2020年10月15日木曜日

最高裁がサイテーの「非正規差別」判決

 13日、最高裁第3小法廷で二つの判決が下されました(1時半と3時に)。
 一つは大阪医科薬科大(大阪府高槻市)でアルバイトの秘書として働いていた女性が起こした訴訟で、ボーナス支給の妥当性が争われました。宮崎裕子裁判長は判決で、正社員女性が携わっていなかった試薬管理など担っており、職務内容に「一定の相違があった」と指摘し、同大が正社員の業務をアルバイトに置き換えていた事情も考慮すると不合理な格差とは言えないと判断し、「正社員の6割を下回るボーナスの支給は不合理」とした二審・大阪高裁判決を破棄しボーナスは不支給で良いとしました。
 もう一つは東京メトロの子会社メトロコマース(東京都台東区)の契約社員として売店で約10年働いていた女性2人の訴訟で、退職金支給の是非が争点でした
 判決は2人と正社員の職務の内容は「おおむね共通する」としつつ、同社が正社員への登用制度を設けていた事情も考慮し、格差が「不合理とまで評価できない」と判断し、「少なくとも正社員の4分の1の退職金を支払わないのは違法」とした二審・東京高裁判決を取り消しました(4人の多数意見1人宇賀克也裁判官は「二審判決をあえて破棄するには及ばない」と反対意見を述べまし(少数意見)

 いずれも非正規労働者約2100万人の注目の中、二審段階で、ボーナスは正規労働者の最低6割を支払うべき、退職金は最低正規労働者の4分の1以上を支払うべきとの成果を勝ち取っていたのですが、最高裁はいずれも雇用者側の主張を採ったため、成果はゼロに帰しました。最高裁の前に集まった人たちの間から「最低の判決」との声が出されました
 「不合理な格差とまでは言えない」と抽象的な表現になっているのは、旧労働契約法20条が、正規雇用と非正規雇用との間で、待遇などに「不合理」な格差を設けることが禁止したからで、こうした場面で、雇用者の主張を不合理とまではいえない」として司法が肯定するのは良くあることですが、実に酷薄な響きを伴った表現です。
 レイバーネット日本、田中龍作ジャーナルと東京新聞の記事を紹介します。
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私たちはあきらめない!〜最高裁がサイテーの「非正規差別」判決
                          レイバーネット日本 2020-10-14
         ⇒ 動画(6分半)
「最高裁はサイテーだ!」「ありえない不当判決!」「非正規は見棄てられた!」。10月13日午後、非正規差別なくせ裁判(大阪医大事件・メトロコマース事件)の判決が出た最高裁前では、怒号とため息が飛び交った。同じ仕事なら有期と無期とで差別をしてはならないという「労働契約法20条」に基づく格差是正の裁判。6年の時間を経て、大阪医大事件では「賞与の6割」、メトロコマース事件では「退職金の4分の1」が高裁で認められていた。そうした格差是正の流れがあるなか、最高裁は完全にそれをひっくり返して「賞与・退職金」をゼロにしてしまったのだ。アベの「同一労働同一賃金」「女性総活躍」政策はどこに消えてしまったのか。

 メトロコマース原告の疋田節子さんは最高裁前で、「非正規は奈落の底に突き落とされた! 非正規2千万人の期待を裏切るものだ」と声を震わせた。

*メディアは大いに注目した
 判決理由は何なんだろう。第三小法廷・林景一裁判長は判決文で「退職金は継続的な勤務に対する報償の性格があり、人材の確保やその定着を図る目的がある」などの理由に挙げ、正社員の退職金制度を正当化し、10年勤めようと非正規社員は関係ない、という判断を下した。判決文はくどくどしい文章で「4分の1退職金」がなぜだめなのか、非常にわかりにくいものだった。ただ一つ言い訳のようにあったのは、一名の裁判官(宇賀克也裁判官)の「原審の判断は是認することができる」との反対意見が付されていることだった。

*昼のアピール行動
 判決朗読でとんでもないことがあった。林裁判長が、原告の加納一美(ひとみ)さんのことを「かのうかずみ」と読み間違えたのだ。その場で注意する人はいなかったので、全部で4回も間違えたままだった。前代未聞である。「陳述書にちゃんとルビが振ってあるのになぜ間違えるのか。ばかにされていると思った」と加納さんは、唇をかんだ。後呂良子さんは「最高裁には1年7か月も時間を待たされた。それでこんなひどい判決しか書けない。印紙代を返してほしい」と言った。原告の名前も平気で間違える、そんなところに、最高裁の非正規労働者を扱う姿勢が表れているのだろう。
 メトロコマースの原告たちは、この日のために新しい横断幕を用意していた。「4人の顔写真」をあしらった横断幕には、大きく「非正規差別撤廃 私たちはあきらめない!」と書かれていた。この日は、昼のアピール行動から2回の裁判傍聴など終日100人以上が集まり、大きな盛り上がりを見せた。とくに女性が圧倒的に多い。午後1時半(大阪医大事件)、午後3時(メトロコマース事件)の不当判決が出るたびに怒りの輪が広がった。「最高裁は恥を知れ!」「私たちはあきらめないぞ!」のシュプレヒコールが最高裁の建物に向けて鳴り響いた。

 午後5時50分から参院議員会館で開かれた報告集会には、約150人が集まりぎっしり。最後に挨拶した原告の後呂良子さんはこう強調した。「きょうが終わりではない。これが新たなスタート。私もコロナ禍で就職苦・生活苦にいま喘いでいる。退職金がないと非正規は定年後が厳しいことを実感している。だから、ますます非正規差別をなくす運動が重要だと思っている。これから新たなたたかいをつくっていきたい」とアピールした。(M)

最高裁判決 2千万非正規労働者の老後を一顧だにせず
                       田中龍作ジャーナル 2020年10月13日
 生活苦にある全国2千万非正規労働者に司法の光は射さなかった。
 同じ作業を同じ時間こなしているのにもかかわらず、正規社員との間で年収300万円もの差があり、退職金もない・・・
 有期雇用と無期雇用との間に不合理な待遇格差を設けてはならないとする労働契約法20条(現在はパート労働法に吸収)に違反するとして、東京メトロの売店で働く非正規社員4人が会社を相手どって損害賠償を請求していた訴訟の最高裁判決が、きょう13日、あった
 「基本給の差額返還」と「未払いボーナスの全額支給」は、最高裁が7月の段階で上告を棄却したため、争われていたのは「正社員と同じ基準による退職金の支給」となっていた。
 東京高裁判決は「会社は原告に正社員の4分の1の退職金を払うべき」としていたが、きょう、最高裁は高裁判決を破棄した。
 「原告たちには退職金をビタ1円支給する必要はない」とする判決である。
 原告たちは正規社員と同じ仕事をしながら、時給1,000~1,100円という安い賃金で働かされてきた。ボーナスもわずかしか支給されなかった。
 手取りは月12万円前後。家賃、光熱費、公共料金などを払ったら、手元にはほとんど残らない。貯金はゼロ円に等しい。
 これで退職金も出ない。老後は「野垂れ死にしろ」ということだ。
 東京高裁がかろうじて認めた退職金4分の1の支給さえ、最高裁は「必要なし」としたのである。
 最高裁は全国に2,000万人いる非正規労働者の老後を一顧だにしない判決を下したのである。
 しかも有期雇用(非正規)と無期雇用(正規)との間に待遇の格差を設けてはならないとする「パート労働法」も死文化させた。
 判決後、原告の一人は「こんな判決はひどい。死ぬまで働けっていうのか。(最高裁は)もっと社会を知れと言いたい。今の社会を。何も分かっていない」と涙ながらに語った。鬼のような形相だった。
                 ~終わり~

ボーナス、退職金は?非正規労働者の「不合理な格差」踏み込まず
                            東京新聞 2020年10月14
 ボーナスと退職金を非正規労働者に支払わないことを「不合理な格差とまでは言えない」とした13日の最高裁判決は、非正規と正社員との間にいまだ高い壁があることを知らしめた。働く人の4割近くに当たる2000万人超が非正規となる中、識者からは「同一労働同一賃金の流れに冷や水を浴びせる判決だ」と批判の声が上がった。(山田雄之)

◆「不合理であるとまで評価は…」訴え次々と否定
 「賞与に係る労働条件の相違は不合理であるとまで評価できない」「契約社員と正社員に退職金の支給で相違があるのは、不合理であるとまで評価することはできない」
 最高裁第三小法廷は判決で、大阪医科薬科大でアルバイトの秘書として働いた女性と東京メトロ子会社の契約社員として売店で働いていた女性2人の訴えを次々と否定。一部の支払いを命じた二審判決を見直し、「正社員の確保や定着のための制度」などとする企業側の主張をより重視して結論を導いた。

 労働政策研究・研修機構の2019年夏の調査では、「業務内容が同じ正社員がいる」と答えた非正規労働者のうち、37%がボーナスに、23%が退職金に不満を持っていることが明らかになっている。
 秘書だった女性の代理人弁護士は閉廷後の記者会見で、「政府が同一労働同一賃金を掲げる中で、流れに反する判断だ」と語気を強め、売店の女性の代理人弁護士は「格差是正の見直しを目的とする労働契約法旧20条の意義が問われる判決だ」と不満を述べた。

◆旧20条の「不合理な格差」訴えるも…
 今回の訴訟で原告は、それぞれの職場に旧20条が禁じる「不合理な格差」があったと主張した。企業はバブル崩壊後の1990年代以降、人件費を抑えるために非正規雇用を拡大。正社員との格差解消を図るため、民主党政権時代に同法改正案を成立させ、旧20条を新設した。
 その後、旧20条を根拠とする待遇格差訴訟が各地で相次いだ。最高裁は18年6月の判決で、手当など賃金項目ごとに趣旨を考慮した上で、職務内容の差や企業ごとの事情を考慮し、「不合理な格差」と言えるか判断すべきだとの大枠を示した。
 「同一労働同一賃金」を掲げていた安倍政権は最高裁判決直後、パートタイム・有期雇用労働法など働き方改革関連法を成立させた。労働契約法から旧20条は削除され、趣旨ごとパートタイム法8条に移された。

◆格差是正に踏み込まない判決
 働き方改革の中核とも言える「同一労働同一賃金」が今年4月に始まって以降、初めて示された最高裁判決。裁判官たちが「不合理な格差とまでは言えない」と判断する中、行政法学者出身の宇賀克也裁判官だけが、「正社員への退職金の性質の一部は、契約社員にも当てはまる。売店業務に従事する両者の職務内容に大きな相違がないことからすれば、契約社員に退職金を支給しないのは『不合理である』と評価できる」と反対意見を述べた。
 龍谷大の脇田滋名誉教授(労働法)は「欧州では同じ業務内容ならば、非正規労働者も正社員も同じ賃金になるのが原則。国際的に見たときに日本の格差は異常だ」と指摘。「人権救済のとりでとなるべき司法が、企業の経営判断を重視するあまり格差是正に踏み込まないならば、同一労働同一賃金は名ばかりになる」と警鐘を鳴らした。


非正規格差「不合理とまでは言えない」 賞与・退職金の不支給で最高裁判決
                            東京新聞 2020年10月13日
 非正規労働者にボーナス(賞与)や退職金を支払わないことが、「不合理な格差」に当たるか否かが争われた2件の訴訟の上告審判決が13日、最高裁第三小法廷であった。契約社員に退職金を支払わなかったケースとアルバイト秘書へのボーナス不支給をいずれも「不合理とまでは言えない」と判断し、一部の支払いを命じた二審判決を見直し、ボーナスと退職金に相当する部分の請求を棄却した。
 不合理な待遇格差を禁じる「同一労働同一賃金」が今年4月に始まって以降、初の最高裁判決。働く人の4割近くに当たる2000万人超が、立場の弱い非正規となっているのが現状で、判決は多くの企業や労働者に影響を与えそうだ。
 旧労働契約法二〇条は、非正規労働者と正社員の職務内容や企業ごとの事情を考慮したとき、「不合理」と認められる格差を禁じている。最高裁は2018年6月の同種訴訟の判決で、「賃金総額だけを比べるのではなく、手当など賃金項目ごとに考慮すべきだ」との枠組みを示していた。

 大阪医科薬科大(大阪府高槻市)でアルバイトの秘書として働いていた女性が起こした訴訟は、ボーナス支給の妥当性が争われた。
 宮崎裕子裁判長は判決で、正社員は女性が携わっていなかった試薬管理などを担っており、職務内容に「一定の相違があった」と指摘し、同大が正社員の業務をアルバイトに置き換えていた事情も考慮すると不合理な格差とは言えないと判断。「正社員の6割を下回る支給は不合理」とした二審・大阪高裁判決を見直した。裁判官5人一致の意見。

 東京メトロの子会社メトロコマース(東京都台東区)の契約社員として売店で約10年働いていた女性2人の訴訟は、退職金支給の是非が争点だった。
 判決は2人と正社員の職務の内容は「おおむね共通する」としつつ、同社が正社員への登用制度を設けていた事情も考慮し、格差が「不合理とまで評価できない」と判断。「少なくとも正社員の4分の1の退職金を支払わないのは違法」とした二審・東京高裁判決を取り消した。林景一裁判長ら4人の多数意見。行政法学者出身の宇賀克也裁判官は「二審判決をあえて破棄するには及ばない」と反対意見を述べた
 判決を受け、大阪医科薬科大は「人事制度を適正に評価してもらった」とコメントし、メトロコマースは「判決内容を確認し、適切に対応したい」とした。