2020年10月2日金曜日

菅首相、日本学術会議人事に介入 推薦候補を任命せず

  「学者の国会」とも呼ばれる日本学術会議210人で構成され任期は6年、3年毎に半数の105人が改選されます。毎回学術会議が推薦した105人がそのまま任命されてきましたが、今回は新会員候補のうちの6名を菅首相が任命しませんでした。「間違いではないか」と考えた事務局が政府に問い合わせると、「間違いではない。理由はノーコメント」と返ってきたといいます。

 外された人たちは立命館大学大学院法務研究科の松宮孝明教授 他で、共謀罪法や安保法制などに反対した科学者たちです。菅首相の意図は明瞭で、政府の意向に沿わない人たちは排除するということを見せつけるためです。
 学術会議会員は特別職の国家公務員(非常勤)で確かに形式上任命者は首相ですが、好き勝手に人選していいものではありません。そもそもメンバーの選定はそれなりの見識を持った人でなければ出来ないので、従来から学術会議の推薦を受けて行われてきたものです。

 取り分け学問の領域に「政治屋の感覚」を持ち込むのは厳に避けるべきことです。菅氏が官房長官時代に「私物化」した官僚を恣意的に扱って来たことも決して許されるものではありませんが、今回の恣意的対応はそれを上回る大きな誤りです。そのことが分かっているのでしょうか。
 菅氏は思想なき首相、理念なき首相、国家観なき首相と呼ばれていますが、だからといって別に実直な実務型というわけではありません。その逆で自らの権勢を見せつけることに躊躇しないだけでなく、権勢を維持し続けることについても周到な戦略を巡らしている筈です。その上で 極右思想を持ち、新自由主義にかぶれた人間が今後このようにして権力を振り回すようなら日本の未来は決して明るくはありません。
 菅首相は、少なくとも会議が推薦した人物を用いなかった理由を国民の前で明らかにする必要があります。一体批判に堪える理由があるのかどうか、その内容は直ちに首相としての適格性の有無を示すものとなります。
 メディアと野党は徹底的に追及すべきです。LITERAとNHKの記事を紹介します。
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菅首相が安倍時代もしなかった言論弾圧、「学問の自由」侵害! 日本学術会議の会員任命で安保法制や共謀罪を批判した学者を拒否
                          LITERA 2020.10.01
 首相就任から1カ月も経たないうちに、さっそく菅義偉首相が強権的な“人事介入”をおこなっていたことが判明した。「学者の国会」とも呼ばれる日本学術会議が推薦した新会員候補の6人を、菅首相が任命しなかったというのだ。
 しかも、菅首相が任命しなかった学者のなかには、安保法制や共謀罪を批判してきた学者も含まれているというのである。
 日本学術会議は内閣府の特別の機関のひとつで、総理大臣が所轄、経費は国庫負担となっているが、政府から独立し、科学にかんする審議や政府に勧告をおこなうなどの職務を担う。法律でも「わが国の科学者の内外に対する代表機関」と謳われており、210名の会員によって組織されている。会員の任期は6年で、3年ごとに半数の105名を改選。今年はその半数改選の年で、日本学術会議が新会員を選考し総理大臣に推薦、それをそのまま総理大臣が任命する──という流れで進むはずだった。実際、現行の制度となった2004年度以降、日本学術会議が推薦した新会員候補が任命されなかったケースは一度もない。
 しかし、今回の問題をスクープした本日付のしんぶん赤旗によると、日本学術会議から新会員として推薦されていた立命館大学大学院法務研究科の松宮孝明教授が、任命されなかったというのだ。
 松宮教授といえば、2017年に国会で審議されていた共謀罪について、参院法務委員会で「広く市民の内心を捜査と処罰の対象とし、市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法」「(戦前の)治安維持法よりタチが悪い」と参考人の立場から陳述するなど批判をおこなってきた人物だ。
 この松宮教授がしんぶん赤旗の取材に応じたところによると、9月29日夕方に日本学術会議の事務局長から「(首相の)任命名簿に名前がない」と連絡を受けたという。さらに、松宮教授のほかにも安保法制に反対した学者など数名が名簿から名前が外されており、「間違いではないか」と考えた事務局は政府に問い合わせをおこなった。しかし、そこで返ってきたのは、このような回答だったというのだ。
「間違いではない。理由はノーコメント」
 これは、憲法で規定される「学問の自由」を踏みにじる、総理による人事介入にほかならないではないか。

安倍前首相ですらやらなかった露骨な人事介入も平気でやる菅首相
 言っておくが、日本学術会議は2017年3月にも軍事研究を否定した過去の声明を継承するとした新声明を出すなど、軍学共同を進める安倍政権に釘を刺したこともある。しかし、この年の秋におこなわれた任命においても、安倍首相は日本学術会議が推薦した新会員を任命していた。つまり、あの安倍首相でさえ、今回のような人事介入はおこなわなかったのである。
 それを、「安倍政権の継承」を謳う菅首相は、総理就任後すぐに、安倍政権の政策に批判的だった学者の任命をおこなわないという露骨な人事を実行したのだ。
 しかも、本日午前の官房長官会見でもこの問題が取り上げられたのだが、加藤勝信官房長官は「直ちに学問の自由の侵害ということにはつながらないと考えている」などと言い、「結果の違いであって、これまでの対応の姿勢に変わりはない」「学術会議の目的において、政府側が責任を持って(人事を)おこなうのは当然だ」などと開き直ってみせたのだ。
 菅首相といえば、総裁選の段階から官僚の人事について「私ども、選挙で選ばれてますから、何をやるかという方向が決定したのに反対するのであれば異動してもらいます」などと堂々宣言。“異論を唱える者は排除する、弾かれたくなければ忖度しろ”とその強権性を露わにしてきたが、官僚のみならず、政府から独立した機関の人事にまでさっそく手を伸ばしたのだ。
 だが、これは十分予測できた事態だとも言える。というのも、安倍政権下で進められた人事介入も、官房長官だった菅首相が実行してきたからだ。
 その最たる例が、「賭け麻雀」問題で辞任した黒川弘務・元東京高検検事長をめぐる人事だろう。

黒川弘務・元東京高検検事長の異例人事も官房長官時代の菅首相によるもの
 黒川氏といえば、言わずもがな安倍政権幹部をめぐる不正の捜査をことごとく潰してきた人物だが、黒川氏のカウンターパートは菅官房長官だ。その付き合いは約15年にもなると言われ、ふたりが会っているところが頻繁に目撃されてきた。つまり、捜査を握りつぶしてくれる「用心棒」として黒川氏と安倍政権の強いパイプを築いたのは菅官房長官だったのだ。
 そして、ある意味、最大の功労者たる黒川氏を検事総長にしようと、異例の人事がおこなわれる。昨年、法務省は次期検事総長として複数の候補者を提案したが、〈安倍首相と菅官房長官は黒川氏が望ましいとの意向を示した〉(読売新聞2月21日付)ことで覆り、2月に定年を迎える黒川氏の「異例の定年延長」人事が実行されたからだ。
 しかも、菅官房長官が黒川氏の人事に口を出したのはこれが最初ではなかった。2016年夏、当時法務省事務次官だった稲田伸夫氏の異動に伴い法務省は、後任の法務省事務次官に刑事局長だった林真琴・現検事総長を、黒川氏を広島高検検事長に据えようと人事案を官邸に上げたが、それを蹴ったのは菅官房長官だったと言われている。
 三権分立の原則に反し、政府から独立した機関であるべき検察の人事に平気で介入する──。そして、総理の座に就いた途端、菅首相は「学問の自由」を脅かす人事介入をおこなってみせた。当然、こうした人事介入が見せしめとなり、日本学術会議や学者に萎縮が広がる懸念もある。
 安倍政権で進行した「独裁化」「恐怖政治」を推し進める姿勢を、早くもこうしたかたちであきらかにした菅首相。これまで以上に、反対や抵抗の声をあげる必要がある。(編集部)


日本学術会議 会員の一部候補の任命を菅首相が見送り
                     NHK NEWS WEB 2020年10月1日
              (中 略)
学術会議委員の任命手続き 
日本学術会議の会員は、日本学術会議法という法律によって、任命の手続きが定められています。この中では、「日本学術会議は規定に定めるところにより、優れた研究または業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣総理大臣に推薦するものとする」と推薦の手順を定めています。そして、「推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」としています。
任期は6年として、3年ごとに半数を任命することも合わせて決められています。
この法律は平成16年度に改正され、現在の手続になっています。

一部当事者が撤回求める要請書
              (中 略)
任命されなかった6人のうち東京慈恵会医科大学の小澤隆一教授と早稲田大学の岡田正則教授、それに、立命館大学の松宮孝明教授の3人は連名で会長に宛てて、「研究活動の評価に基づく任命拒否であれば憲法が保障する学問の自由の重大な侵害です。また、学術会議の地位や独立性は、会員の任命が総理大臣の意のままになれば深刻に侵されます。任命拒否の撤回に向けて会議の総力を挙げてあたることを求めます」とした要請書を提出しました。
1日、新たに会長に選出された東京大学の梶田隆章さんは記者の質問に対して「重要な問題なのでしっかりと対応する必要があると考えている」と話しています。

任命されなかった候補の人たちは
日本学術会議の新しい会員に任命されなかった東京慈恵会医科大学教授の小澤隆一氏がNHKの取材に応じ「日本学術会議は科学の振興などについて政府に勧告できるため、独立性が担保されなければならないが、総理大臣が会員を恣意的(しいてき)に任命できれば、会議そのものの地位や独立性、権限が損なわれてしまう。会員の任命拒否は大変大きな問題だと受け止めている」と述べました。
そのうえで小澤教授は、平成27年7月の衆議院特別委員会の中央公聴会で安全保障関連法案について反対する意見を述べたとしたうえで、「学術の立場から意見を述べたが、これが任命拒否につながったのであれば、研究活動についての侵害であり、日本学術会議の存立自体を脅かすものだ。今回の任命拒否は官邸による人事への介入が、独立性が担保されるべき学問にまで及んだということだ。政府に都合の悪い人たちを総理大臣の意のままに排除すれば国がとんでもない方向に進んでしまう」と述べました。
また、同じく新しい会員に任命されなかった立命館大学大学院の松宮孝明教授は、「おととい、日本学術会議の事務局長から、総理大臣の任命名簿に『名前がない』という話があり、大変な騒ぎになった。政府の意向次第で本来に踏み込んではいけないところに踏み込めることを示した形になり、非常にゆゆしき事態だ」と述べました。
刑法が専門の松宮教授は、3年前の平成29年6月に「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐって参議院法務委員会で行われた参考人質疑で法案を批判していました。
松宮教授は「日本学術会議法では、会議が優れた研究や学問の業績に基づいて推薦した人を総理大臣が任命する決まりになっていて、任命は本来、機械的に行われるものだ。総理大臣は学問の研究者ではないので、推薦の基準を満たしているか、会員にふさわしいかどうかは分からないはずだ。『嫌だから任命しない』というのであれば法律違反だ」と述べ、今回の対応を批判しました。
東京大学大学院の加藤陽子教授はNHKの取材に対し、「当方が任命に至らなかったことは事実です。担当の内閣府の側もまさに寝耳に水のことだと思います」などとメールで回答しました。
メールには「内閣総理大臣が学術会議の決定を経た推薦名簿の一部を拒否するという、前例のない決定の背景を説明できる協議文書や決裁文書は存在しているのでしょうか。この決定の経緯を知りたいと思います。有識者として、有識者懇談会から公文書管理法の成立までを見届けた人間として、この異例の決定の経緯に注視したいのです」と記されています。
そして「新会員の推薦は極めて早くから準備がなされ、内閣府から総理大臣官邸には今年8月末に新規就任予定者の名簿と写真があがっていたはずです。それを1か月間もの間、店ざらしにして、新しい学術会議が発足する2日前、9月29日夕刻に連絡をしてくるというのは、学術会議会員の、国民から負託された任務の円滑な遂行を妨害することにほかならないと思います。総理大臣官邸において従来通り、そのまま承認しようとの動きをもし最終盤の確認段階で止めた政治主体がいるのだとすれば、それは、『任命』に関して、裁量権の範囲を超えたものです」と批判しています。
              (中 略)
共産 志位委員長「学問の自由を脅かす違憲の行為」
共産党の志位委員長は、記者会見で「日本学術会議は、1949年の発足以来、日本学術会議法に基づき、高度な独立性が大原則で、任命拒否は違法だ。憲法23条の学問の自由を脅かす違憲の行為だ。菅総理大臣に対して、違憲で違法な任命拒否を直ちに撤回するよう強く求めたい。野党で共闘して追及していく」と述べました。


日本学術会議 会員の一部任命見送り 野党4党首が追及で一致
                     NHK NEWS WEB 2020年10月2日
立憲民主党など野党4党の党首らが会談し、「日本学術会議」が推薦した新しい会員の一部の任命を菅総理大臣が見送ったのは、学問の自由を脅かし憲法違反にあたるとして、4党で連携して国会などで追及していく方針で一致しました。
東京都内のホテルで行われた会談には、立憲民主党の枝野代表、共産党の志位委員長、国民民主党の玉木代表、社民党の福島党首らが出席しました。
この中で、各党首らは「日本学術会議」が推薦した新しい会員の一部の任命を菅総理大臣が見送ったことについて、「これまでは会議の意向が尊重されてきており、今回の対応は学問の自由を脅かし、憲法違反にあたる」という意見が相次ぎました。
そして、野党4党で連携して、来週に衆参両院で予定されている閉会中審査や、今後の臨時国会などで任命を見送った経緯や事実関係などを追及していく方針で一致しました。