2022年7月26日火曜日

26- 安倍元首相の「国葬」は行うべきではない/国葬」は“不評”に終わる可能性+

 元外交官の孫崎享氏が、「安倍元首相の『国葬』は行うべきではない 国民の意志を軽視する岸田首相の選択」という記事を出しました。
 岸田首相の判断の誤りを諄々と説いています。
 日刊ゲンダイが、「安倍元首相の『国葬』は“不評”に終わる可能性 ~ 」という記事を出しました。国民は安倍氏の悲劇に「弔意」は持つものの、生前の実績を「賛美」する人は半数にも満たない筈と指摘しています。
 そんな中で岸田首相が「閣議決定で十分」とばかりに強引に決めたことに「手続きの不備」の批判も上がっています。岸田首相が自分の利益になるから決めたとしか考えられない「国葬」は最終的にどうなるのでしょうか。
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日本外交と政治の正体 孫崎享
安倍元首相の「国葬」は行うべきではない 国民の意志を軽視する岸田首相の選択
                         日刊ゲンダイ 2022/07/22
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 岸田首相が安倍元首相の葬儀について「本年秋国葬として行う」と述べた。松野官房長官は会見で、国葬とするにあたっての明確な基準を問われると、①安倍氏が憲政史上最長の首相であること ②選挙遊説中に銃撃を受けて亡くなったこと ③国内外から幅広い哀悼・追悼の意が寄せられたこと--などを指摘した。
 政府内では当初、「国葬」の形式にするのは難しいとの見方があったといわれている。
 戦前の国葬令は1947年に失効した。67年に吉田茂元首相の国葬を閣議決定で行ったが、80年に死去した大平正芳元首相以降は、政府と自民党が共催する「内閣・自民党合同葬」が主流となった。
 任務遂行中に亡くなったことから言えば、大平氏は現役の時の選挙期間中に容体を悪化して亡くなっている。重みは現職の死亡の方が重い
 今回の安倍氏の銃撃事件で、殺人容疑で送検された山上容疑者の殺害理由は、「旧統一教会への恨み」であり、政治的動機ではないとされている。従って選挙中に殺害されたものの、政治目的のテロで殺害されたわけではない。安倍首相の民主主義や自由主義への姿勢が理由だったのではない。
 こうしてみてくると、「国葬」にしなければならない理由は、なかなか見つからない。
 読売新聞は「国葬、当初は“国民葬”軸に検討…首相が慎重論退ける」の見出しで報じたが、その中に、「国葬の決定には、自民の国会議員の約4分の1にあたる93人が所属する安倍派への配慮もある」との記述があった。時事通信も「異例の対応で、安倍氏を支えた保守層への配慮を示す狙いがある」と報じている。
 安倍氏が銃殺されて以降、大手メディアでは、コメントは ①哀悼の意を表すること ②称賛は惜しまないこと ③批判はしないこと --を方針としてきた。従って、安倍氏への批判はほとんどなく、批判は違和感を持って迎えられる。
 しかし、少し前に時間をずらしてみよう。安倍氏が退陣表明直前の内閣支持率は、NHKの調査によると、「支持する」が34%で、「支持しない」が47%であった。つまり、仮に銃殺がなかったとすれば、国民は安倍氏を「評価する」より、「評価しない」が多かったのである。
 岸田首相が党内運営を最重視し、国民の意思を軽視する時、思わぬ批判増に直面する可能性がある。

孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。


安倍元首相の「国葬」は“不評”に終わる可能性…
      9.27日本武道館は無味乾燥なセレモニーに?
                          日刊ゲンダイ 2022/07/23
 政府が22日、閣議決定した安倍元首相の「国葬」は9月27日に日本武道館で実施される。
 岸田首相は、自民党が大勝した参院選の投票日(7月10日)に国葬を行うことを決めたという。しかし、このまま強引に国葬を実施して国民が納得するのかどうか。はやくも市民団体は、閣議決定と、その予算執行の差し止めを求めて、東京地裁に仮処分を申し立てている。団体メンバーが21日に会見して明らかにした。
 市民団体は、国葬の閣議決定と予算執行は「思想良心の自由を定めた憲法に違反する」と主張、「国民の代表である国会議員による審議を行い、予算の議決をするのであれば、国民合意を形式上、得たことになるが、岸田首相は閣議決定だけで急ぎ、国葬を挙行しようとしている」として、仮処分を申し立てたという。
 実際、国葬を行うことには異論も多い。熊本日日新聞が行ったアンケートによると、「賛成」42%、「反対」49%だった政権寄りのNHKの調査でも、国葬を「評価する」49%、「評価しない」38%だった

 そもそも、国葬を強行しても盛り上がらない可能性がある。戦後、首相経験者として唯一、国葬が行われた吉田茂元首相の葬儀は不評だった。当時、読売新聞は「国葬というより、無感動な官葬という気がしてならなかった」と報じている。会場の武道館には微妙な空気が流れていたという。国葬は全額、税金で行うため、宗教色を出せず、多くの国民の納得を得る必要があるため、無味乾燥なセレモニーにせざるを得なかったという。
 首相在任7年8カ月という長期政権を誇り、ノーベル平和賞まで受賞した佐藤栄作元首相の葬儀が国葬にならなかったのも、吉田茂元首相の国葬が不評だったのが理由のひとつだとされている。はたして、異論を封殺してまで国葬を行う必要があるのかどうか。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)がこう言う。
「戦前、制定された“国葬令”はすでに失効しているため、国葬を行う法的根拠がありません。せめて国権の最高機関である国会で議決すべきでしょう。それに、政府として安倍元首相に弔意を示すのは分かりますが、岸田首相は国葬を行う理由を『ご功績は誠に素晴らしい』としている。そうなると国葬は安倍元首相を賛美するものになる。弔意は表明するが、賛美はしないという国民も多いはずです」

 誰のための国葬なのか。