2022年7月8日金曜日

08- 日銀と円の破綻ー円の信認の内実、出口戦略が設計できない日本

 世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。「アベノミクスには出口戦略がない」ことは当初からいわれていたことですが、そうかといって拱手傍観しているだけではどうにもなりません。
 世に倦む日々氏は冒頭で、4日放送の報道1930TBS」において、日本における今後の金利引き上げについての見通しを藤巻健史氏が、
 ①日本も金利引き上げに必ず追い込まれること、
 ②日銀保有の国債と株式の価格が下がって市場から債務超過と看做されること、
 ③円の信認が失われて外国資本が日本市場から離れること、
 ④日本の中央銀行である日銀が破綻すること、
 ⑤アベノミクスは財政破綻の先送りだったこと。
と述べたことを紹介しました。まさに日銀が破綻するプロセスが端的に示されています。


 日本の中央銀行の破綻は結局 日本経済そのものの破綻です。問題はそれ以外の道はないという点です。では日本は具体的にどうなるのか。世に倦む日々氏は最後の2ブロックで要旨次のように述べています。
日本の国家財政も通貨政策もアメリカの管理下に置かれ、嘗て韓国がIMFから屈辱的指導を受けたような、厳しい統制を受ける羽目になる日銀が破綻しても、アメリカは日本を潰すわけにはいかない。日本経済が壊滅したら、アメリカは中国と戦う上での前線基地を失い、アメリカ経済を順調に回すための大事な植民地機構を失う放置すれば、中国資本が手を伸ばして何から何まで(銀行も商社もテレビ局も病院も学校も)買収してしまう
 アメリカの手で強烈な新自由主義的改革が断行され、日本の富のブラックホールたる天下り法人群が廃止清算されるだろう。医療が自由化されて窓口負担が7割となり、学校教育が英語化されるだろう。500兆円の内部留保も米国管理下に置かれ、米国による日本再占領が出現する」と。

 なお、世に倦む日々氏は、インフレが発生する状況下では「MMT理論」は本来的に成り立たないと見ています。詳細は同氏の下記の記事に書かれています。
   逆風のMMT- 国債発行の財源策はもう無理、内部留保の国有化しかない
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日銀と円の破綻 - 円の信認の内実、出口戦略が設計できない日本
                          世に倦む日々 2022-07-06
7月4日放送の報道1930(TBS)で金融経済の問題がテーマとなり、日本の金利引き上げというクリティカル⇒重大・危機的なイシューが焦点となって議論がされた。今のわれわれにとって最も重要な問題であり、世界中が強い関心を持って注目している問題である。この番組を褒める機会は滅多にないが、久しぶりに中身のある報道内容だったと評価してよい。全体の構成と進行もよく、準備した資料もポイントを押さえていた。が、何より番組を成功させたキーの要素は、出演した藤巻健史のショッキングな解説と警醒の弁だっただろう。

録画が上がっているので、見逃した方はぜひご覧いただきたい。解説者は3人で、あとの早川英男と加谷珪一は口を濁す発言しかしなかったが、藤巻健史はストレートに本質を射抜く見解を発した。①日本も金利引き上げに必ず追い込まれること、②日銀保有の国債と株式の価格が下がって市場から債務超過と看做されること、③円の信認が失われて外国資本が日本市場から離れること、④日本の中央銀行である日銀が破綻すること、⑤アベノミクスは財政破綻の先送りだったこと。私もこの認識に基本的に同意だ。

6月22日の記事「預金封鎖の不安」の中で、藤巻健史とほぼ同じ予測を書いた。ドラスティックでカタストロフィック⇒破局的な見通しだが、社会科学的に考えて、この分析と結論にしかなりようがなく、他の楽観的な方向性やマイルドな着地は全く思い浮かばない。①の日本も金利引き上げに追い込まれるという観測は、おそらく大方の者が賛同するはずだ。②の日銀の債務超過問題については意見が分かれ、MMT派は、バランスシートの計上値は簿価であり時価ではないからという会計論を根拠にして、日銀が債務超過に陥る心配はないという反論を立てている。

その論理の延長から、日本のMMT派は、④の日銀の破綻もないし政府の財政出動の継続も問題ないと主張する。このところ、おそらくれいわ新選組支持の左翼と思われるが、私のツイッターに侮辱と罵倒の落書きをする者が現れるようになっていて、日銀は不滅で国債発行は永続可能だという信念を書き込んでいる。ケルトンが来日時に述べていた「インフレが起きない範囲ならOK」という前提条件を忘れたのだろうか。今は40年来の悪性インフレの時期で、ケルトンの理論が成立する前提が失われている。私は日本共産党よりもれいわの方に傾いた立場だが、MMT理論は今の局面では通用しないと断言する。

日銀のバランスシートの問題で論点を提示しよう。藤巻健史の指摘も、報道1930の説明も、日銀の債務超過について、BS会計の数値を問題にしているわけではない点に注意しないといけない。番組のフリップには「実質的債務超過とみなされるリスク」と書いている。あくまで「実質的」であり、債務超過を判断するのは国際金融市場のプレイヤーの主観なのだ。ヘッジファンドや米投資銀行や格付け機関やブルームバーグやWSJであり、彼らの眼識と査定と衆議の中で、日銀の債務超過(か否か)が決まるのである。アナログ的な回路と経過を経て決定に行き着く問題である。経済とはグラデーション⇒境界があいまい的な動態の原理の世界だ。

金利が上がれば国債の利回りが上がり、国債の価格が下落する。日銀は大量の国債を保有しているから、日銀の資産の評価は大きく下がる。さらに、金利引き上げは株価に影響し、株価が下落し、これまた日銀の資産の評価減少に繋がる。実際のところは、日本の金利引き上げが行われなくても、アメリカの株価暴落が日本に波及し、東証が暴落するのは確実な情勢だ。東証で株転がししている資金の7割は外国人投資家で、東証はNYSEのサブセット⇒下部組織にすぎない。長く続いたアベノミクスの政策過程で、日銀は大量のETFを買い込み続けてきて、今や国内株式市場の7%の規模まで膨らんでいる。

現在、FRBがQT(Quantitative Tightening⇒量的引き締め)に動いていることは誰もが承知だろう。FRBは国債償還を促進し、株など保有資産を売却し、バランスシートを圧縮させる金融政策に注力している。QE⇒量的緩和)と逆のオペレーションに転じ、インフレ克服に精を出し、資産/負債のスリム化とバランスシートの健全化に努めている。いわゆる出口戦略だ。何のために出口戦略が必要だったのか。マネーサプライが増えすぎるとハイパーインフレのリスクが生じ、FRBの資産を無理に膨らませるとバランスシートの毀損に繋がって、ドルの信認低下を招くからである。通貨ドルが信用失墜するからだ。FRBは早い時期から出口戦略を模索していた。

日本銀行の場合、藤巻健史も言っていたように、「出口戦略」は口先だけの欺瞞で、現実的な方策も可能性もないものだった。アベノミクスには出口戦略はないのだ。出口戦略の設計が不可能な金融緩和策だったのであり、言うならば、シャブ漬けのまま頓死するのが必然の狂気の財政出動策だったと言える。藤巻健史が言うとおり、2013年の時点で日本は財政破綻していたのであり、それを財政ファイナンスの金融政策でゴマカし、財政破綻のハプンを先送りする措置に出ただけのなのである。破綻がリアライズしなかったのは、インフレにならなかったからであり、インフレは起きず常にデフレ環境という日本経済の条件と観念があったからに他ならない。

マルクスは、貨幣の本質の説明に際してシェークスピアを援用している。貨幣は、人がそこに価値を認めるから交換価値を持った経済実体になるのである。主観が実体を作る。経済とは、単に生産と消費の物質的な問題ではなく、人が何に価値を認めるか、何が価値形態として社会的に成立するかという精神と意識に関わる深淵な問題系だ。マルクスはそのことを教えてくれる。これまで、国際金融の世界では円は安全資産と呼ばれ、信頼性を高く評価され、世界中の(ホモエコノミクスたる)人々から、安心の通貨として信認されてきた。日本銀行が印刷して発行する紙切れを、世界の人々は価値あるものとして信用してきた。

なぜ、日本銀行の紙切れが世界の人々に価値形態として認められてきたのか。それは、日本のGDPの大きさと対外純資産残高のゆえであり、日本の製造業の技術と品質のゆえであり、それを実現してきた日本人の知性と能力と教育水準のゆえである。途上国が手本として仰いだ日本社会の達成度と倫理性のゆえである。円への信頼は、日本人への信頼と尊敬に媒介されたものだ。円の価値は、日本人の実力と活動の反映であり、その証明であった。しかるに今、その日本人の実態は、世界の人々から信頼と評価を得られるものだろうか。1年前の東京五輪の開幕式演出を思い出して欲しい。あの恥ずかしい始終を世界の人々はテレビで見ていたのだ。唖然としながら。

センスのない、品のない、知性のない、感動のない、自己満足のお笑いドタバタ三昧。クリエイティビティなし、イマジネーションなし、メッセージ性なし、芸術性なし。何もない。卑しい空っぽのゴミの集積。実に今の日本そのもので、見事に今の日本の実相を世界にプレゼンテーションしていた。この30年間の日本と日本人を見ながら、世界はその変化と変質に気づいている。劣化と堕落と無能化を察知し、ずいぶん落ちたものだと訝っている。最早、日本人は、嘗て世界の人々が称揚し共感したサムライの人間像ではなく、優秀で勤勉で創意工夫する民族ではないのだ。凋落している。競争力を失っている。半導体もワクチンも作れない国に落ちぶれた。

直近の国債の格付けランキングで、日本は24位となっている。韓国は16位。チェコやアイルランドよりも下位に位置づけられた。その昔、宮沢喜一が得意顔で「日本の国債は世界一だ」と言っていた場面を思い出す。小渕内閣と森内閣の財務相に就任して「平成の高橋是清」と呼ばれていた頃だから、20年以上前のことになる。本当に世界第1位の格付けで、他とは比較にならない強さを誇っていた。考えてみれば、宮沢喜一と麻生太郎を比較すれば、日本で何が起きたかが分かるし、日本がどう変わったかが分かる。麻生太郎のレベルが本当の日本だ。テレビを点ければお笑いばかり。報道はウソと隠蔽とアメリカ礼賛ばかり。

ニュースキャスターも、筑波大学人文社会系教授も、まともに漢字が読めない。左翼リベラルの大学教授は、研究もせず、古典もろくに読まず、ツイッターに貼り付いてしばき隊の誹謗中傷ごっこに明け暮れている。20年前はこのような情景はなかった。ニュースキャスターは久米宏と筑紫哲也が務めていた。今の日本と日本経済を考えれば、国債格付け24位は当然だし、1ドル135円の円弱為替も当然である。不思議なのは、この経済危機について誰も強い関心がなく、日銀が破綻するという想像力を持てないことだ。未来永劫に予算は国債で賄えると信じ、右翼も左翼も平然としている。このままの財政運営と経済状態が続くと信じ込んでいる。

そのことが信じられない。私は、おそらく韓国を襲った97年通貨危機のような災難が日本を直撃するだろうと予想する。日本の国家財政も通貨政策も、アメリカの管理下に置かれ、嘗て韓国がIMFから屈辱的指導を受けたような、厳しい統制を受ける羽目になるものと想像する。日銀が破綻しても、アメリカは日本を潰すわけにはいかない。日本経済が壊滅したら、アメリカは中国と戦う上での前線基地を失い、アメリカ経済を順調に回すための大事な植民地機構を失う。アメリカの浮沈に関わり、ドル覇権体制の安定に関わる。下手をすれば、放置すれば、中国資本が手を伸ばして何から何まで(銀行も商社もテレビ局も病院も学校も)買収してしまう

アメリカの手で強烈な新自由主義的「改革」が断行され、47都道府県制が再編統合され、金食い虫で日本の富のブラックホールたる天下り法人群が廃止清算されるだろう。医療が自由化されて窓口負担が7割となり、学校教育が英語化されるだろう。大学教授の半分以上がアメリカ人に。無論、500兆円の内部留保も米国管理下に置かれる。リオキュパイドジャパン⇒日本再占領の空間が出現するはずだ。