29~30日にマドリードで開かれたNATO首脳会議では、向こう10年間の行動指針で、ロシアを安全保障の「最大で直接的な脅威」と位置付け、危機に対応する即応部隊を現在の4万人から30万人に増強することで合意しました。中国にも初めて言及し、「野心や威圧的な政策はNATOの利益や安保、価値観への挑戦」だと強調しました。
ストルテンベルグ事務総長は、軍事費について既に9カ国がGDP比2%を達成し、19カ国が24年までの達成を見込み、5カ国が24年以降の達成を目指しているとして、「2%目標」が「上限ではなく下限になってきている」と強調しました。
第2次世界大戦後の1949年にソ連の脅威に対抗するとして創設されたNATOは1991年のソ連崩壊で本来の役割を終えた筈でしたが、いまや巨大な軍事組織に生まれ変わろうとしています。
そんな異常とも言うべき盛り上がりに反して、首脳会議前には「軍事でなく医療や教育に予算を」と訴える若者らが抗議行動を展開し、26日には数千人が市内をデモ行進しました。
また米国の『タイム』誌29日号は、「NATOの強大化が世界の敵対勢力同士の分断」をもたらすとの専門家の分析を紹介し、NATOの対ロシア戦略と同様に、アジアが中国の封じ込めに集中すれば「中国が軍事同盟の外で孤立し、それを破壊する以外に選択肢がないと判断する危険性が出てくる」と警鐘を鳴らしました。いずれも重要な指摘です。
岸田文雄首相は日本の首相として初めてNATO首脳会議に出席しました。しんぶん赤旗が「日本『準加盟』へ」という中見出しをつけて首相の発言要旨を報じました。
以下に箇条書きで示します。
・中国を念頭に、インド・太平洋地域におけるNATOとの軍事連携を強化する
・AP4(日韓豪NZの連携)はNATO理事会会合に定期的に参加する
・NATO本部に自衛官を派遣し相互の軍事演習への参加を拡充する
・核軍縮の取り組みにおいてNATO諸国と協力する
米国の意向に迎合して日本の近隣諸国である中国・ロシアをそこまで敵視するのが、本当に日本の安全に結びつくことなのか、一体どこの国のトップなのかと思うほどの、憲法9条が実質なくなっているかのような発言の数々はどうしたことでしょうか。米国の意中を行けばそれでいいという思考以外は持ち合わせていないかのようです。
それだけにレポーター2人の冷静な筆致と指摘が光る記事になっています。
関連して新外交イニシアティブ代表・猿田佐世さんが、「『民主主義 対 専制主義』世界不安定に」という記事を寄せています。
彼女は「ロシアのウクライナ侵略からの最大の教訓は軍事同盟=抑止力の強化で戦争が防げなかったこと、また、絶対に戦争を起こしてはならないということです。
戦争回避のために最も重要なのは外交であり、憲法9条がある国として、外交の重要性を喚起していくべきです」と指摘しています。。
以下に2つの記事を紹介します。
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首相が軍拡公約 NATO会議 力対力 世界を分断
しんぶん赤旗 2022年7月2日
マドリードで6月29、30両日に開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は、向こう10年間の行動指針を示す「戦略概念」で、ロシアを安全保障の「最大で直接的な脅威」と位置付けました。中国にも初めて言及し、「野心や威圧的な政策はNATOの利益や安保、価値観への挑戦」だと強調。岸田文雄首相は日本の首相として初めてNATO首脳会議に出席し、軍事同盟強化と大軍拡を表明しました。ロシアのウクライナ侵略を契機とした「力対力」の流れが強まり、際限ない軍拡が緊張を高めるとの懸念も指摘されています。
中・口を名指し
1991年のソ連崩壊後、NATOが特定の国を「脅威」と位置づけたのは初めてです。新戦略概急は「ロシアの脅威と敵対的行動に対して団結」するとして「すべての同盟国のために抑止力と防衛力を大幅に強化する」と強調。パイデン米大統領はポーランドヘの常設の陸軍司令部新設など、欧州での軍事力増強を表明し、NATO首脳は危機に対応する即応部隊を現在の4万人から30万人に増強することで合意しました。
加盟各国の軍事費も急増しています。NATOのストルテンベルグ事務総長は、既に加盟9カ国が国内総生産(GDP)比2%の目標を達成し、ドイツを含む19カ国が24年までの達成を見込んでいると指摘。スペインをはじめ5カ国が24年以降の達成を目指しているとして「2%目標」が「上限ではなく下限になってきている」と強調しました。
会議では、北欧のフィンランドとスウェーデンの加盟手続き開始でも合意。各国が承認すれば23年までに加盟する可能性があります。ロシアのリャプコフ外務次官はNATO拡大が「事態を不安定化させる」と反発。一方、ストルテンベルグ氏は記者会見で「この事態を招いたのはロシアだ」と批判しました。
米『タイム』誌(6月29日号)は、NATO拡大で緊張の高まりをすぐに抑えることはできないと指摘。NATOの強大化が「世界の敵対勢力同士の分断」をもたらすとの専門家の分析を紹介しました。
また、日本をはじめアジアのパートナー国が首脳会議に参加したことに関し「日本と韓国がNATOと連携すればするほど、中国はロシアと連携するようになる」(米ブラウン大学のライル・ゴールドスタイン客員教授)との発言を引用。NATOの対ロシア戦略と同様に、アジアが中国の封じ込めに集中すれば「中国が軍事同盟の外で孤立し、それを破壊する以外に選択肢がないと判断する危険性が出てくる」と警鐘を鳴らしました。
首脳会議前には「軍事でなく医療や教育に予算を」と訴える若者らが抗議行動を展開しました。26日には数千人が市内をデモ行進。27日には「ソフィア王妃芸術センター」内で、ナチスドイツの爆撃の悲惨さを伝える絵「ゲルニカ」の前に横たわり「戦争は人や芸術の死を意味する」と訴えました。(マドリードー桑野白馬)
「日本準加盟」へ
「今日のウクライナは明日の東アジアだ」。岸田文雄首相は中国を念頭に、インド・太平洋地域におけるNATOとの軍事連携強化を表明しました。
NATOと「アジア、太平洋パートナー(AP4)」の日韓豪とニュージーランドの会合(6月29日)は、「インド・太平洋地域と欧州の安全保障は不可分だ」との認識を確認。岸田首相は同日のNATO拡大会合で、インド太平洋への関与を強めるNATOの方針を歓迎し、AP4のNATO理事会会合への定期的な参加を主張しました。
さらに、「日NATO国別パートナーシップ協力計画」の進展、NATO本部への自衛官派遣や相互の軍事演習への参加の拡充にも言及しました。軍事費の2倍化=「GDP比2%以上」を掲げるのも、NATO基準の「GDP比2%」に足並みをそろえ、事実上NATOの準加盟国化を進める狙いが透けて見えます。
また、安保法制の発動対象が、米国だけでなくNATOにも拡大する危険があります。一方、ロシアと中国も軍事ブロック化の動きを強め、日本周辺での活動を活発化させており、日本のNATOとの連携強化が「軍事対軍事」の悪循環を強めています。
岸田首相は「核軍縮の取り組みにおいてもNATO諸国と協力していきたい」とも述べました。しかし、NATOは新戦略概念で、いざとなれば核の使用をためらわないとあらためて強調しており、首相が主要7ヵ国(G7)サミットで表明した「核兵器のない世界」と逆行しています。「協力」を言うのなら、せめて、核兵器禁止条約締約国会議に参加したNATO加盟国と足並みをそろえるべきです。 (マドリード=石橋さくら)
「民主主義 対 専制主義」世界不安定に
新外交イニシアティブ代表 猿田佐世さん
しんぶん赤旗 2022年7月2日
NATOが詐シア・中国への対決姿勢を鮮明にし、日本が明確に「NATO側」についたことで、さらに「民主主義対専制主義」の分断を強めることを懸念します。
NATOが「民主主義陣営」を標ぽうし、世界の主流のようにふるまっていますが、実際は、同じ〝立場″を共有する国は多数ではありません。東南アジア諸国は「米中どちらがを選べ」と迫られることに困惑しています。日本も中国をはじめさまざまな価値観の国々と関係を保ち、経済を維持してきました。
民主主義や人権が普遍的な価値観であることは当然ですが、押しつけるのでは広がりもありません。世界を分断することで、今後の世界経済や温暖化・感染症など地球規模の諸課題解決に否定的な影響を与え、世界の安保環境もより不安定になることに、もっと危機感を拵つべきです。
ロシアのウクライナ侵略からの最大の教訓は軍事同盟=抑止力の強化で戦争が防げなかったこと、また、絶対に戦争を起こしてはならないということです。戦争回避のために最も重要なのは外交であり、憲法9条がある国として、外交の重要性を喚起していくべきです。