2022年7月4日月曜日

04- 【舛添直言】終わり見えないウクライナ戦争 ~ 予想できるのは暗い未来ばかり

 国際政治学者舛添要一氏が「【舛添直言】終わり見えないウクライナ戦争 ~ 予想できるのは暗い未来ばかり」とする記事を出しました。
 ウクライナ戦争を何とか終結させることが出来ないのかが目下の最大の関心事なのですが、タイトルが示しているようにその可能性は殆どありません。
 何よりウクライナには(軍の戦意は兎も角として)必要な武器は次々と周囲から供給されるし、背後にいる米国にもまた当のゼレンスキーにも 戦争を終結させようという意思はありません。
 他方ロシア側も経済制裁は殆ど効いていないのでその意思はないし、何より事を起こした立場上 停戦交渉は言い出せません。そうであれば第三者の仲介に頼るしかないのですが、唯一期待されていたトルコのエルドアン大統領も、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を承認したことでその資格を失いました。
 かくして「未来は暗い」という結論になるのですが、それはそれとしてウクライナ戦争を巡る海外の状況について知ることが出来ます。
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【舛添直言】終わり見えないウクライナ戦争、これは第三次大戦への道なのか
停戦のシナリオ描いてみても予想できるのは暗い未来ばかり
                        舛添 要一 JBpress 2022.7.2
                             国際政治学者
 ウクライナでの戦闘は止む気配を見せない。2月24日のロシア軍の侵攻から4カ月以上が経過したが、今後の展開はどうなるのか。戦争は長期化すると見られているが、いつまで続くのか。当事国以外の世界は、すでに「ウクライナ疲れ」、「ゼレンスキー疲れ」の状況であり、人々の関心は薄らいできている。

物価高に音を上げる庶民、西側では政権・与党の支持率が軒並み低下
 ウクライナ戦争の影響は、物価高という形でもろに庶民の生活を直撃している。石油や天然ガスの供給が減少したため、ガソリンや光熱費が高騰している。1リットルが170円というガソリン価格には日本人も困っているが、フランスは280円、イタリアは310円である。その不満は自国の政府に向かっている
 6月19日に行われたフランスの国民議会選挙で、マクロン大統領の与党が過半数割れを起こしたのも、このインフレが原因である。政府の無策を批判する左派と極右が大きく票を伸ばした
 直近の消費者物価指数の伸び率を見てみると、日本が25%なのに対して、アメリカが86%、イギリスが91%、ドイツが79%である。

 22日公表のロイター・イプソス調査によると、バイデン大統領の支持率は36%で、4週連続して低下しており、過去最低である。この傾向が続けば、11月8日に行われる議会の中間選挙で、民主党は上下両院のいずれかで少数派に転落する可能性がある。
 有権者の関心は経済であり、物価高が生活を困窮させているとして、バイデン政権の「無策」に対する批判を強めているのである。トランプ前大統領の最低支持率は2017年12月の33%であったが、ウクライナ戦争が長期化し、物価高に歯止めがかからないと、この数字以下に支持率が低下することも考えられる。

 ウクライナに対して、西側諸国は大規模な軍事・財政・人道支援を行っている。その総額は、1月24日から6月7日までで783億ユーロ(約11兆円)に上っている。アメリカが427億ユーロ(55%)、イギリスが48億ユーロ(6%)、ドイツが33億ユーロ(4%)で、日本は6億ユーロ(0.7%)で7位である(ドイツのキール経済研究所による)。この支援も各国の納税者の負担になっている。

G7、NATO首脳会議でも停戦の道筋示せず
 6月26日から3日間、ドイツでG7サミットが開かれた。G7は、結束してロシアの侵略行為に立ち向かうことを確認し、ロシアへの圧力をさらに強化することを決めた。ロシア産の金の輸入停止などの追加経済制裁措置も発動する。
 さらに、ウクライナへの支援でも合意し、戦後を見据えて復興のために第二次大戦後のマーシャルプランのような計画が必要なことでも一致した。
 また、ウクライナ戦争で深刻化している食糧危機に対応するため、45億ドル(約6000億円)を拠出することも決定した。

 29日から、スペインに場所を移して2日間NATO首脳会議が開かれ、これには日本の首相として岸田文雄首相も初めて参加した。ロシアへの対応、さらにはアジアにおける中国の動きについても意見が交換された。
 スウェーデンとフィンランドのNATO加盟問題ではトルコが「クルド人テロリストの処遇など欲するものは得た」として承認する方向に転換した。そこで、両国の加盟交渉を正式に開始することで合意した。
 また、NATOは、即応部隊(NRF)を現在の4万人から30万人に増員することも決めた。さらに、「ロシアは、われわれの安全保障に対する最も重要かつ直接的な脅威である」という戦略概念を採択した。
 以上のような西側諸国の外交防衛努力で西側の連帯は確認できたが、停戦への展望は何も見えてこない。
 プーチン大統領は、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について、「加盟は自由だが、両国にNATOが軍事施設を設置すれば、必要な対抗措置をとる」と警告した。
 さらに、プーチン大統領は、29日にはトルクメニスタンを訪れ、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、イラン、カザフスタンとカスピ海沿岸諸国首脳会議を開き、G7やNATOを牽制している。
 なお、NATO首脳会議では、戦略概念で中国にどう対応するかという点も話し合われた。NATOは本来はヨーロッパの安全保障のための仕組みであり、東欧諸国は、NATOはヨーロッパの防衛に専心すべきだという姿勢である。これに対して、アメリカは、これからの競争相手は中国であることを認識しているため、中国に対する安全保障網を形成することに余念がない。
 最終的には、中国が「我々の利益、安全保障や価値観に挑戦しようとするものだ」という文言が採択された。しかし、具体的にどう中国に対応するかについては、具体的な計画はまとめられなかった

膠着状態が続く戦況
 戦況は膠着状況が続いている。東部ウクライナでは激しい攻防が展開されている。ロシア軍の大攻勢に直面して、ウクライナ軍には激戦地セベロドネツクから撤退する命令が下った。今は、ドネツ川対岸のリシチャンシクで戦闘が続いている。
 ロシアは、G7首脳会議の開催を牽制するかのように、ウクライナ中部のポルタワ州クレメンチュクのショッピングセンターをミサイルで攻撃した。20人以上が死亡し、多数の負傷者が出ているという。
 一方、リトアニアは、6月22日、ロシアの飛び地であるカリーニングラードとロシアを結ぶ鉄道輸送を制限すると発表した。鉄路は、ロシアからはベラルーシ、リトアニアを経由しないとカリーニングランドへ到達できない。リトアニアは、EUの制裁対象の貨物を積んだ列車の乗り入れを禁止するという。
 ロシアは、これに猛反発し、報復措置をとると警告。不凍港のカリーニングランドは、バルチック艦隊の母港であり、ロシアの対欧州戦略拠点である。核弾頭搭載可能なミサイル「イスカンデル」も配備されており、射程500kmでベルリンも射程内である。
 さらに、25日、プーチン大統領は、ベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、イスカンデルを供与することを約束した。また、ウクライナ国防省によると、ロシアの空軍基地から出撃した爆撃機6機がベラルーシ南部からウクライナにミサイル12発を発射したという。

戦争の当事国が「核保有国」という厄介さ
 4カ月以上にわたる戦闘で、ロシア、ウクライナ両軍とも大きな被害が出ており、消耗戦になっている。しかし、停戦への道は開けていない。
 過去の戦争の歴史を振り返っても、停戦、休戦に至る前提条件は、交戦国が双方とも疲弊することである。また、交戦国よりも強力な大国が第三者的立場で仲介に乗り出すことである。その典型的な例が日露戦争である
 この点に関しては、6月4日の「舛添直言」で解説した*。
   *参考:【舛添直言】日露戦争「講和」させたルーズベルト、バイデンにその能力
    あるか(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70414
 しかし、今回のウクライナ戦争に関しては、ウクライナは西側から大量に最新兵器を調達できるし、ゼレンスキー大統領は、戦争に勝つまでは戦うと明言している。そして、アメリカはその姿勢を支持し、軍事支援を惜しまない。
 一方、ロシアは、資源大国であり、国民も耐乏生活には慣れている。しかも、強力なプロパガンダによってナショナリズムを動員している。経済制裁の効果はじわじわと効いてくるが、制裁に加わっていない国の数は制裁国の3倍もある。また、制裁逃れに手を貸す国もあり、ロシアは、そう簡単には屈しないであろう。
 さらには、冒頭で述べたように、制裁はブーメラン効果となって、日米欧各国に物価上昇など、大きな弊害をもたらしている。
 重要なのは、日露戦争の時代とは違い、核兵器が存在し、ロシアがそれを保有していることである。ロシアの戦略には、国を防衛するために必要なときには核兵器を使用することが明記されている。この「究極の兵器」を使わないまま、ロシアが屈服するとは到底考えられないのである。

考えうる「停戦のシナリオ」
 そこで、停戦のシナリオを描くのは極めて難しい。以下のように、頭の体操をしてみよう。
(1)<ロシア優位で停戦を迫る>
 これはアメリカは許さないし、軍事支援でウクライナに対抗させ続ける。しかし、ロシアは、生物・化学兵器や小型の核兵器を使用してウクライナを屈服させようとするだろう。その場合、NATOは宣戦布告するわけにはいかないので、対抗措置はない。措置を講じれば第三次世界大戦になるからである。
(2)<ウクライナ優位で停戦を迫る>
 そういう状況になるには戦争は越年し、数年続くかもしれない。資源の豊富なロシアは、そう簡単には諦めない。制裁も抜け穴が多い。ウクライナ兵の消耗が激しければ、武器はあっても戦争は継続できないかもしれない。外国からの義勇軍では限界がある。
(3)<両者痛み分けで停戦>
 ウクライナがNATOに加盟せず、クリミア問題を棚上げするという3月の提案の線に戻り、ロシアもそれを承認するというラインだが、これを両者に飲ませることのできる仲介国がいない

 トルコのエルドアン大統領もフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を承認したために、ロシアに対する仲介能力が低下している。イスラエルは、国会が解散し、11月に総選挙が行われる。今のベネット首相は退陣し、ラピド暫定首相が次期政権発足まで政権を運営するが、国内政局でウクライナ戦争の仲介どころではなくなっている。11月に開かれるG20の主催国インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、29日にはゼレンスキー大統領、30日にはプーチン大統領と会談し、仲介の意欲を示したが、具体的な成果は上がっていない。

 以上のように考えると、戦争は長期化せざるをえないし、核戦争や第三次世界大戦への道に迷い込む可能性もなしとは言えない。世界は今、極めて危険な状況にある。