タイトルに 「あの百地章氏」とあるのは、15年の安保法案をめぐり、当時の菅官房長官が「集団的自衛権(の使用)をまったく違憲じゃないという、著名な学者が200人以上いる」と言ったものの、その名前を問われると3人しか挙げることができず、そのうちの1人が百地氏だったからでした。百地氏は安倍前首相のブレーンの1人で、右翼組織・日本会議(「日本学術会議」ではアリマセン)の政策委員を歴任した人です。
日本学術会議会員の任命拒否が合法であるかについての見解を法学者に聞けば、合法であるとする人の比率は多分安保法案の際の比率と同じようなものになると思われます。それなのに29日放送のNHK「ニュースウォッチ9」が、日本学術会議前会長・山極氏のインタビューを報じた際に、前会長のインタビューのあとに百地章氏の任命拒否賛成の発言を紹介しました。
⇒ (NHK 29日)【学術会議】山極前会長「2年前も難色 理由示さず恐ろしい」
(NHK 29日)【学術会議】憲法専門の百地氏「首相の任命権 自由裁量ある」
百地氏の言い分は要するに「総理大臣の任命権は、学術会議の推薦に拘束されるものではなく、ある程度の自由裁量はある」、「法律の解釈は変わていない」として、「学術会議そのものにも問題があると考える人たちも増えている」、「学問の自由を侵し萎縮を招くといった批判はナンセンス。学術会議の会員になれなかったからと言って、学問の自由は侵害されない」という、菅首相の言い分を100%肯定するものでした。ネトウヨの主張そのものといった方が良いかも知れません。
NHKが山極前会長のインタビューに対置してわざわざそんなカウンター意見を報じたことに、ツイッター界では批判が沸騰しました。法学者間で「数千人(数万人?)対 数人」もの差がついている意見を等値化したかの様に扱ったのですから当然の批判です。
J-CASTニュースが報じました。
かつて安倍政権は、政治問題で反対意見等を報じる場合には必ず併せて賛成意見も報じるようにとメディアに通達しました。その辺のバランスは当然メディアはケースバイケースで考えているので、それを一律に強制するというのは報道に対する違法な介入です。その大元は当時の菅官房長官なので今度もNHKは敢えて忠実に実行したものと思われますが、ここまでくると笑い話です。
菅氏は学問の自由への介入だけでなく、報道への介入も様々にやってきました。
安倍政権亜流の菅政権には一刻も早く去ってもらい、国のあらゆるゆがみをリセットしたいものです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
NHK、あの「百地章」氏出演の波紋 「国営忖度放送」に堕したか、巧みな「方便」か
J-CASTニュース 2020年10月30日
菅義偉首相が日本学術会議が推薦した法律・歴史学者6人を任命しなかった問題で、NHKのニュース番組に登場した「識者」の人選をめぐり、波紋が広がっている。番組でコメントしたのは、百地章・国士舘大学特任教授。2015年に可決・成立した安全保障関連法について、違憲ではないとの見解を表明していた数少ない憲法学者だ。
多数の学者が学術会議の問題についてコメントする中、百地氏は、今回の問題ではほとんどメディアに登場していない。番組で強引に両論併記の体裁をつくろうとするための登場だとして批判的な見方がある一方で、あえて「バランサー」を仕込むことの意義を指摘する声もある。
3人しか挙がらなかった「安保法制を違憲じゃないと発言している憲法学者」
百地氏の知名度が比較的上がったのが15年の安保法案をめぐる攻防だ。当時は官房長官だった菅義偉首相が記者会見で、集団的自衛権について「『まったく違憲じゃない』という、著名な学者もたくさんいらっしゃる」と述べたことを受け、辻元清美衆院議員が衆院安保法制特別委員会で、
「200名以上の方が、この法案は憲法違反だという声明を上げている」
「違憲じゃないと発言している憲法学者の名前を、いっぱい挙げてください」
と質問。菅氏が名前を挙げられたのは3人だけだったが、その1人が百地氏だった。
議論を呼んだのは、20年10月29日放送の「ニュースウォッチ9」と「NHK クローズアップ現代+」。このうち「ニュースウォッチ9」では、20年9月まで日本学術会議の会長を務めた山極壽一氏がインタビューで登場し、18年に定年で会員の補充が必要になった際、学術会議側が検討していた候補について官邸側が難色を示したことを明かした。当時の経緯を
「杉田(和博)官房副長官が、様々なことを決定していたのだと思う。私は面会(の依頼)を何回も申し上げた。ところが『来る必要はない』ということだ」
などと説明し、
「今度の任命拒否が、これをきっかけにして様々なところに広がる。つまり、任命権者が、これを認めないと言ったら、理由もつけずにそれが通るんだ、という広がりはしないか。人事まで国が介入してくるとなると、これはやっぱりアカデミア、特に大学の自立性というものが大きく阻害されると思う」
などと今後の懸念を表明した。
大手紙・主要地方紙にコメントしたのは産経新聞「正論」欄のみ
番組では続いて、坂井学・官房副長官による
「ご指摘の報道は承知している。お尋ねは人事にからむということもあり、お答えは差し控えさせていただきたい」
という記者会見での政府答弁を紹介し、直後に
「憲法が専門の百地章・国士舘大学特任教授は、6人が任命されたなかったことについて、『任命拒否はありうる』として、次のように指摘しました」
というナレーションとともに百地氏が登場した。前出の安保関連法案をめぐる経緯は説明されなかった。
百地氏は
「首相の任命権は、学術会議の推薦に拘束されるものではないから、ある程度の自由裁量はある。裁量権を行使して、全体の構成、バランス、政治的中立性等を配慮して、あのような拒否をしたということで、私は妥当だと思っている」
などと持論を展開。
「学問の自由を侵し萎縮を招く」という批判に対しては、
「まったく、私から言わせるとナンセンスであって、学術会議の会員になれなかったからといって学問の自由が侵害されますか? 自由に何でもできるわけでしょ? それはちょっと、考えすぎではないか」
と主張した。百地氏がコメントしたのは1分20秒ほど。この日本学術会議に関する項目で、識者として登場したのは百地氏だけだった。
NHKはこの日、「ニュースウォッチ9」直後の「NHK クローズアップ現代+」でも日本学術会議の問題を特集。「ニュースウォッチ9」とほぼ同じ内容の百地氏らのインタビューが流された。
なお、大手紙や通信社、主要地方紙、NHKニュースの記事が収録されているデータベース「日経テレコン」で調べる限りでは、百地氏がこの問題についてコメントしたのは、10月28日付の産経新聞「正論」欄のみ。「内閣には会員任命の拒否権あり」の見出しがついている。さらに、同じく「日経テレコン」で分かる限りでは、百地氏がNHKの全国ニュースに登場するのは、16年12月9日の天皇陛下の退位などを検討する有識者会議のニュース以来、約4年ぶりだ。つまり、NHKは、日本学術会議の問題については1回しか見解を出しておらず、4年近くにわたって自社のニュースに登場してこなかった人物のコメントを、あえて紹介したことになる。
小西議員「政治的公平等の放送法違反」VS山口二郎氏「世渡りも必要ということ」
百地氏のインタビュー部分はNHKのウェブサイトにも記事として掲載され、その記事を紹介したNHKニュースのツイートには、250回以上「引用リツイート」された。その大半がNHKの人選に批判的なものだ。例えば元AKB48の内山奈月さんとの共著でベストセラーになった「憲法主義 ―条文には書かれていない本質―」(PHP研究所、2014年)などで知られる、九州大の南野森(みなみの・しげる)教授は、NHKのツイートを引用しながら、
「詳しくは知らんが、異論極論珍論を言って注目浴びて両論併記枠で出演確保する学界的にはぽかん? な法学者は時々どの世代にもいる。NHK御用達」
と指摘した。
立憲民主党の小西洋之参院議員は、番組で流れたインタビューの画像とともに、
「安保法制を合憲と主張する全国で数人しかいない憲法研究者の百地章氏が登場。『任命拒否は妥当、学問の自由侵害はナンセンス』など言いたい放題の垂れ流し」
などとNHK批判をツイート。
「政治的公平等の放送法違反。国営忖度放送に受信料を求める法的資格はない」
と主張した。
一方で政権に批判的なことで知られる山口二郎・法政大教授は、
「NHKのクローズアップ現代を見て、現場の制作者の良心を感じた。百地を出すのはけしからんではない。この程度のバランサーを入れておかなければ、後でつぶされる。目的を実現するためには、世渡りも必要ということ」
とツイート。日本学術会議の問題を指摘するための戦術としては、百地氏の見解を紹介することも妥当だとの見方を示した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)