2022年7月27日水曜日

「国葬」やまぬ批判/閣議決定による「安倍国葬」は法治主義を冒すもの

 政府が安倍晋三の国葬を閣議決定した後も、国民の「反対」の声は広がり続けていて、中日新聞と南日本新聞LINEを使ってアンケートを実施した結果は、反対が中日新聞では764%、南日本新聞では722%に上りました。一方、賛成はそれぞれ214%、231%にとどまりました。これは一般的な世論調査ではなく、自発的に応募した人たちの賛否なので意識の高い人たちでの比率ということが出来そうです。
 保守層や自民党支持層のなかでも、国葬に「違和感」や「疑問」を呈する声も上がり始めています。
 共産党の小池晃書記局長は25日、記者会見国葬問題について問われ、最大の問題は安倍政治を賛美礼賛し国民に弔意を強制することにつながることだと述べた上で、「法的根拠がなく、国会審議もなしに閣議決定で行うということは、民主主義を踏みにじるやり方だ」と厳しく批判しました。そして吉田元首相以降、佐藤栄作元首相も含めて国葬とはしなかったのは、「国葬令は新憲法と矛盾するというのが当時の判断だったのではないか」と述べました。
 しんぶん赤旗が報じました。

 憲法学者の小林節名誉教授は、「憲法上、日本国の意思を決定する機関は「国会」であり内閣ではない。内閣は、国会が決めた国家の意思を執行する機関である(73条)。これが憲法に明記された国家権力の行使に関する基本ルールである」と述べ、元首相の国葬の根拠になる法律は存在しないとしたうえで、どうしてもしたいというのであれば、時間はあるのだから、議案として堂々と国会に提出すべきでそれが憲法72条に明記された首相の「職務」であると述べています。極めて明快です。
 3つの記事を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「国葬」やまぬ批判 地方紙調査で反対7割 自民内でも
                       しんぶん赤旗 2022年7月26日
 政府が安倍晋三元首相の国葬を閣議決定した後も、国民の「反対」の声は広がり続けています。中日新聞と南日本新聞は、政府が22日の閣議で安倍元首相の国葬を行うことを決めたことを受け、無料通信アプリ「LINE(ライン)」を使ってアンケートを実施。反対が中日新聞では764%、南日本新聞では722%に上りました。
 中日新聞では539人、南日本新聞では706人から回答を得ました。いずれの調査も無作為抽出する世論調査とは性格が異なりますが、アンケートでは、森友・加計学園や桜を見る会をめぐる疑惑、国葬の法的根拠を問う声などが共通してみられています。一方、賛成はそれぞれ214%、231%にとどまりました。
 保守層や自民党支持層のなかでも、国葬に「違和感」や「疑問」を呈する声も上がり始めています。自民党の四方源太郎・京都府議がブログで「今回『国葬』とするのには疑問を感じる。葬儀を国民栄誉賞のように使うべきではない」と指摘するなど、自民党内からも批判が止まりません。
 全国・地方紙は閣議決定に対し、「なぜ国会説明しないのか」(「毎日」)「弔意の強制にならぬか」(北海道新聞)「分断回避へ説明尽くせ」(山形新聞)とする社説を掲載。政府が異論を無視し、国葬を強行しようとすればするほど、批判が広がっている形です。


国葬の閣議決定「民主主義踏みにじる」 吉田元首相の国葬、法的根拠ないと認めていた
                        しんぶん赤旗 2022年7月26日
小池書記局長が会見
 日本共産党の小池晃書記局長は25日、国会内で記者会見し、政府が閣議決定した安倍晋三元首相の国葬問題について問われ、最大の問題は安倍政治を賛美礼賛し国民に弔意を強制することにつながることだと述べた上で、「法的根拠がなく、国会審議もなしに閣議決定で行うということは、民主主義を踏みにじるやり方だ」と厳しく批判しました。
 小池氏は、1968年5月9日の衆院決算委員会での吉田茂元首相の国葬に関する質疑で、社会党の田中武夫議員(当時)が「内閣が国葬にしようと決めれば、いつでも国葬を誰にでも行う。そういうことであってはならない」と指摘したのに対し、水田三喜男蔵相(当時)が「(国葬は)法令の根拠はない」と認めた上で、「何らかの基準というものをつくっておく必要がある」と答弁していたことを紹介しました。

 小池氏は「当時、政府は何らかの基準をつくっておく必要があると答弁しながら、結局つくれなかった。だから吉田元首相以降、佐藤栄作元首相も含めて国葬とはしなかった」と強調。「こういう経過がありながら、今回、国葬を閣議決定したことは、法治主義・民主主義の点からみても、大きな問題がある」と批判しました。
 さらに、国葬令は大日本帝国憲法下で勅令として決められたものだが、日本国憲法施行時に失効したと指摘。大日本帝国憲法下の法令でも必要なものは法律として議決されたが、「国葬令は新憲法と矛盾するというのが当時の判断だったのではないか」と述べました。


ここがおかしい 小林節が斬る!
閣議決定による「安倍国葬」法の支配と法治主義が崩されている
                         日刊ゲンダイ 2022/07/26
 岸田文雄首相がまだ理解していないのであえて繰り返すが、憲法上、日本国の意思を決定する機関は、(改憲の場合を除いて)「国会」であり内閣ではない内閣は、国会が決めた国家の意思を執行する機関である(73条)例外的に「外交」は、相手があり国の存続にかかわる事態が常に進行しているので内閣による先行的決定も許されているが、それでも事後に国会による承認が要る(同条三号)。これが憲法に明記された国家権力の行使に関する基本ルールである。
 岸田首相は、法制局の官僚に、内閣府設置法(これは国会が決めたもの)4条3項33号の内閣の所掌事務の中に「国の儀式」があることを「安倍国葬」の根拠だと言わせている。しかし、それは、憲法7条10号と皇室典範(法律)25条で既に国会により国家の意思が決まっている大喪の礼(天皇の国葬)などを執行するための規定であり、元首相の国葬の根拠になる法律は存在しない
 にもかかわらず、現憲法下での元首相の国葬は吉田茂氏の一例があり、それも閣議決定による。しかし、違憲は違憲である。
 上述のように国葬にはその根拠を定めた法律が不可欠である。だから、今回、「安倍国葬」がふさわしいと岸田首相が考えるなら、時間はあるのだから、議案として堂々と国会に提出すべきである。それが憲法72条に明記された首相の「職務」である
 思えば、安倍首相(当時)が内閣法制局長官人事に介入して以来、事前の違憲審査機関としての法制局が死んでしまったようである。憲法9条2項で、国際法上の戦争の手段である「軍隊」と「交戦権」を否定したわが国は海外に「戦争」に行けない国である。にもかかわらず、2014年に安倍内閣が「閣議決定」で憲法解釈を変更して以来、わが国は海外に戦争に行けることになった。
 まるで、憲法尊重擁護義務のある(99条)内閣が憲法の上にある構図である。
 この安倍政権の負の遺産である手法により、今回は「安倍国葬」が決定されてしまった。しかし、違憲はどうしたって違憲である。
 明らかに、また、「法の支配」(憲法)と「法治主義」(立法権)が侵された。

小林節 慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)