岸田首相は6月29~30日、NATO首脳会議にオブザーバーとして出席し、NATOの方針に全面的に賛成する発言をしました。それに対してロシアのプーチンは30日、サハリン2の資産をロシア側が新たに設立する会社に移管することを定めた大統領令に署名しました。
ロシアから見ればロシアを敵視する軍事同盟のNATO首脳会議に参加すること自体が容認できないところにきて、まるでNATOを賛美するかのような発言をしたのですから「好感」のしようがありません。
【発言の骨子】
・中国を念頭に、インド・太平洋地域におけるNATOとの軍事連携を強化する
・AP4(日韓豪NZの連携)はNATO理事会会合に定期的に参加する
・NATO本部に自衛官を派遣し相互の軍事演習への参加を拡充する
・核軍縮の取り組みにおいてNATO諸国と協力する
⇒(7月3日)岸田首相が軍拡公約 NATO会議 力対力 世界を分断(しんぶん赤旗)
ロシアがサハリン2の占有を宣言した際に、日本側はロシアからのLNG輸入のシェアは10数パーセントに過ぎないから「大したことはない」という論調でしたが、いまや西側のLNG市場は商品(LNG)そのものが払底している状態で、価格も「2倍」になるというような生易しい状態ではありません。米国の製油プラントが連続的に大火災を起こして容易に復旧できなくなっているなど、西側世界の情勢は刻々と変化しています。
萩生田経産相や林芳正外務相も岸田首相と同様に、ロシア敵視の発言を控えようとはしない一方で、サハリン2の権利は放棄すべきでないなどと呑気なことを口にしています。
日本はロシアからの制裁に対しては「何でも耐える」というのであれば話は別ですが、ロシアの大統領報道官が「このような状況下では(日本の閣僚の)言動は非常に問題になる」と発言している意味を考えるべきでしょう。
政治評論家ウラジーミル・ダニーロフの記事を紹介します。
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対ロシア制裁の壊滅的結果に直面する日本
マスコミに載らない海外記事 2022年7月29日
ウラジーミル・ダニーロフ 2022年7月26日
New Eastern Outlook
ロシア嫌いの狂乱に陥っているアメリカとその同盟諸国が、より厳しい反ロシア経済制裁、特に、ロシア石油価格に上限を設ける能性を積極的に議論している一方で、ロシアに対する欧米の経済制裁政策は、欧米諸国自身にますます損害を与えている。そして、これは世界のエネルギー市場、特にガス市場ですでに顕著だ。
春、アメリカはロシアとのガス戦争を始め、EUはいわゆる「モスクワへのエネルギー依存」から解放されて、ロシア・ガスに相当する水準の確実なLNG供給をすると保証した。しかし実際は、アメリカはそうする能力がないことが数日で分かっただけでなく、EUのエネルギー安全保障を酷く傷つけた。最近世界のLNG輸出業者間で、カタールとオーストラリアが首位を競う中、主にヨーロッパ消費者に「ブルーフューエル」を輸出しているアメリカの工場における一連の原因不明事故のため、急激に地盤を失った。
良く知られているように、アメリカLNG生産者のトラブルは、6月初旬、輸出用アメリカ・ガス処理の約20%を占めるテキサス州キンタナ島のフリーポート・ターミナルでの爆発で始まった。施設所有者と救助隊による最初の発言は「小規模な3週間の修理」だったのだが、まもなく遙かに長期の補修作業になることになった。
丁度1カ月後、オクラホマ州メドフォードの類似のOneOk施設が、似たような理由で事業を停止した。目撃者によれば、工業プラントを巻き込む火災は短期で修復できないほど広がり、生産ユニットは「完全に燃え尽き」て稼働の継続を不可能にした。
オクラホマでの事故と、ほとんど同時に、テキサス州モントベルビューでも重大事故が起きた。地下パイプラインの爆発とそれに続く火災が、ローン・スター液化天然ガス貯蔵施設に深刻な損害を与えた。
結果的に、アメリカ当局によれば、相当な修理作業の人件費以外に多額な設備投資が必要なため、被害にあったアメリカ生産施設の稼働は年末まで延期された。破壊されたプラントの所有者は連邦政府に頼る可能性が高い。
これらアメリカの工場施設の閉鎖に起因する世界エネルギー市場の損失は重大であり、国内、海外の燃料消費者とも、次の暖房が必要なシーズンにそれをはっきりと感じるだろう。だが、ロシアから供給されたエネルギーを、アメリカのもので置き換えることを狙ったワシントンの対ロシア政策の結果、5月以来、ヨーロッパが、アメリカLNGの主要輸入者となり、旧世界が液化燃料輸出全体の3分の2に及び、アメリカ・エネルギーに依存するようになったことは強調されるべきだ。対ロシア制裁政策の結果、アメリカ産燃料に頼るEU加盟国のエネルギー事情は劇的に悪化している。それは世界の他のエネルギー市場、特にヨーロッパとガスで競合しなければならないアジアにも不安定をもたらした。
これらのアメリカと西欧同盟諸国によるグローバル・エネルギー市場に対する制裁の「悲惨な」帰結を、最近Yahooニュース! Japanが強調したが、それは、まさに以前ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが、アメリカと西欧同盟諸国がしかけるロシア嫌い政策に歯止めをかけようと警告していたことを思い出させる。プーチンは、モスクワはどんな対ロシア制裁にも対応する準備ができていて、それはロシア自身よりも西側に遙かに多くの打撃を与える、と強調していた。プーチンの予想の通り、Yahoo!ニュースJapanは、対ロシア制裁によって今後12カ月でユーロ圏経済が景気後退に陥る可能性を指摘し、それはすでに45%で、あり、インフレは7・6%と予想されるとしている。
EU加盟諸国が、パイプラインによるガスの輸入を減らし、液化天然ガス(LNG)に置き換える傾向の中で、日本のエネルギー専門家はLNG市場での競争は今後数カ月から数年、激化すると考えている。短期的には、石炭増産政策が失敗した中国でも電力不足が予想されるため、状況は悪化するだろう。
この文脈のなかで、日本のエネルギー安全保障の問題を無意識的にロシアのせいにしているが、アメリカの影響の下で公然とロシア嫌いの路線をとった日本が、ロシア産石油価格を制限する政策を実行すれば、ロシア・ガソリンを買うのは不可能になると、ロシア連邦安全保障理事会議長代理ドミトリー・メドベージェフが最近発表したことで、東京の考えを暗いものにしている。共同通信は7月1日、ロシア有限会社を液化天然ガス(LNG)プロジェクトの管理者にするというロシアの決定の結果として、日本企業がサハリン-2プロジェクトの権利を失いかねないとの懸念が高まっていると報じた。
シドニーでのエネルギーフォーラムで、日本の経産大臣萩生田光一は、アメリカとオーストラリアに液化天然ガス生産を増やすように要請したことについて、アナリストでポスト石油戦略研究所代表の大場紀章は、両国がそうできる可能性はありそうにないと述べた。
これを念頭において、萩生田光一経産相は、三井と三菱は、サハリン-2プロジェクトの彼らの株を「堅持」すべきだと述べた。7月16日、岸田首相と会った後萩生田大臣は、日本企業の決定はロシアの状況に依存すると日経が述べたにもかかわらず、新しいロシア企業がプロジェクトの管理者になった後も、東京は、サハリン-2の株主であり続けるようこれらの日本企業に要求したと強調した。
現状での東京に対するモスクワの態度については、最近のG20イベントでの林芳正外務大臣による明示的なロシア嫌いの言動を含め、このような状況下では言動は非常に問題になる、日本のロシアに対する極めて非友好的な姿勢は、両国の協力やエネルギー対話に貢献しないと7月6日、ロシア大統領報道官ドミトリー・ペスコフは述べた。
「日本はロシア連邦に対し極めて非友好的な姿勢だ。いずれにせよ、このような極めて非友好的姿勢はエネルギー対話を含む合意の発展や経済関係に全く貢献しない。」と。
ウラジーミル・ダニーロフ(政治評論家)
オンライン誌「New Eastern Outlook」独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2022/07/26/japan-faces-catastrophic-consequences-of-its-anti-russian-sanctions