した会員候補6人が任命されなかったことをめぐり衆議院内閣委員会が開かれ、野党側が任命しなかった理由を糾したのに対し、政府側は「菅首相は任命権者として、総合的、ふかん的な観点から判断した」などと、説明にならない説明に終始しました。

 政府18年に「会議の推薦通りに任命すべき義務があるとまでは言えない」とする文書をまとめたことについて、野党側が、過去の答弁と矛盾するので法律の解釈変更ではないかと指摘したのに対し、政府側は、「考え方を変えたということではないので、解釈変更ではない」と説明しました。しかし過去の答弁では「推薦の通り任命する」と明言していたので、政府の説明は矛盾しています。この内閣法制局の見解は、政権が学術会議の人事に介入したいという要求を叶えるべく無理を承知で作成したものと解されます。政府は「引き続き丁寧に説明し理解を求める」としていますが、元々矛盾していることを論理的に説明出来るはずがありません。
 いずれにしても6人を任命しなかった理由を明らかにしないことにはこの問題は決着しません。しかし合理的な理由がある筈がないので動きが取れないわけです。菅政権が安倍政権の違法・ゴマカシ・隠蔽の体質をそのまま継承していることが早くも明らかになりました。
 この問題について、植草一秀氏が関連する政府側の過去の発言を分かりやすく整理した記事「法の支配破壊する菅ファッショ政治」を出しましたので紹介します。
 併せて北海道新聞の社説「学術会議人事 首相の説明成り立たぬ」と、6日夜首相官邸前で行われた700人の集会のレポート(レイバーネット日本)と紹介します。
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法の支配破壊する菅ファッショ政治
                                      植草一秀の「知られざる真実」 2020年10月 7日
日本学術会議法は前文に以下のように記す。
日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される。

会員についての規定は第七条が定めている。
第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。
2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。
 第十七条は以下のもの。
第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。

日本学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命するプロセスについては1983年の政府答弁が存在する。
1983年5月12日、参院文教委員会で当時の中曽根康弘首相が「政府が行うのは形式的任命にすぎません」と答弁している。
また、同年11月24日の参院文教委員会で日本共産党の吉川春子参院議員の質問に対し丹羽兵助総理府総務長官(当時)が「学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない、そのとおりの形だけの任命をしていく」と答弁している。

日本学術会議法は、
日本学術会議が優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、
この推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する ことを定めている。
この法律の運用に関して、
内閣総理大臣による任命は「形式的なものであること、
学会が推薦した者を拒否はしないこと、
推薦のとおりの形だけの任命をしていくこと、
が国会答弁で明示された。これが法律である。

「法の支配」とは、「個人の権利・自由を擁護するため、権力を法で拘束することによって専断的な国家権力の行使(支配)を排斥するという英米法上の根幹原理」である。
政府は法を執行する機関であって法を勝手に改変することが許された機関でない。政府の専断的権力行使を排斥するために権力を拘束する手段が法である。
政治権力が専断的に法の解釈を変更して行使することは「法の支配」の破壊行為である。

安倍内閣は日本国憲法第9条の解釈を勝手に変えた。
「憲法第9条の規定により集団的自衛権の行使は許されない」との憲法解釈を明示したのは日本政府である。
1972年10月14日の参議院決算委員会提出資料に次のように明記された。
「わが憲法の下で武カ行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」
この憲法解釈が政府の公式見解として40年以上にわたって維持されてきた。
したがって、その憲法解釈は憲法の一部を成すものである。

政府が、日本を取り巻く国際環境の変化等の事情から集団的自衛権の行使を容認する必要性を認識するなら、立法機関である国会に憲法改正を提案し、立法機関の発議を経て適正な手続きによって憲法を改正する必要がある。この手続きを経て初めて集団的自衛権の行使は容認される
政府が勝手に憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を容認することは「法の支配」、「立憲主義」の破壊行為である。

日本学術会議法は会員候補推薦の要件を定めるとともに、内閣総理大臣が日本学術会議の推薦に基づいて任命をすることを定めている。
その任命に際しては日本学術会議の推薦のとおりに形だけの任命をすることが国会答弁で明示されてきた。これ以上でも以下でもない。この運用を逸脱することは「法の支配」の破壊そのものだ。
            (以下は有料ブログのため非公開)


社説 学術会議人事 首相の説明成り立たぬ
                                                                      北海道新聞 2020/10/07
 菅義偉首相が科学者の代表機関「日本学術会議」から推薦された新会員候補6人を任命しなかったことについて、北海道新聞などのインタビューに見解を示した。
 だが到底納得できるものではなく、説明になっていない。
 6人が安全保障法制や「共謀罪」法など安倍晋三前政権の重要施策に反対したことは「一切関係ない」とした一方、任命拒否の個々の理由は明らかにしなかった
 1983年、人選方法を学者による選挙制から現在の首相任命制に法改正した際、当時の中曽根康弘首相は「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と述べていた。
 理由も示さず一部学者を排除することは、憲法23条が保障する「学問の自由」と、学術会議の独立性を脅かすものだ。
 首相はインタビューで「推薦された方をそのまま任命する前例を踏襲してよいのか考えてきた」と述べ、任命拒否は自らの判断だったと事実上認めた。
 省庁再編の際の議論を受け「(学術会議に)総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を求めることになった」とも述べたが、任命拒否とどうつながるのか、まったく説明はない
 さらに学術会議には年間約10億円の予算を拠出し、会員は特別公務員に当たると強調し、現在の推薦方法は「現会員が後任を指名することが可能」として、見直しが必要だったとの認識を示した。
 では何が問題なのか。具体的に示して、国会で議論すればよいではないか
 学術会議は先の大戦で学者が戦争に関わった反省から、政府から独立して政策提言してきた。時の政権が人事を握り、運営に影響を与えることがあってはならない。
 加えて問題なのは安倍政権から政治介入が始まっていたことだ。
 2016年の補充人事の際、選考の初期段階で学術会議が挙げた候補に首相官邸が難色を示し、一時欠員状態となっていた。
 17年の会員交代期には、官邸側が定員より多い名簿を示すよう求め、学術会議が応じていた。
 双方とも一連の経緯をつまびらかにすべきだ。
 政府は、学術会議の推薦通りに首相が任命する義務はないとする内閣府見解をまとめた18年の文書を公開する一方、83年の法解釈は変更していないと説明している。
 矛盾しているのではないか。
 前例のない検察官の定年延長を決めた時と同様、法の恣意(しい)的運用が過ぎる。まずは任命拒否を撤回するのが筋である


戦争への道はごめんだ!〜「日本学術会議への人事介入」反対行動に700人
                http://www.labornetjp.org/news/2020/1006shasin
                                                       レイバーネット日本 2020-10-06
                     動画(6分半)⇒ https://youtu.be/_30xP8lzaHc

 10月6日夜の首相官邸前には市民が続々と集まってきた。官邸側歩道だけでなく議事堂側歩道にも人々があふれだし、警察が大慌てで規制をかけていた。菅政権による「日本学術会議への人事介入」に対する危機感は大きかった。菅首相を皮肉った似顔絵入りの手づくりプラカードが目立つ。参加者は700人に達した。
 午後6時半から抗議集会がはじまった。主催者の藤本泰成さんが、天皇機関説など意に沿わない学者を弾圧して、戦争に突入していった戦前の軍部独裁の歴史を振り返り、「その反省の上に現在の制度ができた。いま菅政権がやっていることは戦前の軍部独裁政権と変わらない。けっして許さない」と語気を強めた。
 つづいて野党3党(沖縄の風、立憲、共産)の代表が挨拶した。立憲民主の黒岩宇洋議員は「菅内閣は安倍政権以上に強権的で独善的だ」と批判した。井上哲士議員(共産)は、「大学に資金を提供し軍事研究を進めたい政府にとって、“戦争目的の研究はしない”という学術会議の存在が邪魔で仕方なかった。そこに任命拒否の一番の理由がある」と指摘した。
 小森陽一さん(東大名誉教授/写真上)も、「2015年に多くの学者が、シールズたち学生や市民と一緒に会をつくり、安保法制反対に立ち上がった。学術会議メンバーの“日本を絶対に戦争する国にしない”という強い思いが、野党と市民の共同行動の大きな力になった。今回の任命拒否は、それに対してまっこうから攻撃をかけたきたもの。だからこの問題は私たちみんなの問題だ」と力強く訴えた。
 この日の発言を通して、「日本学術会議」の任命拒否をめぐる問題は、アベスガの「戦争する国」路線との対決であることが浮き彫りにされた。なお集会には任命拒否された小澤隆一教授(写真上)もアピールし、大きな拍手を浴びていた。(M)