東京大学ゲノムAI生命倫理コア研究統括の伊東 乾氏が、過去最大のコロナ第7波は8月1~3週がピークになり、日本国民の2割に近い2000万人オーダーの感染が発生することを念頭に対策を立てねばならない、とする記事を出しました。
今年正月のオミクロン爆発と比較しても、7月第1週の「立ち上がり」はよほど急峻になっており、ほどなく1日あたりの新規感染者数は10万人のオーダーに達し、8月第2週あたりにピークを迎えるだろうことが予測される と述べています。
そうであれば日本は必死にその対策に取り組んでいなくてはならないのですが、これまで通り何もしないどころか、自公に取って参院選に悪い影響が出ないよう投票日前にはそれに触れないようにとされていたということです。岸田政権であれば大いにあり得ることです。
以下に紹介します。7月に入っての感染急拡大をリアルに示すグラフも付いています。
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コロナ第7波は過去最大、ピークは8月1~3週に襲来
危うし日本列島、データが暗示する恐るべき被害
伊東 乾 JBpress 2022.7.8
東京大学ゲノムAI生命倫理コア研究統括
7月7日第7波、7が3つ揃ったなどといっても冗談にもなりません。ただ、身の回りの学生たちに印象を強く持ってもらうよう、そんな表現を取っています。
そんな符牒を使って「シリアスに対策しないと、普通に感染するよ」と警告しないとピンとこない程度に、2022年7月現在、日本の新型コロナウイルス感染症に対する警戒感は後退しています。
社会全般には緊張感は見られません。
他方、木原誠二官房副長官以下、政府の対応は迅速で、十分な危機意識を持っていることが明らかです。
私も、ご存じの通り東京大学の公務として東京都世田谷区の新型コロナウイルス感染症後遺症解析に責任を持っており、事態を慎重に受け止めています。
例えば私たちが今週末行う「哲学熟議・東京大学あそびのがっこう」
(https://mitsishikawa.wixsite.com/musicmanufacture/jukugi20yugi8 )も朝日新聞(https://www.asahi.com/articles/DA3S15346774.html )に告知が出、多数のお申込みをいただいていますが、児童生徒を優先し、シニアの申し込みにはZOOMアドレスをお送りして遠隔をお勧めしています。
また定員を超えた場合は、整理番号の発行停止、当日ご来場いただいても入室できない場合があることをお伝えし、感染予防を徹底しています。
この落差はどこからでてきたものか・・・。
今年1月4日のオミクロン株爆発以来、本連載で幾度も強調してきた通り、この空気感は「7月10日参院選」を見越して醸成されてきたものなのです。
それは末尾に記すとして、まず感染蔓延の事実、冒頭のグラフを細かく確認してみましょう。
データが示す「第7波」の被害規模
2021年7~8月、無理やり開催した「東京オリンピック」時点での日日感染者のピーク最大値を赤い水平の破線で示しました。
7月6日時点で、すでに昨夏ピークのダブルスコアで、これから急上昇しようとしているのが確認できます。
またこの直前、6月の最も新規感染者数が低かった谷あいのラインを、緑の水平破線で示しました。
最も「穏やか」と見えた時点でも、2020~21年にかけての第1、第2、第3、第4波よりはるかに多い感染者数が出ているのが明らかです。
「第6波」と呼ばれるピークは、実は2022年1月から6月まで、約半年の間だらだらと続いた、いわば「穂高連峰」的な感染の長期持続にほかなりません。
さらに細かく見て見れば、1~2月にかけての「正味の第6波」が収束しかけたところで、小さなぶり返しが見えるのは「春休み~新学期」にかけて、人流が上がるとともにピークが形成されていること。
グラフには「新学期ピーク」と文字を振っておきました。
そのピークが収まりかけると、また5月に新しいピークができている。同様に「連休ピーク」と記した部分です。
それらが一通り収まった6月、最も新規感染者数が少なかった緑色ラインの時点でも、2020~21年にかけてでは考えられない、莫大な患者数がカウントされているのがハッキリ見て取れます。
今回第7波のピークは8月1~3週
先ほどの同じグラフをもう一度見直してみると、第2波、第5波という2つのピークが夏場に観測されているのが分かります。
これは当たり前のことで、この時期つまり8月2~3週あたりは、何もなくても季節性の風邪、夏風邪のピークに当たっており、感染者が増えて当然の時期だからです。
ちなみにNHKのデータに従えば、一昨年の夏風邪ピークワースト3は
2020年 8月7日 1605人
. 8月8日 1571人
. 8月6日 1485人
日本全国で、ざっと1日あたり1500人が最高でした。これに対して2021年の夏風邪ピークワースト3は
2021年 8月20日 2万5992人
. 8月21日 2万5660人
. 8月19日 2万5339人
ざっくり言って1日あたり2万5000人程度。ちなみに一昨日の新規感染者数は
2022年 7月 6日 4万5821人
まだこれからピークに差し掛かるという段階で、すでに比較にならないほど多い。
これらの理由は明確で、2020年夏風邪は武漢株、2021年はそれと比較にならないインド発のデルタ株、いま流行っているのは、それらとケタの違う感染力を持つ オミクロン変異株だからで、第6波のワースト3を挙げるなら
2022年 2月 5日 10万5587人
2月 9日 9万9625人
2月10日 9万8315人
ざっくり言ってブレークアウトの1か月後強で、現在流行しているのは冬と同じオミクロン株の変異株、特にBA.5系統への置き換わりが進んでいる( https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11257-covid19-18.html )とされます。
しかし、こうした詳細は稿を分けて記しますが、冬の第6波と比較して、1・4倍とも2倍ともいわれる感染力、またワクチンなどの抗体をすり抜ける力をもつ、といった疫学の数字が報じられています。
実際、正月のオミクロン爆発と比較しても、7月第1週の「立ち上がり」はよほど急峻になっており、ほどなく1日あたりの新規感染者数は10万人のオーダーに達し、8月第2週あたりにピークを迎えるだろうことが予測されます。
また、第5波までの累計感染者数は180万人程度でしたが、第6波で980万人、つまり1000万人規模に拡大、仮に同規模の感染であったとしても日本国民の2割に近い2000万人オーダーの感染が発生することを念頭に、対策を立てねばならない。
木原官房副長官が真顔になるには、理由があるわけです。
「コロナ疲れ」と「参院選挙」
2022年7月7日、七夕時点での日本はコロナ爆発に関して、かなり崖っぷちの状態にあります。しかし社会は何となく状況に慣れてしまっている。
この「コロナ慣れ」最大の理由は、小売りやインバウンドを中心に国内社会経済がコロナによる封鎖に耐え切れなくなっていること、そしてこれと同期して迎えている「第26回参議院議員通常選挙」にあります。
はっきり書きましょう。
「参院選が終わるまでは、新しい疫学対策は採らない」
私たち東京大学ゲノムAI生命倫理研究コアがどれだけエビデンスを示して働きかけても、複数官庁が微動だにしなかった経緯があります。
例えば下水PCR。
この連載でも幾度も触れてきましたが、ようやく昨年度に予算がついたのは、極めてウルトラC的な政治主導のトップダウンがあったからでした。
2021年10月の第49回衆議院議員選挙をにらんでは、ともかく「ワクチン接種」70%に向けて、票田のブルドーザというべき猛烈さで、有無を言わずに接種率を上げることで、与党は選挙を制することができました。
ここで2匹目のドジョウというのは半分、また何が本当に有効な対策なのか、判断がつかないこともあり、余計なことをして失点になってもいけない、といった考えもハッキリ見かけます。
ともかく「ワクチン」しか言わない状況が永続しています。
「3回目」「4回目」ともかくワクチン。前例がありますから、これなら役人も政治も足を出さずにすむという発想です。
しかし、国際的には後遺症対策や重症化予防の抗体治療など、科学的に根拠をもった進んだ治療が見られます。
翻って日本国内はといえば、世田谷区の後遺症調査一つとっても、重要性を認識してくれたNHKが大々的に報じてくれましたが、そのあと続いていきません。
本連載ではずっと繰り返していることですが、7月10日参院選を終えれば「その種の心配」はひとまず去ると考えられます。
木原官房副長官をはじめ、まともに政策を検討できるスタッフは、予防的な抗体治療の拡大など、新型コロナウイルス対策の新世代医療にむけて、大々的に門戸を開き、被害を収束させるよう、尽力してもらいたい。
予想通り、参院選投票日前にブレークした「コロナ第7波」の行方、推移を見守るというより、まず一人ひとりの身を守る「身守り」を徹底すべきと思います。
ちなみに、東京大学学内では4月以降、非常に多くの罹患が報告されており、私たちの研究室も対策を徹底しながら第7波ブレークのタイミングを見計らっていたものです。
身を守るべきタイミングが到来しています。
マスク、手洗いなど、オーソドックスな防疫対策を徹底することが、実は予防の完全なる王道にほかなりません。