大阪市を廃止・分割することの是非を問う住民投票が12日に告示されました(投票は11月1日投票)。大阪市を廃止・分割すれば大阪市の主要財源が大阪府に吸い上げられ、再配分は大阪府に任されます。一体そこにどんなメリットがあるというのでしょうか。
「大阪都」構想の危険性を明らかにする学者の記者会見(呼びかけ人は藤井聡京都大学教授ほか)が11日開かれ、参加した26人の学者が、さまざまな視点から「大阪都」構想の危険性について語りました。藤井教授は、大阪市の廃止・解体は共同体としての「死」を意味するとし、市民が税の支払いを通して享受している厚生水準が大きく毀損されると述べました。
都構想に反対する大阪の市民組織「明るい民主大阪府政をつくる会」、「大阪市をよくする会」は12日、合同出発式を行い市内各区での宣伝や対話などに終日取り組みました。
大阪維新の会は吉村知事が人気のあるうちにと5年前に住民投票で否決されたのと同じ構想をまた持ち出したのですが、吉村知事はコロナ対策で馬脚を現わしたためこのところ人気は下降気味です。都構想への賛否も、9月20日では賛成49・1%、反対35・3%でしたが、10月4日には賛成45・3%、反対40・2%に縮まりました(ABCTVなど)。
しんぶん赤旗と日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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「都」構想の危険性明らか 学者26人会見 130人が所見
しんぶん赤旗 2020年10月13日
「大阪都」構想の危険性を明らかにする学者の記者会見が11日、大阪市浪速区で開かれ、参加した26人の学者が、さまざまな学術領域の視点から「大阪都」構想の危険性について語りました。呼びかけ人は藤井聡京都大学教授(国土・都市計画学・公共政策論)、森裕之立命館大学教授(地方財政学)。10日現在、130人の学者から所見が寄せられました。
藤井氏は「大阪都」構想は学術的視点から考えて「論外」としか言いようがなく、大阪市の廃止・解体は共同体としての「死」を意味すると指摘。市民が税の支払いを通して享受している厚生水準が大きく毀損(きそん)され、大阪市の衰退が日本全体の没落につながると警告しました。
森氏は「都」構想によって大阪市の主要財源が大阪府に吸い上げられると指摘。財源を特別区にどれだけ再配分するかは府が毎年決めるため、未来永劫(えいごう)住民サービスが維持されるかのような言い回しで大阪市を廃止することはあってはならないと批判しました。
河田恵昭京都大学名誉教授(防災学)は、近い将来に巨大な南海地震・津波が大阪市を襲う危険性を強調。四つの特別区の区割りでは、災害が起きた時に被害に大きな差があり、防災の観点からみて不平等だと告発しました。
冨田宏治関西学院大学教授(政治学)は「都」構想を一貫して支えている維新の「多数決こそ民主主義」という思想は究極の反民主主義だと批判。民主主義の根幹である熟議を欠いた強行的なやり方に、その危険性が表れていると主張しました。
大阪市廃止に再びノーを 暮らし第一に転換こそ
住民投票告示 二つの「会」終日行動
しんぶん赤旗 2020年10月13日
大阪市を廃止・分割することの是非を問う住民投票が12日、告示(11月1日投票)されました。大阪市を廃止・分割し、住民サービスを切り捨て、衰退させるのか、それとも、大阪市を存続し、市民の命と福祉、くらし第一の新しい大阪に転換するのか、未来を決めるたたかいです。
「明るい民主大阪府政をつくる会」「大阪市をよくする会」は12日、淀屋橋で合同出発式を行い、市内各区での宣伝や対話などに終日取り組みました。
出発式では、西淀病院の落合甲太副院長、大阪労連の菅義人議長、浪速産業社長の中野雅司さん、弁護士の石田法子さんが、再び「大阪市廃止=『都』構想」にノーの審判を突きつけ、反対多数を勝ち取り、今度こそ政令市・大阪市の力を市民の暮らしの向上に生かせる新しい大阪をつくろうと訴えました。
日本共産党の山中智子大阪市議団長は「大阪市の財産、財源、仕事が府に取り上げられ、住民のために何もできない半人前の『特別区』に成り下がってしまう」と指摘。「孫子の代までこの百害が及んでしまう。わからないという人は、やっぱりわからないことで大阪市をつぶすわけにはいかないので、反対と書いてください。反対と思っている人は、一人でも多くの人に反対の声を届けに届け抜いて、必ず反対多数を勝ち取るために死力を尽くして奮闘しよう」と呼びかけました。
「大阪市守れ」と活気 住民投票告示 反対の声広がる
記者座談会 事実伝え、追い上げ逆転へ
しんぶん赤旗 2020年10月13日
大阪市をなくすのか、大阪市の力をいかして新しい発展をはかるのかを問う住民投票が12日、告示されました。11月1日投票。様相を担当記者で話し合いました。
A いよいよスタートしたね。2015年の住民投票に続いて再び「大阪市廃止ノー」の審判を下したい。
B 大阪市役所前で行われた日本共産党も加わる「明るい民主大阪府政をつくる会」「大阪市をよくする会」の出発式には「大阪市なくすな」「大阪市の力をコロナ対策に」のプラスターや旗が目立った。医療従事者、労働者、中小企業経営者、弁護士の立場から「大阪市をなくしたらあかん」との思いが伝わった。
C 大阪維新の会と公明党は、南海なんば駅前で「合同説明会」。前回の反対から賛成に転じた公明党の言い訳は苦しかったね。
D 昨春の知事・大阪市長ダブル選では「都」構想について「百害あって一利なし」とまで言っていたからね。それが、公明党の提案で「設計図が生まれ変わった」(佐藤茂樹府本部代表・衆院議員)と絶賛した。
B 実際は設置する特別区の数が五つから四つに変わったぐらい。大阪市の財源も権限も「府」が吸い上げ、「半人前」の自治体である特別区になる本質は変わらない。公明党のセールスポイントは住民サービスの「維持」だが、これが争点の一つになっている。
打ち消しに必死
A 特別区の税収は大阪市の3分の1に激減する一方、特別区設置に15年間で1300億円もかかる。住民サービスを維持したくても、お金がなくてはサービス低下は避けられない。
D さすがに協定書(設計図)でも、特別区移行後は維持に「努める」としか書けなかった。ところが、告示日の維新、公明の「街頭合同説明会」で維新が住民サービスは「拡充」「向上する」と言い始めたのには驚いた。
C 「住民サービスが低下するのではないか」という市民の不安の広がりによほどあわてたんだろうね。維新のビラも「それ、デマとちゃいますか?」と打ち消しに必死だ。
A 松井一郎大阪市長(大阪維新の会代表)や吉村洋文知事(維新代表代行)の住民サービスが「向上」する理屈はこうだ。大阪が成長すれば、税収が増え、住民サービスは下がらず、むしろ向上する。
B その維新の「成長戦略」が問題だ。ベイエリア(湾岸地域)開発をしきりに強調しているけれど、要するに人工島「夢洲(ゆめしま)」開発だ。25年の「大阪万博」は半年だから、本命はカジノを中核とする統合型リゾート(IR)だ。人の不幸で成り立つギャンブル産業が「成長戦略」の目玉とは。
C 松井市長は、「二重行政のムダ」をなくせば財源は生み出せるとも強調し、吉村知事は「二重行政の暗黒の時代に戻していいのか」とぶった。ふたりとも挙げた例が、大阪市のワールドトレードセンター(WTC)ビルと、大阪府のりんくうゲートタワービル。合わせて「2000億円がパーになった」と力説した。
D それって、「二重行政」のせいでもなんでもない。政策の誤りであって、一つでも無駄だ。
コロナ禍なのに
B 街頭で配布されていた維新ビラで「コロナ禍だからこそ都構想が必要」と大見出しになっているのにも驚いた。
A なんでコロナ禍で大変な時に、後戻りできない大阪市廃止の是非の選択を市民に迫るのか。医療従事者は「コロナだけでも大変なのにインフルエンザ流行の時期を控え、医療現場は混乱・疲弊している」と悲鳴を上げている。「コロナ対策に全力を」というのが市民共通の思いだ。
D 世論調査ではまだ「都」構想賛成が反対を上回っているが、急速に反対の声が広がっている。11日には学者26人が記者会見して、それぞれの専門分野から「都」構想の危険性を告発した。学者の所見は130人から寄せられている。
C 文化人や医療関係者、地域振興会にも反対の声が広がっている。公明党がどんなに「理解」を得ようとしても支持層は依然として反対が多数だ。
A SOCs(ソックス、「大阪市を守る」有志)や「残そう、大阪@SADL(民主主義と生活を守る有志)」の宣伝の取材をすると、毎回、新しい顔ぶれに出会う。「人生初宣伝」という人も。自前ポスターをつくる人、SNSで発信する人、一人で黙々とビラ配りをする人など、みんな「130年の歴史をもつ大阪市をなくしたらあかん」「居ても立ってもいられない」と口々に語る。
B まだまだ「賛成多数でも『都』にはならず、大阪市がなくなるだけ」「後戻りできない片道切符」「住民サービス低下は避けられない」「維新でさえ、いまは『二重行政はない』と言っている」など基本的な事実が知られていない。どれだけ、事実を市民に知らせ切るかに住民投票の行方はかかっているね。
大阪の未来決めるたたかい
党大阪府常任委員会がアピール
日本共産党大阪府常任委員会は12日、大阪市廃止・分割の是非を問う住民投票の告示に当たり、アピールを発表しました。
アピールでは、住民投票は、大阪市を廃止するのか、それとも大阪市をいかし、これまでのあり方をおおもとから転換し、市民の命と健康、暮らしを守り、発展させる新しい市政を築くのか、「大阪の未来を決めるたたかい」であり、「菅政権の最悪の補完勢力となる維新の会に痛打を与え、野党連合政権への道をひらく点で、全国的意義」をもつと指摘。再び「大阪市廃止=都構想」にノーの審判を下すために総力を挙げると決意を表明しています。
論戦では、「大阪市の廃止か、存続か」「住民サービスの切り捨てか、向上か」「コロナ禍でなおカジノ、インバウンド(訪日外国人旅行)頼みか、命と福祉、暮らし第一へ転換するのか」など焦点が浮き彫りになりつつあると指摘。組織戦では、140万部発行された『まるわかりパンフ』を市民のなかで広げ、「日刊 つくろう未来」配布活動を成功させながら、市民「100万対話」をやり切ることを呼びかけ。11月1日の投票日を「市民の手で大阪市を守りぬき、市民とともに動かす新しい政治への歴史的転換点にしようではありませんか」と訴えています。
大阪都構想「住民投票」反対派の猛追でデッドヒートの様相
日刊ゲンダイ 2020/10/12
大阪維新の会が「一丁目一番地」に掲げる「大阪都構想」の是非を問う2度目の住民投票(11月1日投開票)が12日告示された。
僅差の否決から5年半。維新は昨年4月、都構想を争点に“出直しクロス選”を強行。思惑通りに吉村府知事(維新代表代行)と松井市長(維新代表)が入れ替わって勢いに乗り、賛成優勢とみられてきた。ところが、ここにきて反対が追い上げるデッドヒート。ヒリヒリする展開になってきた。
ABCテレビとJX通信社が毎週実施している世論調査によると、賛成は49・1%(9月19~20日実施)→47・8%(同26~27日)→45・3%(10月3~4日)と減少傾向。それに反比例し、反対は35・3%→36・8%→40・2%と数字を伸ばしている。都構想の旗を振る吉村知事と松井市長の支持率も下落傾向だ。
誤算の学会反発
「二重行政の解消と大阪の成長を訴える吉村・松井コンビは、新型コロナウイルス対策で府と市の一体対応を強調。若い吉村知事のリーダーシップを前面に押し出して支持を集めてきましたが、例のイソジン騒動で化けの皮が剥がれてしまった。チグハグ対応も目立つようになり、人気に陰りが出てきています。
公明党の支持母体である創価学会員の反発も痛いところ。国政与党の公明党はクロス選の惨敗を受けて寝返り、都構想賛成で維新と手を組んだものの、前回反対した経緯もあって、方針転換に納得しない学会員は少なくありません」(在阪ジャーナリストの吉富有治氏)
維新と近い菅首相をはじめとする官邸もハラハラ見守る中、松井市長は「負けたら政治家としてはもう終了です」と宣言。進退を懸ける男気を見せて賛成票上積みを図るが、額面通りに受け取っていいものか。
「結果がどうであれ、松井さんは任期満了の23年4月で市長はオシマイにし、国政に打って出る算段のようです。可決されれば25年1月に政令指定都市の大阪市は廃止、4つの特別区に再編される。勝てば市長ポストはなくなりますし、負ければいたたまれないですから。盟友の橋下さんも松井さんの国政転身に大賛成です」(与党関係者)
ちなみに、住民投票の正式名称は「大阪市廃止・特別区設置住民投票」で、「大阪都」への名称変更は別物だ。地方自治法などを改正し、府民対象の住民投票を実施する必要があり、「大阪都」への道のりは長い。維新の口上をうのみにしたら痛い目に遭いかねない。