2022年7月24日日曜日

私が東大と永田町で目撃した統一教会「侵食の手法」(舛添要一氏)

 舛添要一氏が、JBpressに「私が東大と永田町で目撃した統一教会『侵食の手法』」という記事を掲載しました。
 舛添氏は1967年に東大に入学、1971年東大助手、1979年東大助教授就任を経て1989年に退官しました。その後2001年に参議院議員に当選し、第1次安倍内閣で厚労相を努めるなどして2013年に任期満了で参院議員をやめ、2014年~2018年東京都知事をつとめました。
 舛添氏が東大生時代に目撃した統一教会による「原理研究会(原理運動)」の活動ぶりや、無料で米国に招待する「指導者セミナー」への勧誘、東大助教授時代に目撃した「世界平和教授アカデミー」という団体からの接近などが語られ、政治家に転じてから目撃した「国際勝共連合」の見事な政治家への食い込みの手法が述べられています。
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【舛添直言】私が東大と永田町で目撃した統一教会「侵食の手法」
                      舛添 要一 JBpress 2022/07/23
                          国際政治学者
 参議院選挙中に安倍元首相が銃撃され死去するという事件は、世界を震撼させた。要人警護の不備など、様々な問題が露呈したが、政治家に対するこのようなテロは許されるものではない。私は第一次安倍内閣の閣僚であり、共に仕事をしてきた立場から、安倍元首相の御冥福を心からお祈りする。そして、このような事件の再発を何としても防がねばならないと思っている。

山上徹也容疑者の犯行動機
 狙撃犯の犯行の動機が母親が入信している統一教会(2015年に「世界平和統一家庭連合」という名称に変更されているが、便宜上、「統一教会」と記す)に対する恨みだという。
 統一教会は、合同結婚式や霊感商法などで有名なカルト教団である。
 山上徹也容疑者が警察に供述したところによれば、母親が統一教会に入信し、1億円にものぼる献金をした結果、破産し、家庭が破壊されたために、その団体に恨みを持ち、教団のトップを殺害しようとしたという。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大でトップの韓鶴子総裁が日本に来なくなったために目的を遂げられず、代わりに安倍元首相を狙ったのである。
 彼は、安倍元首相が統一教会と深い関係にあると考えた。安倍元首相は、昨年9月に、統一教会の関連団体である「UPF(Universal Peace Federation)」がイベントを開催した際に、ビデオ・メッセージを送り、「演説する機会をいただいたことを光栄に思います。UPFの平和ビジョンにおいて、家庭の価値を強調する点を高く評価致します」とか韓鶴子総裁の名前をあげて「敬意を表します」と述べていた。
 このビデオ・メッセージの件を容疑者は知り、安倍元首相と統一教会との関係を確信したようである
 また、安倍元首相の祖父、岸信介元首相は、教団の文鮮明開祖と知り合い、日本への布教に協力している。1968年に「国際勝共連合」を日本に設立したときには岸元首相も関与している。このことはよく知られており、山上容疑者も当然認識していたはずで、それが、安倍元首相を標的にしたことにつながっている。

私の経験:大学で
 私は1967年に東京大学に入学したが、キャンパスでは体育系、文化系の各種の部やサークルが新入生の勧誘に精を出していた。この光景は、今の大学でも同じだと思うが、「原理研究会」というサークルもその一つで、これは統一教会の関連団体で、教団が提唱する「統一原理」を研究する会である。
 大学には、入試に合格した学生が日本各地から入学してくる。故郷を離れ、友人もおらず孤独に悩む者も多い。そのような学生に優しく声をかけ、お茶に誘ったり、悩み事を聞いてくれたりする先輩が出現すれば、心を動かされる。こうして、原理研究会のメンバーとなり、「統一原理」の勉強を共に行っていく過程で、統一教会の信者となっていくのである。そして、いったん入信すると、もう雁字搦めに縛られて脱会できなくなってしまう
 キャンパスで、そういう目に遭った多くの学生を知っている。
 原理研究会は、東大では『東大新報』という学生新聞も発行している。東大には公益財団法人東京大学新聞社が発行する『東京大学新聞』という学生新聞があるが、それに対抗する形の学生新聞である。
 原理研究会は、多くの大学で、様々な名称で同じように学生新聞を出している。また、大学3、4年生、大学院生を対象に、渡航費・滞在費は無料でアメリカに招待する「指導者セミナー」というものがあり、これに参加することによって、信者となってしまうのである。そして、このセミナー参加者が、将来、官僚や教授となれば、行政や学会に信者を送り込むことになるのである。組織を牛耳る巧妙な手である
 私は、東大の研究室に残り、ヨーロッパ諸国で勉強した後に東大の助教授に就任した。すると、今度は「世界平和教授アカデミー」という団体が接近してくる。海外でシンポジウムが開催されるので、是非参加してほしい、渡航費・滞在費はすべてこのアカデミーが負担するという。高名な教授たちは、海外の学界に参加する機会も多いが、駆け出しの若い研究者には無縁な話である。そこで、この「おいしい話」に飛びつきたくなるのである。
 しかし、海外渡航には教授会の許可が必要であり、その手続きをする過程で、過去に蓄積された情報から、この団体が統一教会の関連団体であることが判明するし、そのことを周りの教授たちが教えてくれるので、東大の場合は教授会に書類が出る前に、ほぼブロックされていたように記憶する。
 しかし、この誘いに1度でも乗れば、後は統一教会の広告塔として利用される運命が待っているのである。

私の経験:政界で
 カルト教団にとって、権力者による庇護ほどありがたいものはない。霊感商法などの詐欺を犯せば、警察、検察の捜査の対象となるが、それを阻止するためには、権力に頼るのが一番である。
 そこで、永田町詣でを行うのである。たとえば、先述した「国際勝共連合」という組織が使われる。「共産主義と戦う」という目的の団体であるから、韓国では朴正煕元大統領や日本では岸信介元首相が支援したように、保守勢力にとっては仲間となりうる勢力である。
 1970年代から、選挙応援を通じて保守政治家に食い込んでいく。野党の勢力が強まり、危機感を持った自民党は藁にでもすがる気持ちで勝共連合の応援を受け入れるのである。
 勝共連合は、夫婦別姓やジェンダーフリーや同性婚に反対しているので、自民党でも極右勢力に近い
 私は、衆参両院の自民党議員の選挙応援に駆り出され、仲間のために何度も街頭演説を行ったが、右寄りの議員の集会に勝共連合や日本会議のメンバーが大挙して応援に駆けつけているのを何度も見ている。
 今回の参議院選挙比例区に出馬して当選した自民党の井上義行議員も統一教会の集会に参加し、信徒だと紹介され、支援を約束されている。本人は賛同会員だという。
 保守系の政治家には、勝共連合のみならず、安倍元首相がビデオ・メッセージを送ったUDF、さらには「世界平和女性連合」という名称の団体などが接近してくる。稲田朋美議員が、2010年4月にこの世界平和女性連合の「春のつどい」に参加している。
 どういうわけか、私の知る限りでは、自民党の中でも右寄りの女性議員が、統一教会の集票に頼るケースが多い
 こうして、政権党に食い込んでいった統一教会は、検察の捜査の対象から外されるという大きな成果を得ているのである。
 地下鉄サリン事件などの犯罪を重ねてきたオウム真理教の教祖、麻原彰晃が逮捕されて処刑され、組織が壊滅させられたのに対し、同じカルトである統一教会が生きながらえているのは、まさに政界工作のたまものである

選挙制度と自公連立政権
 選挙に強い議員は、あえて問題のある団体の支持は求めない。しかし、小選挙区制では、惜敗率で復活する道はあるにしても、1票差でも負けは負けである。
 中選挙区制では、たとえば5人区では5人が当選するので、5番目で当選してもよいのである。素性の不明な団体に頼るなどの無理をする必要はない。5議席のうち、野党が2議席を確保していても、自民党にはまだ3議席ある。同じ党内における派閥間の争いとなるが、農政なり国防なり、自分の専門分野を訴えて集票すればよい。単純計算すれば、有権者の2割の票を確保すればよいからである。
 ところが、小選挙区制では、野党と1対1の対決となるので、あらゆる階層から集票せねばならなくなる。とくに自民党に逆風が吹いているときには、必死になって票を集めることになる。そこに統一教会が支援の手を差し伸べ、応援した候補が当選した暁には、見返りを求めてくるのである。
 選挙応援の成果は、これまでのところ十分に上がっている。
 参議院の全国比例区についても、小選挙区と同じことが言える。比例区は、候補者の個人名でも政党名でも選択できるが、当選するのは個人名の多い順である(特定候補は除く)。そこで、先述した井上義行議員のように、賛同会員にまでなって、統一教会の票を得ようとするのである。
 安倍元首相が統一教会や日本会議と親和性があったことは否定できない。安倍政権下で、これらの団体が勢力を拡張したのである。
 さらには自民党と公明党の連立政権も問題を複雑にしている。小選挙区制では、自民党は公明党の協力がなければ選挙に勝てない。こうして、自公連立政権が続いている。1999年10月から2009年9月まで、2012年12月から今日まで、20年間にわたって自公政権が継続しているのである。その間、自民党は足腰が弱くなり、公明党の支援なしには勝てなくなってしまった。禁断の実を食べてしまったようである。
 公明党は、宗教団体である創価学会を母体とする政治団体である。したがって、「政治と宗教」というテーマは、ある意味でタブーになっている。このテーマについては、自公連立政権下では沈黙を余儀なくされるようになっている。
 今回も、公明党の山口那津男代表は「捜査が進展中なのでコメントは控えたい。状況をしっかり見極めたい」と述べるにとどまっている。

 カルトを巡る政界の闇は晴れそうもない。