2022年7月6日水曜日

対ロ外交 根本を誤る岸田内閣(植草一秀氏)

 岸田首相が日本の首相として初めてNATO首脳会議に出席して、NATO至上主義ともいうべき発言を行いました。その30日にプーチンは、サハリン2の事業体を事実上ロシアに接収する大統領令に署名しました。
   *(7月3日)岸田首相が軍拡公約 NATO会議 力対力 世界を分断
 ロシアの隣国である日本がロシアを敵国視する軍事同盟であるNATOの会議に出席して、最大限の協力を惜しまないとして下記のような決意表明をしたのですから、プーチンが怒り心頭に発したのは当然のことでした。
 ・インド・太平洋地域におけるNATOとの軍事連携を強化する
 ・AP4(日韓豪NZの連携)NATO理事会会合に定期的に参加する
 ・NATO本部への自衛官派遣相互の軍事演習への参加拡充する

 国連憲章に違反したロシアが全面的に悪いとするのは正論ですが、こともあろうに米国に同調してNATOにそこまで肩入れするのは、隣国である日本が取りべき態度ではありません。
 現実にロシアにはロシアの言い分があるわけで、それに対応した・あるいはそれもカバーできる論理を持ち合わせてなければ、ロシアを説得できません(岸田首相にそうした準備があるとは思えません)。
 そもそもロシア嫌いで知られるバイデンが、オバマ政権の副大統領時代にビクトリア・ヌーランドを使ってウクライナ・クーデターを起こして、今日のウクライナ問題の基本構造を作ったのでした。そうした人物に全面的に同調せざるを得ないという、日本を含めた西側のあり方自体に大きな問題があります。
 植草一秀氏が「対ロ外交 根本を誤る岸田内閣」とする記事を出しました。
 高野猛氏の記事「ネオコン勢力が取り仕切る『戦争研究所』の分析を鵜呑みにしていいのか」を併せて紹介します。
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対ロ外交 根本を誤る岸田内閣
                 植草一秀の「知られざる真実」2022年7月 5日
世界の支配者は米国ではない。
しかし、米国は勘違いしている。
米国の価値観が世界最高であり、米国の価値観を他国に埋め込むことを強制しても構わない。
そのために必要があれば武力の行使も辞さない。これが米国ネオコン勢力の考え方。
一言で表現すれば「力による現状変更主義」。
「覇権主義」、「一極支配主義」とも表現できる。
軍事力によって他国支配を強行する21世紀の「新・帝国主義」だ。

紛争の解決に武力を用いた点でロシアの行動は批判されるべき。
しかし、これを米国が批判するのは噴飯もの。
2003年のイラク戦争は何だったのか。イラク戦争は明白な米国による侵略戦争である。
米国の侵略戦争であったイラク戦争で、イラクの無辜の市民10万人ないし100万人が虐殺された。この事実を脇に置いて米国がロシアを批判するのは噴飯もの。

G20で対ロシア経済制裁を実施しているのはEUを1ヵ国とカウントして10ヵ国。
(他の)10ヵ国は対ロシア経済制裁を実施していない。
EUの人口を人口最多国スペインで計算すると、人口比では制裁実施国が19%であるのに対し、制裁非実施国が81%

日本のメディアはグローバル巨大資本に支配されている。
したがって、グローバル巨大資本に都合の良い情報しか流布されない。
ウクライナ戦乱について米国支配勢力が発する情報しか流布されない。そのために、大多数の国民の判断が偏っている。
偏った情報しか入手しないから偏った判断しか持つことができない。
これは第二次世界大戦のときも同じ。日本国民は大本営が発表する情報だけを入手していた。
そのために偏った判断しか持つことができなかった人が圧倒的多数だった。

問題の解決に武力行使を用いたことは批判されるべきだが、ロシアが軍事作戦始動に踏み切ったのには理由がある。
ウクライナに非がなく、ロシアが単に領土的野心から軍事侵攻に踏み切ったのならロシアだけが非難されるべきだ。しかし現実はまったく違う。戦乱発生までの経緯を踏まえれば、非はウクライナの側にあるとするのが適正だ。
日本の国会はゼレンスキーに演説の機会を与えたが、ものごとを正しく判断するにはロシアのプーチン大統領にも発言の機会を付与するのが適正だった。

ウクライナは独立国になって31年の時間しか有していない。
ウクライナは東西での内部対立をかかえる国。
ウクライナ西部ではネオナチにつながる国粋主義者、民族主義者が強い勢力を有する。
ウクライナ西部がナチスドイツの支配下にあった時代、ウクライナ西部の民族主義者はポーランド人、ユダヤ人、ロシア人虐殺に加担した
第二次大戦終結後、ナチスドイツは断罪されたが、ウクライナのネオナチ勢力=民族主義者は米国が保護した。米国の対ソ連戦略の一環でウクライナ・ネオナチ勢力が保護、温存された。

2014年ウクライナ政権転覆は、米国がウクライナ・ネオナチ勢力と結託して実行したものである。
米国は暴力革命によってウクライナ政権を破壊し、非合法の米国傀儡政権を樹立した。
この非合法新政府が直ちに「ウクライナ民族社会」設立を宣言し、東部のロシア系住民に対する人権侵害、差別的取り扱いを始動させた。そのためにウクライナ東部で内戦が勃発。
クリミアでは住民が住民投票を実施してロシア帰属を決定した。

ウクライナ内戦を収束するために「ミンスク合意」が制定された。
2015年に制定された「ミンスク2」は国連安保理で決議され、国際法の地位を獲得した
「ミンスク2」の核心は東部2地域に高度の自治権を付与すること。これが実行されれば、自動的にウクライナのNATO加盟は消滅する。

ゼレンスキーはミンスク合意履行を公約に掲げて大統領に選出された。
そのゼレンスキーがミンスク合意を誠実に履行していれば今回の戦乱は発生していない。
ところが、ゼレンスキーは態度を変え、ミンスク合意を踏みにじり、ロシアとの軍事対決路線を明確化した。
この行動を背後から推進したのがバイデン大統領。
今回の戦乱は米国とウクライナが挑発して発生させたもの。

こうした歴史事実を踏まえて問題に対応しなければ、日本は針路を誤る。
日本はサハリンでの共同事業の権益を失うことになると見られるが、日本の外交対応の当然の帰結である点を見落とせない。

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             (以下は有料ブログのため非公開)

永田町の裏を読む
ネオコン勢力が取り仕切る「戦争研究所」の分析を鵜呑みにしていいのか
                     高野孟 日刊ゲンダイ 2022/06/30
                      (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 NHKや読売新聞などがウクライナ各地の戦況を伝える際に米国のシンクタンク「戦争研究所」の分析を頼りにしているのは、かなり不見識なことなのだと知っておく必要がある。というのも、米欧の情報世界の一部では、同研究所はまともな研究機関ではなく、超過激な反ロシア派のネオコン勢力が取り仕切る宣伝機関とみなされているからである。
 フランスの文明批評家エマニュエル・トッドは「文芸春秋」5月号への寄稿で、こう言った。
「米国には国務次官のビクトリア・ヌーランドのようなロシア嫌いのネオコンもいて、破滅的な対外強硬策を後押ししている。ヌーランドの夫はネオコンの論客ロバート・ケーガン……弟は軍事史研究家のフレデリック・ケーガン。その妻のキンバリー・ケーガンは戦争研究所所長で、まさにネオコン一家。西側メディアには戦争研究所の『ロシア侵攻図』が溢れているが、これを鵜呑みにしていいのか疑問が残る」

 米国でも同様の指摘は出ていて、その最近の一例は、「ノンゼロ」という著書で知られるロバート・ライトの「米国式プロパガンダ」と題した論説である。それによると、ヌーランドは2014年には欧州担当国務次官補で、マイダン広場で市民の民主化デモが始まると現地に飛んで、それを親露派政権打倒の武力クーデターに転化させる陰謀を裏から操った。
  (後 略)

高野孟ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。