菅首相が日本学術会議会員候補6人の任命を拒否した件についていまだに理由を明らかしていない中、河野太郎・行政改革担当相は9日、日本学術会議を行政改革の対象にすることを表明し、自民党は日本学術会議のあり方を検討するプロジェクトチーム(PT)作り14日、初会合を開きました。
学術会議のあり方に関して俄かにこのような動きが出ているのは、学術会議会員の任命拒否が学問の独立に介入するものとの批判をかわす目的があるのは明らかで、日本学術会議の大西隆・元会長は、菅首相が同会議を行革の検証対象とする考えを追認したことについて「任命拒否の理由を追及させないため、次元の違う話であるはずの組織の在り方見直しを持ち出したのだとすれば不適切だ」と話しています。
実は自民党の動きと同等かそれ以上に大きな影響を及ぼしかねないのは、学術会議に関する「誤った情報」が、著名人や記者らによって次々とインターネットやTVを通じて発信され、あたかも事実のようにとらえられて拡散していることです。
東京新聞が取り上げましたので紹介します。
併せてハフポスト日本版の記事を紹介します。
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⇒(LITERA10月15日)甘利明、下村博文、高橋洋一、橋下徹も……日本学術会議を
攻撃する言説は菅政権を擁護するためのフェイクだらけ
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「デマです」と橋下徹氏のツイートに批判 学術会議問題で誤情報が拡散
東京新聞 2020年10月15日
日本学術会議が推薦した候補者6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題をめぐり、学術会議に関して誤った情報が、著名人や記者らによって次々とインターネットやTVを通じて発信され、あたかも事実のようにとらえられて拡散している。専門家は「発信者側が正確な情報を事実に基づき発信するよう努力するとともに、受け取り側も真偽を見極める力をつけていく必要がある」と指摘する。(望月衣塑子)
◆「税金は投入されていないようだ」
約262万人のフォロワーを持つ、元大阪市長の橋下徹氏は、10月6日午前のツイッターで「学者がよく口にするアメリカとイギリス。両国の学者団体には税金は投入されていないようだ。学問の自由や独立を叫ぶ前に、まずは金の面で自立しろ。年1500円ほどの会費で、今の予算は確保できる」などとつぶやいた。
このつぶやきは、ネット上で拡散し、15日午後3時半現在で2405件のリツイート、8424件のいいねが押されている。「橋下徹さんに全く同意します。いいこと言うなあ!」「すごいさすが橋下さん」と賛同が寄せられた。
◆米国、英国も公的資金を投入
しかし、学術会議や米国の資料によると、米国では1997年の時点で、科学者団体「全米科学アカデミー」の年間の運営費が2億ドル(約210億円)で、うち8割が連邦政府との契約という形で公的資金が投じられている。具体的には政府から頼まれたプロジェクトを行ったり、中立的・客観的な行政レビューの作成や答申などを行っている。
2017年時点では、運営費は3億ドル(約315億円)を超えたとされ、内訳の発表はしていないが、学術会議によると、全米アカデミーへの税金の投入額はさらに増えているとみられるという。
英国でも、英国王立協会が2013年4月~2014年3月の1年で収入7060万ポンド(97億円)のうち67%の4710万ポンド(約65億円)が公的資金として支出されている。優れた研究者や研究機関への支援のほか、海外や国際的な研究機関との協力・連携、政府への助言、市民の公共的問題への関心を高める試みなどが行われている。
◆「説明不足だった」
橋下氏のツイッターのコメントには、次第にこうした事実関係を示す日本人の研究者のつぶやきや、「デマです」「アメリカの実情はこのようになっている……」などの反応が寄せられるようになった。
橋下氏は、発信から6日後の12日午前、6日のつぶやきを引用する形で「これは説明不足だった。アメリカやイギリスでは、日本のように税金で学者団体を丸抱えすることはないが、学者団体に仕事を発注して税金を投入する」などとツイートした。
橋下氏に6日のつぶやきの根拠などを問い合わせたが、橋下氏の事務所は「現在は一私人としての立場なので、無償でのインタビューには応じていない」と回答した。
◆年金250万円もらえる?
5日昼のフジテレビの情報番組「バイキングMORE」では、同局の上席解説委員の平井文夫氏が「欧米は全部民間。日本だけが税金でやっている」「民営化して、自分たちで会費を払って提言すればいいんじゃないですか。だってこの人たち6年、ここで働いたら、その後、学士院というところに言って、年間250万円年金もらえるんですよ。死ぬまで。皆さんの税金から。そういうルールになっているんです」などと発言した。
だが、日本学士院の担当者は「日本学術会議の会員やOBが学士院会員になるという規則はない。選出は、学士院の選定規則にそって年一回、候補者の推薦を募ると公示して、総会での選出を経て選ぶ」と説明。「推薦者は大学の学長や研究機関の所長、学士院会員、学術会議の会員の3つで、候補者の所属団体は問われていない」と話す。
学士院会員は、定員150人で現在は130人。現在の学術会議の会員は、梶田隆章学術会議会長だけで、学術会議の会員でなくても、学士院会員になる人もたくさんいるという。
学士院の担当者は「平井氏の発言がテレビに出てから市民からの苦情電話もあり驚いた。発信者はきちんとした事実を確認してから発信してほしい」と話す。
◆「放送を訂正」と謝罪
フジテレビは、6日昼の放送で、アナウンサーが「昨日の放送について補足と訂正がある」として「学術会議の会員全員が学士院の会員になって、年間250万円の年金を受け取れるといった誤った印象を与えるものになりました」と謝罪したが、「欧米は全部民間。日本だけが税金でやっている」との事実と異なる発言への言及はなかった。
ツイッターに約3万7千人のフォロワーがいる平井氏は、問題となった発言を行った日の直前に「今日も『バイキングMORE』です。お題は日本学術会議の任命問題。しかし既得権益を奪われる人達の抵抗ってスゴイな。まあ僕らの税金ですから。とっとと民営化して欲しいものです」とつぶやいた。15日午後9時現在、それ以降の更新はなく、発言に関する訂正や謝罪は行われていない。
平井氏の発言の根拠となった情報や平井氏の見解を求めたが、フジテレビ広報室は「6日の番組でお伝えした通り。取材の詳細についてはお答えしておりません」と回答した。
こうした不正確な情報が発信されていることについて、学術会議の担当者は「誤った情報が、ネット上にあふれ、抗議や苦情の電話が市民から来たり、マスコミの問い合わせが来たりして対応に追われる。発信者側は、自分が知った情報が、事実に基づくものか否かを、発信する前に確認してほしい」と話す。
◆「発信者の態度を見極める必要」
NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」理事の立岩陽一郎氏は、「言論活動に携わる人たちが事実に基づく発信を心掛けるのは当然。メディアはあくまでも事実に基づく冷静な発信を心掛け、報道を行う必要がある」と語る。
さらに「影響力のある人々の発言について、ファクトチェックをたえずしていく仕組み作りが重要だ」とし、「市民は、発信者が根拠を示しているか、間違いを指摘された時、その事実を明示した上で謝罪するなど、誠実に対応しているかなど、発信者の態度を見極めていく必要がある」と言う。
その上で今回の学術問題については、「学術会議への公的資金投入の可否ではなく、首相が学術会議が推薦した6人の任命を拒否したという点だ」と指摘。
「橋下氏は『自立しろ』としているが、米国は法人が寄付すれば大幅な減税措置が受けられる税制になっており、全く日本と異なる。米国の科学アカデミーなどは、使途が義務付けられない多額の寄付を受け運営できる仕組みがある。単に『自立しろ』と言う前に科学者を育てるために、日本の税制の見直しを含めた指摘や議論が必要ではないか」と提案した。
「学術会議が科研費4兆円を再配分」は誤り
「4兆あれば科学立国できる」ネットは嘆き
ハフポスト日本版 2020/10/14
菅義偉首相が6人の任命を拒否したことで話題になっている日本学術会議について、「科研費4兆円の再配分をやっている圧力団体」などとする誤った情報がネットで拡散された。
実際には科研費の予算は2300億円余りで、採択する研究を決める過程に学術会議が影響を及ぼすこともない。Twitterでは「4兆円あれば科学立国できる」などと嘆く投稿もされている。
■科研費も、圧力も「誤り」
科学研究費助成事業(科研費)は学術研究を支援する目的で助成されるもので、独立行政法人の「日本学術振興会」が所管している。
この科研費と学術会議の関係について言及したのは、ネット番組の「Front Japan桜」。
男性キャスターが学術会議について「裏がある」とし、「学術会議のメンバーが中心となって科研費の再配分をやっているわけですよ。学術会議の看板使って一種の圧力団体と化しているわけ。これで科研費ということになると4兆円とか、科研費がらみなんていうと6兆円とかですね」などとした。
さらに「彼らだけがやるわけじゃないですよ」としつつも、「予算配分、予算按分に大きな力を持っているので、本当に適正であって必要であるのかは当然議論になるわけです」とした。
この部分を切り取った動画がTwitterにアップされると、1100回以上リツイートされ、動画の再生回数は11万回を超えた。
しかし、この情報は誤りだ。
まず科研費の予算は文部科学省の令和2年度予算で公開されていて、2373億5000万円だ。「4兆円」がどこから出たものかは不明だが、近いものとして文科省の「文教及び科学振興」のうち「文教関係費」の総額が4兆346億円となっている。
ただし、この文教費は「国立大学法人運営費交付金等(1兆807億円)」など、科研費と関係のない予算も合わせたものに過ぎない。
次に学術会議が科研費の再配分に介入する「大きな力を持っている」という指摘はどうか。科研費を所管する日本学術振興会の担当者によると、2004年度までは科研費の採択を決める審査委員は学術会議の推薦に基づき決められていた。
しかし、2005年に学術システム研究センターが設立され、選考体制が整うと方法が変わる。研究者などが登録された「審査委員データベース(令和元年度時点で12万5635人)」から研究センターが候補者案を作成し、そこから学術振興会が審査委員を決めている。
学術振興会の担当者はハフポスト日本版の取材に対し「選考は独自に行っていて、学術会議が関与することはありません」と話した。
また、学術会議の会員が審査委員に選ばれるかについては「理論上はあり得ますが、そもそも審査委員を選ぶときに、学術会議の所属かどうかはチェックしませんし、考慮することもありません」とした。
誤った情報でもたらされた科研費の規模は実際の10数倍にのぼる。Twitterでは「科研費が4兆円あれば科学立国できる」「その世界線に移動したい」「落ちる人がいない平和な世界」など、実際と比べて嘆く声が多く投稿されている。