2020年10月6日火曜日

剥き出しになった菅首相の正体(日刊ゲンダイ)

 菅首相が、日本学術会議の新会員に推薦されたうちの6人の任命を拒否した背景には、安倍政権下で官房長官として官僚人事を掌握した成功体験がありました。菅氏が官房長官時代に官僚人事を掌握出来た理由は単純明快で、気に入らない人間や自分に反対した人間を左遷することで幹部官僚たちに恐怖心を広げたからでした。内閣府人事局をその様に利用したからで、それだけの冷酷さと心臓の強さがあったから出来たのでした。
 その延長で今度は日本学術会議を掌握しようと考えた可能性がありますが、それはことの大小を弁えないものです。
 憲法第23条には「学問の自由は、これを保障する」と明記されています。菅首相は5日の内閣記者会3人との「グループインタビュー」で、「内閣法制局と打ち合わせをした云々・・・」と述べたようですが、「学問の自由・独立」は大原則であって、そんな次元の問題ではないしそれ以外にどう注釈をつけようもないものです。
 任命拒否が「学問の自由と関係がない」という説明も理解不能です。権力志向の度が過ぎて通常の判断力まで失ったのでしょうか。
 日刊ゲンダイが「剥き出しになった菅首相の正体  」とする記事を出しました。
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巻頭特集
剥き出しになった菅首相の正体 忖度メディアの目は節穴
                        日刊ゲンダイ 2020年10月3日
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
「天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する」
 日本国憲法第6条1項の定めだ。「任命」という言葉には「拒否権」も含まれると拡大解釈し、天皇が考え方の気に入らない首相の任命を、国会の指名を無視して拒否できるだろうか
 極端な例えを承知でいえば、日本学術会議が推薦した新会員候補6人の任命を、菅首相が拒否した問題はそれだけバカげた暴挙であり、大きな危険をはらんでいる。
 学術会議は学者の立場から政策を提言する国の特別機関で「学者の国会」とも言われる。1949年の創立以来、自立を保ち、時には政府方針に反する意見を表明。言うべきことを言ってきただけに、政府にとっては「目の上のコブ」だ。
 日本学術会議法の定めで、新会員は学術会議の推薦に基づき、総理大臣が任命する。ただし、83年の政府側の国会答弁で「実質的に首相が任命を左右することは考えていない」「形式的な任命行為」と認め、自主性を重んじてきた。
 こうして長年、担保されてきた人事の独立を菅はいとも簡単に打ち破り、自身の任命権をエラソーに誇示。しかも、学術会議側が異例の政治介入の理由を求めても一切明かさない。とんでもない居直りだ
 加藤官房長官は2日の会見でも「任命権者である内閣総理大臣が日本学術会議法に基づいて任命を行った」「人事の話でお話しできる話は限界があり、できる限りの話をしている」と答えたが、何ひとつ説明になっていない。
 とはいえ、菅の狙いはミエミエだ。任命を拒否された6人は、安保法制や共謀罪の創設に反対するなど、安倍政権下の悪法の数々にモノ申してきた学者ばかり。「たとえ学者であっても政府方針に逆らえば排除する」と言わんばかりの恫喝と見せしめ。政府に反する意見を理由にした排除は、憲法第23条が保障する「学問の自由」への侵害以外の何ものでもない
 今回の強権発動は、安倍政権時代からひそかに検討を開始。菅は周辺に「前政権からの引き継ぎ事項だ。そんなに問題なのか」と漏らしたというが、いくら安倍継承政権とはいえ、マトモな教養の持ち主ならばひるむ。事の重大さに気づかないなら、単なる無知浅学の徒だ。つくづく順法意識ゼロの歪んだオツムと陰湿さの持ち主である。

民主主義も歴史何も知らない無知・無恥首相
 任命を拒否された1人、立命館大教授の松宮孝明氏は本紙の取材に「菅政権は官僚人事にとどまらず、学者の人事にも土足で踏み込んでくるのか」と憤りを隠さなかったが、当然の怒りだ。
 人事権をカサに着た恫喝が菅の常套手段。自民党総裁選中の先月13日のフジテレビ系番組でも、政府の方針決定後に意向に逆らう官僚は「異動してもらう」とキッパリと言い放った。
 安倍政権下で菅は官房長官として官僚人事を掌握。実際、ふるさと納税制の拡充に異論を唱えた総務省の次官候補だった自治税務局長を「自治大学校長」職に飛ばすなど、意に沿わない官僚を切り捨てた例は多い。
 メディアも例外ではない。お気に入りの記者を国会議員より高給の首相補佐官に抜擢する一方、“天敵”の東京新聞記者の質問には「あなたに答える必要はない」と一蹴、侮蔑と冷笑を浮かべる。テレビ局に有形無形の圧力をかけ、安倍政権批判を展開したキャスターやコメンテーターを次々と降板に追い込んだ
 モリカケ、桜を見る会など安倍政権の恥部に続き、学術会議への政治介入も肝心な情報は隠蔽。気に入らない学者や記者は排除、愚弄し、タテつく官僚は左遷。権威ムキ出しのファシストさながらで、その正体は歪んだ権力欲の恫喝政治屋だ。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「菅首相は官房長官時代から権力行使に快感を覚え、権力に執着してきました。『全く考えていない』と言い続けた首相の座を目指したのも、権力行使のエクスタシーを手放したくなかったからでしょう。そんな権力欲の塊が地方議員から政権トップにのし上がったのは、恫喝と権謀術数のたまもの。コロナ禍で国民が苦しむ中、二階幹事長との連携プレーで権力奪取ゲームに興じた姿は、権力亡者そのものです。『陰の総理』の『陰』が消え、地金が早速、表に出てきましたが、深慮遠謀のカケラもない学問弾圧は恐怖支配の“成功体験”に酔いしれている証拠です」

国益を大きく損ねる付和雷同
 菅の過去の言動を知ると、さらに愕然とする。毎日新聞(デジタル版)が2日、史実に反する歴史修正主義的な発言をしてきた菅の知られざる過去を暴いた。
 96年の初当選直後、菅は「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」に所属。当時の歴史教科書を「反日的」と断じ、従軍慰安婦の記述の削除を目指した自民党議員の集まりで、会長は故中川昭一元財務相、事務局長は安倍前首相だった。
 同会が97年に出版した「歴史教科書への疑問」に、菅は慰安婦の「強制連行はなかった」「軍の深い関与は誤り」と訴える一文を寄せた
 90年代当時から慰安婦制度は軍が主体となってつくり、運用していたことは軍の資料で明らかになっていた。慰安婦問題の先駆者として知られる中大名誉教授の吉見義明氏は、毎日の取材に「広い意味でも狭い意味でも、強制連行はなかった、とはとても言えません」と指摘した。
 それでも「軍の関与」「強制連行」を否定する菅は安倍と同じ典型的な歴史修正主義者なのか。それとも、当時は「将来有望」とされた安倍や中川に取り入るため、「叩き上げ」が身に付けた一種の処世術、ポジショントークだったのか。
 菅は2010年8月のブログでも、植民地支配と侵略を謝罪した「村山談話」と、強制的な慰安婦募集を認めた「河野談話」を批判。〈国益を大きく損ねた〉とぶった切っていた。この筆致からは「根っから」という気もするが、ネトウヨ的な薄っぺらさも漂う。
「菅首相は日本会議系議連の副会長を務めていますが、右派層の票欲しさに名を連ねている印象です。つまり、強い信念も思想も持たず、それらしいことを言って支持を集める付和雷同の政治家。ただ、慰安婦問題で重大な人権侵害があったことは国際的に認められています。菅首相の過去の言動には今後、厳しい視線が注がれ、世界中から日本の人権感覚が疑われる。それこそ国益が大きく損なわれかねません。菅首相には確固たる国家観も歴史認識もなく、民主主義の何たるかも知らないのではないか。首相としての資質の欠落を感じざるを得ません」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)
 こんな無知・無恥首相を「パンケーキおじさん」と持ち上げる大マスコミの目は節穴か。今こそ「権力の監視」機能を果たすべきだが、菅が呼びかけた「完全オフレコ朝食懇談会」の懐柔策に、ホイホイ参加するようでは推して知るべしだ。