EUのなかでも経済面で優等生だったドイツが、ロシアからの天然ガス供給が4割に減らされたことで景気後退に陥り、赤字国家に転落したと言われています。ハベック経済相は6日、ドイツ経済が景気後退(リセッション)に陥るほか、信用収縮が引き起こされる恐れがあるとの見方を示しています。
ドイツではロシアの天然ガスが安定的に供給されることを前提に、全長50万キロメートルを超えるパイプラインが張り巡らされ、住宅、工場、発電所などに供給されていますが、逆に液化天然ガス(LNG)のターミナル施設(冷凍液保存貯槽及び同気化装置)は準備していません。
カナダがドイツの強い要求によってガス圧送用のタービンをロシアに戻すことにしたので、ようやく当初の送ガス量を確保できる見通しですが、21日以降ロシアが従来通りの送ガスを実現する意向なのかは不明確のようです。
7月上旬に公表されたドイツの世論調査によれば、国民の47%が「ウクライナに東部と南部の領土を譲歩させることで紛争を終結し、対ロ制裁を解除する必要がある」と回答しているということです。物価上昇が続き、国民の多くが生活への不安を抱えているためです。そんな中でショルツ首相が、ロシアへの強硬姿勢に固執するウクライナ政府を支援する姿勢を崩していないのは賞賛されるべきことなのかも知れませんが、民意と乖離した政策が長続きするかは疑問です。
カナダがタービンを戻す決定をしたことにゼレンスキーは怒り、9日には自らの腹心とされるメリニク駐独大使を解任し、11日にはカナダ駐在の同国大使を本国に呼び戻すことを決定しました。まさに自分の意に反する流れが許せずに「大荒れ」という状態です。
それだけではなく17日夜、ウクライナの検事総長と保安局(SBU)のトップを解任し、その部下らがロシアと協力している疑いがあるとして、検察職員らに対する、反逆容疑での捜査も計651件行われていることを明らかにしました。
国の法務省や警察当局のトップを同時に解任し、膨大な数の検察メンバーを反逆罪に問うとは驚くべきことで、俄かには信じられないような事態です。この先ウクライナはどうなるのでしょうか。
ゼレンスキーは英雄主義的に対露戦争を行っていますが、それは本当に国民の支持を得ているのでしょうか。彼は大統領に選出されると即座に米国に従属し、同時にネオナチ派に転じて国内東部のロシア民族の弾圧に走り、ミンスク2を事実上破棄するなど、到底思慮深いリーダーには思えません。
ロシアの天然ガスを巡る対応でカナダやドイツをあからさまに非難するのも、この先も支援を受ける立場に照らせば理解しがたいことです。これでは欧州に「ウクライナ疲れ」ならぬ「ウクライナ離れ」が広がっても仕方がありません。
現代ビジネスに、「プーチンに『ドイツが屈する』…追い詰められた『ゼレンスキーの焦り』と、欧州で広がる『ウクライナ離れ』の深層!」という記事が載りました。
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プーチンに「ドイツが屈する」…追い詰められた「ゼレンスキーの焦り」と、欧州で広がる「ウクライナ離れ」の深層!
藤 和彦 現代ビジネス 2022/07/19
ドイツがプーチンに屈する日
ウクライナのゼレンスキー大統領は7月11日、ウクライナ支援に最も積極的な国の1つであるカナダ駐在の同国大使を本国に呼び戻すことを決定した。
カナダ政府が7月9日、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の操業に必要なタービンをドイツに返却すると決定したからだ。
ロシア国営ガス大手ガスプロムは6月中旬以降、輸送に不可欠な設備であるガスタービンが制裁の影響でカナダから戻ってこないことを理由に挙げて、ノルドストリームのガス輸送量を通常の4割に削減している。
事態を重く見たドイツ政府が「タービンを速やかにガスプロムに返還してほしい」と強く要請したことにカナダ政府が応えたわけだが、ウクライナ政府は「対ロ制裁に反する」としてその返却に猛反対していた。
ノルドストリームは11日から10日間、定期保守点検に入った。
ノルドストリームは年間550億立方メートルのガスを輸送しており、ドイツのガス需要の半分超を賄っている。
ロシア側は「タービンが戻ってくれば点検終了後にガス輸送量を元の水準に回復させる」としているが、ドイツなどの欧州諸国は「点検が終わってもガスの供給が再開されないのではないか」と懸念している。
ドイツとロシア、ギリギリの攻防
西側諸国で「ロシアはガスを武器化している」との主張が広まっているが、ロシア側もダメージを被っている。
ガスプロムは6月下旬、1998年以来初めて配当を見送った。
今年1月から5月までの旧ソ連構成国以外のガス輸出量は前年に比べて28%急減したからだ。欧州向けのガス輸出が大幅に減少したせいで、ガスプロムは創業以来、最悪の危機に直面しており、ロシア側がガスを武器に使う余裕があるとは思えない。
しかし、 ロシア以上に深刻なダメージを被っているのはドイツだ。
戦後最悪のエネルギー危機に直面していると言っても過言ではない。ドイツには全長50万キロメートルを超えるパイプラインが張り巡らされ、住宅、工場、発電所などにロシアの安価なガスが供給されている。
だが、ウクライナ危機によりドイツのエネルギー安全保障の根底を揺るがす事態となっている。欧州に米国産の液化天然ガス(LNG)が大量に輸送されるようになっているが、ドイツは国内にLNGのターミナル施設がないため、ガスの供給源の多様化に苦労している。
「主力のエネルギーであるロシア産ガスが不足する」というの危機に直面して、ドイツ政府はガスに関する3段階の緊急計画で2段階目の「警報」を発令した。
ロシア産ガスの供給が低水準にとどまれば、冬場に十分なガスを確保できなくなり、一部の産業が生産停止を余儀なくされることから、ドイツ政府は国民に対して、国家的努力の一環としてガス利用の減少を訴えている。
ドイツのエネルギー市場自体が崩壊するリスクも生じている。ロシアからのガス供給に支障が生じたことで経営不振に陥った独エネルギー大手ユニバーが7月8日、ドイツ政府に多額の救済資金を求めるという前代未聞の事態となっている。
追い込まれるゼレンスキー
このような状況下にあるドイツにとって、ノルドストリームによるガスの安定供給は「生命線」だ。
ウクライナ政府の今回の妨害行為は、同国を支援し続けるドイツ政府にとって「恩を仇で返された」ようなものだ。
ウクライナ政府がノルドストリームの安定的な稼働に「横やり」を入れた背景には苦しい台所事情があると筆者は考えている。
ロシアから欧州に輸送されるガスはウクライナを経由するパイプラインでも供給されているが、その輸送量は供給可能量の7分の1と過去最低水準にまで減少している。
ロシアが戦争状態にあるウクライナ経由を減らして、ノルドストリームにガス供給をシフトしているからだが、パイプライン通過料(ガス輸送量に基づき算定される)が主要な収入源となっているウクライナ政府にとって由々しき事態だ。
「喉から手が出る」ほどカネがほしいウクライナ政府は「ノルドストリームの安定的な操業に支障が生じれば、ロシアはウクライナ経由のガス供給量を増やすだろう」と考え、パイプライン通過料をより多く手に入れるためにノルドストリームの安定操業を妨害した可能性は排除できない。
ゼレンスキー大統領は7月9日、自らの腹心とされるメリニク駐独大使を解任した。
今回の決定は「通常の外交慣行」と説明されているが、メリニク氏はドイツとウクライナの対立を象徴する人物として知られていた。
武器供与などに慎重なドイツのショルツ首相を「すねたソーセージ」と揶揄して、物議を醸すなどその例は数知れない。
大使の首のすり替えで関係修復を図ろうとしたウクライナだが、今回の一件でドイツ国民のウクライナに対する印象はさらに悪化してしまったのではないだろうか。
広がるウクライナ疲れ
7月上旬に公表された世論調査によれば、ドイツ国民の47%が「ウクライナに東部と南部の領土を譲歩させることで紛争を終結し、対ロ制裁を解除する必要がある」と回答している。
物価上昇が続き、国民の多くが生活への不安を抱えている状況が如実に反映された形だ。
ショルツ首相はロシアへの強硬姿勢に固執するウクライナ政府を支援する姿勢を崩していないが、民意と乖離した政策は長続きしないだろう。
もう「コスト」を払いたくない、と…
欧州連合(EU)全体の世論調査でも、約6割が「ウクライナの民主主義を守るためにコストを払いたくない」と回答している(7月11日付ZeroHedge)。
「ウクライナ疲れ」が指摘されるようになったが、ドイツを始め欧州諸国が、支援国の事情をまったく顧みないウクライナ政府を見限るのは時間の問題なのではないだろうか。