2020年10月13日火曜日

13- 米科学誌 トランプ氏「不支持」異例の表明 菅氏の会員任命拒否も批判

  世界で最も権威のある米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」は8日付論説で、トランプ氏コロナ対策において、▽ワクチン開発を政治利用し信用低下を招いた ▽専門家を無視し規制当局に圧力をかけた などと問題点を列挙し、対策のほぼすべての段階で失敗し、危機を悲劇に変えてしまった」と指摘しました。

 また一般向け科学誌「サイエンティフィック・アメリカン」も先月15日、「我々は175年の歴史の中で、特定の大統領候補を支持したことはなかったが、今年はそうせざるを得ない。トランプ氏は科学を無視し、人々を傷つけた」とする声明を公表し、ジョー・バイデン前副大統領を支持する方針を明らかにしました。
 読売新聞が報じました。

 世界で最も権威のある科学誌の1つとされるイギリスの「ネイチャー」は、今月8日政治と科学の関係性についての社説を掲載し、日本学術会議の会員候補6人が任命されなかったことにも触れながら、学問の自律性を尊重することの重要性を訴えました
 その中で、学問の自律性と自由を守るという何世紀にもわたって存在してきた原則を、政治家が後退させようとする兆候があるとしたうえで国家が学問の独立性を尊重することは、現代の研究を支える基盤の1つで政治家がこうした約束を破るなら、人々の健康や環境、それに社会を危険にさらすことになると訴え「科学と政治の関係が危機にさらされている。黙って見ていることはできない」と締めくくっています。
 NHKが報じましたので併せて紹介します。
 ここでは各国の学術機関の在り方が紹介されているので、日本学術会議の将来像を考える上で参考になります。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米科学誌、トランプ氏「不支持」異例の表明相次ぐ…
 コロナ対策「危機を悲劇に変えてしまった」
                              読売新聞 2020/10/12
【ワシントン=船越翔】世界的に著名な米国の科学誌が、共和党のトランプ大統領の新型コロナウイルス対策を理由に、11月の大統領選での不支持を相次いで表明した。米国内で感染拡大が続く中、政治とは一定の距離を保ってきた科学誌が、現職大統領を強く非難するのは異例だ。
 「ほぼすべての段階で失敗し、危機を悲劇に変えてしまった」。米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」は8日付論説で、トランプ氏のコロナ対策についてそう指摘した。
 同誌は米国の医学団体が1812年に創刊した。投稿された論文の内容を専門家が査定する「査読」付きの医学誌として世界で最も権威があると評され、米メディアによると、特定の政治家批判は初めてという。
 論説では、▽ワクチン開発を政治利用し、信用低下を招いた 専門家を無視し、規制当局に圧力をかけた――などと問題点を列挙。その上で「リベラルや保守に関係なく、現政権は公衆衛生の危機に無能であることを示した。さらに多くの命を奪うことに加担してはならない」と主張し、トランプ氏へ投票しないよう呼びかけた。

 1845年創刊の一般向け科学誌「サイエンティフィック・アメリカン」も先月15日、「我々は175年の歴史の中で、特定の大統領候補を支持したことはなかったが、今年はそうせざるを得ない。トランプ氏は科学を無視し、人々を傷つけた」とする声明を公表。民主党のジョー・バイデン前副大統領を支持する方針を明らかにした。
 両誌がこれまで政治的な主張を控えてきた背景には、「科学は公平・中立であるべきだ」との考えがある。医療政策に詳しい米ハーバード大のトーマス・リー教授は米ニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、「歴史的な問題が起きている中、口を閉ざすことは恥にもつながる」と肯定的な見解を示した。
 トランプ氏はコロナ感染後も「恐れるな」「インフルエンザほど致命的ではない」と述べるなど、ウイルス軽視の姿勢を見せている。これに対し、バイデン氏は科学重視の姿勢を強調しており、今後もコロナ対策を巡る両者の言動が注目を集めそうだ。


科学誌「ネイチャー」 日本学術会議の任命見送り 社説に掲載
                      NHK NEWS WEB 2020年10月9日
国際的な科学誌として知られる「ネイチャー」は、政治と科学の関係性についての社説を掲載し、日本学術会議の会員候補6人が任命されなかったことにも触れながら、学問の自律性を尊重することの重要性を訴えました
世界で最も権威のある科学誌の1つとされるイギリスの「ネイチャー」は、今月8日付けでアメリカのトランプ政権や、大統領選挙が科学に与える影響についての記事を掲載し、「科学と政治の切っても切れない関係」と題する社説を掲載しました。
この中では、学問の自律性と自由を守るという何世紀にもわたって存在してきた原則を、政治家が後退させようとする兆候があるとしたうえで「気候変動の分野では、多くの政治家が明確な証拠を無視している。こうしたことは科学的な知見が必要とされる、ほかの公共分野でも見られるようになった」と指摘しました。
そして、ブラジルのボルソナロ大統領が「アマゾンの森林破壊が加速している」という研究報告を受け入れなかったことなどと並んで、日本学術会議の問題を取り上げ「日本の菅総理大臣が、政府の科学政策に批判的だった6人の科学者の任命を拒否した」と紹介しました。
そのうえで、社説では国家が学問の独立性を尊重することは、現代の研究を支える基盤の1つで政治家がこうした約束を破るなら、人々の健康や環境、それに社会を危険にさらすことになると訴え「科学と政治の関係が危機にさらされている。黙って見ていることはできない」と締めくくっています。

欧米の学術機関は政府から独立した機関
「日本学術会議」と同様に科学者が政府に対して提言を行う学術機関は欧米各国にもあり、政府から独立した機関として運営されています
このうち、アメリカの学術機関「アメリカ科学アカデミー」は、南北戦争のさなかの1863年、政府などに対して科学や技術に関する専門的な助言を行う組織として、当時のリンカーン大統領が法律に署名して設立されました。
政府から独立した非営利組織で、連邦政府や議会などから依頼を受け、現在では同様の組織の「アメリカ工学アカデミー」と、「アメリカ医学アカデミー」とともに、科学や技術に関する幅広い政策課題に関して、6000人以上の科学者や技術者が無報酬で協力し、政策提言や助言を年間数百件行っています。
財源は助言を行った際に政府機関から支払われる対価や、寄付などで、ウェブサイトによりますと、2018年は3つのアカデミー合わせて連邦政府からおよそ2億ドル、日本円で210億円余り、助成金や寄付でおよそ5500万ドル、日本円で58億円近い収入を得ています
アメリカ科学アカデミーは、およそ2900人いる会員のうち、およそ190人がノーベル賞受賞者で、世界各国の研究者が競って研究成果を発表する、評価の高い科学雑誌、「アメリカ科学アカデミー紀要」を発行するなど、世界有数の学術団体として国際的に認識されています。
また、イギリスには世界で最も伝統のある学術機関「王立協会」があり、当時の国王、チャールズ2世から認可を得て、1660年に設立されました。
1703年には万有引力の法則を発見したニュートンが会長を務めています。
設立の経緯から名称は「王立」となっていますが、民間の非政府組織として活動していて、ウェブサイトには、最初のページに「私たちは、人類のために科学の発展に寄与する独立した科学アカデミーです」と記されています。
およそ1600人の会員のうち、およそ70人がノーベル賞受賞者で、政府や議会などから依頼を受けたり、団体みずからが働きかけたりして、科学や技術に関する政策提言を行っています。
財源は、政府からの助成金や寄付などで、2018年には政府からはおよそ4700万ポンド、日本円で64億円余りの助成金を、また、寄付でおよそ350万ポンド、日本円で4億8000万円近くの収入を得ています。
海外の学術機関の動向に詳しい、科学技術振興機構研究開発戦略センターの永野博特任フェローによりますと「アメリカ科学アカデミー」や、「王立協会」など先進国の学術機関はほとんどが民間団体で、「日本学術会議」のように政府機関として設置され、全額国費でまかなわれ、運営されているのは珍しいということです。
日本学術会議の予算は、およそ年間10億円と欧米の学術機関に比べると大幅に少なくなっています。
また、日本学術会議は会員が210人、連携会員がおよそ2000人で、会員は任期が6年となっていて、3年ごとに半数が入れ代わるのに対し、各国では終身制を採用しているところが大半だということです。
さらに、各国の学術機関は議会に対しても、働きかけたり、依頼を受けたりするなど、関係を持ちながら提言を行っていますが、日本学術会議の場合、法律の規定で「内閣総理大臣の所轄」となっていて、政府機関とされていることから、国会との関係が薄く、「政治家が科学者の意見を広く聞く体制になっていない」と指摘しています。
永野特任フェローは「先進国では、科学が社会の中で地位を高めていく中で、自然発生的に学術団体が結成され、政府から独立した組織として存在している。設置の経緯や組織の形態の違いはあるが、日本学術会議も運営の独立性が『日本学術会議法』に基づいて担保されるべきで、政府は会員の候補を任命しなかった理由をきちんと説明する必要がある」と話しています。

日本国内90余の学会が緊急声明
            (中 略)
学術団体と政府の対立 欧米でも
科学技術と社会の関わりについて研究している大阪大学の標葉隆馬准教授によりますと、欧米各国でも、学問の自由や科学政策の在り方などをめぐって学術団体などの科学界と政府が対立することはあるということです。
標葉准教授は「欧米でも、学術団体には政府の資金が投入されていることが多く、科学と政治の間に緊張関係はあるが、変革を求めるときは正面から議論するなど、手続きの法的な正統性を大切にしている。日本学術会議について組織改革を求めるならば、政府が日本学術会議に諮問して答申を示してもらうなど、別の方法があるのではないか」と話しています。