2018年7月13日金曜日

13- <核なき世界目指して>(2)~(4-完)

「核なき世界目指して」連続インタビューの2回目は元米国国防次官補のローレンス・コープさん、3回目は自民党政調会長・岸田文雄さん4回目は長崎大核兵器廃絶研究センター梅林宏道さんです。
 梅林さんは、日本は被爆国として非核兵器地帯宣言し、核武装をしないことを法的に約束し、核保有国も日本に対して核攻撃しないという仕組みに入っていくべきだという、注目すべき提案をしました。
 このシリーズはこれで終了です。
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<核なき世界目指して> (2)交渉不参加で安全危うく
東京新聞 2018年7月10日
「核不拡散体制を損なう」「非現実」と核兵器禁止条約に背を向ける核保有国や日本。その姿勢を疑問視する声が米高官経験者からも上がっている。東西冷戦時代のレーガン米政権下で国防次官補を務めたローレンス・コーブさん(78)は、核兵器禁止条約の制定交渉にすら不参加だったトランプ米政権を「核戦争の恐れを減らすために何もせず、米国の安全を危うくした」と批判する。(ニューヨーク支局・赤川肇、写真も)
 
  -核禁条約は既存の核不拡散体制を損なうのか。
「損なわない。そもそも米国はまだ包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准せず、核拡散防止条約(NPT)下でも北朝鮮のほかインドやパキスタンが核兵器を開発した。核禁条約が直ちに核兵器の廃絶につながるとは思わない。しかし世界は化学兵器や生物兵器と同様、やがて核兵器を廃絶する必要があるとの意思表示になる。道徳的規範だ」
「たとえば、シリアのアサド政権が化学兵器を使ったとされる問題を考えてほしい。アサド政権が国際的に非難され、トランプ米政権による軍事攻撃が国内外で支持されたのは、化学兵器の廃絶を定めた国際規範があったからだ」
 
  -核保有国や日本は軒並み核禁条約に反対だ。
もし米国とロシアが主導すれば、他の核保有国は賛同するだろう。日本の立場も理解できる。米ロの役割が欠かせない」
「米政府では核禁条約への反対が一般的だ。ただ、冷戦時代、中距離核戦力(INF)全廃条約に至ったレーガン米大統領と旧ソ連のゴルバチョフ書記長(いずれも当時)の会談では、核兵器廃絶も合意寸前だった。核廃絶はうぶな理想主義と見られがちだが、会談は結果的に目覚ましい核軍縮につながった。化学兵器を悪として廃絶に合意したのに、格段に悪影響を及ぼす核兵器について同じことができないはずがない
 
  -米ロ関係は新冷戦といわれる緊張状態。実際に核軍縮が進展する可能性は。
「即座にはないだろう。冷戦当時の軍事対立とは違い、サイバー戦争やロシアによる米大統領選介入疑惑など課題が多い。最低限の期待は、米ロが二〇二一年に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)を延長し、軍縮に取り組む時間を得ることだ」
 
ローレンス・コーブ
   一九三九年、ニューヨーク市生まれ。元米海軍航空士官で、八一~八五年に米国防次官補。退官後は米シンクタンク「外交問題評議会」で国家安全保障研究部長などを歴任し、現在はアメリカ進歩センター上席研究員や米ジョージタウン大非常勤教授を務める。
 
 
<核なき世界目指して> (3)まず核兵器の役割低減
東京新聞 2018年7月11日 朝刊
自民党政調会長・岸田文雄さん
 
  -核兵器禁止条約が昨年七月に国連で採択された当時に外相を務めていた。なぜ条約交渉に参加しなかったのか。
「核兵器のない世界を実現する議論には、積極的に参加すべきだと思っていた。だが核兵器保有国や、日本と協力してきた中道国(核抑止力に依存する国)が条約に反対という実態が明らかになった。交渉が進めば関係国の対立がより深刻になると判断した。核なき世界実現のため、辛抱強く核保有国を巻き込み、非保有国と協力しなければならない」
 
  -禁止条約には広島、長崎の被爆者の声も反映されている。
「被爆者や自治体、推進NGOとは広い意味で目標は共有しているものの、それぞれ役割がある。核保有国、中道国と直接議論して協力する政府として、ぎりぎりまで考えた」
 
  -今後も禁止条約への参加は難しいか。
「日本は(禁止条約のような)法的枠組みを否定していない。安全保障に対する冷静な認識と、核兵器の非人道性に対する正確な認識の下、(まず)核兵器の数、役割、意義の低減を訴える。それらがある程度下がったところで、法的枠組みを導入する」
 
  -米国の核抑止力に頼る日本が、米国に対して核軍縮を主張できるのか。
「対話や議論はしている。どこまで強く言えるかは、その時の国際情勢や米政府の対応による。たとえばオバマ政権とトランプ政権では違う」
 
  -北朝鮮の非核化問題をどう見通すか。
「米朝首脳会談は一つの大きなきっかけだが、非核化の行程、期限も明らかになっておらず、楽観できない。急に制裁緩和や経済支援の話まで出る雰囲気があり、心配に思う」
 
  -日本はどう取り組むべきか。
「北朝鮮の中・短距離弾道ミサイルや日本人拉致問題は日本独自の課題。直接交渉を考えていかなければならない。非核化を議論する推移の中で、日本としてどう議論に加わるのか知恵を出したい」
 
  -北朝鮮の非核化の行方は、日米の安保関係にも影響するか。
「可能性はある。行方次第では日本で核なき世界と逆行する(核保有)議論が巻き起こるかもしれない。注視する必要がある」 (聞き手・大杉はるか) 
 
<きしだ・ふみお>
   1957年、東京都生まれ。早稲田大卒業後、銀行員を経て、93年衆院選で旧広島1区から立候補し初当選。9期目。2012年末から昨年8月までの4年8カ月にわたって外相を務め、16年のオバマ米大統領(当時)広島訪問の実現に尽力した。
 
 
<核なき世界目指して> (4)日本主導で「非核地帯」を
東京新聞 2018年7月12日
 長崎大核兵器廃絶研究センター客員教授・梅林宏道さん
 
  -六月の米朝首脳会談で署名した共同声明は、北朝鮮の非核化への道筋が具体的に書かれなかった。
「完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)が明記されず、漠然としているという議論があるが、北朝鮮からすれば『安全の保証』も検証可能で不可逆的である必要がある。現時点では、非常にバランスのとれた妥当な合意だ。どっちが得した、損したということではない」
 
  -非核化の行方は。
「ステップ・バイ・ステップ(一歩ずつ)でいくしかない。北朝鮮は、公開した施設以外で(核兵器に利用可能な)ウラン濃縮をしている可能性がある。まず現状の把握が必要だ。次のステップとして無能力化、最後に(核兵器や施設の)解体がある。その間に多様なギブ・アンド・テークがある。米朝で行程について協議するのだろう
 
  -長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)は「北東アジア非核兵器地帯」を提言している。
「南北朝鮮と米国の非核化努力には、中国、ロシアを巻き込まざるを得ない。北朝鮮は米国からの安全の保証と同時に、在韓米軍を含めて韓国の検証可能な非核化を求めている。米国の核抑止力は、中ロにも働いていた。在日米軍も北朝鮮や中ロへの抑止力なので、日本も組み込まれるのが自然だ」
 
  -日本の役割は。
「日本は北朝鮮の脅威を強調し、核不拡散を訴えてきた。不拡散だけでは軍縮は進まず、核拡散防止条約(NPT)は空洞化している。朝鮮半島を巡る核状況が好転したとき、日本は核不拡散から核軍縮にかじを切る役割を果たすことができる。先取りして、被爆国として非核兵器地帯を提案すべきだ」
 
  -日本も米国の核の傘から外れるべきか。
「周辺国は、日本が核の傘から外れると核武装すると考えてきた。だが非核兵器地帯にすれば、日本は核武装をしないことを法的に約束し、核保有国も日本に対して核攻撃しないという仕組みに入っていく。非核兵器地帯条約交渉を進めることは、北朝鮮との国交正常化の促進にもなる」 (聞き手・大杉はるか) =おわり
 
<うめばやし・ひろみち>
   1937年、兵庫県生まれ。東京大大学院修了。大学教員などを経て、2008年からNPO法人「ピースデポ」特別顧問。12年に発足した長崎大核兵器廃絶研究センターの初代センター長を務めた。
 
<北東アジア非核兵器地帯> 元米大統領特別補佐官のモートン・ハルペリン氏が最近では提唱し、長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)が2015年「提言」として構想をまとめた。日本、米国、韓国、中国、ロシア、北朝鮮の6カ国が、北東アジアを非核化する条約締結を目指す。この地域での核配備を禁じ、核攻撃をしない安全を保証する。現在、南米や東南アジアなど5地域で非核兵器地帯条約がある。