2022年7月10日日曜日

米国を支えるために自国を犠牲にしようとしている日本の支配層 

 岸田首相に哲学や思想、あるいは信条などは何もないことは多くの識者が口にしています。先般のNATO会議でもNATOに擦り寄り、公然とロシアを敵視する演説を行ったため、ロシアから非友好国と見做され「サハリン2接収」の脅しを受けたばかりですが、岸田氏はそれが日本経済に及ぼす影響への懸念などは持ち合せていないようです。

 「正義」を貫徹するためにそれによる不利益は忍ぶ、というのであればそれなりに評価できますが、不利益自体の認識がなかったとなると話は別です。
 岸田首相から感じ取られるのはひたすら米国のいう通りにしてさえいれば「わが身は安泰」という功利的な判断基準だけです。余計なことにせよ、逆に米国自体やバイデン自身の苦衷に思いを至すということもないのでしょう。
 政権の運営も、どうすれば長く首相の座に留まれるかを最重要の視点にして行っているように思われます。日本のトップとしてそれでいいのでしょうか。
 櫻井ジャーナルが、「 ~ 米国を支えるために自国を犠牲にしようとしている日本の支配層 」という記事を出しました。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
崩壊しつつある米国を支えるために自国を犠牲にしようとしている日本の支配層 
                         櫻井ジャーナル 2022.07.09
 岸田文雄政権はロシアや中国との関係を悪化させ、軍事的な緊張を高める政策を進めている。その背景にはアメリカのジョー・バイデン政権の意向、あるいは命令があるはずだ。
 バイデンに限らず、アメリカ政府はロシアや中国を屈服させなければならない状況にある。ドルを基軸通貨とする世界のシステムが揺らぎ、世界をコントロールすることが困難になってきているからだ。

 アメリカは1970年代に生産活動を柱とする経済を放棄、金融操作を新たな柱にした。その象徴的な出来事がリチャード・ニクソン大統領によるドルと金との交換停止発表。1971年8月のことだ。1973年から世界の主要国は変動相場制へ移行した。
 この体制でドルを基軸通貨の地位に維持するため、実世界からドルを回収する仕組みが作られる。そうした仕組みの中心として機能することになったのがペトロダラーと投機市場だ。
 ペトロダラーとは石油取引を利用したドルの循環システムで、そのためにアメリカの支配層はサウジアラビアなど産油国に対して石油取引の決済をドルに限定させた。その結果、エネルギー資源を必要とする国がかき集めたドルは産油国に集まり、それがアメリカへ還流する。
 投機市場も資金の吸収システムとして機能する。ドルが実世界に滞留すればインフレになるが、投機市場へ吸い上げればバブルになり、バブルは帳簿上の資産を増やす
 世界の富豪たちは値上がり益を狙うだけでなく、資産を隠し、課税を逃れるためにオフショア市場のネットワークを使っているが、富豪や巨大企業が課税逃れのために沈めている資金の総額は20兆ドルから30兆ドルと言われている。

 しかし、その仕組みが揺らぎ始めた。その象徴的な出来事が2008年に引き起こされている。この年の9月、アメリカの大手投資会社リーマン・ブラザーズ・ホールディングズが連邦倒産法の適用を申請したのだ。当時、この投資会社だけではなく、金融界全体が危機的な状況に陥っていて、金融界を救うために「リーマン・ブラザーズ倒産」を演出したとも言われている。
 その際に金融機関の不正行為が発覚したが、アメリカ政府は「大きすぎた潰せない」ということで金融機関を救済、「大きすぎて罪に問えない」ということでその責任者を不問に付してしまう。それ以降、巨大金融資本や背後の富豪たちへ富がそれまで以上の速さで集中していく。そうした政策をとったのはバラク・オバマ政権だ。

 オバマ政権はアル・カイダ系武装集団やネオ・ナチを利用して目障りな体制を暴力的に破壊しているが、その間、2016年に自衛隊は与那国島、奄美大島、宮古島に施設を建設した。その時の総理大臣は安倍晋三である。2023年には石垣島にも建設する予定だ。
 この基地建設の目的をアメリカ国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が説明している。アメリカはロシアや中国の周辺にミサイルを配備しているが、これと関連しているのだ。
 アメリカ政府はGBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画を立てている​が、インド・太平洋地域でそうしたミサイルの配備を容認する国は日本以外にないとRANDコーポレーションは考えている。
 しかし、その日本には「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約があるため、アメリカはASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備に協力するという形にするしかないとRANDは考えている。
 ユーラシア大陸の東側でアメリカの手先になる国が日本以外に見当たらないため、アメリカ、イギリス、オーストラリのアングロ・サクソン系3カ国は2021年9月に「AUKUS」という軍事同盟を結んだのだろうが、GBIRMの配備はオーストラリアも嫌がっているようだ。
 オーストラリアもアングロ・サクソン系の国であり、アメリカやイギリスの属国だが、それでも中国に対してそこまで踏み込むと経済関係が決定的に悪くなると懸念していると言われている。ロシアと中国を抜きに日本経済は維持できそうにないが、岸田政権は気にしていないように見える。

 岸田首相は6月29日から30日にかけてスペインで開かれたNATO(北大西洋条約機構)の会議に出席したが、その背景にはアメリカの軍事戦略があるだろう。イギリスの支配者は19世紀からユーラシア大陸の周辺部を支配し、内陸国を締め上げ、最終的にはロシアを制圧するという計画を立てたが、同じアングロ・サクソン国であるアメリカもその戦略を継承している。その長期戦略が表面に出てきたということだろう。
 日本の支配層が従属するアメリカの支配層はウクライナでロシアを疲弊させ、現在の体制を倒そうとしている。ロシアが疲弊すれば日本がロシアや中国へ攻め込めると考える人がいるかもしれない。南西諸島における自衛隊の軍事施設建設もそうした意思の表れだと見られても仕方がない。
 日本はアメリカ政府の意向に沿う形でロシアに対する経済戦争を仕掛け、ロシアから「非友好国」と位置付けられている。一線を超えたとみなされたわけだ。
 ウラジミル・プーチン露大統領が6月30日に署名した大統領令によって、ロシアのサハリンで石油や天然ガスを開発するプロジェクト「サハリン2」の事業主体をロシア政府が新たに設立する企業に変更、その資産を新会社に無償で譲渡することにしたというが、これは序章に過ぎないだろう。
 現在、ロシアと中国は北極航路を開発中で、アメリカは対抗するために北極海での活動を活発化させているが、千島列島も重要な意味を持つことになる。
 このままアメリカに引っ張られていくと、日本の経済は成り立たなくなる。日本企業の経営者はそうした事態を懸念、その不安は政治家にも波及しているはず。アメリカはそうした日本の不安を押さえつけようとするだろう。